SSブログ

FE二次小説 偽りのアルタイル ~オベリスク編~ [リプレイ系記事]

オベリスク編






住人の おかのん に執筆・投下していただいた「ファイヤーエムブレム~新・暗黒竜と光の剣~」の二次創作小説の続きです。

小説の元となったリプレイは既に完結。
その話を追って、コチラではリプレイの第9章終了後(幕間~)部分を掲載させてもらってます。

(アイル編)
・序章~第6章外伝まではコチラ。
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2011-10-19

・第7章~第9章まではコチラ。
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2011-10-20

(ベガ編)
幕間~第12章外伝まではコチラ
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2011-10-23

幕間その3~第14章その5まではコチラ
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2012-03-25

第14章その6~幕間その8まではコチラ
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2012-09-18-1


(カペラ編)
幕間その9~幕間その13
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2012-09-18


(デネブ編その1)
第18章その1~幕間その19
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2013-07-14


(デネブ編その2)
幕間その20~幕間その23
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2014-01-09

(アステリズム編その1)
第21章その1~幕間その25
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2014-01-09-1

(アステリズム編その2)
幕間26・27
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2014-08-17


話の元になったリプレイはコチラ
・「不遇の新キャラに愛を! 役立たずだらけの40人ぶっ殺しサーガ ポロリは多分無い(大嘘!!ww)」(「ファイヤーエムブレム~新・暗黒竜と光の剣~」縛りプレイ)
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2011-10-17

ファイヤーエムブレムを知ってる人も、知らない人もどうぞお楽しみください。


第24章 マムクートの慟哭


その1 群体竜(レギオン)概略


ガーネフの死。

それは、ドルーア連合の崩壊の象徴だった。

元々、この『暗黒戦争』は、ガーネフが起こしたと言っていい。
オーラという魔道書を継承できなかった事に拗ねて、その嫉妬からミロア大司祭を禁じられた闇魔法で殺し、それをきっかけに世界征服という野望を抱き、百年前英雄アンリに倒されたはずの暗黒竜メディウスを復活させた。

ガーネフは人望というものを欠片ほども持ち合わせていない。しかし、その脅迫観念や野心につけ込んでの交渉能力は超とつけてもいいほどの一流であった。

中でもグルニアという国を取り込んだことは大きかった。
そもそもドルーア連合の中心であるはずの、その名を連合に冠したドルーア帝国・・・
歴史的に見れば、圧倒的な力を持っていたと言い伝えられているが、その実体制が続いたのは一年弱。百年後の現在においては、『局地的な戦略兵器』として存在できる『竜』という兵力を持つとはいえ、『支配』に関しては、圧倒的に足らない国家なのだ。
『竜』の力を後ろ盾に、また『主国』となることで体制を敷いたものの、グルニア、マケドニアの兵力なくしては支配も出来ない国なのである。

グルニアはアカネイア再建国のおり、目覚しい活躍をしたオードウィンが建国した。
当時も変わらず血統社会であったアカネイア支配の世において、オードウィン卿はさして高い身分の者でもなかったが、アンリ、カルタスに次ぐ働きの褒美として、一国を与えられた。
グルニアには、そんな『実力で』地位を手にしたオードウィンを慕って、または身分が低くともここでならばと野心を持って、優秀な者達が集まった『覇気』の国だった。

そして100年。

とはいえ王政である以上、王は血統である。
当代のグルニア王は、気弱な人物であった。
そして、ガーネフは王には交渉をそこそこに、臣下の者を焚きつけた。
このまま腐ったアカネイアの青瓢箪共に上前をはねられる生涯でいいのか・・・と。
その結果、暗黒竜への恐怖ではなく、打倒アカネイアの気運の下に、グルニアはドルーア連合の傘下に入った。
つまり・・・

ドルーア連合をグルニア、マケドニアの参加によってアカネイア以上の体制におしあげたのもガーネフだったのだ。

彼の死によって、名ばかりは帝国のドルーアはすでに崩壊している。
暗黒竜の圧倒的な恐怖を除けば、もう後は退治されるのを待つ獣がうろつくだけの場所に過ぎないのだ。


だが。


明日、マケドニアに敷いた拠点に、ガトーの大魔法で帰還する予定の夜。
同盟軍の真に中心にいる、いわゆるアイルとその一派は、とんでもないことを聞かされる。


 ・


「『《今まで死んだ竜》全部をゾンビ化復活して、いっぺんに暴走させて世界を滅ぼす』計画ぅ!?」

この場にいるのは、アイル、デネブ、カペラ、ガトー、エリス・・・
そしてノルン、アテナ、レナ、ミネルバ、リンダである。

「こうして見ると・・・いかに貴様の下半身が節操がないかわかるメンツだな」
「脈絡のないことを言うな」

デネブの軽口にアイルは顔を引きつらせる。
そして、半数以上が(ベガ絡みが多いとは言え)実際に毒牙にかけた事実も否定はできないが。

それはともかく。

「・・・『レギオン計画』は、要約するとそういう計画です。
そして・・・
『群体』である竜の、横のつながりを作るというのが強みですの」
「「「「????」」」」
「「「「!!」」」」

わかった者とわからない者が半々のようだったので、カペラは少し補足した。

「ガトー様やガーネフのやっていた『念話』・・・
あれが復活した竜同士で出来ると思ってください。
実際はまた違うのですけど、そのほうがわかりやすいと思います」
「詳細に言ってみるとどうなるの?」
「・・・『魂の同一化』なのです。
復活する竜は個体として2~300体はいると思うのですけど、その竜は魂が一つなのです」
「あ、あたしその概念解る。でもそれって可能なの?」
「視点及び認識の問題をクリアするのに、中継器兼司令塔としてレナ様の赤子を使いました。その補助として魂にベガ様を同化させてます・・・」
「カペラ、それまずい。禁忌の数、多すぎ。
カペラとアテナ親友。でも庇えない」

同時復活した竜達は、魂を・・・思考を共有している。
例えばグルニアで『ドラゴンキラー』を持っていた戦士に倒された竜がいたとする。その情報はほぼ同時に、全部の竜が『理解する』。

人は、指の先を刃物で切ったら、『刃物は切れる』ことを知って、今後刃物を『体のどこかに当ててはいけない』と理解する。当たり前だ。
問題は、甲の竜がそれを理解した瞬間、乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸全てが『己の体験として』理解したのに等しいということ。

300体近くの竜を『自分の体』と認識している魂は、今後ドラゴンキラーを持つ戦士とはまともに戦わない。
逃げるか戦士だけを狙うか、はたまた数体でいっぺんに襲うか・・・
弱点を見つけそこを襲うとしても、『そこが弱点として狙われる可能性』を、同時に認識して対応を考えてくる。

(なるほど厄介だ。ネズミや犬でもその厄介さがあれば人を滅ぼしかねんというのに、よりによって素体が大陸最強の獣『竜』とはな・・・!!)

「で、ガーネフは死んだ今、もう心配ないかと思うとどうもそうではないようで。奴の捨て台詞から察するに、期日設定で発動するようにでもしてあるのか、奴の死を条件に入れてあるのか・・・予測がつきませんの。
ともかく、テーベの塔内にそれらしい施設がもうなかった以上、ドルーアのどこかくらいしか隠す場所はないと思うのですが・・・」

ドルーアのどこか。
大陸内では限定される・・・ようで、かなり広い。

「・・・そんな広範囲を指定したところで役に立つのか?」
「わかりませんが、『レギオン計画』を止めるためには、探さないわけにはいきませんわ」

そこで、すっとエリスが立ち上がった。

「さて、目の前にある危機的状況を認識してもらえたところで・・・
アイル君の意見は?」

この場の人間は『アイル』を知っているので、この呼び名だ。

(意見、ね・・・)

「・・・その前に、聞きたい。
エリス嬢。あんたは『このことを知っていた』だろう?

他人の夢に入り込む能力、他人と意識をつなげる能力・・・
それを持っていて、カペラの夢を覗いたことがないとは思えない。
その上で、あんたは落ち着きすぎている。生半可なことでは動じないこのメンバーの中でもな」

ペロリと舌を出すエリス。

子供か。

「バレてますかー」
「エリス、お主・・・」
「ごめんなさいです師匠。
でも、ガーネフに奪われた時点で対策の方も変更を余儀なくされたのと、師匠に直接伝えちゃうと、人質状態の私が暗躍してるのがバレやすくなる可能性があったもので・・・」

そのあたりのバランスは確かに難しかった。
前提がマルスの味方という、マルスそのものを演じるアイルという存在は、エリスの手駒としてはかなり使いやすかったはずだ。それでもあの中途半端なアプローチであったことを思えば、意外に彼女は慎重でもあるのだ。

「前置きは結構。

で?

このことを知った上でそれだけの暗躍が出来るのなら、手をこまねいていたわけでもないんでしょう。
『対策』とやらがあるのなら、それを生かしたほうがいいに決まっている。まずそれを聞かせてもらいたい」
「おーけー」

そう言うと、エリスは『右目』にかけてある幻惑を解く。
そこには魔竜石を加工して埋め込んだ義眼があった。
その輝きはしかし人の瞳として違和感はなく、以前のエリスを知る者は驚くだろうが、いわゆるただの『オッド・アイ』に見えた。

「鍵は、コレよ」
「『竜石瞳』・・・?」
「竜石を丸ごと埋め込んだ私の魔力容量は、以前のレナさんを想像してもらえばわかるわよね。
そして私はこれまでの、もともと抱いている『強さ』に対してのイメージに書き換えられた『竜石術士』ではなく・・・
『竜石を埋め込まれる時に認識している《強さの形》』によって、その力の現れ方が変わる』事を知った上で『竜石瞳』を得た・・・
言わば『真の竜石術士』!!!」

(痛いわ!!)

突っ込みたかったアイルだが、話の腰を折るのもなんなので黙って聞いておく。

「要するに、意識してそうした何らかの能力に特化する形で竜石を取り入れる事が出来たわけだな?」
「話の腰を折って悪いのだが質問していいか?」

ミネルバが遠慮がちなセリフでしかしがっつりと話の腰を折る。

「『竜石術士』は、今までの例を見ると、魔導士が竜石の力を得て飛躍的に能力を上げている。
かなり大きな戦力となりそうだが、量産は出来んのか」
「「「「・・・・・・」」」」

誰でも少し考えれば分かることを考えないというのは、いかにも王様なような、愚鈍なだけのような・・・
判断が難しいところではある。

これにはカペラが答えた。

「・・・まず、竜石を体に埋め込む施術が必要です。
それは物理的に体に穴を開ける段階。
そこにさらに竜石を埋め込んで、補助をしながらとはいえ、竜石がその部分を治癒しながら結合するのを待つ段階をクリアせねばなりません。
そして、実は・・・
『竜石術士の才能』というか・・・
適性というものがあるのです」
「・・・適性?」
「今まで竜石術士となられた方々には、その適性がある可能性がありました」

今まで竜石術士となった者。

(レナ、カペラ、マリア・・・)

アイルは知らないことになっているが、ミシェイル。
そして目の前にいるエリスだ。

「そもそも、適性によるふるいがなければ、ガーネフは自分にそれを施したでしょう?
『自分に適性がないことが予想できた』から、奴は断念せざるを得ず、魔導機器に頼るしかなかった」
「なるほど。
で、その適性とは?」
「ぶっちゃけ、『竜の血』ですわ。
マケドニアの王族の祖、アイオテと、それに従った後のマケドニア貴族達は、飛竜を駆って戦いましたが、火竜を従えた要因の一つに、『龍の血を受け継いでいたから』というのがきっとあったはずです。
正史には記録されていないでしょうが。
何しろ、マムクートは人型です。神と崇めた歴史、迫害の歴史、支配しつつされつつ・・・
身分違いの恋から愛玩奴隷まで、両者の間に子がなかった理由もないのです」
「・・・エリス嬢が目に竜石を入れただけであっさり竜石術士になれたのもそういうわけか」
「エリス様は神竜王ナーガの祝福、つまり神竜の生き血を飲んだアンリの直系。
しかも体を抉ることなく、目にはめ込んだとなれば、負担が少ないのも頷けるかと」

ある程度納得したのか、ミネルバは残念そうに紡ぐ。

「マケドニア王族は可能性はあるが、その意味で後は私くらい。
レナもその施術が成功するかどうかは賭けだった・・・
つまり、血が薄ければ適性は低い可能性がある。
量産というほど数が確保できる保証はない、ということか」

カペラもマケドニア貴族の系譜である。
優秀な魔道士がひとり死ぬかもしれないリスク、本人にとっては死の確率。
カペラのように欠片として埋め込むのであっても、カペラ自身がそうして手駒を増やそうとしなかった以上、やはり失敗の確率は高いのだろう。
加えて竜石の貴重さもある。
砕けば竜石としては使えなくなるだろうし、丸ごと入れるのは、それだけの穴を身体に開けるか、目玉の一つも取り出さねばなるまい。

しかし。

(今からどうこうというのは難しいが・・・
それでも何人かは気付いたはずだ。
いくつかの条件をクリアすれば、『出来る』)

まず竜石。これは竜石自体が貴重だが、それでも十数個はなんとかなる。マムクートは一人一つ持っているのだから。
さらに言えば、カペラ自身が強力な魔道士であることを差し引いても、欠片を埋め込むだけでもあれだけ能力が上がるのなら『量産』という意味合いには十分なのだ。
続いて人員の方の問題。魔道士一人を失うリスク、本人の死のリスクと聞くと大きいように聞こえるが、一兵士の死という捉え方なら、王族の視点からすると『必要な犠牲』の範疇だ。力を持たずに戦に参加して死ぬリスクと、死ぬかもしれないが戦場で別格の力を震えるかもというリターン。どちらを選ぶかを考えれば、本人のリターンも旨みはある。
そして、何より。
『竜の血』が、『竜石との適性』を大きく上げ(少なくとも、三代離れているはずのエリスの適性はそれなりに高かった。目立った拒否反応はなかったのだから)ているのならば、方法は三つ。

1:多少適性の望みのあるマケドニア貴族あたりを使う
  試してみる価値のある、潰しても構わない人材はいるはずだ。
2:『竜の血』を、取り入れてみる
  直接飲むなり輸血するなりでいいとガトーは言っている。その証人がこれまたエリスである。もちろんその時点での拒否反応は可能性があるが、前提条件をクリアしないまま体に穴を開けるよりマシだ。
3:マムクートとの間に子を作る
  マケドニア貴族王族の始まりがそこなら、今からそうしてもいい。力を持つ血族の存在はプラスだ。


これに、先に述した『埋め込む竜石は欠片でもいい』という条件なら、かなり多く試せるはずである。
20倍の力を持つ一人と、2倍の力を持つ10人。
軍隊としての、もしくは支配する上での力はむしろ後者のほうが便利なくらいだ。
欠片なら埋め込む時のリスクも軽かろう。なんならピアスのような気楽さでできる可能性もある。

(個人主義の魔導師自身にはピンと来ないところもあるのだろう。ガトーは勿論、カペラも明確にそのビジョンを浮かべられなかったはずだ。
しかし、俺は気付いた。
ならば、術士自身となってはしゃいで見せているエリス王女、納得して落胆したふりをしているミネルバ王女あたりは、思いついた可能性は高い・・・!)

「話、元に戻していいかなあ?」

エリスの呑気な声が空恐ろしい。

「私ね、一旦魔導機器から接続を切って、竜石を取り入れた時に、竜石術士の力を、『心を通わせる』ことに特化させたの。
2~300匹の竜を一つの魂で動かすなら、その竜と心を通わせてしまえば、そっくりそのまま危機を回避できるでしょう?」
「・・・!! おお、エリスよ。
ならば『レギオン計画』の脅威を、お主なら無効にできるのじゃな!」
「確実にとは言えませんけど、やってみる価値はあると思うんですよ、師匠!!」

確かにそれは理想的である。
敵でなくなればそれに越したことはないだろう。
ならば落としどころはそのあたりだ。

「・・・我々は万一のために軍をまとめておくに留まりましょう。それで終わるなら、余計な刺激は一切いらない」
「・・・ふむー。
アイル君の血も涙もない策への人間的な希望として発表して、この場の空気を持ってくはずだったのになー。
ていうかアイル君、今のは話に乗っただけじゃーん。
手抜き手抜き~」
「貴方がその『群体竜(レギオン)』を救って見せれば、この程度の話し合いの空気なんか些細なことになりますよ。
今回は俺は腰掛けで良さそうだ。ありがたいことこの上ない」
「むー。さっきは結構ぞんざいな口調で詰問してきたのに、そっちのほうがまだ本音っぽくってよかったよ。
アイルんみたいな嘘つきが丁寧に話すと、黒さがチラチラするよね~」
「これは手厳しい」

目を逸らして気だるげに構えると、怪しさは倍増である。

「・・・仲いいですわね。あんたら」
「・・・仲、いい」
「・・・アイル、浮気か。浮気なのか。私というものがありながら」
「頭が上がらんから皮肉に走ってるだけだ。何しろ数回心を読まれているんでな。隠す必要がないと、表面は気心が知れたように映るだろう。
そんでもってデネブは黙れ」

そこでぺろりと舌を出すデネブ。
実はエリスとこいつは根が似ているのかもしれないとアイルは思った。

「話が長くなってしまったのう。
一刻を争う事態とはいえ、疲労困憊では事に当たれぬ。
今日はもう休み、明日、マケドニアに戻ってからまた場を設けよう。
ドルーアに攻め込むのと同時に、ドルーア内の探索をかけ、300体の竜を纏めている魂を鎮めねばならん」
「それは、ベガの救出、意味、いっしょ」
「ああ。あいつを見つけ出すぞ」

ガーネフの置き土産と、最終決戦。
その火蓋が切られる事となる。


続く
nice!(0)  コメント(97)  トラックバック(0) 
共通テーマ:ゲーム

nice! 0

コメント 97

おかのん

いやありがとうございます。
忙しい中、私が書き散らしたものをまとめてもらってもーほんとすいませんm(_ _)m

では続きを~


~偽りのアルタイル~

第24章 マムクートの慟哭


その2 前日


・・・その日の陽が昇ってすぐのことだった。


キィンッッ!!!!!!!

音叉が砕けるような音と共に、描かれた陣を沿うように光が漏れ始める。
それらがアイルの選んだ勇士と、その勇士達に許された数名の共を包む。

シュウオオオオオオオン・・・・・・


アイル達アカネイア同盟軍精鋭部隊は、テーベの塔をぶち壊し、ガトーにとどめを任せたとはいえ、ガーネフを打倒し・・・

ドルーア-マケドニア国境付近に無事戻ってきた。
チキという手痛い損失はあったが・・・
それどころではなかった。

「よくぞご無事・・・」
「今すぐに主要な将を集めろ!!
とりあえずこの場にいる者だけで話を進める。書記官をおいて、遅れた者は理解し次第参加しろ!!
・・・緊急会議だ!!!!」

アイルは着くなり、そう言った。

議題は何か?


勿論・・・ 



 ・


「『《今まで死んだ竜》全部をゾンビ化復活して、いっぺんに暴走させて世界を滅ぼす』計画だとぉぉぉおおおっ!!!!?」
「やかましいさっさと席につけ! そして有意義な意見のみ述べろっ!!」

驚いて、入るなり叫び、『マルス王子』に怒鳴られるパターンが続く。

「・・・とにかく!! 事は緊急を要する。
ガーネフが死んだ後、どの程度で『レギオン計画』が発動するのかは未知数だ!!
今この瞬間起こったとしても、まず俺の命令を聞くこと、そして、俺の命令が何らかの理由で届かない場合、各自で原則に従った行動を取る事、これを徹底しろ!!」

遅れてきてたった今叱られたロジャーは書記官の議事録に目を通す。

「ええと・・・
『考えられる限り最良の方法で、復活しつつある竜を殲滅、無力化する』
『その場にいる民達を可能な限り保護、逃がす』」

まあ、当然のことである。
他の細かい事は逐次命令すると言っているのだから、マルス(アイル)が命令の届く範囲にいる限りは支持を待っていればいいというわけだ。
そして、マルスが最悪死んだり、そうでなくても命令できない状況、もしくは命令がない時には、臨機応変で良いわけである。

「・・・じゃあ、その時にどうすればいいかは、自分で前もって考えておかなきゃあいけないのか。
くるくる変わるかもしれない状況の中で・・・

まあでも、それが部隊を任された人間のセキニンってやつだよな」

「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・」

不思議な沈黙があった。

実はこのセリフが『ロジャー』という、いまいち頼りない、むしろスチャラカ野郎だと思われていた凡将から出てきたセリフだったことには、小さくない意味があった。
これで、『コイツより俺はマシなはずだ』と思っていた、ここに居るほぼ全ての将の中で、この考えに至っていなかった者は、この当然至る筈の結論に至っていなかったことをひた隠しにし、それがバレないよう、状況に応じて行動すること、同時に命令を完璧以上にこなすことに全力を尽くすことになる。

(・・・コイツを飼っていた意味がここで出るとはな)

本人が気づいていないようだったが、ロジャーの生涯一の晴れ舞台はこの一言を言った瞬間のこの場だったといっていい。
まかり間違えば大陸を滅亡させかねなかったこの大事件。それに最も大きく関わったアカネイア同盟軍の結束を一瞬で固めた・・・ それもこの一瞬でも惜しい時に、どうやってそれを為そうかと悩んでいたアイルへの何よりの手助けであった。

「その通りだ。
『レギオン計画』はガーネフが残した、この大陸への呪い・・・
今から我々がかかるのは、それを祓う大仕事だ。
神王ナーガは必ず加護を下さる。そして俺も報いれるだけ報いると約束しよう。何か問題が起こっても、それが私利私欲でなく、この大陸のすべての生きとし生ける物のための行動であれば、その結果による責任は全てこの同盟軍の総大将であるアリティア王太子マルスが負う!!」

「御意、にございます!!
全てはマルス様、ニーナ王女、何より神王ナーガの名の下に!!!」

今や同盟軍の中で、押しも押されぬマルスの右腕となったフレイのこの一言で、皆、我も我もと続いて誓う。

(よし、いい流れだ・・・!)

はっきり言って、今後作戦のようなものが立てられるかどうかは疑問である。
どの竜がどこで死んだかなど、ここ最近だけならともかく、アカネイア歴前まで遡って知る事が出来ない以上、敵はどこで出現するかわからない。
今必要なのは、いつどんな形で敵が現れても『待ってました』と言えるほどの心構えだ。

『今まで死んだ竜がいっぺんにゾンビ化して暴走する』

これほどまでの脅威はない。神竜戦争以上と言える。
そして、打ち破れる保証はない。
ならば。

(一刻も早く、基を・・・ 術式を絶たねば!!)

その為には、エリスの『心を通わせる竜の秘術』を、竜たちを統率する役目であった『ベガの魂』のところまで導かねばならない。

それまで持ちこたえられるか。
そこが、運命の分かれ目であった。


 ・


幸い会議中に何事か起こるようなことはなかった。
ちょうどガーネフが死んで丸一日が経とうとしていた・・・ 

(『レギオン計画』の自動発動条件に『丸一日ガーネフからの何らかの操作がないと起動』 ・・・のようなものがあると思っていたのだが)

そのことをエリスやカペラに話すと、

「一日ちょうどだと、前もってやっておくとかできないし、少し間に合わなかった時とかに面倒でしょう?
丸一日を基準に、『その後何時間何もないようだったら警告が届いて、それでも修正がかからなければさらに数時間後起動』とかにすると思うわ」
「とはいえ、楽観は出来ませんわ。
丸一日経とうとしてる今、もういつ発動してもおかしくないと思わなくては」

とのことだった。

話すべき心構えは皆に通達出来たし、後は各自の準備に入る。
こうなるとあまり間を置くと、緊張感の糸が切れかねないが・・・

「それと、私はどうすればいいですの?
そもそもこの計画、もとは私のものですが・・・
自分の手を離れたこの状態では、私もどうにもできません」
「・・・・・・」

カペラは落ち着こうとはしているが、途方にくれてもいる。
ガーネフが改悪した部分が見えてこないと手段も何もない。

「とにかく、起動した時にどんなふうに変わってしまっているか見抜いてもらわんと始まらん。
その上で、『こうすれば解除が出来そうだ』という方法を示してくれ。その上でこっちで人選して、やらせる。
その判断が出来るのはお前しかいないんだからな」
「・・・大陸中を巻き込んだ、誰にもメリットのないマッチポンプ・・・
我ながら最悪ですわ」

苦虫を噛み潰したような顔の見本のような表情をするカペラ。

「まあまあ。責任の取り方は好きにすればいいけど、落とし前つけずに逃げるのだけはナシにしなさいな。
今はそれで十分よ」
「・・・・・・」

どのみち今はカペラはアイルたちの手を借りねば責任も取れない有様であった。
それはそれとして、準備は山のようにあり、状況は変わりつつ、そして読めはしない。

「そうだ、エリス嬢。
『心を通わせることに特化することを想像しつつ錬成した《竜石瞳》』の能力は、結局どんなものだったんだ?
どの距離から《接続》出来るのか。能力として《魅了》《同調》《従属》《破壊》《交感》のどれにあたるのか・・・ またはそれ以外だというのか。
発動時の魔力消費や、それ以外に捧げる供物があるかなど、発動制限も聞いておきたい。
作戦の要にもなりうるその能力の詳細は聞かなければならんぞ。昨晩は、それを解読するまでどんな準備も意味が薄いからこそ、休息の時間に当てたんだしな・・・」

そうなるとエリスが休んでいないという話だが、アイルは彼女に本番の出番までは休んでいてもらうつもりだった。

「それなんだけどね・・・
『交感』・・・つまり会話にあたる能力みたいなのねー・・・
この場合問答無用で《従属》《魅了》あたりがよかったのはわかってるんだけど・・・
私自身そういうのが好きくないからかな。
《説得》の形になっちゃいそう。

更にねー・・・

一度に交信出来るのは一人。さらに効果範囲制限は20~30M程度のようなんだなあ」
「・・・・・・」

はっきり言って、期待した割にかなりお粗末な能力だった。
いや、使いようによってはそうでもないが・・・
今回のような、『暴走した手の付けられない獣を、なるべく広い範囲で出来るだけ多く無力化する』という方面での期待をかなり削がれている。

一度に一体と、20~30Mの範囲で交信し『説得』にあたる・・・
大陸中の竜に会いにいく間に、アカネイアは人の歴史ごと焼き払われているだろう。

「ぐううううううう・・・・・・」

アイルの胃がキリキリと痛む。

「ご、ごめん。大見得切っといて・・・」

しかしそこを詰ったところで問題は解決しないだろう。

(となると結局、軍の力で打ち倒すしかないわけか)

どうしたものやら。

「あ、そうそう。それでね。どうも今までの能力も転写されたみたいなのよね」
「・・・今までの能力?」
「『他人の夢に繋がる能力』よ」

「・ ・ ・ ・・・・・・!」

それは。
『相手が眠ってさえいれば、こちらの意思を伝えることができる能力』だ。

「エリス嬢!!!
今現在『寝ている』知り合いは誰だ!!」

つまり、連絡が取れる人間は? ということだ。

まだ8時半を過ぎたばかりだ。
昨夜遅かった者や、多少だらしない者なら、夢を見ていてもおかしくはない。

「ええとね・・・」


 ・


「マリク殿? どうされた。緊急だと聞いたが」

ハーディンは今、昨日のパオラの話を聞き入れ、オレルアンの山岳地帯を抜け、パレスに迫っていた。
『狼の牙』の各部隊は、ニーナの要請を受けて、ドルーアを追い詰めるために包囲網を・・・ 陣を敷いていた。

狐につままれたような顔をしながらも、『緊急』だと言って会いに来たマリクはこう言った。

「・・・エリス様・・・
アリティア第一公女から、連絡がありました。
この事実から、同盟軍がガーネフを破った事は連想できましょう。
問題はその後です。

・・・エリス様からの・・・ 魔法での連絡となるのですが・・・
『レギオン計画』なる、ガーネフの陰謀の話を伝えられたのです」
「『レギオン計画』?」
「ざっくり言えば、『《今まで死んだ竜》全部をゾンビ化復活して、いっぺんに暴走させて世界を滅ぼす』計画だそうです」
「なんだとっ!?」

これは同時多発テロのようなものだ。
攻城兵器級の戦力がそれを始めるのである。

「・・・近日中に起こる事が確実視されているとの事です。可能な限り民を避難させ、復活、暴走する竜を殲滅、無力化するように・・・と」
「ぬ、ぐぐぐぐぐぐ・・・」

エリスが連絡してきたとなると、ニーナの意志でもあると思ったほうがいい。
何より、これは無視できる話ではない。暴走する竜は天災と同じようなものだ。民達の避難や被害を食い止めるための戦闘はやって然るべきだ。
しかし・・・

(今、この一手で、俺が皇帝となるこの時にかっ・・・!!!!)

ドルーアとの決戦で、アカネイア同盟軍が疲弊するこの時に、王都であるパレスを手に入れ、ドルーアに残っている同盟軍を叩き潰す。
それが出来れば、全てを手に入れられるという、この時に。

ここで大陸中で復活するドラゴンゾンビと散発的な戦闘に興じなければならないとなれば、『狼の牙』の残存兵力はほぼ無力化するほどの被害を受けかねない。
しかし、無視するという選択はないのである。

パオラの話を受け入れ、今この瞬間パレスに兵を進めていなければ、パレスは残されていた留守用の兵だけでドラゴンゾンビと戦って、間違えば二度目の崩壊をしていたかもしれない。そうなれば同盟軍自体の意義も揺らいでいた。
ここでパレスを救うこと自体は、大きな意味がある。
だが・・・

逃すことになる魚が大きすぎた。
が、事ここに至ってはそうも言ってられない。
何より、ここでパレスを落とすなどという事をすれば、後世に何を言われるかわかったものではない。

(まだ、機ではない・・・ そう思わねばならんか)

前述のように、ここでパレスを守る一軍となることに意味はある。
何より、各地に散らばったオレルアン軍が同様の判断を下せば、オレルアンそのものの評価はぐっと上がるはずなのだ。

「パオラを呼べ。この話を各地の将に下知せねばならん。
・・・我らは、民達の盾となり剣となるぞ!!」

勿論この話を聞かされたパオラは、無念を隠せなかった。
しかし、すぐに気持ちを切り替え、新たに部下として与えられた数名の天馬騎士に、各地に散るよう伝えたのだった。


 ・


(やほ。元気ー?)
(・・・エリスじゃない。・・・ああ。夢の中でのアレね。どしたの?)
(実はさー。近日中に『《今まで死んだ竜》全部をゾンビ化復活して、いっぺんに暴走させて世界を滅ぼす』計画が実行されちゃうのよねー)
(はああ!?)

まさに寝耳に水である。

(何それ。私も今の今まで知らなかったわよそんなこと!?)
(ガーネフの隠し球だったみたいでね。アンナでも知らないのは無理ないよ。
で、さ。お願いがあるんだけど)
(何よ)
(役に立ちそうなものは一切合切売ってくれないかな。領収書はアカネイア同盟軍で)

判断は一瞬だった。

(目を覚ますから《接続》切って)
(はいヨロシクー)

がば。とアンナは跳ね起きた。
すぐに幹部連中に連絡を取る。

「とにかく軍を見つけたら補充物資や武器防具の類を押し付けるの!! 領収書もこっちで切っていい!!
相手はアカネイア聖王国そのものなんだから、在庫もなにも一掃して構わないわ。
もう一度言うわ。新開発の武器も日用品も添い寝用のお姉ちゃんも全部問答無用で押し付けてきなさい!!!」

商会の中枢たる会議室の窓から、アンナは一日中どやしつけ続けた。


 ・



カペラが『第三者的に様子を見ることはできる』というので、突きつけられた水晶玉を覗いていたが・・・


「エリス嬢・・・ アンナとつながりがあったのか・・・!?」
「夢の中で会話が出来るというのなら、誰と繋がっていたとしてもおかしくないですわ。
こうなると、アイル様が手玉に取られたのも無理はありませんわね。幸運だったのは、マルス王子の味方である以上、この人も味方である事実が揺るがないことですかしら」
「・・・ハーディンの動向には気をつけていたつもりであったし、対応策もいくつかはあったが・・・
さすがにこのタイミングでパレスを取られていたら面倒だった。
ニーナに尻尾を振る犬だと思っていたが、さすがに『草原の狼』の名は伊達ではなかったということか」

『レギオン計画』の事は知るのが遅すぎたため、アイルの見通しの中には入っていない。それがなければ『狼の牙』残党とドルーア軍、やりようによってはどちらも相手取れると思っていた。そしてその必要は多分ない、とも思っていたのだ。

「・・・焚きつけたのはパオラか・・・ あの女、おとなしそうに見えて一番食えないな」
「・・・末のエストは面白い方につくというだけの、割と有能な騎士。アイル様自身相当に面白いんで、今は囲っておけるでしょう。
カチュアに至っては情にもろい実直娘。懐柔する必要もありません。が・・・

長女パオラは意外に野心家です。厄介な存在に見えます。
・・・見えるだけですけど」
「・・・ほう?」
「あの女は、なんだか知りませんが決定的に運がない。
今回にしろマケドニアの件にしろ、遡って『ノイエ・ドラッヘン』の件にしろ。
ほうっておけば自滅するタイプですわ。能力がある分勿体無い気がしますが、あれは『敵にまわすことでこちらの役に立つ』タイプです」
「・・・少々不憫になってきた」
「ま、これでハーディンの手勢はほぼ封じることが出来、同時に各地に現れる『レギオン・ドラゴン』のいくらかは手配が不要となりました。
パレスを取るつもりだったのなら、主要街道や人口密集地に派兵が済んでいるはず。こちらの都合のいいようにいってますわね」

アイルは少し考えて、傍らのノルンに告げた。

「・・・ノルン。後でニーナに、『ハーディンを褒めるように』伝えてくれ。
彼は万一に備えてか、各地に兵を派遣していた。そのおかげで多くの民達が助かった・・・とな」
「御意」

カペラがじとりとした目を向けてくる。

「・・・相変わらず人たらしでいらっしゃいますのね」
「あいつの野心の出鼻が理不尽にくじかれたんだ。とりあえずの褒美をやっておかんとくすぶりかねん。
『自分のしようとしたことは無駄ではなかった』くらいに勘違いすれば、こちらも変な不安を抱かずに済む」
「別に咎め立てているわけじゃありませんわ」

ともかく。

この後更に一日の猶予のうちに、『死した竜が復活して暴れだす』という情報は大陸を駆け巡った。


「我が『シュテルン』並びに『モント』商会も負けてはいられないな。
『アルティネット』にうまいところを掻っ攫われるわけにいくか。
そもそも、こちらの方が『マルス様には近しい』んだ。
・・・稼ぐだけ稼ぐぞっ!!!!」

カシムは別口で話を既に聞いていた。
直接的な情報戦では勝てなくとも、コネクションで言えば有利。
大陸の血液たる二大商会が動き出す。
人の天敵を退治せんとする勇者たちを支えるために。


続く
by おかのん (2014-08-18 21:45) 

ぽ村

>>おかのん
投下乙ん♪
コチラこそお待たせいたしましまし;

最終決戦前に片す事がビッグな気がするんだけど、本当に年内に終わるのかしら(;^ω^)
やはり慌てず騒がずの方向で完成度向上を目指すべきかと


そういえば今思い出したが、マリクってエリスのアレだったよな。
本人同士の反応薄っw!


もうひとつそういえばで、アイルさんちは男同士の部下のやり取りが少ないのう・・・
そこで部下連中にはどういう情報がいきわたっていて、どういう形で忠誠誓ってるのかが分かれば、その後のマr

あ、いや
ネタ先読みになるっぽいからこのくらいにしとこーかな・・・
by ぽ村 (2014-08-20 05:00) 

おかのん

>本人同士の反応薄!

・・・忘れてた。
ここ、入れようと思って後回しにしたとこだ。
まあ、お決まりの動揺と無事だったことを喜び合って、かくかくしかじか・・・と言うだけなんですが。

>男同士の部下のやり取り

むむ、確かに。
しかしただでさえ長い話が冗長するのでは・・・ あまり考えてないエピソードをわざわざ増やすのも・・・

逆に敵に回った人たちはいろいろやった気分でいるしなあ。群像劇は大変です。
by おかのん (2014-08-24 18:04) 

ぽ村

>>おかのん
紀伝体的に、主人公が違う回を一つ(しかも幕間)入れればかなり解決するような気がするヲレ

んんまぁ
それででも労力の増加は避けられんか。


>反応
そちらのブログか、本番で加筆修正されるのかのーw
by ぽ村 (2014-08-25 01:36) 

おかのん

ちょっと書いてみました。

まずはマリクの『反応』の方。


追章 微睡みの中の告白


アカネイア同盟軍。
『奴』の統率する軍。

・・・カペラの懺悔を聞くことになった時、価値観は崩壊した。奴がマルスの居場所を奪い、野心のままに振舞っていると思えばこそ、敵対、もしくは同等の組織に身を寄せようとした。

知ってみれば、あの偽者は敵ではなかった。
怒りを向ける相手ではなかった。

ならば。

(・・・ぼくは。どうするべきなのか)

そんな答えのない自問をしていた時だった。

(マリクー)
(っ!?)

忘れもしない。
この身を賭しても守ろうと誓い、しかし果たせず囚われているはずの、許嫁の声。

(エリス、様?)
(久しぶりだね。元気?)

2週間ぶりに会った学院の顔見知りにするような挨拶だった。
5年とも6年ともつかぬ間離れ離れであった、永遠の愛を誓い合うことを互いに認めた恋人の、待ち望んだ逢瀬とは思えない軽さ。

(げ、元気・・・です。
あ、あの、ガーネフに囚われていたと・・・)
(うん、同盟軍に助けてもらったの。だからとりあえずもう心配いらないの。
あのね、ちょっとこれから大陸中がとんでもないことになるから、その後でちゃんと会ってお話しよ?
話したいことはいっぱいあるんだよ。驚かそうと思って色々我慢してたから。でもねでもね。やっぱり会いたいな。もう6年近いよね。マリクもかっこよくなってるよね。あたしもね、おっぱいも大きくなったし、マリクが昔からチラチラ見るだけにしようとして実はガン見してた太もももスラッとしたままムチムチになってるよ。ガーネフは手は出してこなかったけど私が豚さんになるのは嫌だったみたいで不自由はしてなかったし、そうそう、魔法もかなりしゅーとくしたの!! ふふふ6年間ただ檻の中だったわけじゃ)
(ええとすいません本題に入ってください大陸中がとんでもないことってなんですか一体)

このノリは間違いなく彼女だ。
愛しきエリス姫だ。
そしてこれは夢でないと確信する。夢に彼女が出てきた時などいくらでもあったが、自分の想像力では、『話がどこに飛んでいくかわからないこの言動』を再現できず、興味のない人間と共にいる時の、穏やかに微笑む物静かな淑女で出てきていた。
その度に、『ああ、これはただの夢だ』
そう思わされてきた。
だから分かる。

このやかましい、ネジの抜けたような、それでも自分を全力で求めてくる底抜けに愛らしい女は、本物のあの人だと。

(あ、うんうん。
実はね・・・)


聞かされた『とんでもないこと』は、確かに大陸中を巻き込むとんでもないことであった。

その会話の中に聞き捨てならない言葉があったので聞き返す。


(囚われている間も夢の中なら連絡が取れたというのなら・・・
どうして僕に今の今まで何の音沙汰もなかったんです?)
(ええとね、マリクの心を覗き見した時、マリクの中で私のことがどんどん大きくなってくのが分かっちゃったんだよねー。
守れなかった後悔とかで、何度も繰り返す『救い出す決意』とかー。寂しすぎて『好き、愛している』から『焦がれる、愛おしい』に変わってく感じとかー。

・・・なんかそれに心くすぐられたっていうか、もーちょっと、もーちょっと見てたいにゃーとか思ってたらタイミング逃したっていうかー・・・)

あきれて物も言えないマリクだったが、より一層彼女が本物であると確信した。
この、想像の斜め上を行く行動や言動は、彼女以外にありえない。

そうしてマリクは飛び起き、このことをハーディンに告げることになる。
まあもちろん、『レギオン計画』の部分だけなのだが。






どーでしょーか。


続いて、『男同士の部下のやり取り』。


追章 大男共の宴


テーベの塔が崩壊した。

ここでの戦が終わったことで、同盟軍は待機状態となった。

「しかし・・・ 今更だが、同盟軍の士気というのは不思議だな」
「・・・どういう事?」

独り言のように呟いたデネブのそれに、ノルンが応える。

「いや何、女共はアイルに骨抜きにされているんだろうが、男共は理由があるのか、ということだ。
こんな地の果てまで、得体の知れん術で連れてこられて、よくわからん作戦をさせられてな」
「ああ・・・」

アイルは結果的に『手に入れて』は来たが、常勝というわけではない。
いや、結果的・・・ の言葉通り、戦場で勝率は高いが、甚大な被害を出したことはいくらかある。
戦術で勝てても戦略で負けた・・・ 『狼の牙』や『ノイエ・ドラッヘン』などの例もあるし、カダインの砂漠でガーネフ一人にボロボロにされたこともある。

もちろんその際逃げ出す者は逃げている。
だが、どの時も軍の崩壊までには至っていない。

「・・・男には、自分が認めた者のその先を共に見る・・・ってのが、理由になるんですって」
「なんだそれは」
「内部調査の最中に立ち聞きしたんだけどね・・・」

ノルンは、野営の幕の裏で聞いた話を、デネブに語りだした。


 ・


ダロスが野営をしている時、ユミルが通りかかった。
ダロスはかなりの古株なので、新顔に気を配る癖がついていたのだろう。
試験と称して相撲をとり、お互いの力量を認め合った前があるのも、関係したかもしれない。

「おう。ユミル・・・
珍しいな。ウルスタといないお前さんは」

ユミルにとってウルスタは心の拠り所であり、ウルスタにとってユミルは、自分の力そのものだ。
ほぼ一緒にいるのだが、ウルスタの湯浴みなどの時は、最近は長く離れることが多くなってきた。

「ウルスタは、あの村ではオラ以外に心を許してなかっただ。ここでオラ以外とも楽しくやれそうならいいことだ」
「・・・事情は聞いてるよ。
あの子の物言いは変に大人びちゃあいるが・・・
あんたの方が大人だな、やっぱり」

そういうダロスも随分変わった。
最初は暴れるだけの大男だった。だが、部下を得、役目を得、責任を与えられるごとに、語彙を学び、思いを受け、人に応え、人と和をなした。
ユミルはそれを知らない。
だから、ダロスがずっとこんなふうだったという印象を持ってしまう。

「俺も前は周りとはうまくいかなくてな。でも、俺が悪かった部分もあったし、何より合わなかった場所でのことだった。
どうも俺は、至れり尽せりの命令を忠実に聞くって感じの方が楽なんだな。だから、好きに暴れろって言われると、ピンと来ない。いつだって暴れたくてウズウズしてる奴らの中にいれば、そりゃあグズに映るよな」
「・・・まるで山賊団にでもいたような話ぶりだべ」
「いや、海賊の方だ」

ユミルは面食らう。

「元海賊なのに一部隊の将軍様だか」
「部隊なんだから部隊長だろ。まあ元海賊なのは今言ったとおりだ。
マルス様は、誰でも受け入れる。そして、俺のやりやすいような方法で俺を使ってくれる。俺も知らなかった、俺のうまい使い方を見つけて、俺がマルス様のために頑張ることが、俺にとって嬉しいことだと思わせてくれるんだ」
「・・・・・・」

人には向き不向きがある。
心を動かされる・・・いわゆる琴線も微妙に違う。
けれど、人は自分に意味を与えてくれる存在に背を向けることはない。
己の欲望に・・・ 嬉しい、楽しいという思いを得ることに、手を抜くことはない。

アイルは、何の役にも立たないと自分を決めつけ、一人でいた時に、本物の『マルス』と出会った。
存在意義を与えられた事と、彼の友であることの嬉しさを魂に刻んでいた。
見えていなかった色が世界に塗られたような、ただあるだけだった全てに命が芽生えたようなその衝撃。

(それさえ与えれば、人は意のままになる)

全てはマルスに捧げる。その凶々しいエゴも、与えられるその恩恵の素晴らしさ故に殆どの者は気がつかない。


自分が、事実以上にアイルの駒であることに。


「シューターのジェイクやベックも、大事な局面をいくつも任されてよお。リフのおっちゃんもこないだのボア様救出で褒美もらってるしな。
フレイ様は元々騎士だけど、竜騎士として飛竜隊を任されてからは八面六臂の大活躍。ロジャーさんもまあ頑張ってるし、ホルス様は元アカネイア騎士なのもあって、ニーナ様のお側で生き甲斐感じてるしな」
「みんな、自分が頑張ることに意味がある事が嬉しいだな」
「そうよ。マルス様が、そうなるようにしてくださっているからだ。
それは、本当の意味で人が幸せになることだ。
だから、俺達はあの人について行くし、当然のように命懸けでマルス様を守る。言うとおりに戦い、勝つ」


ユミルは思う。人に心を許せなくなってしまっているウルスタも、ここで何かを見つけれたらいいと。
たとえ力だけが欲しかったのだとしても・・・

『あなたが人より大きかったり、力がありそうだったりするだけで、怖いと決めつけるのは違う』

あれはきっと、ウルスタの本音だ。
そうでなければ、ウルスタはやはり自分に近づくことすらしなかったはずだ。
だから。

ウルスタの心が、今は頑なでも。
ときほぐされて、優しさや思いやりが生まれてくるかもしれない。
心から気を許す友が出来るかもしれない。そう願いたい。

人は、変わるのだ。
良くなることだって、いっぱいあるのだ。

「誰もが、頑張ることに意味があるって信じられる世の中になったら、すげえだな」
「おうよ。夢物語なわけじゃねえ。マルス様はきっとそうするおつもりだ。きっとな」

その後は、二人は飯や酒の話に興じた。
海賊と山間の蛮族だけに、あまりに違いすぎて、そして互いに新鮮だった。
二人の大男の一夜の宴は、ウルスタがユミルを見つけ、その腕の中でいきなり寝息を立て始めるまで続いていた。

ユミルは、すでに自分がウルスタの『心許せる者』であることに気がついていない。
既にそんな存在がいるからこそ、周りに目を向け、距離をとりつつ、周りのいくらかと交わることが出来るようになった事も。

獣のような匂いと、体温の高い手のひらや背中。
それそのものが、彼女のゆりかごだ。


 ・


「・・・・・・」
「なんのことはないわ。男どもも骨抜きにされてるわよ。私たちよりもむしろ、ずっとロマンチックでプラトニックな感じで」
「ええいやめろ。怖気が走る」

ノルンは少し瞳を潤ませて、楽しそうに語るが、デネブはげっそりしていた。
まあ、憂いがないのがわかっただけで収穫だろう。

そして。

この後、やってきたカペラが『レギオン計画』について語りだし・・・

大陸はその2日後、大混乱に陥る。






とまあ、こんなんで。

男共はわりと犬です。

でも、『狼の牙』や、元ノイエ、その他連中の方が貴族階級だったりするので、アイルが覇を唱えたら絶対ひと悶着あるですよー・・・


最近忙しくて続き書いて無いのにエピソードまた増やしちゃったい。
by おかのん (2014-09-14 14:32) 

ぽ村

>>おかのん
投下乙
リクエストしたのに昨夜はブログが重くて返信できんかったすまん;

>エリス
んん性格良いねぇこの子
タイミング損ねたってあんた・・・w;

>仲間
ゲーム的に言えば「いつも二軍なオレを重用してくれるなんて(´;ω;`)ウッ…」なんだが、ソレを良い感じで話に落せてると感じたあの凄まじい能力の一軍ドモ相手にd(以下自粛)
by ぽ村 (2014-09-16 10:10) 

おかのん

~偽りのアルタイル~

第24章 マムクートの慟哭

その3 混沌の大陸


その日は。

その刹那は。

混沌の戦場に相応しい、暗雲立ち込める空模様だった。


誰もが訪れることを知っていながら、知ることの出来なかったその瞬間を迎えて。

大陸の全てが決まる一夜が、始まろうとしていた。


 ・


ご ば あ

「うっ・・・ うああああああああああああああああっ!!!」

とある村に住む、とある青年。
彼がそこで見たのは、『それ』。

土の中から、竜の腕が見える。腐りきった皮膚が剥げ落ちている様子のわかる、おぞましい腕。
盛り上がったその腕から、上に乗っている土が落ちる。まなこは蛆に食われている途中のままで血走っている。

『それ』などという、安易な表し方だが、理由がなくもない。
取り立ててしまうほど特別でもないからだ。
今、この瞬間。
大陸の至る所で。
誰かの父や母や兄や妹や祖父や伯母や友人や顔見知りや名も知らぬ誰かが。


ゴギャアアアアアアアアアアアアアッ!!!


冥府より響いてくるようなこの慟哭を耳にしていた。
瘴気を纏い、人そのものほどもある爪をふるう。もう味わう舌も流し込む喉もないというのに、飢えだけは残っているのか、人を襲うことをやめようとしない。

「む、村に早く知らせるんだ!!
全員、麓に避難を・・・」

その時。

・・・ルギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!


その寄る辺となるはずの麓で、先ほど耳にした慟哭と変わらぬ音がした。

「・・・ああああああああああっ!!」


竜がかつて死した場所。

それは、ドルーアやマケドニア、その他戦場や城砦に留まらない。
マムクートの状態で行き倒れた者や、人知れず世を捨てて生きていた者・・・
マムクートは、各地にごく少数ではあるが、大陸のそこかしこに移り住んでいた・・・繰り返しになるが人知れず、しかしその形の方が多かったのだ。

そして。

マムクートは『竜』である。
一体でもいれば、その地域を死の大地と変えてしまえる。


・・・最悪なことに。

100年前の大戦、そしてここ数年の対アカネイア戦争で、組織的なマムクートの運用をしてきたドルーア、並びにグルニア、マケドニアの戦略のせいで、主要街道、主要国家、主要港、ようは要となる場所の殆どで、マムクートは死んだことがあったのだ。


それを全てゾンビ化し復活させ、暴走させる『レギオン計画』は、今この時代、この局面において・・・
アカネイア大陸を滅亡させるのに、最高のタイミングと言えた。


主要な場所にはそれだけ多くの。
軍の配置が済んでいないところで一体でも竜が復活すれば。
『混乱』は、必至であった。



 ・



「あいつらはいっぺんに復活したはずだ!!
つまり、今現在に騒ぎになってないとこにはいねえ!」
「この辺は大丈夫だ!! 落ち着いて逃げるんだ!!」

サジ、マジは、木こりだった経験を生かし、森の中に多くの村人を逃がしていた。

「せえ・・・のお!!」

ドカッ!!

バーツの大斧が、かろうじてその木を支えていた部分を削る。限界の来た木は、そのまま竜に倒れ掛かる。

「たあああああおれえええええるぞおおおおおお!!」

メキメキと音を立てて、覆いかぶさる大木。
その一本で家の一つも作れそうな質量の塊は、勢いを増しながら竜の背を潰した。


ルギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!


大木による圧殺。
新しい竜の倒し方と言えた。

しかし、考えてみれば当然可能だった。

人の力で竜の鱗を割ろうとすれば、尋常でない力や、同じ竜の理力を込めた武器が必要だろう。
ならば、人の力などとは切り離した考え方をすればいいのだ。
罠を張り、竜を誘い出し、そこに一軍を屠るような仕掛けをすれば不可能ではない。。
城を相手にしていると思えばいい。攻城兵器や戦略兵器で、大岩や大水を使えばいい。

バーツとサジ、マジ。
オグマの言いつけを聞いて、人を逃がす算段を整えていたが・・・

彼らはいざ戦いが始まった時、独自に竜を倒し始めていた。
そうそう都合のいい地形はなく、戦果としては微々たるものだった。それでも・・・

彼らの救ったいくつかの村の住人にとってみれば、彼らは間違いなく救世主で英雄だった。


 ・


咆哮が、曇り空に響く。

「雷鳴よ・・・我が剣に宿れ!!
サンダーァァッ!!! ソーッド!!!」

ルギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!


「あ、ああ、あ・・・」

へたりこんだ旅人は、その背中に守られつつ呆けた声を上げた。

彼には、その男こそが、どんな伝説に歌われる勇者より英雄より荘厳に見えた。

竜は雷撃をまともに受け、体組織が断裂している。
鱗が所々剥げ落ち、もう通常武器でもダメージを与えられそうだった。

竜に効果があるのは、並外れた力、伝説級の武具・・・
竜殺しの武具、各々魔法・・・
そのどれも、しがない傭兵であるオグマには、手に入れ難いものだった。

だが。
雷鳴を呼ぶ魔法剣。『サンダーソード』。
これだけはオグマも扱うことが可能。そして、幸運にも手に入れることが出来たのだ。

(シーダ姫・・・ お傍にて戦うのには間に合いませんでした。
しかし、本来の貴方なら、私が人々のために剣を振るうことを、喜んでくれたと思います)


「・・・さあ、ここは任せて逃げろ!!」
「あ、ありがとうございますっ!!」

ドルーアに向かう道すがらの街道で。
一人の傭兵が、屍竜の数体を屠った事。
たった数人。しかし確実に救った事。

知る者は少なかろうが、それは間違いなくこの件の一端であったろう。


 
 ・



カシム、ルタルハのシュテルン、モント商会のしたことは、軍への補給だけではない。
騎士崩れや冒険者、ならず者・・・ そのほぼすべてを『雇う』事も、マルス(アイル)から頼まれていた。

この混乱のさなか、火事場泥棒をされてはたまらない。
ならば雇ってしまったほうが、結果的に安上がりだ。その分を税金(臨時の税をかけて)で賄えばいい。
死んだ奴には払わなくてもいいだろうから、うまくバランスを取れば、口減らし+野党退治(結果的な話)+竜退治の戦力確保と、美味しい話。それを取り仕切れば、差額でいくら利益が出るか。

「ここ数日中に、各地で竜が復活するってぇ話があるのさ」
「マジ話らしいぜ? あの『シュテルン』や『アルティネット』が、紙束抱えて走り回ってら。
その書類の端っこにでも名前を入れておけば、ひと月は遊ぶ金に困らんさ」

シーザとラディである。
この話に信憑性を持たせたのは、ワーレンの傭兵の顔役二人が、半日かけて流布させたおかげだ。


各地の街道、大陸の動脈、特にアカネイア周辺は、『狼の牙』の軍が向かっている。
同時に、毛細血管にあたる小道や村々は、商会の手によって避難勧告、誘導が行われた。
竜たちを押し返すほどでなくても、人的被害を最小限にしたのである。

中には手柄を欲して竜に挑み、死んだ身の程知らずもいただろうが、そんなことは商会の知ったことではない。


そして。


死んだ人間が持っている契約書をかき集めて他人になりすまし、報酬をだまし取る人間が出てくることも予想できる。
その為に、死体から契約書を回収する人員も雇ってある。
人一人分の命を詐欺に使われる被害を考えれば、被害を抑える手段として有効だった。

金とは、人が自分の何かを削って、何かの役に立ったと証明する、己の価値だ。
アイルも、そしてカシムもルタルハも、そのことをきちんとわかっている。

それが、他人によっていかにいい加減に扱われるかということも。




 ・



その大動脈を司る、アカネイア周辺。

『狼の牙』各将が、奮戦していた。


「囲みつつ翻弄しろっ!! 火炎壷を投げ続けろっ!!
後ろから近づいて、投げつけたら後退だ!!
奴らのブレスは強力だが、喰らわねばどうということはない!!」

ザガロの弓騎兵部隊が、平地で暴れる竜を巧みに惑わしている。
隊列を組んでの集団戦でなく、取り囲んで嬲り殺す陣容。
これはいつもの狩りと同じだ。遊牧民族の末裔たる、ウルフやザガロ達が行ってきた事だ。

群れてくる歩兵を相手にしたりするわけでもない。夜襲、レジスタンス的な戦いでもない。

相手が獲物や猛獣から、竜になっただけだ。

「首の動きに気を配って!! 体は動きが鈍いように見えるけど、ブレスはそこから吐かれるんだ!!」

ロシェの支持が飛ぶ。

「ロシェ、ここはもういい。ビラクのいるノルダ近くの麓の砦に行ってくれ!!」
「ああ、ウルフ。了解したよ!!!」

パレスは竜も少なからず暴れた歴史があり、大陸中の死した竜が復活となればその数も多い。
しかし、『狼の牙』は、パレスとそこに繋がる街道と、周辺のいくらかの城塞都市・・・レフカンディやメニディを守り通していた。

「ゴードン!! シューター部隊を右辺に展開させよ!!
騎馬騎士団の囮がここを通過すると同時にストーンヘッジを浴びせるのだ!!」
「はっ!! ジェイガン様!!」

「我が銀の槍で、竜の喉を貫く!!
私に続け、アカネイアの騎士達よ!!」
「ミディア、無茶をするな!! とどめはドラゴンソードを持つ俺が行く!!!
勇者アストリア、いざ参る!!!」

トーマス、ミシェラン、トムスら、アカネイアに名を連ねる騎士達の活躍も凄まじかった。
そして。


ゴオオオオオオオオオオオッ!!!

『ルギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!』


・・・突き刺さりつつ砕け散る氷の尖塔と槍衾。
それが荒れ狂いながら竜の体を突き破る。

傍らの魔導士の掌の冷気がおさまっていく。
もうその竜は、再びの眠りについたのが見て取れた。

振り向いた魔道士はマリク。
彼は、ほぼ最初に『今のマルス』が偽物だと見破った人物だが、カペラの謀略に組まれていた事と、そのカペラの事情が変わって真実を知らされたこと、そしてエリスをアイルが助けたことで、アイルを敵視するのは一旦保留した。
今は大陸の危機を何とかするためと割り切って、屍竜と戦っていた。

「パオラさん!!
ここは片付きました。すぐにハーディン公のもとに引き返します!!」
「・・・わかってるわよ」

パオラがけわしい顔をしているのは、勿論、『マルス王子』に煮え湯を飲ますはずの進撃の途中で、この竜のゾンビ化復活の大騒ぎに巻き込まれたせいだ。
聞いてすぐには全く信じず、しかし『それが本当だろうが嘘だろうが、パレス周辺を固めてしまうのはやるべきだ』と真っ先に進言したのはパオラである。

言うまでもないが、パオラはこれをマルスの罠か何かだと思っていた。
進撃を遅らせているうちに手を打つとか、そんなところだろうと。

本当に竜が大陸中で復活した。

要地を抑えるということは、そこを防衛せねばならない。守ることに意味は十二分にあるだろうが、その分戦力は摩耗するだろう。
パオラの思い描いた、ドルーアとアカネイアがぶつかって、戦力を潰し合ったところで『漁夫の利』を得るという作戦は失敗したと言っていい。
むしろ軍を進めずにおいていれば、『狼の牙』が遭遇する戦闘は規模が最小限になり、大陸の盟主たるアカネイアは、即急に各地に戦力を送らねばならず、さらに疲弊したかもしれないのだ。

勿論その時は、民達の犠牲は計り知れない数字になるだろう。それはパオラとて本意ではないが・・・

(『悪運が強い』というのは、こういうことなのかしらね・・・)

パオラの運の悪さというのもあるのだろうが、パオラ本人はそれから目を逸らさざるを得なかった。


ペガサス部隊は数騎で2、3人の魔道士を運ぶカゴなどを使い、竜にトドメを刺す役の彼らを輸送していた。
魔道士の数は限られるため、こういう形をとったのだ。
パレス周辺だけで100体強の数の屍竜の復活があったが、まる2日に及ぶこの大事件の中、パレスに竜が侵入する事態にはついに陥ることはなかったのである。



 ・



「屍竜をこれ以上近づけさせるなっ!!
カミュも王もおられぬ今、ユベロ王子やユミナ王女の戻ってくるべき場所を無くすわけには行かぬ!!
死力を尽くせ!! 生き恥を晒した我ら、その汚名をすすぐ戦いぞっ!!」

ロレンスも老いたりとはいえ、実力主義のグルニアの将軍である。
グルニアは愚かな将が多い印象があるかもしれないが、それは権謀術数に反則ギリギリの意味で長けているアイルや、反則そのもののデネブ、カペラを相手にしたからという意味合いが強い。
怠け者だったり、猪突猛進だったり、卑怯者だったり、朝令暮改であったりしたが、そもそも彼らは『戦で勝ち続けた』から、将軍となっていたのだ。
500年の太平の中で戦といえば賊退治か訓練がほとんどであるが、それでも研鑽を積み、実力がものを言ったのは変わりない。そもそも盟主ながら、ドルーアはアカネイアの滅亡には殆ど関与していない。腐敗、堕落しきったアカネイア兵と、訓練を続けてきたグルニア兵の明確な差が出たのである。

つまり。

アイル率いる同盟軍に敗れたものの、グルニア兵は決して弱くはない。
少なくとも、自国で復活した屍竜に耐えるくらいはしてのけていた。


そもそもグルニアは降伏したのではなく、ドルーアの『アカネイア潰し』に加担したのだ。
ここが実はグルニア王が『弱気』であったことの証明である。どういうことかというと・・・

グルニア王が恐れていたのは、ドルーアではなく、自国内の『反アカネイア派』だった。
グルニアは、アカネイアの一将軍オードウィンが、旧ドルーア討伐に多大な貢献をしたことの褒美として与えられた国だ。
そのため、グルニアはアカネイアに絶対服従であった。
そして、その上で重要なのが、『グルニアは実力で勝ち取った国』であることだ。
オードウィンは、自分を慕って国づくりに協力してくれる者達が、『血筋ではなく、働きを見て欲しい。そしていずれは俺も国が欲しい』と思っている者たちだと知っていた。だから報酬として与えたものは、必然的に領土になった。
そうなると直轄領しかないグルニア王家は弱体化する。税の徴収をすることになるが、その殆どはアカネイアに吸い上げられる。さらにいえば、オードウィンは確かな実力者であったから皆文句を言わずについてきたが、子供となると話は別だ。成し遂げたことが大きすぎる上に、戦争がなくなったのだから腕もふるえない・・・経験さえできない。二代目はかなり苦労をしたのである。
トドメに、現在の王ルイは実際気弱な王で、反アカネイア派を抑えきれなかった。しかしそもそもグルニアは騎士の国、真っ先に寝返るなど、これほどの不義理もない。
その事を側近と話していた時の『いっそ降伏したことにすれば、裏切り者の汚名は着なくてよくなるか』
『馬鹿な、どのみち裏切っている上に、戦わずしてなどと・・・ それでは腰抜けです。不義理に情けなさまで足してしまうことになる』という会話をどこでどう聞かれて広まったのか、『実は降伏したのだ』という話になってしまった。
この風聞のせいで、グルニアでは諸侯が王を見限ってしまい、かなり統率が取れなくなっていたという。アカネイア相手に戦争すること自体は、諸侯も望むところだったので、ドルーア視点で見ると何の問題もなかったが、グルニア王家から見ると、しっちゃかめっちゃかだったらしい。終いにはカミュまでニーナを逃がすという大失態をやらかし、アカネイアは入り込んだグルニア諸侯が好き勝手に領地を奪い合うという最悪の騒ぎになっていった。

実力主義だったグルニアは、結局『実力をすべて』にしたせいで、礼節も信頼も無いような国に変わり果ててしまった。
その結果、盾となるはずの騎士の国でありながら、アカネイアを裏切り、ドルーアの望み通り、『人同士』で滅ぼし合い、各個撃破され磨り潰されて、最後には牙を抜かれた。

いいように使われた、間抜けどもの国。

けれど。


それでも。


磨き上げてきた『己』だけは残っていた。

軍としての規律も、統制も、かつて『騎士の国』を唄ったとは思えない雑さであっても。

俺達は『強い』。


・・・その矜持だけが、グルニアの最後の騎士達を、竜との死闘の中で、恐れから遠ざけたのだ。



 ・



・・・一方マケドニアは。


「ミネルバ様が、マリア様がアカネイア同盟軍と共におられる今、マケドニアの復興は可能だ!!
蟠りのあるものもあろう、不平不満の一言もあるだろう!! しかし、今は!!

『我らの国』を守る!!

ここで生まれ、育ち、子を成し、育ててきたのなら、これからもここで生きていくのなら!!!
屍竜に滅ぼされてたまるものか!!!

報われなかった、かの戦いの八つ当たりでも構わん!!
逃げる場所なぞないぞ!!! どうせ大陸中で屍竜は復活している!!

『我らの国』を荒らす屍を、駆逐しろぉぉおおおおっ!!!!!!」


おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!


カチュアの指揮で、マケドニア兵達は鬨の声を上げる。

この数年の戦で、結果的に一番ひどい目にあったのは、アカネイアでもアリティアでもなく、マケドニアかもしれなかった。

そもそも、『グルニアは王が気弱なせいでドルーアの恐ろしさに降伏をしてしまい、マケドニアはアカネイアに対する恨みのためにドルーアと手を組んだ』という風聞から事実と違っている。

まず先に、グルニアがドルーアに与した。

アカネイアを守護するはずの騎士の国は、『アカネイアの属国』という成り立ちだけでアカネイア聖王国に従っていた。
つまりグルニアは、アカネイアよりもある意味・・・『騎士による戦』に限れば強国であったのだ。
アカネイアにかなわないのは、兵の単純な量と、物資や軍事費の多さ。
戦いようによってはひっくり返せる要因だ。
そんなグルニアがドルーアという『民の一人一人が戦略兵器』である国とが手を結んだ。
その時点で大陸の趨勢は傾いていた。

その時、マケドニアは位置的に『板挟み』だったのである。

ここで、アカネイアとの盟約を守り、二国と徹底抗戦をするという先代マケドニア王・・・ ミシェイルの父の判断は、普通におかしかった。
アカネイアから見れば、裏切ったグルニアと、ドルーアを倒そうとするとき、オレルアンと協力するより手はない。
そして、まとまった兵力を運用するのに、時間がどうしても必要になる。

・・・ここまで言えばわかるだろうが・・・

もし先代マケドニア王の考えのまま、アカネイアの援軍を待ちつつ徹底抗戦をした場合。
時間稼ぎ用の捨て駒にされた公算は高い。
その事に気付いたミシェイルは正しくマケドニアを憂えていたと言えるだろう。
そしてそんな扱いに我慢出来ず、それぐらいなら自分こそが『覇王』たりたいというのは当然だったのである。

しかしドルーアに与して戦ったところで、結局現在ミシェイルは敗れ、マケドニアは敗戦国だ。

ドルーアの隣に国を構え、グルニアが裏切るメンタリティだった時点で、マケドニアも裏切らざるを得なかった挙句、このザマだ。どっちを選んでも、滅びるしかなかった・・・ これほど理不尽なことがあるだろうか。

そして皆それに気づいていた。
マケドニアのほぼ全ての民が、自分たちの不幸に気がついていた。

それでも。
いや、だからこそ。

『意地』は、彼らの最後の矜持だった。


俺たちの国は、俺たちが戦った時に生まれている。
家族、友人、仲間・・・ それを守ろうと思い、戦ったその時に。
たった一つしかない己の『全て』であるはずの『命』を賭して戦える理由。
それは『己』が納得するだけの『自分達』を守る戦いだから。
それを『国』と形容するなら。


《『我らの国』を守る!!》

《『我らの国』を荒らす屍共を、駆逐しろぉぉおおおおっ!!!!!!》


この言葉に、もう足すものはない。


マケドニアの騎士達は、全てを失ったが。

まだ、何一つ失ってなどいないのだ。



 ・



各地の戦いは、まだまだ激化した。

大陸中で、かつて神と恐れられた『竜』という生き物が、屍となって暴れ狂うのと同じ意味で。
大陸を支配する『人』という生き物が、生き残るために戦いに明け暮れていた。

続く

by おかのん (2014-09-29 23:04) 

ぽ村

>>おかのん
なんか久々の投下おt(ピッ←チャンネルを変えた音)


マジ・サジ「「今度こそ呼ばれた気がしてマッサージでぇえええええす!!!」」
(・・・ピッ)


※副音声でマッサージがコントやってますが気にしないで下さい


今回は退場者が大活躍っすなぁ
とりあえず、後衛は彼らに任せて良さそうだ
これで前線のアイルたちは心おきなく・・・


をい
後衛がそんなに活躍したらその後の戦いg(ピッ)


マジ「よっしゃ、俺、さっき救った村の女児嫁にする。村だけにムラムラしてきたし」
サジ「おまわりさーん!最近の連れ去り事件の星がココにー!!!!」(TVプッ・・・・・)
by ぽ村 (2014-10-01 01:32) 

おかのん

>久々
なんかね・・・最近ホント忙しくて・・・

>退場者大活躍
彼らは多分ここが最後の見せ場ですんでね。
時間軸的にはもう数日で決着ですが、章的にはまだ2~3章あるわけで、それでここで最後なら、魅せておくしかないでしょうということで。
というわけでその後の戦いをグダグダにする気はナッシング。

>マッサージ
・・・相変わらずのクオリティで安心(^-^)
by おかのん (2014-10-01 21:08) 

ぽ村

>>おかのん
・・・まぁ先のことは他のアイディア出る可能性も含めて迂闊なことは言わないほうが良い・・・

と、昔GMやってたヲレが言ってた。
(自分かよ)


>マッサージ
突然降りてくる
で、ヲレ自身がスベリ体質だから泉から湧き出すように自然に手が動く
人はソレをダメさのメルトダウンとのたまう
・・・だいたいあってる
by ぽ村 (2014-10-02 00:13) 

おかのん

~偽りのアルタイル~

第24章 マムクートの慟哭

その4 六百六十六の棺



・・・気がついた時。

そこには、今まで自分が知っている『認識』とはかけ離れた世界があった。

自分が今居る所というのは全く解らない。
手足の感覚も、上下左右というものも感じられない。
ただ自分が『中心』にいるということがぼんやりと分かるだけだった。

代わりに。泡が器にひしめくようなその一つ一つに、蜂の巣のような区切りの全てに。
映し出されている。

竜が、今見ている光景が。

自分を中心にひしめき合う球体の内側で、その全方位からの、全く別の竜たちの感覚が、全て自分と重なっている。

竜たちの感じていることは、全て自分に伝わっている。
自分の思考は、全ての竜たちに共感される。


(うがああああああああああっ!!!!!!!!!)


激痛。


竜のうちの一体が、反撃にあって、前足を落とされた。

(りゅ、龍殺しの剣を持っている奴がいるっ!!)


この痛みは、他の竜が感じることはないようだ。
だが、『自分達をたやすく傷つける武器が存在する』ことは、今この瞬間全ての竜が知った。

(み、身を守るためには、この武器を持つ奴に気をつけないと・・・ 真っ先に殺さないと・・・!!)

別の所では、魔導による炎で鱗を焼かれる竜がいた。

(ぎゃああああああああああああっ!!!!!)


『魔法』とは元々、竜の力を自然界の力と混ぜ合わせて使う奇跡だ。
物理的な力には抵抗力のある竜の鱗も、自分たちの力の乗っかっている奇跡には親和性がある。つまり簡単に効いてしまう。


(ま、魔道士・・・ 奴らも危険だっ!!
先手を打ちさえすれば、紙のような弱さだが・・・
こちらも奴ら魔法の前では、粘土細工だ・・・!)


いきなり死ぬような目にあわされて、混乱しつつ、痛みを振り絞って思考し・・・

ぼやけた頭がはっきりしてきて、思い出した。

(俺、は・・・)

自分が、『ベガ』であること。


(あ、ああ、あああ・・・・・・)


悪魔の宿る斧から生まれ出て、姦淫と暴虐を繰り返し、多くの人々を不幸と死に追いやり・・・


(うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)


にもかかわらず人を愛する事を知り、計り知れない後悔を魂に刻み、そして・・・


(あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)


ある魔女の壮絶な復讐と、それを継いだ魔王の怨讐の道具とされ・・・・・・

今やその残りカスだということに。

気が、ついた。



 ・



「渡河を絶対に許すなっ!!!
火薬壷をあるだけ放てっ!!」
「簡易シューターを城壁に輸送するよう指示しろっ!!
村の若者から射手を募っておけ!!」

アリティアでは、宮廷騎士団のメンツが、必死の抵抗を続けていた。
何しろアイルはあるだけの戦力を引き連れていくので、それは同時に要所に軍隊をまとめて残していないことになる。
オレルアンはハーディンが、アカネイアパレスもハーディンが(乗っ取るつもりだったとは言え)結果的に軍を送っていた。
グルニア、マケドニアはそれぞれ、各地でも商人たちが(市場を守るという意味で)各々避難、防衛していたが・・・


その日のまだ朝のうち。

アイルはこういう事態は全く想定していなかったので、アリティアに置いてきたのは、かなり最低限の兵力だった。
だが、運のいいことに、ガーネフとの戦いの後、丸一日の余裕があったおかげで、送れた戦力もあった。

それが、レナとジュリアン、そしてエストだった。
ついでにマチスもいた。
レナとマチスはマケドニアのことも気になったが、二人は個人では戦力とは言えない。ならばとカチュアに託すことにし、こちらに来た。

エストには(アイルも知らないことだが)アベルもついてきていた。

そして。

そこで思わぬ再会があった。

「ば、バヌトゥさん!?」
「おお、レナ殿でないか。
いや実は、マケドニア戦の後、ガトー様に受けていた治療が思ったより早く終わっての。それで、今までにカペラ殿に操られた影響で戦線を離脱しとった者達の治療を手伝うことになってな」
「俺マチスだけど、誰か覚えてる?」

最後のセリフへの反応はなかった。

などと話している間に、蕎麦をすすっていたバヌトゥの後ろから、数人の騎士や剣士が入ってくる。
そこにいたのは、アベルには馴染みの顔がほとんどだった。

「か、カイン!? ドーガ殿に・・・ な、ナバールっ!!」
「おお!? アベルじゃないか」
「俺ら、なんとか戦えるぜ!! すぐに同盟軍に復帰したいとこだ!!」
「・・・借りの一つくらいは、返してやろう・・・」

そこでエストが口を挟む。

「いやー、今夜から明日にかけて、屍竜が各地で復活するんで、そっちの防衛に回ったほーがいいぴょん」
「「「ぴょん!!?」」」

再会のシーンの話の腰がぼきりと音を立てて折れた後、現状説明がなされ、アリティアは特別警戒態勢に入った。
ちなみにマチスは雑用にまわった。
どうにかこうにか体裁を整えたその夜、竜が復活し始め今に至る。


「不思議なものだな、アベル。
俺達はどちらもこの戦いで、まともに祖国のための戦いに参加していなかったのに・・・」
「ああ、そうだな・・・ カイン。
いよいよドルーアを倒そうかという時になって、マルス様もエリス様も居られぬアリティアで、十数匹にも及ぶ屍竜を相手に城を守っている」

自在に動く盾となって奮戦するドーガを見下ろし、龍達を各個撃破するために、囮として撹乱するナバールをのぞむ。

「アベルー。西の森の方に、まだ人里を見つけてないっぽい屍竜がうろついてたよー」
「人里に向かいそうならまた連絡してくれ。
ああ、直接ナバール殿に言ってくれてもいい」
「かしこまり~」

エストは立場的にアベルを従者にしていたはずだが、空気を読んでかまるでアベルの部下のように振舞っている。
後で少々怖いかもしれないが、今はありがたかった。

「奴らは屍だ。屍にはやはり炎だ!!
獣に成り果てた神のなりそこないを、今度こそ虚無の果てに逝かせてやれぇっ!!!」

油と火薬が惜しげもなく、屍竜に浴びせられて火を噴く、爆散する。

軍事物資はたっぷりとある。シュテルン、モントは勿論、アルティネット・・・アンナから順次届いているのだ。
大陸にあるもの全てを使って、まずは生き残らねば話にならない。
それを『数字の貸し借り』という情報で制御でき、必要なところに必要なだけ送ることの出来る商人。
その力は、この未曾有の危機に確かな力となっていた。

そして、各地に散っていた英雄達や、その事実を知っているエリスとの情報交換は、たった一日の猶予で、人間側にある程度の『準備』をさせてくれた。
十分な迎撃態勢とはいかなくとも、民草に逃げる心づもりがある事や、竜が現れることが青天の霹靂でないだけでも、かなり良い材料だった。


 ・


情報が生死を分けるという意味では、一番危険な場所は、グラであった。
エリスとのつながりのある人間が皆無な上に、アリティアが激戦区となっていたため物見も送れず、完全に孤立していたのだ。

・・・そのグラの危機を救ったのは、この物語の中では初めてその姿を現す、勇者サムソンであった。

いくつかの村々から逃げてくる村人達を、グラ国の貴族達は締め出していた。
半日の移動を経て、彼らが最後にたどり着いた場所は、王城であるグラ城・・・ の、跡地だった。

同盟軍に攻め落とされた後、アイルはグラにある程度の統治と、城壁の応急処置をしたものの、急ぐあまりそれ以上のことは丸投げをした。
聞こえは悪いが、しかし、『自分たちで何とかしろ』という、当然の期待もあったのだ。
グラの貴族連中は、ものの見事にそれを裏切った。
自身の領地のことはともかく、主の実質いないグラ城に、全く手をつけようとしなかったのである。グラ王ジオルの慕われ方がよくわかる。

「・・・サムソンさん。確かにあんたの言うとおり、ここの城壁も、ないよりマシかもしれん。しかし、どっちにしろあの竜の屍に襲われたら・・・」
「ああ。だから、若い男は武器庫や宝物庫をあさって、剣の一本でも握っておけ。・・・いや、弓のほうがいいだろう。油を浸した布を矢尻に巻きつけて、いつでも火をつけられるようにしておくんだ。
女子供は男に守ってもらいながら、食料の確保を出来るだけするように。

いいか、苦しい時がしばらく続くかもしれん。しかし、諦めるな。
諦めるのは、本当に最後の瞬間だけにしろ」

しばらくそこに身を潜めて隠れているとき。

ルギャアアアアアアアッ!!

つい最近耳にした咆哮。

「りゅ、竜だあああっ!!」
「誰か襲われてるぞ!!」

他の村人が折り悪く屍竜に襲われ、グラ城に連れてきてしまったのである。


サムソンは、足の震えている・・・ それでもサムソンに続こうとした若者達と共に、襲われていた村人を助けようと城壁の外に出る。
そこで、一人の少女に出会ったのだ。

「・・・あれは・・・」

彼女は、明らかに屍竜を挑発していた。

「わああああああーっ!!!」

もっと言えば、自らを囮としていた。
大声を出し、右へ左へフラフラと動き、わざわざ目立っている。
常に竜の正面に立ち、ブレスを吐くまでの一瞬の間で、安全地帯まで走り抜く。そのひと呼吸の間に、他の村人たちは距離を開ける。
・・・確かに足は速く、一番若いようだ。それ以上若いとなると子供しかいない。
彼女しかいなかったのだろう。
それでも。

(かって出た・・・のか)

『あれ』を、誰かが『やれ』とは言うまい。あまりにも身勝手な上に、『だったらお前がやれ』と言われかねない。
とはいえ。
サムソンは信じられなかった。
あんな娘が。それを『しよう』と思ったということ。

その、まかり間違えば自己犠牲的な、でも、意味の大きなその事が。

(王の、ようだ)

人々のために、己を投げ出す。
それは、その為に優れたものたる事を義務付けられる、ともすれば強いられる、貴族のような。
いや、それを自ら、なんの義務もなく選び取ったと言うなら、それこそ。

わかっている。
戦を率いることがあろうと、『民のため』に戦を始める王族はごく稀だ。
大抵は野心だ。基本優れた海賊のなれのはてなのだから、当然に。
命を賭して民を守るというのは、名目か、平和な世の綺麗事だ。

だからこそ。

「・・・退いていろっ!!!」

サムソンは駆け出す。

竜の足元にはやてのごとく近づき、手持ちの剣で腱を斬る。


・・・ルギャアアアアアアアッ!!!!!!!


「貴様が手を出していいような相手ではないっ!!」

バランスを崩した屍竜はのたうち回り、もがきながらそれでもこちらにブレスを吐こうとする。
しかし、吐くまでの『ため』の時間に喉元までつめ、そのままサムソンは振り抜いた。

その後は一方的だった。

脳や神経で動いているのではない。だから『支え』をいかに崩すか。四肢を順に叩き潰し、首を落とし・・・
ほどなく、屍竜は動かなくなった。

サムソンは、自らを囮にしていた娘に近づいた。

「無事か?」
「・・・貴方は?」
「俺はサムソン。たまたまグラに立ち寄っていた傭兵上がりだ。
この混乱で、成り行きでグラ城に逃げ込んだのだ。近隣の村の者達とな。
絶対の安全があるわけではないが、それでも街道をあてもなくうろつくよりは、しばらくでも寝られるだろう。来るといい」

「・・・助かるわ」


城まで連れてゆく最中、どうしても気になったサムソンは、つい聞いた。

「・・・どうして、自分を餌にするような真似をしていた?
村人達の逃げる隙を作るのはわかる。しかし、本当にそうすることは、やすやすとは出来ない。

何が、そうさせた」

その問いに、娘は問い返しつつ答えた。

「貴方こそ、一人ならどうとでも逃げられるでしょうに。
どうして足でまといを集めて、まとめあげて、わざわざ責任を負うような事をしているの?」
「・・・・・・」

サムソンは答えあぐねた。
気まぐれだと言って納得するだろうか。
しかし、先に彼女が答えた。

「私は、寂しいから」
「・・・?」

意味のわからない答えだった。
娘は、続けた。

「私は、母がいた。 ・・・母しかいなかった。
その母も、数年前に死んだわ。
父は誰なのかは知らない。でも、立派な人だったと聞いているわ。
とある高貴な人のところで、母は奉公していた。
そして、時折見掛けた主にこがれて、情けをくれと頼んだんですって」

つまり、子種をくれと迫ったのか。

「孕んだとわかると、すぐにそこを辞めて、一人で暮らして、私を産んだ。
母は私を立派な人間にするのだと、主の温情に応えるのだと言っていた。

私を縛り付けるようなことはしなかったわ。
『お前の人生はお前のもの。好きに生きなさい。ただし、お前は私の宝物で、立派な方の娘で、お前はお前を磨くことが出来る事を忘れないでおくれよ』
それが、母の言う『立派な人間』。

そして・・・ 母が病で亡くなった時。
私は、生きている意味が、文字通り消えた。

私がいくら立派になっても、私の理想とする己となって懸命に生きても。
それを喜びとしてくれるような人はいない。
とても、とても寂しかった」

それは、サムソンの琴線に触れる話だった。
サムソンは、自分をずっと鍛え上げてきた。
理不尽な力に簡単には屈しないように、出来る事は全て出来るようになろうとし、人だけでなく獣や竜、数人なら徒党を組まれても一人で片付けられるほどにも。

その力で生き抜くことはできよう。
が。
そこに寄り添い、共に生きてくれる、己と同等の誰かはいなくなっていった。
サムソンに擦り寄るものは多かったが。
研鑽を重なるごとに減っていき、勿論・・・
己が強くなることは、己の喜び以上にはならない。

「だから私は、心を晒す。
会ったばかりの貴方にも、寂しいのだと告げる。
そして、役に立ちたいの。私が今ここにいてよかったと、思って欲しいの。
だから、命懸けの囮もかって出る。
その人達の場所に戻って、また役に立ちたいから、必ずもどる。そのための力もつける。
どんなことが必要になるかわからないから、身につけられることはどんなことでも学ぶ。

・・・私は、寂しい」


それは、むしろ誰にも告げずに抱え込んで、寝床で声を殺して泣くような話だ。
よくあることかもしれない。
しかし、人にそれを告げるというのは、無茶苦茶である。手癖の悪い男が聞きでもしたら、どんな目に遭わされるかわからないような独白だ。


だからこそ。


サムソンは、腹の底の血が煮詰められるような感覚になった。
濃度が上がり、固まらぬようにか、血の管は暴れるほどに騒ぐ。
いつの間にか沸き立つほどに熱くなり、知らず歯は噛み締めていた。


「・・・ならば、簡単な怪我の手当てや、俺とは違う形での人のなだめ方もわかるだろう。
城に身を寄せている者たちの心を、癒してやってくれると助かる」

その言葉に少し面食らったような顔をした娘は、しかしすぐに。

「・・・ええ、ええ!」

こちらも頬を紅潮させて、何度も頷いた。

まるでこの未曾有の危機を、自分の磨いてきたことを発揮する機会だとでも言うように。

ともすれば、彼の・・・サムソンと同じように。



彼女が、後のシーマ王女である。




 ・




その村は、危機にあった。
炎の洞窟で人質にされかかった村人達は、その後、復興が出来そうもないまま冬が近づいたのをうけて、溶岩や温泉の熱を利用できる炎の洞窟に仮住まいをしていた。

そして、その入口を塞ぐように、数匹の屍火竜が復活したのだった。

(・・・こんなことになるなんて)

グルニアで、盗賊に襲われかけたところをデネブとアイルに助けられた村娘、リーヴルであった。
リーヴルは、ウルスタが心配で勢いで出てきたものの、冬が近いとなっては動くに動けず、村に逗留していたの
だ。

いくつかに分かれて、迷路のような洞窟で隠れているが、食料は保存の観点からかなりの量を外に出していた。
そして、獲物を求めてうろついている屍竜を思えば、いつまでも隠れていられるかわからない。

そんな風に感じていたとき。


キィンッッ!!!!!!!

音叉が砕けるような音と共に、描かれる陣を沿うように光が漏れ始める。

幾重にも光の輪を描き、そこから・・・
一人の女性が出てきた。

(な・・・!?)

その女性は、真っ赤な髪を後ろで束ねていた。
肌の荒れのない、街の雰囲気の女。口には紅をさし、その身から花と香草の香りがする。

「・・・まさか、こんなとこにまで人がいるとはね・・・。
エリスの頼みだし、聞いてはあげるけど、と・・・

あら?」
「あ、あの・・・」

その女性は、ぼうっと見ていたリーヴルに気づいた。

「なんだ、適合者がもう見つかったわ」

テキゴウシャ。
その言葉の意味はリーヴルには分からなかった。

「ねえあなた、屍竜のせいで困ってるんでしょ?」
「は、はい」
「私はね、竜のせいで困っている人たちを助けて回ってる、神様の代理人みたいなものなの。
普通はただ逃げる手伝いをしてあげるんだけど・・・
竜と戦える力を配って歩いてもいるの。

あなた、いい目をしてるわね。
そんな力、欲しくない?」
「え、ええ!?」

竜と戦う力。それほどの力となれば、人と戦う時には、一方的なほどの力になるだろう。
そして、あの純朴な大男ユミルは、その容姿や力のせいで迫害を受け、ウルスタはその力に魅せられ歪んだ。そのことを知る身とすれば、即答は躊躇われる。
しかし。

「勿論無理にとは言わない。ここから逃がすのは当然してあげるわ。
かなりの痛みも伴うし、お薦めするわけじゃないの。

でも。

貴方は適合者・・・ 簡単に言えば『才能』があるの。
うまくいけばすぐ済むし、私も次の場所に早くいけるのよね」

それは、救える人が増えるということだ。

何より。
その怖さも考えた上で。

あの時、自分に降りかかった・・・ 故郷の村が盗賊に襲われた時の恐怖。
自分自身が慰み物でしかなくなる、耐えられぬ程の悪夢。

あれを、難なく跳ね除けられたら。
助けてくれた、あの女騎士のような力があったら。

「・・・欲しい、です」

ただここから逃がすならしてやるとは言ってくれた。
そちらを選ぼうというならできる。
力を手に入れることを、勧めはしないとも言う。

けれど。

どうしても、あの女騎士の強さが頭から離れなかった。
どちらが狂人か分からぬような物言いや態度。身の丈ほどもある大剣を細腕で振り回す異常。

そして、それが美しくて。
惹かれるほどに恐怖して。
自分がいかにどうしようもなく無力かを感じて。


こんなふうに手に入れてしまったら、狡いのかもとは思う。
でも、機会は二度と巡ってこないだろう。
ならば。


「じゃあ、いくわよ。
この赤い石を、体のどこかに埋め込むことになるけど、どこがいい?」
「え、ええと・・・」


その女が妖艶な笑みで渡そうとしてきたのは、小さな豆のような、真っ赤な石だった。

リーヴルは、知らない。

彼女・・・アンナが、アルティネットと呼ばれる、大陸最大の道具専門の商会の長だということも。
アンナは独自の情報網で、カペラのしているいくつかの悪事の詳細を知り、それを真似て実験的に作った試作品が、この、透き通ったレッドキドニー豆のような・・・
要するに、『人体との親和性を表面に施した火竜石』であること。
今まさに、リーヴルは実験台にされているということ。

『適合者』は、村人ほぼ全てで、自分が特別であったわけではない事。実は彼女の村自体が、竜社会からも人社会からも逃げ出したマムクートが作ったものであった。
彼女の村は、竜族の血を引く者達の村だったのだ。

何より。


アンナの施した火竜石の『人体への親和性』は不十分であった。
これをへそに入れたリーヴルは、これから丸一日以上、火竜石との融合の副作用で、レナの時とさほど変わらぬほどの苦しみを味わうこととなり・・・

その頃には屍竜騒ぎは沈静化しているというオチまでついた。

リーヴルが気を取り戻した時には、アンナは既に失敗だと思い込み、姿を消していた。


 ・


いくつもの、いくつもの戦いが。
他愛ない出来事が、意味のない苦しみが、誰かのすべてを変えかねない偶然が、折り重なっていく。
誰もがその一部でしかなく、誰一人として全てを知ることは出来ず。
それでも、終わってしまった、竜達の咆哮と。
到らぬ事だらけの、人々の祈りや鬨の声。


その中心で。


(やめてくれ・・・ 俺は、もう嫌だ・・・
もう殺したいとは思っていないのに。殺されるのはもうたくさんなのに!!!)

自分の意識と重なる数百の竜は、人を、命あるものを襲うのをやめようとしない。
そういう本能だけで動かされている体に、知識だけが舞い降りるのだ。

その知識のつなぎに利用されるだけの『魂』。
それが、今のベガ。


痛みは共有するのに、主導権は向こうにある。
その中心にありながら、ただ情報の中継をするだけの道具。


救いは、ない。

(俺は・・・ このまま・・・)

今また、屍竜が一体倒された。

(・・・ぎゃああああああああああああああああっ!!!!!!!!)


死。

生き物の最大の苦しみであろうそれは、しかし一度味わえばその全ては終わる。それはある意味で救いでさえある。

が。

ベガはそれを共有しているだけで、死なない。
それは逆に、数百の竜が再び大地に還るまで、死の苦痛を受けねばならないということだった。


(・・・ぎゃああああああああああああああああっ!!!!!!!!)


続く
by おかのん (2014-10-14 17:30) 

ぽ村

>>おかのん

投下乙んぬ♪
・・・・なんかPCがすっごい重いんだけど;

とりあえず馴染みのキャラが大勢出てきたのう・・・なんか安心したんだがww

そしてマチス兄さんの扱いが酷過ぎる!
せめてレナくらいは尊重してくれてもwww

あとはアレね
あんなksだったグラの王様にも慕ってくれる女性が居たのね
きっと、王様も最初からああじゃなくて、伏魔殿なお城世界や困難な決断を繰り返すうちに曲がっていたんじゃ無いだろうかと思いを馳せてしまった。。。


あらベガちん。
なんでそないなトコロにw;
by ぽ村 (2014-10-16 19:15) 

おかのん

>マチスの扱い
レナとしては「私は忘れてない」と言ってもしょうがないし、どうすればいいのかわからなかったでしょうな・・・
忘れてるみんなに悪気は0だろうし(もっとひどいw;)

>KSのグラ王
ああ・・・ええと・・・
まあすこし、考えてることもありまして。


そしてベガはかなりひどい目に遭っとります。
カペラの計画の要でしたしな・・・
結局こうやって対処されちゃう以上、後300回は死にますぷしゅー。
by おかのん (2014-10-21 14:35) 

ぽ村

>>おかのん
レナ「兄さん、手伝うわ」
マチス「いいって、俺じゃあお前らの話してることがチンプンカンプンだし、こうしてるほうが落ち着くよw」
レナ「 に い さ ん ・・・(´;ω;`)ウッ…」

ということがあったと脳内補完しとこうw


>300回
すげぇJoJo5部のラスボスみてぇ!w
って、精神は大丈夫なんだろうか?
by ぽ村 (2014-10-21 17:39) 

おかのん

間違えた。

後666回だったw

ていうかサブタイにめっちゃ書いてあるのに何忘れてるんだ私w;
by おかのん (2014-10-29 21:59) 

おかのん

~偽りのアルタイル~

第24章 マムクートの慟哭

その5 共に見た微笑み


いくつもの、いくつもの戦いが。
他愛ない出来事が、意味のない苦しみが、誰かのすべてを変えかねない偶然が、折り重なっていく。
誰もがその一部でしかなく、誰一人として全てを知ることは出来ず。
それでも、終わってしまった、竜達の咆哮と。
到らぬ事だらけの人々、その祈りや鬨の声。


その中で。



「アイル。あれがドルーア城のようだな」
「見ればわかる。とはいえ・・・ 空からでないと確認は出来なかったろうがな」

フレイ竜騎士隊の隊員を借りての、空からの偵察。
本来、総大将のアイルの仕事ではないが、人に任せたところで、見るべきところがわかっていないと意味がない。気づくべきところが見えているのかを確認する術はない。となれば作戦参謀も兼ねたアイル自身が行くよりないのだった。

(その意味での人材不足は問題ではあるな)

とはいえ早急に解決できる問題ではない。

そして。

(・・・・・・
結局のところ、こうして見てみても、あまり意味はないな)

エストがいない現状、不安もあって直接見に来たが、特に見るべきところもなかった。
山に囲まれた窪地に、岩山が存在し、その上に鎮座しているのがドルーア城だ。聞かされて想像した通りの地形である。

(・・・・・・これが人間相手なら、水責めでもして終わりなんだが)

窪地にある岩山に乗っかった城など、簡単に閉じ込められる。確かに入口に土嚢でも積んで、塞いで終わりだろう。
しかし、中にいるのは竜だ。
大地から直接理力を吸い上げ、寝てしまえば年単位で力を温存できる竜。我慢比べをしては勝てないだろう。いや、出来ない事もなかろうが、そんな真似をするなら、他に方法を探すほうがいい。


「くふ。あの城に地竜王メディウスがいるか」
「メディウスは復活が完全でないため、城から出てはこない・・・ということだったが」

デネブの呟きに応じたアイルは、カペラに促す。

「あのクソ不便な辺境に連合会議のたびに集まらなければならなかった理由はそれですもの。ましてや、完全復活されて困るのが、連合内で右腕であるべき位置にいながら、じつは黒幕だったガーネフ。マムクートどもの縋る希望として据えていただけで、メディウス自身は目の上のたんこぶだったわけですし・・・
きちんと復活させる理由がなかった上に、取り仕切っていた本人、ガーネフが死んでいるんですもの。昨日今日復活ということはないはずです。ただ・・・」
「ただ?」
「・・・城の内部にある結界内なら、ほぼ復活時と同じ力を使えるはずなのです。
そこに居座られたら、倒すというのは難しいでしょうね」

マムクート達にある程度の成果を見せるために、その形を取らざるを得なかったということだろう。
魔法は竜の理力、またはそれに通じるものを操る力。当然その力はマムクート達の方が強いはずだ。
にもかかわらず・・・

『復活を焦らす』という芝居がかった駆け引きをしていたという点においても、ガーネフの才は桁が違う。

(俺の詐術が通用した点、協力者の数やその駒としての力が優れていたなどの要素がなければ、あぶなかったな・・・)

「加えて、ガーネフのいない今、いくつかの封印は解かれてしまっているはず。メディウスの近くにいる他の地竜たちは、指折りの神官でもあります。既に王の完全復活に向けて手段を講じているはず・・・」
「要するに、今のうちに無理にでも倒す必要があるわけか」

(ならば、やはり予定通りにいくか)

「わかった。エリス姫と合流して、そちらは出発していてくれ。
一応、《竜石瞳》を使っての屍竜封印が出来るかどうかを試さなければならない。

そして・・・

『出来る』と判断できたら、手鏡で連絡してもらう。
今は、『この混乱』を逆に利用しつつ軍を進める。終わらせるタイミングをこちらでコントロールできれば言うことはないからな」
「分かりましたわ」

そう言うとカペラは身を翻した。

大陸全土が屍竜との戦いで大混乱の最中。
アイルが取ると決めた手段は、いわゆる『火事場泥棒』である。

別に何かを取ろうというのでもない。しかし、対処するだけで手いっぱいの事件が起こっている今なら、その混乱に乗じて、突貫進撃ができるのだ。
他の勢力による横槍を考えずに、ドルーア残党のみと対峙が出来るのである。

勿論こちらにも屍竜は襲ってくるだろう。
しかしこちらを『倒すべき敵』と認識して追いすがってくるか、というと否であるはずだ。

ウサギやシカ、なんなら兵でも構わない。
囮を立てれば簡単に回避が出来るだろう。
ここはドルーア領地内だ。守る義務があるのはドルーア側で、人がそう住んでいるわけでもない。

何より、メディウスの完全復活は、いつ成されてしまうのかわからない状況だ。
いざ分かればそれなりの準備が必要だが、手をこまねいたがために事態が悪化する愚も犯したくない。

「シーダ! フレイと・・・ 部隊をひとつふたつ、部隊長ごと任せる。
友軍としてドルーアを引っ掻き回せ」
「ん?
いいのか?」

アイルの指揮は綿密な準備の上でやる。
そのため、イレギュラーは嫌う・・・ と思いがちだが。

「『味方だと認識出来る』上で暴れてくれれば、こちらが合わせられる。
俺さえ予測できない動きをしてくれた方が、敵も混乱しやすいさ」

『どうとでも軌道修正してしまう』即興的な対応力。
それこそアイルの得意とするところだ。
カペラやガーネフを敵に回しては、うまくいかない部分もあったが、屍竜の群れぐらいまでなら何とかしてみせる自信があった。

「ふむ、いいだろうさ。
ならばエッツェルあたりを連れて行くか。部隊はむしろ邪魔だ。竜騎士隊で物資や馬の移動を補助して、そこの山脈を越えたら、後は単騎で好きに踏み荒らす」

相変わらずの修羅っぷりである。

(・・・まあ、好きにしろとは言ったしな)

ただ、少し気になる点はあった。

「・・・エッツェルを連れて行くのはどういうわけだ」
「カペラのある事無い事いろいろ聞いてみたいだけだ。
要は山越えの暇つぶし用だな」

エッツェルの見目が良い点が男心をざわつかせたのだが、アイルの杞憂だった。

アイルがデネブに懸想していることを、デネブ自身は知っている。
デネブがアイルを憎からず思っていることを、アイルは確信している。

けれど。


アイルは命懸けでその立場と使命を肩代わりし、必ず助けると誓った友がいる。
その友を捕えているのは、デネブの仲間、もしくは上の存在であることもわかっている。
そのことも含めて、勿論デネブは理解しているのだ。
つまり。

アイルとデネブは、互いを想いながらも、その相手には『自分よりも大切な存在がいる』と思っているのだ。
その相手同士が、相容れないことも含めて。

そう、『思っている』のだ。


 ・



闇の中。

とてもとても深い闇の中。

採光のための窓がないわけではない。
今は昼間であるし、日は差している。

それでも。

内に内に壁を隔てての部屋を作り、さらにその地下に潜る構造。迷宮のような作りと、敵を閉じ込める仕掛けと、魔法によって灯るランプ。
空気が淀み、湿気がこもり、全てが死に絶え・・・

しかし、そこからこそ命が生まれ、育まれる、大地のそれと似た死と再生の香。

死んだように動かぬ玉座の老人。

『暗黒竜』、メディウス。


{ヒサシブリネ}

「・・・・・・あの盗賊の末裔か」

{マツエイハモウダイガワリシテイルワヨ}

「何の用だ」

{ベツニ。ソロソロコロサレルミタイダカラ、イイタイコトガアッタラキイテヤロウトオモッテ}

「ふん」


闇の中から響いてくる、脳髄を震わすような響き。
人の声ではありえないが、メディウスは彼女が何者か知っていた。

「相変わらず世をかき乱す神竜共に混じって、己の利己を満たすために暗躍しておるのか。
まあ、わしもお前をどうこう言える存在ではない。
世の安定などというおためごかしのために、己の願いを蔑ろにされたものの考えることは、人も竜も変わらぬということよ」
{ソノイミデアナタトワタシハニテイル。ドウシトハイエナクテモ、キョウカンハデキル}
「何を勝手な。・・・しかし儂はまだ復活を遂げてはおらぬ。あの魔道師の野心の一端でしかない。
この場でならどんな者にも遅れは取らぬだろうが・・・
それだけだ」
{・・・ソウ。ダカラコンドハ、アナタハ『イケニエ』ミタイナモノ}

交わされる会話は、まるで雲の上のようなこと。
歴史を斜めから見るような言葉遊び。
にもかかわらずそれは、彼ら自身の話。

「だがな。この一幕、ただ朽ちては終わらんぞ。
地龍の誇りにかけて、貴様らの世に一石を投じてくれる。
その時、お前達は自らが何を滅ぼしたのかを知れ」
{フフ。ワタシモ、タダノ『ヒゲキノヒメ』デオワルキハナイワ。
ノゾミヲ・・・カナエテミセル。
テニイレナイママウシナッタモノ、トリモドシテミセル}

「・・・ま、せいぜい」

「{オまエもクるシむガいイ」}


その澱みと闇に混ざったような老人と亡霊の声が重なる。

既にこの戦を望んだ、嫉妬と野心に取り憑かれた魔導師はいない。
それでも終わってはいない妄執は、いくつもあった。

いくつも、だ。



 ・



「うおおおおおどりゃああああああっ!!!!」

ダロスのオートクレールが屍竜の前足を叩き割る。
本来この巨大すぎる大斧は、かけてある魔術のためにマケドニア王族の血を持つ者にしか扱えないのだが、ダロスは怪力だけでこの大斧をあつかっている。
『荷物として最悪なので預けていく。使える奴がいるなら勝手に使ってくれて構わない』とのミネルバのお墨付きもあるので、遠慮無く使わせている。

「ほりゃさほりゃさほりゃさほりゃさぁああ!!」
「ユミル、8時方向に弓兵! 左に滑りつつ反転!!
ここで両脇にいるべき伏兵を見つけておくわ。第4と第11部隊!! 続きなさい!!」

ユミルのトマホークが十重二十重と飛んでいき、屍竜のうろこを引き裂く。
ウルスタはユミルの戦う理由そのものであると同時に、頭脳でもある。反面、戦場では間違いなくお荷物だ。
それを補うためか、ユミルは一対多数の戦い方を学んだ。
対屍竜においては、投げ斧は囮や手数増やしに使えた。
矢や手裏剣では全く通用しないため意味がないが、斧となれば竜とはいえ無視はできない。


ルギャアアアアアアアッ!!!

屍竜の悲鳴が、続けて聞こえてくる。

「・・・前線の維持は出来ているようですね」
「おうベック。こっちも最遠方防御線を更に広げるぞ」
「わかっていますよジェイク。貴方の恋人とやらから送られてきた空間跳躍弾『スターゲイザー』。ここが使いどきなのは心得ています」

今や攻城戦のみでなく、野戦の大局を左右するまでになったシューター、その双璧の大隊を率いるジェイクとベック。

「撃(て)っ!!!」

どどどどどどどどどどどどどどっ!!!!!

「続けて4番隊、7番隊っ!! 撃(て)っ!!! 」

どどどどどどどどどどどどどどっ!!!!!

ルギャアアアアアアアッ!!!


屍竜がまた悲鳴を上げる。

突如空に空いた闇の穴から、岩の塊が降ってくるのである。
位置を視認できなければ使えないが、逆に言えば視認できる屍竜は安全地帯から鏖殺されているわけである。

「・・・・・・運用に金がかかる、操車の人材育成に手間がかかる、命中率の悪さ・・・
だからこそ、攻城戦くらいにしか使われてこなかったシューター部隊・・・
それが、戦場の主役にもなれる日が来るとは」
「へへ、全くマルス王子様様ってやつだな」

人的被害を限りなく0に近づけられる可能性を秘めた兵器。
アイルはその重要性とメリットを生かし続けることを考えてきた。
それに呼応するように命中率は上がり、運用効率は上がり、軍船を、飛竜隊を潰すほどの存在となった。

「さあきやがれ腐れ竜共!!
一匹残らず潰してやらあ!!」
「我らの時代が来る・・・ その邪魔はさせません。かつての神といえどもね!!」

超遠距離と最前線。
その二つを握る大隊は、ダロスとユミル、ベックとジェイクが率い、数々の屍竜を問答無用に屠っていた。


 ・


「シーダ殿、西に2里程のところに展開している軍が」
「くふ、そうか。では行くぞエッツェル!!」
「ああ、屍竜は何の益も残さん。全て消滅させる!!」

フレイの飛竜の背に乗ったエッツェルが、風の聖剣エクスカリバーを巻き起こす。
飛竜隊の突撃に負けぬスピードで突っ込んだデネブは、神速の槍さばきでヘルファントを振るう。
弾丸と化した騎馬が屍竜に風穴を開けていく。

デネブの魔力を中継することで魔槍ネメシスを叩き落とすフレイとのそれぞれの連携攻撃は、屍竜達を次々屠っていく。

「くふはあははははははははははははっ!!!!!!」

街に現れれば災害と変わらぬ扱いを受ける、いや、かつては神と等しい存在だった竜。
それさえも潰して遊ぶような強さ。
魔女というよりも、魔将であった。

「しかしエッツェルよ、カペラが我らに助力することになったが・・・
あいつとは話したのか?」
「・・・・・・

ええ、会って、色々話してくれました。
関係は違っても、同じ人を愛した俺達だから、共に生きていこうと思っていたから・・・

俺にも、覚悟はあった。

けれど・・・


俺がどう思っていても、彼女の贖罪に、俺は口を出せない。
なら、俺はいずれ彼女が戻ってこれる場所でありたい。
そう思うだけだ」
「・・・聞いても、いいかな?」
「・・・ はい」

次の獲物を見つけるまでの時間つぶし。
デネブには、それだけのことだった。



 ・



『会議の後、天幕にまいります』

はたして、カペラはエッツェルの天幕で待っていた。
グルニアのマクロニソス古城で別れたまま、噂話さえもろくに耳に入らなかった義理の妹。
ともに同じ人を、形は違えど愛していた者同士。

どんな話でも、聞きたかった。
それが彼にとって、絶望するようなことでも。
彼女ごと受け入れて、共に生きていきたいと思っていた。

「・・・お久しぶりです。お義兄様」
「カペラ」

名を呼ぶが、言葉は続かなかった。
聞きたいことはいくらでもある。だが、その表情に欠片ほどにしか喜びを見いだせなかったエッツェルは、その口から再び別れの言葉を聞かされるかもと思うと、固まってしまう。

それでも、名を口に出すのを・・・ 呼ぶのを、やめられない。
まるで、何一つ意のままにならない悪夢のように。

「カペラ」

その呼びかけを聞くたびに、瞳は潤む。
ぎこちなくも嘘のない微笑みも見て取れる。
彼の隠しきれない慈しみは、届いているのだ。

「・・・お義兄様。 今夜、私は懺悔をしに来たのです。
私は・・・

罪を、犯し過ぎたから」
「・・・罪?」

『懺悔を聞く』という役割を願われて、エッツェルは少しだけ落ち着き、話を聞き始めた。
しかし、語られていった彼女の罪は、想像を絶した。
エッツェルにしてみれば、彼女の認識は、可愛い義理の妹のままだ。愛した女に少しだけ似て、慕われて愛した義妹。その彼女が・・・

時間を超えて、ガーネフに囚われ、実験体にされた挙句に年を取らなくなり。
竜石のかけらを埋め込み、魔導機器と繋がることで羅刹の魔導師となり。
ガーネフへの復讐のために、あえてその仇の右腕になり。
幾人もの人間を不幸と死に追いやった。
仇であるガーネフや、イサトライヒの悪逆の村人などだけでなく。
レナやベガ、グラ城での戦いの折の同盟軍の新兵・・・

それは、もう自分に愛する者がこの世界にいないと思い込んでしまったが故の、世界への八つ当たり。
自分を愛してくれる人などいないと思ったが故の暴虐。

そして。

告白。


「・・・私。 お義兄様が、好きでしたの」


彼女の暴虐の限りは今聞いた。
それでも、エッツェルは彼女と距離を変えなかった。
その所業は、その狂気は、失ったと思ったものの大切さの裏返しだから。
それほどに愛したからこそ、カペラは何も愛そうとしなくなったのだから。

だが、彼女を抱きしめることも出来なかった。
それは、アーシェラ・・・ 愛した女に対する裏切りだ。
彼女の想い全てを受け入れることなど出来ない。
けれど、彼女が求めるものが何かはわからない。
いや、女として愛してくれと言われて、応えられはしないのは分かりきっている。

そこで、困るのも、受け入れるのも、拒絶は勿論・・・
彼女にとって、残酷だ。
ならば、どうしろと言うのか。
それでも、答えはエッツェルが出さねばならないのだった。


だから。


「カペラ」


その短い間の無限の逡巡を経て、その困惑こそが彼女を傷つけるなら・・・と、選んだのは。


「共に、生きよう」


例え、地獄に落ちようとも。
そう思った。
彼女を去らせてしまうよりは。
共に。


カペラがエッツェルの腕の中で、小さく震えた。


「ええ、いずれ、きっと」


それは。
少なからず、別れを意味していた。


「せめて私が、私を許せるほどに贖罪を終えたら。
残りを世界に向けて、義兄様と生きていきます。
だから・・・」

まっていて、くださいね


・・・その微笑みは、エッツェルを魅了した。
義兄として残しておいた理性を、そのまま獣に変えた。

これで共に、共犯者だ。
ともに愛した女を、裏切った。
二人共が。


けれど。



その日二人共が見た夢で、カペラの姉は、エッツェルの妻は。
母親のような微笑みで、二人を祝福してくれていた。


 ・



「ほー・・・」

デネブは自分を棚上げして若干引いた。

なんのことはない。
完全に深みにはまっている。
誰に迷惑がかかるわけでもなかろうが、常軌を逸しているとしか思えない。

そして。


「・・・まあ、貴様らの問題だ。
納得できるようにするといいさ」


そう吐き捨てながら、デネブは羨ましくもあった。


(アイル)


「さて、山も峠を越えた。くふふ、醜く蠢く竜神の成れの果てがうようよしているぞ。
さあ・・・フレイ、エッツェル。根こそぎいってみようかぁ!!!!」
「御意に!!」「ああ」

羽のような軽さの『分身する槍』ヘルファント。
『意のままに動く投槍』ネメシス。

両手に槍を構え、デネブは坂を駆け下りる。


その中で。


(アイル)



デネブは、遠い記憶を思い出していた。

『ドライツェン』を。


アイルがかつて持っていた、『13』とだけ意味を持つその名が、己の中で響く意味を。


続く

by おかのん (2014-10-29 23:16) 

ぽ村

>>おかのん
投下乙
あれだよきっともう366回目の死亡だったんだよ!

しかし今思い出したんだが、昔死んだ竜が現世で復活ってスカイリムもそうだったな(あっちはゾンビじゃなかったけど;)
伝承がまとめて現世に牙を剥くってのは嫌いじゃない。


最後の正念場だけに、相手方の軍勢描写っつうか戦闘描写も期待したいところだにゃー
by ぽ村 (2014-10-31 10:37) 

おかのん

>相手方の軍勢描写っつうか戦闘描写
ああはい。書かないとね。
それはともかく回想シーンです。
いろいろ回収もせにゃあ。


~偽りのアルタイル~

幕間 その28 魔女の過去の断片と罪と礎の亡霊


それは。

運命の交わった瞬間。


その気まぐれが。偶然が。
そこにその時そうあった事が。
今の彼らを決定付けた。


幾重にも絡み、それ無しでは誰もこのようには生きなかった。
いや、その後存在していたかどうかも怪しい。


全ては過去。

泣き叫んで生まれた乳飲み子が、未熟なれど手伝いの一つもできるようになる程の時間。


十数年ほども…前。


既に壮年にかかろうとしていたガーネフは、師に見破られるまでもなく、闇を抱え・・・
孤児や旅の者をさらって、魔術の実験道具としていた。



 ・



同じ場所に捕われていながら、彼女らが出会うまでは一年ほどもかかったろうか。

一人は、同じ村の十数年前に時を越えて飛ばされ、さして変わらぬように捕えられてしまった、マケドニア貴族の麗嬢、『カペラ』。

もう一人…いや、ひと組。
魂を生成する実験の失敗に巻き込まれて捕われた、『デネブ』と『アルティ』。

『アルティ』というのは、渾名のようなものだ。
実際は、真名さえ呼ばれることは稀であった。
そも『殿下』『陛下』というのは、直接の名を呼ぶのが恐れ多く、しかし伺いを立てねばならぬ時に『お付きの方よ、お伝えください』と、付き人を呼んだものが変化した呼び名。

であるから。

名は誰もが知っていても、彼女は名を使う機会が無いに等しかった。

そんな彼女が得た、心に巣食う別の者。
幼い頃に、戯れに名づけたそれが、たどたどしくも呼んだ己の名を、そのまま呼ばせたもの。
あるいはこれが彼女の真名と言えるか。
アルティが『真似るもの』という意味で名づけた『ミモザ』。
それが、デネブである。


ガーネフに捕われていたその頃、塞ぎ込んでいたアルティの代わりに、魂だけとなりながらも、動いていたのはデネブだった。
彼女の名は、望まずといくつもある。
カペラとともにいたこの頃、《ドゥツェント》の一体として『フィア』という名を持ち。
先ほど述したとおり、最初の名は『ミモザ』という。

彼女は、誰でもない者。
それでも、存在する者。

アルティにとっては、文字通り魂の通じている、しかし既に友とは呼び難い存在。
かたや《ドゥツェント》にとってみれば、恩人でも姉でも母でもリーダーでもあったろう。
そして、アイルにとって。
いや、アイルこそ彼女にとって・・・


なんだろうか。


本当に、なんだろうか。


 ・


台座付きケースの中に入ったオーブ。その奥から頭に直接響く、音のない声。

それが、『フィア』。

「・・・ここを・・・ 出る?」

{そうだ}

フィアの言葉に、アインスは首をかしげる。
彼女は、急速な老化で死んだヌルと違って、寿命は推測だけでも無限の体を持つ。。
神の肉体に近づけた『これ』は、不死ではないが、老化がない。ガーネフはいつだったかそう呟いていた。

スラリとした体躯の、人離れした雰囲気と金の髪。
片言に近い話し方のそれは確かに、太古、神と呼ばれた神竜族のマムクートに通じるものがあった。
神々しさにも似た、人との違和感のようなもの。
他の大陸ならば、エルフと呼ばれる妖精族と間違われたかもしれない。耳は人のものと同じだが。

「そんなことが出来るのか?」

{なぜ出来ないと思いこんでいる?}

尋ねるツヴァイの肉体は、ドゥツェントの中でも屈指の性能だ。
この場にいる者は誰ひとり知りはしないが、彼は、マルスの父コーネリアスの遺伝子同位体だ。
戦い方は違えど、その資質がそのまま生かされれば、敵う者など居るまい。例えるなら、『鬼』か。いや、膂力任せのそれでなく、技術さえ持つことを鑑みれば、やはり一周して『英雄』がふさわしいか。

{お前こそ、単独で逃げれるぞ。失敗作どもに遅れを取ると思うか?
いつも実験と称して戦って、苦もなく殺してる奴らが見張っているだけだ。そんなに難しいか?}

「・・・そう言われてしまえばそうかもしれないがね。
俺達は仮にそうしたとして、その先が想像できないんだよ」

{だから、外の知識は教えてやったろう。
私が『心に直接語る』ことで。
もうお前らは、外でも生きていける。あとはやるかどうかだ}

フィアは、諭すようにフュンフに答える。
肥満体のトーマスのような、痩せれば美男子といった風情の男。ドゥツェントの中では失敗の部類か。それでもかなりの力を持つのだろうが。
もっとも、彼女の目的は、彼らを囮にすることだ。
実際助かるかもしれないが、助からないかもしれない。
そして、どうなるかはフィアの知ったことではない。

「・・・・・・」

ドライは相変わらず無口だ。
だが、何も考えていないのではないと知っている。
だからフィアは、必ず聞く。

{ドライ。私を連れて行ってくれるな?}

こくりと頷くドライ。
ツヴァイに少し似ているが、もう少し中肉中背だ。
ナバールとのちょうど中間くらいか。ベースにはなっているのだろう。
年かさで言えばもう少しあるように見えるが、生まれた順番からすれば、皆そんなには変わらない。
100年を経てきた『フィア』だけが、その意味でも異質だった。

アインスが再び、浮世離れしたような声で言う。

「それは・・・いいこと?」
「知ったことじゃありませんわ。私は出ていきたいんですの。
フィアとは利害が一致したから行くだけ。
貴方達は好きにすればよろしいです。
ただ、黙っているのもどうかと思ったから、この場を借りて言っただけです」

カペラ・・・ここではノイン・・・は、吐き捨てるように答えた。

ガーネフの仕打ちにまさか恩を感じている奴はいないだろうから、伝えておいても問題はない。
いざという時にパニックを起こされると面倒なだけだ・・・というのが、フィアとノインの共通認識だ。

「・・・みんなは、どうする?
ここ以外の場所に行くのが怖ければ残ればいい。
俺達のいずれかと一緒に来るならそれでもいいし、一人で逃げるのも自由だろう。
その先どうするのかを俺たちも考えてる訳じゃない」

ノインの隣に立つゼクスがそう言うと、皆それぞれ答えを探し始めた。
アインスはしばらく考えていたが、最後まで答えなかった。
エルフとツヴェルフは魂のない人形なので、アルティが操っている。つまりフィアのお付きだ。
ノインとゼクスは先程からの様子で皆が察したように、一緒に逃げるのだろう。二人の関係は、ゼクスが彼女を気にかけて始まったのだろうが、むしろノインの方がゼクスを無視できずにいたのを皆ほぼ知っている。
ツェンは「わからない」と答えて黙ってしまった。
ドライはフィアとの同行に首肯している。

「残れば、ガーネフの・・・逃げ出された八つ当たりを一身に受けることになりそうね。
そう思うと選択肢はないけど・・・

ノインのお邪魔はしたくないし、とりあえず、余ってる男どもは私を守って欲しいなあ、ってのはどう?」

その口ぶりは、フィアとの同行は是としないのがわかった。
ノインと同じ、炎髪灼眼といった体だが、はすっぱな物言いの割に小柄で可愛らしい顔立ちのアハト。マリアが成長した感じだろうか。
その一言に異を唱えたのはツヴァイのみだった。
フィアが一人でいいだろうといったのを受けてか、一人で逃げる気らしい。
アハトには、フュンフとズィーベンがつくことになるわけである。


実際に決行した後の事は、フィア・・・ デネブも詳しくは知らない。
ドライとは混乱の中ですぐに離れてしまったし、見つからなかった。
その後彼らを探してみたこともあったが、アハト達とも今だ巡り合っていない。アインス、ツヴァイは言わずもがなだ。
ノイン・・・カペラとは再会することになったが。

この事も、その後の運命を大きく変えたが、それよりも。


実は、彼女にとって大きかったのは、この集まりのすぐ後の気まぐれの方だった。



 ・


この頃、アルティは表に出ようとしなかった。
心の奥に潜り込み、塞ぎ込んでいた。
元々情緒不安定なお姫様であったし、フィアが代わりを務めることは少なくなかったが、愛しの勇者が没してからはほぼこんな感じだった。彼を生き返らせる可能性の噂を耳にした時だけ狂ったように出てきて、そしてそれが夢物語や不可能なことと知るなりまた閉じこもる・・・ その繰り返しだった。


ガーネフの研究所からの脱出を明日に控えたその夜も例外ではなかった。魔力の共有こそ許され、エルフとツヴェルフを操るのには不自由しないが、語りかけても反応はしない。
アルティがほぼふさぎ込み、心を閉ざしているとなると、フィアは暇だった。
戯れに入ったのは、《ツァーレン計画》第二実験場。
そこには、第一期と言える今までの実験体『ドゥツェント』の遺伝子を掛け合わせて作った第二世代、通称《ツェンズ》が培養されていた。

{・・・ふむ}

緑色に発光している培養槽、片方が透き通った二枚貝のようなそれの中にいるのは、確かにそれぞれが人間の形をしていた。

{・・・・・・}

奇妙な感覚が、あった。

ここにあるモノは、物は、者、は。

ー実験体だ。

外からの刺激・・・ 薬品や電流、温度変化や記録(記憶)の上書きなどを経て、変化する。
その結果のなぞらえをすることで、普通に生まれた人間の、同じ事態への対処法としたり、次の実験体への実験そのものの試みを変えたりする。

使い捨ての、まさに『試し用』だ。


けれど、だからこそ変わらない。

『普通の人間』と、変わらない。
その結果を反映させようとするなら、変わってはいけないのだから。
だから、代わらない。替わらない。

『替わり』にはなっても『代わり』は出来ない。
これが『代用』として実験を受ける。本物の代わりとなる。けれど。

『これ』は、『これ』以外にない。

{・・・・・・・・・}


そしてもしかしたら。
明日の騒ぎの後、もしもこの実験体達が生きながらえれば。

{・・・・・・・・・}


・・・そもそもフィアには、『残せるもの』がない。

アルティの中にいる別の魂だというだけの彼女は、体を持たず、遺伝子を持たない。

だから。

何かを『変えてしまう』ことだけが、彼女を『存在』させることになる。
『変えてしまったもの』が、存在し続けること。それが彼女がいる事を証明する。

{・・・・・・・・・}

そう。

フィア・・・デネブは、この時、この実験体を『弄んだ』。

ー念じる。

生きてはいるが意思のない、有機操り人形のエルフとツヴェルフ。二人は一つの培養槽に近づいて、制御卓に指を滑らせる。

{・・・そうだな。可愛らしい少年だ。せっかくだから外見は変えない。
代わりに、判断力、記憶力、情報処理・・・ 可能な限りに高めよう。となれば、性格は多少ねじ曲げたほうが面白かろう。くふふっ。

審美眼は高くしよう。だが性欲は強いほどいい。多少のモラルはあるにもかかわらず、それに抗えないほどの淫乱な餓鬼がいい。
友人の恋人だろうが上役の娘だろうが、見目麗しい女の乳が揺れればその場で犯しにかかるほどに。

野心家がいい。だが義理堅いほうが面白い。相反する己の性に、常に苦しむような。だが、手に入れようとするのを決して止めないような。

手先も人付き合いも器用で、けれど思い入れのない他人はゴミに見えるような奴がいい。野心家が一軍率いて、犠牲を躊躇するようでは話にならないからな。くふはははは}


・・・いくつもの遺伝子操作や精神誘導で、No・13が歪められていった。
No・13『ドライツェン』のベースは、ドゥツェントの『ツヴァイ』である。そもそもツヴァイは、ファルシオンを使用出来る駒が欲しいと思ったガーネフが作った。
しかし、竜の血の飲用によって体組織を変化、発現を『契約』による魔力制御によって行っているために、クラスイグジストの顕現が確認できない為・・・
つまりファルシオンを使うことは出来ないという意味で、ツヴァイは原因不明の失敗作であった。
そして根本的問題を解決し得ないまま・・・というか、原因に気づきもしないままに作った、再びの失敗作、それが、遺伝子的にコーネリアスに続く実験体、『ドライツェン』。

彼が、マルスに似ているのは当然だった。
優性遺伝子であるコーネリアスの『アリティア王家の血』が、複製とはいえ流れていることになるのだから。


フィアは・・・ 後のデネブであるこの女は、この時点で、遺伝子や能力をいじくりまわし、歪めたこの少年が、アルタイルという名を得ることを知らない。
異母兄弟とも言える本物、マルスからその名を貰い、故にこそ、アルティの命令でマルスを攫いに行った事で再会する・・・
全く想定していなかった事だった。

マルスの異母兄弟的存在を歪め。
その容姿ゆえに二人が出会い。
マルス自身を主が必要としたが故に再会する。
逃れようもなく爛れた関係となった後に全てに気付く。

まるで三文芝居のようではないか。

そして、ここまで大きく『ドライツェン』を歪めながら、ここから逃げる時点ではその行方を露程も気にしていなかった。


 ・


研究所からの逃走劇は、成功したと言ってよかった。

前述のように、それぞれに成否はあったが、フィアにとってはそのときはどうでもよかった。


変化は、ふた月ほど後に起きた。
その頃には、アルティは覚醒していた。

フィアは、ふと・・・
『ドライツェン』のことを、案じた。

気まぐれに基本能力や記憶を弄っただけのはずの、悪ふざけ、その場限りの、おもちゃだったはずだった。
けれど、どうなったのか、何故か気になった。

{生きながらえたのだろうか}

まずはそこだった。
確率としては半々だろうか。
実験体なのだから、問題なく取り返せたなら、ガーネフもそのまま使うだろう。
しかし奪還に失敗作共を使ったのなら、事故で培養槽が破壊されたことも考えられる。

仮に生きていたとして、

{どう成長するだろう}

身体的には並以上程度かと思うが、元々の遺伝子がツヴァイよりなら、そこそこ強靭ということも考えられた。
精神面の歪みと思考能力諸々はかなり反則的な値にした。折り重なってどうなるのかは想像がつかなかった。

気にはなった。しかし、

{・・・ナニニオモイヲハセテイルカハシラナイケド、トットトカラダヲサガシナサイ}

アルティは主人格だ。
というか、フィアは『魂の居候』だ。決定権がほぼない。
ツェンズのその後を探りに行くことなど許してはもらえなかった。

そして。


『デネブ』と自らを名付け、その後ペラティでたまたまその話を引き出すまで・・・
アイルが『ドライツェン』であるとは、気がつかなかった。
約十年が経っていること、ツヴァイの遺伝子がベースであるとは気がついていても、アリティア王コーネリアスの同位体であるとは知らず、当然No・13がマルスに近い容姿になることも知らなかったのだから無理もない。


ずっと案じてはいた。
彼が人との中で、その力の隔たりや歪みのせいで苦しんだり、孤独であったりするのも。
その能力で人を統べたり、逆にいいように使われたりするのも。

『自分が歪めた結果』なら。

それは彼女が『存在した証』だ。

ドライツェンの存在と、その有り様こそが、既に死人であるアルティの亡霊の、さらに魂に間借りするだけの存在であるフィアの・・・

『証明』そのものなのだ。


だから。

会いに行ける自由はない分。
彼女の心にはずっと、その名があった。


 ・


(・・・・・・・・・・・・)

気がついたのは、巻き込んだ後だった。

その魂を餌に、幾万の魂を集め・・・
主の想い人の復活に捧げる生贄にしてしまった後だった。

魂で繋がった主人に逆らうわけにもいかない。
そもそも、アイルは『最適』すぎた。代わりを探すわけにはいかないだろう。
もう一つ手はあるが、それはアイル自身が望まないだろう。

そして。

『共犯者・・・みたいなものか』

その言葉は。
デネブにとっては、拒否に等しかった。
少し考えれば、本人に向かって直接拒否的なことを告げるわけもない。
そんなことにも気がつかないほど衝撃で、強く残ってしまったのだろうか。


そして、デネブは・・・

アルティの下僕で有りすぎたせいで、その享楽的な人格からは想像もできないほど、諦念が強すぎた。
早々に、見切ってしまった。
諦めて、しまった。


その弱さは。

さらなる悲劇を生む。


滑稽なほどの、罰が下る。


続く

by おかのん (2014-11-09 21:05) 

ぽ村

>>おかのん
ぐうおおおおおまた負担を増やしてしまったんだろうか(悶々)

とはいえ投下おつ

アイルってばそんな「よっしゃクセのあるキャラにしたろwww」なんて暇つぶしのキャラクターメイキングみたいな能力いじりなノリで誕生しますたんですか(日本語変w)


マルスのお父さんの要するにコピーのコピー(?)で・・・マルスと仲良くなったのは必然だったのかね

そしてあとどのくらい回収する話があるのか心配になった ぽ村 であった;
by ぽ村 (2014-11-10 20:09) 

おかのん

ドルーア軍の描写は次回かな・・・
話の流れ上、都合もありまして。

では今回は、彼の話が一旦区切り。


~偽りのアルタイル~

第24章 マムクートの慟哭

その6 贈り物は『孤独』


総数六百六十六体。

それを一人の人格で動かすとなると、かなりの数の個体が自律行動となる。
その身に受ける痛みなどの情報は警戒装置として切るわけにもいかないし、そもそも自分で切り替えはできないが、個体ごとに起こる事例に一々関心を払っていられない。

死の痛みはそのまま帰ってくるにしても。

(ぎゃあああああああああああああああっ!!!)


群体竜・・・ レギオン・ドラゴンの中枢として添えられたベガは、その魂に幾度とない死を浴びていた。
生物にとって最後のストレスであり、それが最後だからこそ救いもあるはずの『死』が、終わりも見えない数で襲う。
全てが終わるはずの苦しみが、後数百回。
彼の精神は、崩壊しかけていた。


(あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ・・・)


すべてが消え失せたのに。
また全てが繋がる。
追いきれない、いくつもの現在。その一つ一つに。
嫌悪と、恐怖と、怒りと、殺意がある。
それらが満ち切ったところから、また、全てから断ち切られる恐怖と、耐え難い激痛が襲いかかる。

心を占めるのは、願い。
これで終わって欲しい。
次にすべてが断ち切れる感覚の後に。
もう、何も続かないで欲しいという思いだけ。

何も、いらない。
何も、感じたくない。
安らかにとは言わない。
何を残したくもない。

終わって、くれ





























繋がる。

繋がって、しまう。


もう何度目かなど覚えていない。
ただの模様にしか見えなくなってくる、いくつもの『迫る死』。
切り刻まれ吹き飛ばされすり潰され貫かれ、摩耗した精神を無理矢理に覚醒させられた後に全て絶たれて。

(あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ・・・)







永遠の一瞬の後。


また、地獄に帰ってくる。繋がる。

ただの模様にしか見えなくなってくる、いくつもの『迫る死』。
切り刻まれ吹き飛ばされすり潰され貫かれ、摩耗した精神を無理矢理に覚醒させられた後に全て絶たれて。

(あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ・・・)




そんな永遠の、何度目だろう。


間違い探しの答えを見つけた時のように。
違和感を覚えた場面があった。


そこに映る者の中に。
正面から屍竜を見つめる者がいた。

怒りでも恐怖でも嫌悪でもなく。

むしろ悲しみと慈愛と共感。

(・・・?)


他人の痛みを悲しむことが出来るのは。
そういう余裕のある者だけだろう。

その痛みを我が事のように感じるのなら。
そう思うだけの理由を持つものなのだろう。

他人の苦しむ様が辛いのは。
その者を愛するが故というなら。


彼を。
ベガを愛した者が、そこにいた。


 ・


北の山を時計回りに迂回する本隊と別れ、地竜神殿に向かう事になったカペラとエリス。そしてアテナ。
神殿に向かう目的は、チキを復活させる事である。
動きやすいよう、少数で向かっていたが・・・
カペラを先行させている時、屍竜に遭遇してしまった。

(応えて、ベガ君・・・!!!)

屍竜には、ベガの魂が繋がっているはずだ。
アテナもエリスも、竜を相手どっても遜色ない実力者のため、危機というわけでもない。
むしろ、これ幸いと、屍竜同士を繋ぐために利用されているベガの精神に働きかける機会にしようとしていた。

なのだが・・・

(応えて・・・!!)

精神を共有していても、その割合の問題、元々人という生物の格である部分がそうさせるのかもしれない。

交信に、まともな答えが返ってこないのだ。


考えてみれば、同時進行的に死の恐怖が迫り来る状況下で、まともな交信は無理だろう。
こちらに意識が集中すればともかく。
しかも、実際どれかの個体に死が訪れれば、一旦『全てから絶たれる感覚』が襲い来る。その後またこちらを意識できるかは未知数だ。

蜘蛛の糸をたぐるような確率。

しかし、諦めるという選択肢はない。

「・・・ベガ!!」

呼びかける声はこちらの方が真に迫っていた。
当然だろう。彼女は。
唯一、手放しにベガを愛した女だ。

「ここ、戻る。応える・・・しろ!!
苦しみ、すごい・・・聞いた。でも!!!

ベガは、神!! アテナ、ちゃんと待つ!!
だから、ここ、戻る!!!」


魂のみで生まれ、いくつもの呪いと重なり合って生まれたベガ。
そう取れば、人の業が産んだ擬似神・・・と言えなくもない。

魂の流れ、輪廻そのものを神のように理解する宗教もある。
無意識の願いそのものの重なり合いをそう呼ぶ宗派もある。
なれば、いくつもの魂を、記憶の断片を、竜の理力で繋ぎ合わせて作ったいびつな魂を。

『神になりゆく魂』

・・・として理解するのは特別ではない。

アテナが村の祭司なり長老なりから聞いた予言の類は、そのあたりを感じたのではないだろうか。

その伴侶となるべく巫女としての修練を積み、神を理解する教育を受けたアテナ。
アカネイア大陸の言葉が不十分なのは痛手ではあったが、彼女は優秀であり、強くあり、何より・・・

ベガを憐れむでなく、嫌悪することもなく・・・

受け入れ、焦がれ、慈しんだ。


「・・・ベガぁっ!!!!!!」


・・・それは、結局は早いか遅いかだったかもしれない。

屍竜の個体数は限られている。

カペラの予測では2~300体だったが、ガーネフは実に666体を用意した。
それでも、泡が弾けて纏まっていくように、数が減れば減るほど、同時に認識できる状景は割合的に増えていく。
そもそも次々倒されていく中、交戦しつつも敗北がない・・・ 相手がとどめを刺そうとしない個体は常ではない。
そして、正面に映るそれを見つけさえすれば、気づくのだ。

ベガは、彼女を知っているのだから。
愛した、のだから。


問題は、そうなる前に、ベガの精神がすりつぶされきってしまう恐れがあったこと。
そこは、賭けでしかなかった。


そして。


{あ・・・ テ、ナ・・・}
「ベガっ!!!!?」

(つながった!!!?

ベガ君! わかる!? 
シルエだけど!)

{あ・・・ }

(わかんなくてもいいや!!
アテナちゃんは判るんでしょ!?)

この際だ。
優先されるのは・・・

勿論、ベガの精神を保つこと、である。

そして、アイルから聞いている、『ベガが精神を保ち続けるために必要な言葉』は。

アイルやデネブなど、その魂を包み込もうとしなかった先達、隣人の、いまさらなおためごかしではない。

最初は崇拝から始まったとはいえ、己の価値観をひっくり返して平然と出来るほどに愛した女からの憐憫や同情でもない。

(正直さあ、ベガ君ていらない子なんだよねー。
アイル君とかデネブちゃんとかカペラんとかからは勿論、なんてゆーか社会に? 人様のアレ的に。
まーあんたの存在自体知ってる人は少ないし、それでもあんたのせいで不幸になった人や死んだ人や、その上泣き寝入りした人もいたわけだし、フツーに害悪だよねえ。
そーやって腐った竜の死体に精神繋がれて、臨受殺体験百連発ってゆーのも正直自業自得ってゆーかぁ、因果応報だと思うなー。

たださー。

アテナちゃんは違うみたいなんだよねー)

{・・・・・・}


ベガは、納得はしていた。
今まで、ただ単に好き放題をしただけのことは多い。
そしてそれは、他人を文字通り踏みつけにして笑っただけのことが殆どだ。
それで好かれるわけも、必要とされる道理もない。


だが。


それをそのまま許したのは、周りの者達だ。

ベガは生まれたての精神だった。自然界の掟は弱肉強食。餓鬼の精神はただの好奇心。
それを人間の価値観に馴染ませようとするなら、それが互いの幸福につながると思うのなら、『叱らねば』ならない。
だが、ベガの強さと、何より存在そのものへの『無責任』さが、ベガの『人としての社会性の成長』のきっかけを与えなかった。ベガの強さを利用するか、何とかして押さえつけるか、そんなことばかりしてきた。

『罪』や『後悔』のことを知ったのは、感じられたのは。
手遅れになった事が山のように積み上がってからだった。

{なんで、俺なんだ}

自分が必要とされないのは納得した。
だが、自分がそんな目にあった必然はどこにあったのか。

なぜ、こんな目にあった。
俺だって、生まれた時はまっさらだった。
呪いの斧から生まれて、暴れ者だったかもしれない。だが、一度だって俺の手を引いたか。俺が脅した時以外の言葉を聞こうとしたか。

俺がそんな振る舞いをしたのは。
『最初にお前らが俺にそうした』からじゃねえのか。
俺は、それしか知ることが出来なかったじゃねえか!!

「ベガっ!!!!!」
{!・・・ アテナ}

こいつは、俺を崇拝した。
けど、俺の歪さを見つけて、それを、いや、それにこそ惹かれてくれた。

それは、こいつが、そう決めたはずだ。

俺がこんなふうにしかなれなかったように。

こいつが与えられたいくつかの思いの中から、選んだはずだ。


俺が死んだら。
こいつの、俺への思いに、応えられる奴は。


ーいなくなるんだ。


{・・・・・・・・・・・・がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!
ふっざっけんじゃねぇぞォオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!}

まさにそれは。

魂の叫び。


望まれたのだろうがそうでなかろうが。
善人だろうが悪人だろうが。
強かろうが弱かろうが。
目立とうが気づかれまいが。

人は他人の都合に揺らされる。振り回される。

社会というのは、人の集まりなのだ。
それだけであるし、それだけではなくなったものであるとも言える。

竜の都合も人の都合も内包出来る社会は築けえたろうか。
それならメディウスはどうしていたか。
ガトーが、孤独が膿んで出来た野心や嫉妬ごと、包み込むことの出来る師であったなら。
ガーネフは他人を慮る魔道士となり得たか。
歪んでいることを嗜める事は、気付き、良心があれば出来るかもしれない。
しかし、矯正まですることは、その身を削らねば、周りの理解がなければ難しかろう。
『ある程度年をくったら、自分の責任だろ、甘えんな』と、曲がりなりにも気づいて努めた人間は言うだろう。
だが、ぬるま湯に浸からされつつ、歪みに気がつけなかった者が、より不幸だったと取ることも出来よう。


結局。

『こうありたい。変わりたい』。


その思いを育てられなければ、人は動く力を保てない。
何と戦っていくことも出来ない。





ならば。



その戦場が、いくら過酷でも、救いがなくても。

取り戻しようのない罪を、反芻させられる未来のために、死を幾百味わう地獄の中でも。



「ベガぁっ・・・・・・!!」

怒りに任せた叫びに、アテナの続く声は喜びに満ちて。
まるで、それでこそ貴方ですと言わんばかりに。


{・・・お前は、まだ俺を待っててくれるんだな}

「違う。帰らない、怖い。だから、呼ぶ・・・
ベガ、消えないように!! アテナ、呼ぶ!!!」


人は、他人のために泣くことはないという。
誰かが死んで泣くのは、その人を失った自分が可哀想で泣くのだと。
ただそう聞くと、人のエゴをただ聞かされたようで、胸が悪くなるかもしれない。
しかし・・・

それだけ『大切なもの』に、誰かの心の中で、なったということ。
失った事がその人を揺らすくらいに、大きくなれたということ。

失う事がその人にとって怖いくらいに、叫んで呼ばなければならないくらいに。

示すことも出来ないくらいに、必要とされるなら。


{このまま、死んで!! たぁまぁるぅくぁあああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!}

「ベガ、ベガ・・・ ベガぁっ!!」


ひとつ、思いついた。

{アテナ、名をくれよ}
「名?」
{俺の『ベガ』っていうのはよ。アルタイルとデネブに連なるって理由で俺が付けた、呼び名ってだけのもんだ。
あいつらにはほとほと愛想が尽きてる。やってらんねーや。元々名前ってのは、貰うもんだって言うじゃねーかよ}

理である。
己で決めることもあろうが、生まれた時にはもらうのが通例であろう。


「・・・アルファルド」
{意味は?}
「孤独なるもの。神の名、相応しい」

なかなか皮肉が効いている。
だが、慈愛やら友愛やらよりは似合っているとは思えた。

「いつまでたっても、孤独なら、私しかいない」

アテナも大概である。歪みきっている。
が。

それはそれで、悪くない。
満たされることはなくても。
飢え続けるからこそ、得るものもあろう。

{呼び名は、アルド・・・ってとこか}
「アルド!!」

まだ、274体との死に付き合わねばならない。
なにせ、接続を切る算段は立っていないのだ。


が、彼の・・・

『アルド』の魂は、いまだ保たれていた。



続く

by おかのん (2014-11-28 23:30) 

ぽ村

>>おかのん
投下乙ん♪
忙しかったんじゃろのうのう・・・久々な気がするわい

アテナと戦うところでちょっとだけ何かあるかなと思っていたけど、救われる方向に行くとは思わなかったわ・・・
てっきりアテナにも否定されてムガーってくるのかと。。。

そして名前が変わった!!
・・・登場回数も限られたヤツがまた知らない連中的にややこしい話になりそうな・・・いや、まさかネームろn(もんがもんが)


>ベガ君ていらない子なんだよねー
U>ω<)ノ シッ!!
野暮なこというんじゃねぇよ姐ぇ・・・・
by ぽ村 (2014-11-29 23:37) 

おかのん

>救われる方向
否定される方も考えたんですけど・・・
アテナってなんか『ブレの少ない』イメージがあるもんで、ここに来てベガ否定って感じじゃなくて。


そして今回、この混乱のグダグダ加減が増します。
どいつもこいつもマッチポンブというか外しまくりというか。


~偽りのアルタイル~

第24章 マムクートの慟哭

その7 いくつかの見落としと、失敗


「ベガ様とコンタクトが取れた!?」
「ええ、とりあえず。愛しのアテナちゃんのおかげで気力は保ってるわ。次の作戦に移りましょ。あたしたちがいても野暮なだけだしィ~」

にへらと笑うエリスを見て、カペラはこれはホントに心配なさそうだと思う。
ベガにはいくら詫びても詫びたりない・・・ というか、詫びようもないほどなのだが、この状況下でいらないと言われるのなら行ってる場合ではない。

カペラが先行偵察から戻ってくる頃には、ベガの問題が一応の決着が付いていたというのは僥倖だった。
結局今すぐに救い出すことは出来ず、ベガには耐えてもらうしかないが、望みはつながった。

とはいえ、救い出すためのハードルは高い。

ベガ自身から遡って接続を切ることが出来そうもない以上、実際にベガの居場所に行って救い出すしかない。
しかし、ガーネフがベガをどこに隠したのかが全くわからないのだ。
かなり広く探索をかけたはずだが、全く手がかりがなかった。

アイルと連絡を取った時に、最悪の可能性が浮かび上がった。

「・・・『レギオン計画』自体が、今持って作動している時点でもしやとは思っていたが・・・」
「? なんですの? アイル様」
「そもそも、屍竜を復活させ、今持って動かしているのはなんだ?」
「『魔力』ですわ。
ガーネフが、『絶対防御の瘴気を纏う』ために、闇のオーブからマフーを作り上げ・・・
しかし代償となる魔力が大きすぎるのと、それを無限に使うためにと開発した『魔導機器』・・・ 
その魔導機器の副次的な利用法として私が作り上げたのですもの」

このことはアイルも知っているはずで、ただの確認だ。
そして、カペラは重大な見落としをしていたことに気づかされる。

「その『魔導機器』・・・
俺が『テーベの塔』ごとぶち壊したはずだよな?」
「!!!!!!!!!!!」

そうだった。
ガーネフの死後にレギオン計画存続の話が出てきたので、同時に考えなかったが、そもそもの魔力源であったはずの魔導機器は既に破壊されている。
魔導機器の補助あって無限に使い続けられる・・・だからこそマフーは脅威だった。そして、魔導機器の破壊によって攻略し、ガーネフを倒した。魔導機器が破壊されたのは間違いがない。

にもかかわらず、レギオン計画は起動した。

そもそも、魔導機器がマフーと同じ魔力源しか持たないのであれば、ガーネフは捨て台詞にその惨劇を確信しないだろう。
つまり。

「今は、『魔導機器』とは別の魔力源を使っている・・・?
でも、何を!?
この大地に張り巡らされた龍脈・・・世界そのものから魔力を吸い上げるあのシステムと同等のモノなんて、そうそうあるわけが・・・」
「・・・・・・
ひとつ、ある。
ガトーの話だと、竜は世界そのものとつながっている、半永久の命を持つ生き物だという。
その世界と繋がる生き物の、闇の王とも言える存在なら・・・」
「!!!!!!!!!!!

じゃ、じゃあ・・・

屍竜の全てが!!!

『暗黒竜メディウス』の、直接の支配を受けている可能性があるということなんですの!?」
「いや、ガーネフがそれをさせることはむしろない。自分で操れなければ意味はないのだからな。
しかし・・・
魔導機器が失われた時の予備的に、そういう仕掛けを作っていたかもしれない。
現に今、竜どもが暴れている・・・『レギオン計画』が発動している事実がある。
メディウスからの垂れ流しの魔力を掠め取っているということかもしれん」

最悪である。

ガーネフの疑心暗鬼がメディウスの復活をおしとどめていたおかげで、未だ若干の猶予があると思っていたが・・・
勿論、復活は目前であるだろうし、ドルーア城内では十全に力が振るえるという。いざ戦うとなれば、苦戦は必至だろう。
しかし今の予想の通りなら、世界そのものに猶予などない。

「暗黒竜メディウスを倒さない限り、屍竜の暴走を止める術はないということじゃありませんの!!!」

メディウスが魔力源であるなら、そういうことになる。
それはとりもなおさず、相手に無限の戦力があるというのに近い。
そして、そもそもの目的である、『ベガを接続から切り離す』というのも・・・

「・・・屍竜自体は、一旦倒せば暫くは復活までに時間がかかるかもしれないが・・・ こちらの消耗の回復よりも早いのは確実だろうな。この混乱に乗じての一点突破という当初の作戦は、結果的に正解だったというわけだ。
だが、さっきも言ったように、この騒ぎは、ガーネフの怨念の残りカスだ。メディウスは薪に使われているだけだろう」
「・・・どういうことですの?」
「だから、『屍竜』は、竜でありながら、メディウスに操られて『いない』んだ。
俺たちにとってはどちらも敵だが、実は『ドルーア軍』にとっても・・・」
「あ」

メディウスの力を使っていながら、ドルーア軍、アカネイア同盟軍の区別が出来ていないのなら。
それは。


 ・


ルギャアアアアアアアッ!!!!


「くっ・・・ なんということだ・・・」


そもそも、ドルーア軍というのは、『寄せ集め』だ。
人を総奴隷化する事を掲げる国家に従うのは、その奴隷の中でも上に立つことができればいいという、傭兵や逃亡兵崩れ。しかもそいつらは、補給や伝令、慰安諸々、補助的な部分が多い。
『戦力』に関する部分は、ほとんど純マムクートなのだ。

で、竜を神と崇めて付き従う者たちは、殆ど場内と主要な砦で防戦している。

つまり。

『屍竜』と戦う羽目になっているのだった。


「イムティータ殿!! こちらも限界です!!」
「っち・・・ やくたたずどもが」

イムティータは砦の主であり、ここで唯一のマムクートだ。

ルギャオオオオオオオオッ!!!!

その身を火竜に変えて、二体の屍竜を交互に相手していた。
そう。
メディウスの力で蠢く屍竜と、メディウスの手足となって戦うマムクート達は・・・
同士討ちをしていた。
その無意味さを知ることもできずに。

これは、ガーネフも予想していなかったことだろう。
いや、自分が支配できない世界など、どうなってもいい、滅びてしまえとでも思っていたのなら、その通りになりつつあるのだろうか。


 ・


現状把握は出来てきてはいたが、それらに関しては打つ手はない。
となれば、当初の予定をこなしていくしかなかった。
結局のところ、メディウスを倒すしかない。
となれば・・・


ほどなく、本隊は地竜神殿に到着した。
先に着いていたカペラとエリスが、露払いと準備をしていた。

「よし、神竜チキの復活を始めるぞ!!」

チキの復活は最優先事項と言えた。

神竜の牙より削り出されたという、神剣ファルシオン。メディウスに通用する数少ない武器の中で、特別に効果のあるといわれる聖剣。
それは、勇者アンリの血を受け継ぐ直系の男児にしか顕現しない、神竜の血が不可欠である。

本人は知らないが、アイルはマルスの遺伝的同位体だ。
だが、神竜の『血』を受けているわけではないので、神剣が本来の力を発揮しないのである。
となると・・・
もう一つの対抗手段、地竜の上位存在である『神竜』の力が、どうしても必要なのだった。

「地脈よ、竜の血のめぐりよ、現し世の魂の輪廻よ・・・
今此度許されよ。逆しまの流れを。因果の回帰を。
望まるる灯火のために、ひいては汝の有り様に。
具申する。現し世よ、意思よ、力よ。

・・・今此度許されよ!!!!」


・・・キィンッ!!!!

祭壇の上に、雲の切れ目から覗いた光が、太陽が降り注ぐ。
それは、オームの杖の効果。
一度使えば砕けちってしまう代わりに、失われた命が、物理法則も倫理も法も無視して復活する。
魂も世界も一つの命とした上で、それさえも超える次元で顕現する奇跡。

地竜の一体でありながら、その大いなる思念と怒り、矜持と慈愛によって暗黒に落ちた、神竜と同等の存在、暗黒竜メディウス。
それを倒しうるたった二つの可能性。
そのうち、アイルが手に出来る唯一の方の『それ』。

チキ。
神竜の娘。


(『あれ』が俺の手に入らないことには、何も始まらん・・・!!!)

そして。
儀式は・・・


 ・



地竜神殿で、チキの復活が行われている頃。
本隊の半分はドルーア城に向かっていた。
戦力の分散は愚策ではあるが、一刻を争うかもしれない事態である。賭けに出るしかなかった。

そして、結論から言えば賭けには勝った。


「馬鹿なっ・・・ 同盟軍がこの時分に現れるだとっ・・・!」

イムティータは満身創痍であった。

やっとのことで屍竜を倒したところだというのに、シューターの石が、丸太のような矢が飛んでくる。
大地は鎧で身を固めた人間どもが埋め尽くしている。
先頭に立つ者は、竜の鱗を貼り付けた剣を手にして。

もうこれは完全に加虐だ。

「メディウス様・・・ 申し訳ありませぬ・・・!!」

イムティータは、その悔恨を続ける時間も与えられず虐殺される。
人間にしてみれば、この十数年の間、世界を荒らしに荒らした化け物だ。容赦もなかった。

が、それを水晶球で見ていたゼムゼル。ドルーア城の城門を守るマムクート老は、当然憤っていた。

「人間め・・・人間どもめ!!
我らは竜だぞ・・・ 大地から加護を受け、翼も体躯も知恵も全て、神より賜って生まれた完全なる種族だぞ!!
他の生き物から少しずつ分かれて、猿の中からいくらか知恵をつけただけのケダモノ共め!! 何故貴様らが我が物顔で蔓延るのだ!!

この大地はすべて我らのものだった…
それをおかしたのはお前たち人間なのだ!

我らこそ!!!
取り戻しただけだ!!

愛する者が死に行き・・・
紡ぐ者が生まれず・・・

人と共に生きようと、その荘厳な体躯と力まで封じたというのに、百年経たぬうちに排斥され追いやられて・・・


なぜだ・・・
なぜなのだ・・・!」

涙を流さぬまま泣いているような苦悶を貼り付けたまま、ゼムゼルは呻く。

ゼムゼルは火竜の本性を顕現させ、城門に構えたが・・・

既に、イムティータと同じように、同盟軍の戦線から石が、丸太のような矢が飛んでくる。
大地は鎧で身を固めた人間どもが埋め尽くしている。
先頭に立つ者は、竜の鱗を貼り付けた剣を手にして。


 ・


地竜神殿での、チキ復活の儀式は。

何も起きなかった。

「どういう・・・ ことだ!?」


祭壇の上に、雲の切れ目から覗いた光が、太陽が降り注いだ筈だ。
それは、オームの杖の効果。
一度使えば砕けちってしまう代わりに、失われた命が、物理法則も倫理も法も無視して復活するという事だった。
既に杖は砕け散っている。
魂も世界も一つの命とした上で、それさえも超える次元で顕現する奇跡。
が、起きていない。

チキの姿は、影も形もない。


失敗した、では済まない。
文字通り最後の希望だったのだ。
神剣ファルシオンを扱える唯一の人間、マルスが行方不明な以上、アイルは神竜チキの力を借りるしか、暗黒竜メディウスを倒す手段がない。
いや、倒せたとしても、かなりの犠牲を出すことになる。それでは、共に屍竜の騒ぎで疲弊しているといっても、まだ余裕がある可能性のある、各地の軍と渡り合えなくなることになる。
それではマルスを取り戻しても、マルスが生きていく場所がない。

「エリスじょ・・・ 姉上!! カペラ!!
これはどういうことだ!?」

「ごめん。解んない」
「皆目見当も。儀式の手順は間違ってないはずですわ」

役に立たない。

「・・・やはり、こうなったか」
「ガトー!! ・・・様」

どうやら説明が聞けそうだった。

「結論から言おう。チキは復活はしとるであろう。
ただしここではなく、異界の狭間に」
「説明がいらずに結論だけで分かる時に、結論から話されると便利だと思うのだが、今回はそうではないな」

ついぼそりと独り言のようにつぶやくアイル。
むしろ説明が欲しい。

「チキは神竜族最後の種である。だからもし死に至った場合、『復活する場所』は、神竜王のそばと決められて、そういう魔法がかかっておったのじゃ。
オームの杖での復活なら、ここに復活するかもしれなかったので、言わずにおったのだが。

そもそも前も少し話したが、竜族はかなり長い寿命を持つ上に、寿命以外で死ぬと、多少時間がかかるが、復活する種族じゃ。我が子を思ってそういう魔法をかけることは少なくない」

つまり、今この場にいないだけ・・・ということか。
しかし、そうなると別の問題が出てくる。

「では、チキに力を貸してもらうには、神竜王ナーガに会いに行って、頼まねばならないと?
それ以前に、神竜王ナーガに会いに行かねばならないが、我々は居場所を知りません・・・」
「そうなるのう。
いや、かの方がおられる場所へは、儂が送ってやろう。それに伴いマルスよ。そなたの部隊の中から精鋭を数名選ぶのじゃ」
「? はあ・・・」
「あの方が居られる世界とは、この大陸とはまったく異なる次元に存在する空間じゃ。
そこにそびえる塔に入り、守り人の試練を乗り越えて、棺をさがすのじゃ」
「棺・・・?」
「そして・・・
かの方の御意を得れば、そなたの運命も開けよう。

メディウスと戦う力を手に入れるために。
急ぐのじゃ、マルス」

ドルーア城を目前にして、アイル達は異空間に行くこととなった。


続く

by おかのん (2014-12-17 23:46) 

ぽ村

>>おかのん

投下おつ~

あれだ
疲れてるのか連日の飲み会で目がやられてるのか、最初の一文が「ベガ様のコンタクトが取れた!?」と、読めてベガ床で右往左往してる姿が出てきた・・・

ガーネフ本人より、本人が無責任にばら撒いたモノが厄介な印象あるのう

そしてああ、そうか、ママンに会いにいかなくてはならんのね・・・
決戦前・・・年度内終了が見えてきた?!
by ぽ村 (2014-12-19 20:10) 

おかのん

>年内
ムリ。
・・・去年の年末にそれゆーてた自分をはっ倒したい気分です。

ああでも『年度』か。(来年3月中)ならなんとか・・・

鬼が笑うか。


>コンタクト
めっちゃ間抜けな絵だあ・・・


>ばら撒いたもの
まあ、「自分が征服できない世界なんぞブッ壊れてまえ」ってな感じですから。
by おかのん (2014-12-19 20:56) 

ぽ村

>>おかのん
ドン( ゚д゚)マイ
ヲレも年内と思ってるものは年度内と言うようにしてるしなぁ
次に「今春」「今夏」「年内」という発売延期ループ

キューブ「ほう」


by ぽ村 (2014-12-21 08:18) 

しゃと

なんとなく延期ループという言葉に引かれてきました。

>発売延期ループ
昔延期に延期を重ねた(当初の予定から約2年)
・・・某エロゲを思い出します。

こちらは楽しませて頂いているので、
「無理せずゆっくりやってください」と願いたい所です。

とはいえ、ぽ村さんの場合は記憶との戦いに近い物があるので一概に言えないのが悩ましいです。
by しゃと (2014-12-22 21:51) 

ぽ村

>>しゃと
オヒサ☆^v(*´Д`)人(´Д`*)v^☆オヒサ

ゲーム作る人はゲームを商品ではなく作品と混同してせいで、スケジュールを平気で破る・・・と、日本一ソフトウェアの元社長が言ってたなぁ
でもスケジュール守ってクソゲーとスケジュール破って良ゲーとどっちが良いかと問われれば・・・
いや、スケジュール破ってクソゲーも多々あるけど(爆)


逆にコチラは読ませてもらってる立場なので、 おかのん には十分練りこんだ後でも・・・と言いたい

・・・いや、ヲレが負担増してるんだろうなという自覚はあるんだけどw;


>一概
♪~(´ε`;)
by ぽ村 (2014-12-23 13:06) 

おかのん

~偽りのアルタイル~

第24章外伝 世界の王

その1 異界の塔へ


異空間にある塔にいるという、神竜王に会いに行かねばならない。
再びチキの力を借りるために。つまりは・・・

復活させた神竜に、戦列に加わってもらうために。

その塔には、神竜王を守護する者達もいるということなので、こちらも兵力が必要・・・
しかも、人数が限られるということなので、神器持ちや、武将と言えるだけの膂力を持ったものを選ぶことになる。

ベガとの対話を続けているアテナは論外だ。
既に可能性は低いが、万一、ベガが屍竜を操れるようになった場合に、鍵になるというのもある。
単体で屍竜を屠れるデネブ、そのお付きにされたエッツェル、空から指示するフレイのチームも連れて行けない。戦局を左右しすぎる。
ジリ貧なのは百も承知だが、だからこそメディウスを倒すまで持ちこたえねばならない。算段がつけば全ての戦力をメディウスに投入することも可能だが、それまでは無理だ。

ダロスとユミル、ベックとジェイクも、地竜神殿から遠い上に、移動に手間がかかり、しかもガトーの魔法でのシューターの移動がしにくいらしい。
どっちにしろ彼らも八面六臂の活躍中だ。抜けられれば痛い。

はっきり言ってメディウスは、化け物というより神だ。六百六十六体の屍竜を、結界から漏れ出た魔力だけでまかなっている。
そもそも、完全復活してないのにガーネフから封印を掛けられている状態だったわけで、にもかかわらずドルーア帝国を立ち上げ、大陸の勢力図をひっくり返している。

(ガーネフと互いに利用し合っていたとしても、な)

ともかく・・・
時間的にも戦局的にも、異空間突入はこの場にいる人員でやるしかない。エリスとカペラ、マリアやノルンが主な戦力となる。

ホルスやロジャー、リフなどは、ニーナの護衛にまわっていてこの場に来るのに時間がかかる。

「・・・ドルーアとの決戦の真っ最中でもある。この部隊でやるしかないだろう」

戦闘が始まる前までは計画的に、いざ始まった後は臨機応変に。
それは戦争では当然のことでもあったが、アイルにすれば多少忸怩たる思いもあった。

(まあ、ガトーが連れ戻しもやってくれるというのだから、そう酷いことにはならないだろうが・・・)

しかし、うまくいかなかった場合の帰還、再編成、再挑戦という時間的損害は痛すぎる。何とか初回でカタをつけたい。

「マルス様、準備が整いました!」

ノルンの声が背中から響く。

「ああ。・・・それではガトー様、よろしくお願いいたします。神竜様のお力添えをもう一度得るために、我らを異界の塔へとお導きを」
「うむ」

キィンッッ!!!!!!!

音叉が砕けるような音と共に、描かれた陣を沿うように光が漏れ始める。
それらがアイルの選んだ勇士と、その勇士達に許された数名の共を包む。

シュウオオオオオオオン・・・・・・


大陸中が大混乱のおりにこそ、一点突破が出来ると踏んでのチキ復活、そのままメディウス強襲という電撃作戦は。
味方勢も大混乱のまま、切り札を探しに異空間入りという、グダグダのジリ貧状態を続ける羽目になっていた。


 ・


「はあ? ・・・チキを探しに異空間に行っただと!?
アイルのやつめ、なんということを!!!」

伝令からすれば、アイルというのがマルスであることもわからない。
困惑する伝令を置き去りに、デネブはフレイの竜に跨る。

「フレイ、地竜神殿に向かえ!
私も異界に行く!!」
「は、はっ!!」

好きに暴れろと言ったのはアイルだ。
実は手鏡で連絡を取ろうとしていたのだが、デネブは戦闘に夢中で気がつかなかったのである。

{待ちなさいデネブ!!
アイルが貴方を残したのは、この戦局を保つためだということくらいわかるでしょう!? 貴方がここを離れてはいけないわ。地竜神殿を繋ぐこの山道を開けてしまえば、本隊の方に屍竜やドルーア軍の主力を呼び込みかねない。貴方はここにいるべきだわ!!}

脳内に響く、シーダの語る至極もっともな説得である。
だが、最もな話に首を縦に振るか横に振るか、それさえも『気分次第』なのがデネブである。

(戦術的にはそうだろう。しかし、それよりも優先すべきことがある)
{・・・何よ}
(チキちゃんに早く会いたい!!)
{・・・・・・}


まるで勇者が世界を救う決意を新たにしたように空を見上げながら高らかに宣言するようなことだろうか。

シーダは急速に心が白けていくのを感じた。
いや、わかってはいたつもりだった。デネブはやりたいことしかやらない。納得しようがしまいが好みで決める。やらなければならないことも、気が向くか向かないかで決める。アルティとかいう女の言うことは表面的には聞くようだが、基本、糸の切れた凧だ。

そんな女が『溺愛している少女に会いたい』と言い出した。
考えなくてもわかる。
止められない。


 ・


数時間後、地竜神殿の入口で小休していたガトーの目の前に、飛竜が着陸する。


「ガトー!!」
「ん? お主は・・・」
「私もチキを迎えに行く。異界へ私を送れ!」

いきなり出てきて命令形である。
さしものガトーも面食らった。

しかし、ガトーはアイルに、デネブに対しての話を聞かされていなかった。
戦局を保つために、彼女には山道間で暴れていてもらわないといけないことを知らなかったのである。

「ふむ、まあいいだろう」

同じ手順を踏んでデネブは異界に送られた。


 ・


南東の砦から、同盟軍を挟撃する役目であったマムクート将、ネイドリック。
先の瞬間までデネブを遠巻きに見ていた老人である。

「なん・・・だ? 退いたというのか?」

屍竜とデネブの戦いを見て、どちらも敵なのだということは判った。むしろ共倒れが望ましい。
だが邪魔だった。
山道のど真ん中で暴れる双方のどちらにも気付かれたくなかったのだ。挟撃に間に合わなかった今、すぐにもドルーア城の援軍に駆けつけたいのだが、この様子では仕方ないと、迂回をすると決めた瞬間だった。

屍竜は消滅したが、その後すぐに到着した伝令の言葉を聞いて、件の聖騎士は西に向かったのである。

「何かあったのか・・・?」

ともかく好機であった。
これでドルーア城にかなり早く到着できる。


・・・そして。

本隊の半分を城の攻略、主力の将を異界に送った地竜神殿駐留部隊が、休息をとって気を抜いてるところを、ネイドリックは通りがかることになるのだった。


 ・


異界の塔内部。

「・・・静か、ですね」
「静かすぎる」

塔の外は底冷えのする寒さであったが、内部は心地よい暖かさであった。
ガトーの話だと、守護者がいるとのことだったので、白兵戦も覚悟していたのだが・・・
結論から言えば、何もなかった。

鎧や武器を霧のようなものが纏い・・・ いや、鎧などを霧が支えているのか・・・ ともかく、人型をした霧が武器を携えているといった『もの』が、所々にある。
有るだけである。
向こうからは一切何もしてこないのだ。

「亡霊兵士・・・の、一種でしょうけど・・・
なぜ何もしてこないのかは、よくわからないです」

マリアも困惑を隠せない。
いきなり襲いかかられるのも困るので、調べるのにも慎重をきしたが、本当に何もしてこないのだ。

「警戒しないでいいよ。上と話はついてるからね」
「!? ・・・何者だ?」

いつの間に現れたのか。
通路を塞ぐ形で、ニーナに少し似た、淑女がいた。

ニーナはどことなく隙があるというか、よく言えば柔和な、悪く言えば詰めの甘さに近い、間の抜けた部分があるが・・・
その女は、よく言えば隙のない意志の強さ、悪し様に言えば可愛げのない、張り詰めたような硬さがあった。
ただ、口調が軽すぎる上に、人を見下したような声色、その淑女然とした出で立ちに合わない態度。肩幅に脚を開いて、腰に手をやり、胸を張ってふんぞり返り、2段しかない段差の上から睨めつけている。
ちぐはぐで色々台無しであった。

「何者だはないだろう。といっても、無理もないけど。
顔で分からなくてもこの態度でわかると思っていたんだけどね。まあ、ガーネフの所にメッセンジャーとして出向いてから、戻っちゃいないんだから、そのまま逃げたとでも思われてれば、覚えてもらってないのもしょうがない」
「・・・チェイニーか」

無論、ここまで言われれば思い出した。
当時一番の懸念だったカペラを、ガーネフと切り離して追い詰めようとして、彼女の裏切りをそれとなく奴に話すように使いに出した男。

「『元の姿』で来ればわかっただろうさ」
「それじゃ面白くない」
「元々ガトーの使いで接触してきたお前が、神竜王ナーガとつながりがあっても疑問には思わないが・・・
その姿はなんだ」

ニーナに似た女性。しかし、チェイニーがニーナに化けたにしては、相違点がありすぎる。

「おや、なんとなくわかるかと思ったけどねえ。
お姫様に似ている程度じゃ、流石にヒントくらいにはなっても、組み上がらないかい?
まあ、わかったら面白いってだけの僕の趣味さ。わからなくって問題ってわけじゃない」
「・・・?」

いまいち要領を得ない話だが、今は先を急ぎたかった。

「『上に話が通っている』ということは、神竜王様は・・・」
「勿論気がついてらっしゃるし、君に会うこと、やぶさかではないようだ。良かったねえ」
「ありがたい、案内してくれ」
「はいはい」

ここで、デネブがいれば。
アイルが、『この女』が誰を模していたのか気がつけば。
結末は、少し変わったのかもしれなかった。


しかし、この場にデネブはおらず。
アイルも『この女』に気がつかず。
共にいたものの中にも、そこに考えを巡らせた者はいなかった。


 ・



「こっちだ。玉座の下に階段がある」

ある、というだけで、チェイニーは何もしようとしない。

「おい」
「はい、調べます」

ノルンを顎で使うのは少々気が引けたが、彼女はレンジャーとしての能力も持っている。というより、部下に『やらせない』のは、それはそれで信頼していないと言っているようなものだ。
形だけでも、そんな風に扱いたくはない。

「・・・罠などは無いようです。この部分を押すと椅子をずらせるようです」
「チェイニー、この先にまで何かあるということはないな?」
「ないね。ていうかここまでだって何もなかったじゃないか。ここの警備はほぼ、キミらの言う『亡霊兵士』がやってる。罠とかも、そいつらの『ウォーム』や『メテオ』とかの、遠距離戦略魔法の類、そして無限にわく亡霊そのものさ。
その主たる神竜王様サマが、わざわざ起きて君らを待ってるというのに、障害が残ってるわけがない」
「・・・まあ、これまでの事実が信用に足るとしといてやる」

下に続く階段。
チェイニーは、そのまま降りだした。
少しくぐるように入れば、後はそれなりの通路が見えた。二度三度と踊り場を経て、構造の目を縫うように下りていく。
神竜王のいる場所というのが、ある程度の広さなら、かなり下のほうになるのではないだろうか。

「・・・しかし、お前・・・
神竜王様というのは、事実上、この大陸の神そのものだな? それにしては、お前の態度が気安い気がするが・・・」
「そりゃ、『僕が彼女に気安い』んじゃなく、『君らが僕に対して不敬』なんだよ。
僕は彼女の遠い親戚・・・ 一族の一人だ。多神教的に捉えるなら僕は君らの『神の一柱』だぜ」

びしり、と、空気が凍る。
確かに、ガトーもその意味ではひと柱であるし、使い走りのようなことをしながらも、友人であると言うことなら。

「まあ、性に合わないから、敬えとか諂(へつら)えとかは言わないけど、親しき仲にもってな侮辱とかほざくなら、天罰下るぜ」
「・・・覚えておこう」

思わず下を向く者がほとんどだったが、アイルは態度を表面上は変えなかった。
自分で『性に合わない』と言っている以上、距離を変えても利益はない。裏で心得ておけば良い。

「・・・?」

しばらく道なりに降りていくと、周りの様子が変わっていく。
ただの通路だった場所が、少しずつ飾り気を帯びてきている。

「柱の要や壁に、竜の意匠や紋章・・・ それも、何か独特な・・・」

アイルはこの系統の文様に、見覚えがあった。
ラーマン神殿である。

「ここも、竜神の縁の場所であるなら当然か」
「そういう事。そして、整ってくればくるほど、彼女が待っている場所が近いということさ」
「・・・・・・」

塔の最深部には、まるでそこに浮いているような、隔絶された空間があった。
空中に浮かんでいるようなかがり火。それをなぞるように伸びる橋。周りは底の見えない奈落があるだけで、その空恐ろしさが、神秘性を加味していた。

祭壇の上にある棺は、どこかの伝説に語られる聖櫃(アーク)のようだった。

(なんだ・・・この輝きは)

アイルは見たことがなかったが、例えればホタルやオーロラのような、幻想的と言える光だった。

そして、御簾のようなレースの向こう側に。
子供を抱いた、淑女の姿があった。


続く

by おかのん (2015-01-12 09:49) 

ぽ村

>>おかのん
新年最初の投下乙♪

(・д・)チッなんだデネヴも向かうのかよアレの居ぬ間にふぁっく決め込むと思っていたのに(何を期待してるしw)

最近ノルンさんの影が薄いような気がしないでもない「序盤のヒロイン」な感じなんだろうか
落としどころの一角のようにも思えるんだけど

>チェイニー
ヲレのプレイで頃しといて良かったと思ったwww

by ぽ村 (2015-01-12 16:04) 

おかのん

>ノルン影薄い
まあそりゃ、AVGのルート分岐は確実にあるキャラでしょうが、物語的には端役にならざるを得ないですし。

>チェイニー
彼の変身能力と傍観者ポジは説明に便利ですの。


~偽りのアルタイル~

第24章外伝 世界の王

その2 神竜王


「ぬしが『アイル』かや」
「・・・っ!? は、い」

(これはっ・・・)

ガトーに聞いたとおりなら、彼女が神竜王だろう。
いや、この・・・ 『チキが成長した姿』としか見えない女性が、それ以外とも思えない。

アイルは、生唾を飲み込んだ。

恐怖でも畏怖でも心酔でもない。
エリスにも通じる、熟れきった体・・・ 自ら手を出すことなく全てが手に入る者の、鍛えられるどころか動かすことも稀な・・・ しかし、満たされきっているせいで、何もかもに渇望のない分、欲望に歪まぬ気品のようなものがそのまま形になったような美貌。
にもかかわらず、退廃的で、妖艶な笑み。混ざり合って溶けてしまいたくなるほどの、脳髄に来る甘く酔い香り。

デネブがエリスを乗っ取ったら、こんな雰囲気だろうか。いや、その先の尖った特徴的な耳と、チキと揃いの髪飾り、そして、爬虫類めいた瞳のぎらつきと、体とは微妙に差異の見える細もては、また違った魅力がある。

要は。


(ええい。最近会う女は、その場で押し倒したくなるにもかかわらず、手を出した時点でこっちが終わるようなのばかりだな!!)


それはともかく。

「ぬしが何者かは、チェイニーのやつめから聞いておる。チキを『可愛がった』ことも」
「あ、う・・・ その、あのような事になってしまった件は、詫びようもなく・・・」
「そのことも含め、チキを『脅しつけた』ことも、な」
「・・・!」

アイルは内心ビクついていた。
何しろ、アイルはチキを利用しつくす気でいた。


(『いや、みんながいなくなるかもなんて、嫌・・・』『・・・でも、戦争も、『みんながいなくなる原因』を無くすためにするんだ』
『うん・・・』

『チキも、お手伝いする!!
チキ、竜さんになれるよ。嫌いな人たち、追い払えるよ!!
そうしたら、いなくなる人はなくせるよね!?』)


自分達を『大事な人』と思わせるために甘やかし、自分たちが死ぬかもと匂わせることで、彼女自身が戦いに参加したいと思わせるよう仕向けた。

・・・その結果、戦争に巻き込まれ、しかもガーネフに殺されるという末路。
申し開きのしようがないどころか、この場で神罰の雷撃を喰らわせられて殺されてもおかしくなかった。

しかも。

(相手は『神』だ)

その事に思い至った。
嘘やハッタリが通じない可能性があった。

神竜『族』であるチェイニーやガトーと違い、神竜『王』である以上、格が違うという確率はあるのだ。


『心が読める』のであっても。
おかしくはない。


その時、アイルは。
自分が恐ろしく無防備なことに気付く。

魔力のない者が、いくら鎧を着ても、体を鍛えても、魔法に対して無力なように。
心を読める相手に相対した詐欺師など、手足をもがれた羊に等しい。


(俺の詐欺が『通じる』のならなんとかなるかもしれない。
しかし、『通じない』可能性を消せないまま嘘は付けん・・・!)

どうする。
どうすればいい。


・・・いや。

もしそうなら、この逡巡さえも、ただ相手の心象を悪くする。


ならば。


「・・・俺は、ただ一人心を許した友のために、世界を救う」


本当のことを、言うしか、ない。


「未だに何がしたいのか判らない魔女に捕まったままのあいつが、戻ってきた時のために。
その魔女が望むままに、俺は・・・この修羅場を、嘘で塗り固めて歩いてきた」


何も隠さず、飾り立てずに、本音を。
飾ればその『飾りたい』という後ろめたささえ、見透かされるかもしれないのなら。


・・・前に出るしか、ない。


「恐怖は、ある。
だが、躊躇えばきっと獲り逃す。指の隙間からこぼれ落ちる。・・・掴み、損ねる。なら」
「「『全てを喰らい尽くしてやるまでだ』!!!!」」
「っ!?」

それは、アイルの思い描いた、叩きつけてやろうとした科白(セリフ)。
この女はそれを、そのまま重ねて吐いてみせた。

(やはり・・・『心が読める』!?)

だが、ならばこそ、取り繕う意味はない。

(コイツをその気にさせない限り、俺にその先など、どうせ、ない!!!)

「神の王である竜よ!!
貴様の望みはなんだ!?
少なくともこのまま、ここで朽ちていく事ではないだろう・・・ いや、先程まではそうだったかもしれん。もう興味など持っていなかったかもしれん!!
『生き物』の枠を超え、世界と繋がってしまっている『神』の、『王』!! 『世界』・・・そのものが、手に入れたいと思うものなど、なかったかもしれん!!

だが・・・


・・・俺は、貴様の。
『対』を、殺す」

神の対・・・
魔王、あるいは邪神。

「貴様の力がなくても、それは、やってみせる」


己の心に、言い聞かせる・・・
いや、奮い立たせ、思い込ませる。

竜の魔力の注がれた武具・・・ メリクル、グラディウス、パルティア。


希望は、ある。


「『それ』にまで興味がないとは言わせんぞ」
「ほう?」
「貴様は、100年前・・・アンリ王に己の牙を削って、ひと振りの剣を授けている。
一度は間違いなく、人に手を貸し、暗黒竜はそのおかげで封印されている。そして・・・
暗黒竜は復活し、今また、俺のようなやつに挑まれている。
100年前よりも、ずっと数奇な運命の末に、だ。

・・・神が何を求めるかなど、推し量れるわけもない。
だが、興味がないわけはないのだ。

俺自身が、例えば俺の未来を知れないように。
神が世界そのものだとしても、世界の未来は神にも知れぬのだとしたら。


もし、アンリの運命を、ひと振りの剣で道を示し、その行く末を見たかったとすれば。


貴様は・・・」
「くはははははははははははははっ!!!!
あはははははははははははははははははっ!!」


その、神の高笑いは。
やはり少し、デネブに似て。


「「『俺に興味はないか?』」」
「・・・・・・っ!?」



分からなかった。
解らなかった。
判らなかった。


今まで言い当てられたセリフは、読み取ろうとすれば、アイルの喋り方のくせ、思考、性格・・・ そんなものから予測をつければつけられるような気もした。
何より、心を読んだり、未来が分かるなら。
『ここまで楽しそう』な笑い方が出来るだろうか。


分かりきったその先に、心を動かせるか?


怖い。
そう思えても。もしかしたら。

賭けるだけの利と、勝算。
けど。

危険材料。


「くふ。確かに、そそるの。
面白い。しかし・・・

それゆえに、アンリとは違う『墜とし方』を思いついたわ。
調子に乗った報いじゃな」
「・・・何?」
「わっちはしたい様にしかせんよ。
それでも『魅せる』つもりなら・・・」

神が。

この『世界』そのものだと言うなら。

崩壊しかけていた・・・のだろうか。

続けられた言葉は。

およそ神々しさのかけらもなく。

いや、むしろ・・・ 世界を巻き込んで、理不尽を撒き散らす荒神そのもののごとく。


業の極みと言えた。




「貴様の連れてきたその女どもと、我が娘、チキの見ている中・・・
わっちと、『契る』のじゃ」



世界が、凍った。


が、アイルは思考の渦の中で、それを引き当てる。

「願ってもない。まさに『母神』そのものと、か。
これでゆくゆくはマルスに世界を任し、俺が父神となるというのも面白いだろうよ。
何より、その美貌、その妖艶、その淫肉。
全て放り出してでも喰らいつく価値がある」


心の中では、警鐘が鳴っていた。
手を出せば、『人』としてのアイルは終わりを告げるだろう。
神との契り・・・竜族やその眷属などではない、真に神そのものであるナーガと交わしてしまえば、アイルは完全に存在の『意味』が変わってしまう。
成人すれば権利や義務が変わるように。
子を成せば親となるように。
死すれば物申せなくなるように。

アイルの価値が、変わる。

それでも。


・・・自分でも不思議なほどに。

恐怖よりも、色欲が勝っている。
押し留めるものがない以上、御せない。

(あの胸を揉みしだきたい。尻に顔を擦り付けたい。股座にあるだろう穴に注ぎ込みたい・・・!!)


今までしてきたことが、助けるべき親友ごと崩壊しかねない。
それでも止まれそうに、ない。


「この上なくそそる」

彼の言葉が、神を艶やかに微笑ませる。


「アイル!?」
「アイル・・・さん」
「お前・・・」

皆の声さえ、遠い。
止まらねば、終わるというのに・・・

・・・だが、助け舟は意外なところから来た。

「ねぇ、チェイニーのおに・・・ おねーちゃん。
ちぎるってなに? パンとか、紙とかのちぎりっこ?」
「うん、めっちゃ違う。
わかんないように言うと、性交渉。
形容すると、いやらしいこと。
具体的に言うと、女の人の裸とかを見て男が興奮するとおちOちんが硬くなる。それを女のおしっこが出るとこのちょっと下あたりの穴に差し込んで、白いドロドロのモノを注ぐことだ。女の穴の中は普段乾いてるが、興奮すると滑りやすくするためのヌルヌルが出るようになるのでちゃんと入るようになってる。
で、まあ、そうすることによって何割かの確率で子供ができる」

箇条書きのような説明で、知識の薄い幼子がどれだけ理解できるかは置いておいても、どんなことかというのはわかったのだろう。
チキの頬はみるみる赤く染まる。

「は、はだか? おとこのこと・・・ ええ? そ、そんなの恥ずかしいよう・・・」
「うん。普通恥ずかしい。それでもラブラブ同士なら、お互いのことを好きで、『そうしたい』気持ちの方が大きいなら、することになっちゃうもんだ。まあそれならいいんだが・・・
君のお母さんはマルスのお兄ちゃんを困らせるためだけに、その恥ずかしいことを、しかもここにいるみーんなの前でやろうとしているわけだ」
「ま、ママ・・・」
「変態さんだねえ。母親の風上にも置けないねええ。神様としてどうなんだろうねえ。これがトラウマになってチキの異性に対する感情とかが歪んだりすると、世界そのものまで歪みかねないんだけど、多分そのへんには思い至ってないんじゃないかなあ。はっきり言うけど馬っ鹿じゃ」
「ええいうるさいわぁああああっ!!
本気なわけないじゃろうがアホウがっ!!
可愛いなりしとる生意気な美少年じゃぞちょっとくらいからかって楽しんでもよかろうがこちとら100年近く寝とったから退屈しとったんじゃバカタレぇぇえええっ!!!」

ノリが『ギリギリのデネブ』である。
しかし、弛緩したような安堵感が流れる中、アイルは別の意味でも胸を撫で下ろした。

(たすかっ、た・・・!!)

この流れでのチェイニーのツッコミを黙認するのは、神竜王にとっては純粋に赤っ恥である。
芸人の性があるのでもなければ、遮るか、そもそもあの品のない冗談を控えるだろう。
つまり・・・

(神竜王といえど、心を読むなどという真似は出来ないという事か)

このままやらかす寸前でもあった。
自分の色欲がここまで怖かったこともない。

ともあれ、啖呵は切った後である。
話の流れはそのまま沿った方がいいだろう。
何より、神といえど女なら、己の魅力に我を忘れた雄が好意的に映らないわけもなかろう。自画自賛になるが、何らかの形で魅力のある雄ならなおのこと。


「戯れだったとは残念だ。
ならば、改めて答えを聞かせていただこうか。

『俺に興味はないか』?

どんな形ででもいい。
あるいは、見届けるだけでも十分だ」

アイルの絶倫加減を知っている女達は、さっきのがただただ本音であったことは判るようで、呆れたような半眼を揃って突きつけてくるが、気にしている場合でない。
どうせこいつらも、かき混ぜて欲しくて、注ぎ込んで欲しいばかりの牝豚どもだ。
見下すつもりなどない。それは結局、生き物である証明なのだから。
『社会』を成す上で、混乱を引き起こさないために、諍いの元である『子を成す上での種としての上下』を付けること、複数の関係を持つこと。それは・・・
生命のメカニズムとしては、正解とは言えない。
事実、文化が違えば、つまり環境からくる経験則から積み上がる、価値観のベースが違えば・・・
一夫多妻、女尊男卑、同性愛、婚前交渉・・・
その持つ意味、美しさや価値観までも違うのだから。

だが。

「くふ。
よかろう。貴様も背負うがいい。
神の血を」

この事は、むしろこの場で契るというより、アイルの『意味』を変えてしまった。


神竜王は、指をひと噛みし、唇に紅をさすように己の血を塗りつけると・・・
アイルに覆いかぶさるように口を吸った。

それは。

(・・・・・・!!!)


唾液とともに、血がアイルの口に入り、アイルの『存在』のあり方を『物理的』に『書き換えた』。
『英雄王アンリ』と同じように。
竜の牙より削り出す、『神剣ファルシオン』を扱えるという意味では、アイルはマルスよりも『マルス王子』となってしまったのだ。


「・・・私を失望させるなよ?」


そう微笑んだ彼女の瞳に映った、遅れて到着したデネブの顔を。

アイルは、見ていない。


続く。

by おかのん (2015-01-28 13:52) 

ぽ村

>>おかのん
投下乙
そして今確信したアイルの思考が行動に移してないだけで、古参エロゲー「ランス」主人公と変わらん下半身脳になってることを・・・

チェイニー、ドサクサに紛れて子供の作り方とかレクチャーしてたら大変良かったのに(これも性的虐待?っつか、妙な話だよな・・・)

>書き換え
ん?
をいそれは・・・えっと
ひょっとしたら本人よりm(以下先ネタっぽいので割愛)
by ぽ村 (2015-01-29 14:01) 

おかのん

>チェイニー、ドサクサに紛れて子供の作り方とかレクチャー
してます。

>下半身脳
男の子ですから。
ていうかベガの前半の淫魔ぶりで薄くなりがちですが、アイルが手出した人数も大概ですし。

by おかのん (2015-01-30 23:01) 

ぽ村

>>おかのん
>つくりかた
ちゃうちゃう、そこで興奮すると子宮が降りてきて(中略)精子と卵子が合体して着床(後略)
という詳しい仕組みを教えて、純情さが如何に無駄なものかということを幼女・・・

と、途中まで考えたところで「インチキ中世らしき世界でそこまでシステマチックに理解してるか」ってのと「文章量的にどうよ」とか「チキの理解能力」とか色んな問題が湧いてきてダメだなと思った
すまん・・・


>下半身脳
エロゲーを引き合いに出して不快だったら申し訳ない
たしかにアイルターンでも色々やってござるなぁ・・・
by ぽ村 (2015-02-01 00:11) 

おかのん

~偽りのアルタイル~

第24章外伝 世界の王

その3 奪う理由、守る理由


世界の王、神竜王とアイルの接吻。
そこにいた者は誰もが、目を離せずにいた。

だから、気がつかなかった。
ニーナ似の女に化けたチェイニーも。
すぐ隣にいたチキも。

十数段の下、遅れて到着したデネブ。
気がついたのは、神竜王ナギくらいだったろうか。

(・・・・・・っ!!!)

デネブは、ブーツの音を消すようにその場を離れた。
その動揺を、隠したまま。

彼女が目にしたそれは、デネブにとって、『ダメ押し』だった。
アイルを切り捨てる決意。絶てずにいた最後の糸。

それが間違いだとデネブが理解するのは。
その事実を、知るのは。
知ることになるのは。



全て終わった後のことになる。



 ・



(アルティ・・・!!!)

デネブは、勿論アイルと神竜王のキスにも動揺した。
だが、アイルは基本女好きだ。
自分も貞淑な女だなどとは思っていないし、そこに価値を見るほど初心でもない。

問題は、そう。

(なぜ奴が体を持ってここにいる!?

いや・・・それより。
もしアレが本当に『アルテミス』なら。
『今すぐにでも始められる』ということじゃないか!!)


デネブは、間の悪いことに。
チェイニーが悪ふざけで化けた『ニーナ似の女』のことを、これ以上ないほど知っていた。

彼女こそ、アンリと結ばれることなく、炎の紋章の定めに従った・・・
アカネイア史上、初代に次ぐ認知度、そして悲劇の戯曲のヒロイン、『アルテミス姫』だ。


加えて言うまでもなく。
『マルス』をさらい、監禁している、黒幕。
デネブの首輪の先を握っている、主人。
『アルティ』の名で何度も話に上った女。

デネブが、自分自身のために。
いずれ殺すはずの、『共犯者』。

(落ち着け・・・ いくらなんでも、すぐには始まらん。
『マルス』は奴が持っている。『アンリ』はそもそも奴の目的だ。しかし・・・

私の方にも切り札がないわけではないぞ)

アイルが『魂のオーブ』と『死のオーブ』を持っている事。
・・・というか、『まだ魂が必要な量まで集まっていない』事だ。
これが満たされるまで、儀式は行えない。
この場にアルテミスが居ようが居まいが、前提が満たされていない。
・・・勿論、この大戦争の最中だ。
アイルはアイルでそこそこ集めた可能性はあるし、ここから集めきる可能性はある。タイミングは見計らわねばならないだろう。

(ここさえ見誤らなければ、出来るはずだ。
何より・・・

私がとうにアルテミスを『見限っている』事を、奴は知らん。享楽的で、手綱を取りづらい手駒であると思われていても、敵であるという認識は、アルテミスには無いはずだ)

アルテミスがどうやってか受肉したというのなら、殺せばいい。

(・・・いや、それは惜しいか)

奪えば、いい。

・・・そもそも、アルテミスにとっては、彼の『鋳型』が必要だった分、条件が厳しい・・・それだけだ。
デネブは自分で入る分には、誰でもいい。
ただ、デネブの方にも条件がある。

『入り込める』のは、生きた人間だけ。
『殺せる』のは、器を共有していない『他人』だけ。
そして、魂のみを取り出し殺す方法などない。
つまり『完全に体を乗っ取る』事は出来ないのだ。
生きていなければ入れない。つまり死体には入り込めない。そして入ってしまえば、邪魔な本来の魂を殺すことはデネブには出来ない。
そんな術はガーネフさえ生み出していない。

唯一それが可能な『死のオーブ』は・・・
とある呪いがあって、デネブは使うわけにはいかないのだ。

いずれそれはアイルにやらせるつもりであったが・・・

(アイルが向こうに取り込まれたかもしれない以上、もう使えない。ならば・・・)

もう、リスクは背負えない。危険すぎる。
なら。


(全部殺す方向で行くしか、ないか・・・)



・・・別に、それでもいいはずだった。
デネブが『生き続ける』だけなら、あいつらは『いらない』。
そうする理由・・・殺す理由がないから、放っておいただけだ。なぜそうしていたのかも、デネブ自身わからないままに。
既にリスクは跳ね上がり、十分な理由は出来た。
機を見て、やればいい。
・・・それだけで、いい。

元々、魂の相性などがあるとはいえ、基本他人の体に入り込んで生き続けられるデネブは、焦る必要はないのだ。
うまくいかなくても、いい。
次の機会を待てばいい。
もし、うまくいかずに、死んだとしても・・・
ああ、そうかと思うだけだろう。


だから。


(アルティを、殺す。
アイルが使えるようなら、瀕死のアルティに入り込んだ後、『死のオーブ』で、あの女の魂を奪う形にしたかったが・・・)


もう、いい。
今回は、あの女を殺すだけにしよう。
それでとりあえず、自由になれる。

手に入れる気にならなかっただけの、自由を手に入れて。
自由に。



 ・



血を紅にした接吻の味。
猫か蛇のような切れ長の瞳に見据えられながらの舌の味は、甘やかさが欠片もない。
しかしその分、震えるような刺激があった。

どくん。

アイルの心臓が、跳ね上がった。

どっぐっ・・・どっぐっ・・・どっぐっ・・・どっぐっ・・・どっぐっ・・・

鼓動を、感じる。
どんどん、早くなる。
こめかみと首の後ろから聞こえてくる、走った直後のような血管のリズム。それはどんどん早くなっていくのに、体はどんどん熱くなっていくのに・・・

それが、普通になっていく。


急速に。


「ふ・・・く。くかかっ・・・ かは・・・ふははははははははっ・・・・・・!!

なるほどこれが・・・『竜の血』か」
「ふん、さすがはアンリの息子の複製よな。
さして抵抗もなく適合しよった。

さて・・・ぬしの『混血変異(メディエ・ギフト)』はどんなものかな?」
「メディ・・・なんだと?」

聞きなれない言葉である。

「お主らには身近でないことじゃろうな・・・
いや、そもそも『こんなことが起こる』のは、わっちでさえ知らなんだからの。
『調停を終えた者への贈り物』という意味かな。
わっちとメディウス、ガトーくらいしか知らんような、わっちの造語じゃしな」
「贈り物・・・?」
「近縁種族の交配による雑種は、知らんでもなかろう? ライアードやギープ等じゃな。
イノブタやアヒルなど、品種改良ならもっと容易かろう。

さて・・・ わっちら『竜族』は、自然界的に言えば異端すぎる。
大地そのものと同化し、復活する。
『魔法』という、法則を意志で操る力。
あまりに長い寿命と変身能力。
物理法則を無視した体躯と安定性、飛行能力、深淵なる知識・・・

中でも実は異常なのが、親和性の高い『血』じゃ。
『飲む事で遺伝情報を書き換えられてしまう血』などというのは、どんな生物も持ち合わせてはおらぬ」

確かにそうである。
『近親種交配』による『混血種』ならともかく、『竜族の血を飲むこと』で、しかも次世代ではなく取り入れた者がそのまま体組織変化をみとめて、だ。

「しかしの、例えばグリーンシースラッグという生き物がおる。
 ウミウシじゃが、こいつは年月をかけて藻から細胞器官と遺伝子を盗む。そしてそれによって光合成を行い、主要な栄養源とする。
『他の生き物の能力を奪う』『自分の体を作り変えて新しい能力を得る』ことは、出来るという事じゃ」
「・・・っ!?

まさか・・・」
「そのまさかよ。
わっちら竜の血は、『他の生き物の能力を奪う』『自分の体を作り変えて新しい能力を得る』触媒となっている。
『なぜそうなのか』までは全くわからんがな」
「な・・・んだとっ・・・!!」

無茶苦茶な話だった。
だが。

「疑うか?しかしぬしよ、『今まさに実感して』おるじゃろ?
お前の体が変化していくのを感じておるじゃろ?
ゆうとくがの、レナとやらとか・・・ そこにいるマリア、カペラもそうじゃな、『竜石術士』といったかの?
ぬしらも本質的に一緒じゃ。
『竜の血を飲み込む』代わりに、『竜の血で作った宝石を体に埋め込んでいる』だけじゃ」

これは興味深い話だった。

「・・・・・・成る程。
そもそも『竜の血』は、異生命体との親和性がある程度あるものなのですわね。
他の実験に比べて進みが早いとは思っていました。そのおかげで私とガーネフの共同研究程度の規模で、かなり実用化が早かったわけですし」

(つまり、アンリも大きな意味で『竜石術士』であった、もしくはレナやカペラ、マリアも、『勇者アンリ』と同質の存在であるといえるのか)

竜石が『竜の力を封じたもの』であることは周知であるが、まさかほぼ血の塊とは。
勿論ただの血の珠ではなく、力を引き出すために魔法で加工、調整してあるものなのだろうが。

「まあ、資質のあるなしや、魔力の込め方もある。
竜石の加工が必要なように、ただマムクートの生き血を飲んだところで、『混血変異(メディエ・ギフト)』が起こるわけではないがの。

さて・・・

ぬしら、竜石を体に埋め込んで適合した時、それぞれ能力が備わったのを知っとるじゃろう」

たしかにそうである。
マリアはケタ外れの魔法力を手にしている。
他にも例えば、レナはそれまでとは比べ物にならない膂力と防御力を。

「おぬしにも顕現するはずじゃ。
『これこそが力だ』とその時思っていたものが、膨れ上がるようにお主の物となる」

(俺が・・・最も『確か』だと思っている『力』・・・ということか)

『個の英雄』と呼ばれた、勇者アンリ。
一人で氷竜神殿までの道を切り開いた男は、その身体のみを頼り、そしてここで神剣ファルシオンを授かった時・・・
やはり『身体能力』を格段に向上させたのだろう。

それはそれで成功例であるし、一つの答えなのだろうが、状況が違う。
暗黒竜メディウスが相手なのは変わらないが、アイルはそもそも身体能力は並の達人といったところだ。一軍を率いるのに恥ずかしくない程度の技量はあるつもりだが、デネブやミネルバ、フレイと比べれば足元にも及ばないだろう。アンリとでは比較対象にするのもおこがましい。

だが。
アイル自身、よくわからなかった。

(俺が最も欲している『力』・・・
いったい、なんだろうか)

比べるべくもないと思っているからこそ、同等以上の力を欲するというのもあるかもしれない。何しろ、自分で一軍率いれたら、どうとでも出来た場面というのも確かにあった。
『勇者アンリの子孫』という虚像が、人心を動かしたことも少なくない。その意味では、自分にカリスマがあればと思ったことは一度や二度ではない。
時空を超える・・・瞬間移動や時間跳躍が出来れば、世界のあり方さえ変えてしまえる可能性もある。だがこれは無理があるだろう。いくらなんでも、神竜の力を超えるような『混血変異』など起こるまい。

「まあ、前例はあまりにも少ない。なので、『今すぐ力が授かる』と決まったわけでもない。
メディウスとの戦は真っ最中なのじゃろ?
ぬしの口車に乗ってやるわい。奴のところまで案内せい」
「・・・それもそうか。
ではまず、ここから出るとしよう」
「チキもいくー!!」

置いていく理由はない。

「面白そうだ。僕もついて行くよ。まあ、そこの女王様と違って、協力する気はさらさらないけどね」

いつの間にか、見覚えのある青年の姿に戻っていたチェイニーは、なかなか勝手なことをほざいていた。
アイルは気にしたふうもなく、ガトーに帰還の合図を送る。

アイルを中心に、光の筋が円を描き、支点を結んでいくつもの模様が浮かぶ。
一定の法則を持った波と点が綴る模様・・・ 古代語が輝き、込められた意味がそのまま魔力と混ざり合い、力となって空間を捻じ曲げ、繋げる。

「おおそうじゃ、わっちの血を取り込んだ以上、使えるじゃろう、持っていけ」

そう言うと、神竜王は、八重歯を引っこ抜いた。
それはすぐに腕ほどの長さの牙と変わり、さらに収束するようにして光とともに変化し・・・

ひと振りの、剣となった。

「こっ・・・ これはまさか、『神剣ファルシオン』!?」
「くふ。アンリにやった物とは多少違うがな。
アンリの身体能力に合わせた、いわゆる『一本目』と比べると、軽い。その分威力もない。が・・・
扱いやすく、メディウスに特別効くのも、決して折れぬのも変わらぬよ」
「・・・・・・」

これでアイルは、神竜の姫と女王の協力、さらに二本目とはいえ本物の神剣を手に入れた。

「・・・・・・っ」

実は動揺したのはカペラだった。
使えないのなら封印するべきだとファルシオンを隠したが、アイルが使えるようになった以上意味がない。新しく手に入れてしまっては、本物の方まで意味がなくなる。

そして。
それは本物の『マルス』にとっても言えることだった。

『ファルシオンの唯一の使い手』である事は、マルス自身の存在理由の一つだった。
『本物』の強みだった。

『マルス』を復活させる理由だった。

だが。
今それがなくなった。

少なくとも、マルスがいなければメディウスが倒せないという事態は回避されてしまっている。


(俺は・・・)


アイルの胸中に、抗いがたい思いがよぎる。

・・・もし、このままマルスが戻ってこなければ、という事。

マルスを『助けない』。
それだけで、アイルは世界を手に入れることとなるのだ。
簡単に勝てるとは言わないが、メディウスを倒すことは、これで不可能ではなくなった。それこそ、アイルのその手で倒すことが出来よう。

ならば、本当の英雄は誰だ?

何より、その後マルスを取り戻せたとして、アイルはどうなるか。
マルスに全てを渡してしまって、その後は?

『マルスにとって、俺は、この戦いのすべての裏側を知る者として、いや・・・
《マルスが英雄でなかった》事の生き証人として、煩わしい存在にならないか?』

マルス自身は、アイルを信じるかもしれない。
しかし、世界の王たる者に近づくつもりで擦り寄ってきていた、マケドニアの姫達その他から見れば、弱みを握られている、にもかかわらず利用価値のない男、だ。
本物のマルスの側近となる者にとっては、アイルの存在は、火種を抱えた火薬庫に等しい。

(・・・考えるな。
俺はマルスを助け出すと誓ったはずだろう)

あの短い過去が、値するだろうか。

(価値はある)

これから王として世を動かし、数多の宝物と美女達との逢瀬を、追っ手に怯えながら暮らす永遠と取り替えても?

(黙れ!!)

自らを罵倒しても声はやまない。
あらゆる意味で全てを失ってでもそうする理由は?

(あいつは俺の全てだった!!!!)

今は?
あの時全てだったからといって、今手に入るだろうものと等価値か?


マルスの肉親は、もうエリスしかいない。

(あの女さえ、どうにかすれば・・・)


いや。
どうにかする必要も、ない。

(マルスを助け出したところで・・・
あいつが欲する者は、何だ?

王の地位か? 数多の宝物か? 美女の群れか?)


違う。


民草の平穏、大陸の平和、愛する者達との日々。
そんなもののはずだ。

そんな・・・


(俺ならどうとでも作ってやれるようなものだ)


片田舎の、しかし豊かな場所に。
エリスやシーダと住めるような家の一つも作って。
この戦のどさくさに、その二人も死んだことにして。


そもそも・・・

(国を食い物にしようとする貴族ども、税を納めずに騒ぐ屑ども、権謀術数の蔓延る王宮で、立ち回れるだけの才がマルスにあるか?)

無いとは言わない。
だが、それを目にするたび、あいつは心を痛め、悩むだろう。

(なら、それから開放してやろう。
俺は、きっと誰よりそれが出来る)

この最低の戦乱さえも乗り切ろうとしている、自分なら。


ー少なくとも。


『人の世界』にとって、マルスが居なければならない理由は・・・

既に、無い。


(くく。くくくくくく)


マルスの代わりに、平和を取り戻し。
安らかな日常と幸福な世界を維持する。
マルスに代わって。
マルスを守るために。



・・・そんな自分への言い訳を並べ立てて、アイルは平静を保つ。

マルスが大切であるというのは、嘘ではない。


だが、マルスどころか、勇者アンリとさえ対等以上の立場を手に入れた今となっては・・・


ただ失うには。
手にしたものが、多すぎた。


続く
by おかのん (2015-02-11 12:54) 

ぽ村

>>おかのん
投下乙

・・・ですよねー
活躍度ゼロの本物より、大活躍中の偽者が本物に変化しますよねーw
むしろココまで心変わりしなかったのを褒めてやるべきか

デネさんなんかありそうね
土壇場で

んーチキのことを後回しにすればその後の運命が大きく変わったような気がする今回


>ナマコ
そんなナマコが・・・他の生物食わせたらどうなるんだろう・・・ガクガク(((n;‘Д‘))ηナンダカコワイワァ
by ぽ村 (2015-02-11 15:36) 

おかのん

>大活躍中の偽者が本物に
まあアイルはマルスを助け出すつもりではいるんですけどね。
その後どうするかに迷いが出てきました。

>チキ後回し
いや・・・ ファルシオンを使えないアイルは、神竜であるチキに倒してもらうしかメディウスに対抗する手段ないですし。
ファルシオンが手元にあれば、『マルスいないとメディウス倒せんしー』とかいって先にマルス復活させてしまう話にも持ってけただろうけど、手に入れられなかったし。

まあそれでもこの話の中では、どの道異界にいかないといけない流れになるエピソードがあったりしますが。
(ネタバレになるので言いませんが)

>デネさん
・・・まあここでフェードアウトさせるような位置のキャラではないですし。
ややっこしー事をやらかす予定です。

>ナマコ
ウミウシは腹足目(ふくそくもく)、後鰓亜綱(こうさいあこう)、裸鰓目(らさいもく)。
巻貝などの仲間ですが、殻はほとんど退化しています。
一方ナマコは棘皮動物門ナマコ綱に分類されます。
ウニ・ヒトデなどと同じ仲間です。

見た目はともかく違うんだそうで。

しかし『食べることで遺伝情報を取り込む生物』!!
錬金術師系のダークファンタジーとかでめっちゃ出てきそうな胸熱ドキワクな感じですな!!
・・・ウミウシでなければ(´・ω・`)

by おかのん (2015-02-11 23:31) 

ぽ村

>>おかのん
ココで対メディウスはパルティア縛りとか出てきたら結構拷問なんだろうか
少なくとも文章表現的には面白く無さそうだなw

>ダークファンタジー
チミもヲレも思ってて言わないワードを言っておこうか・・・
キメラアント?
あっちは「取り込み」というよりは「産み」だけどマジでいたら恐怖生物だよな・・・
by ぽ村 (2015-02-12 18:42) 

おかのん

~偽りのアルタイル~

終章 欺かれし者たち

その1 竜脈結界


アイル達が地竜神殿への帰還を果たした時。

剣戟と爆発音、鬨の声と怒号、そして、血の海だった。

「・・・なんだこれは」
「大混乱じゃな」

見ればわかる。
駐留部隊は、主だった将(要するに異界の塔潜入組)を欠いた直後に、戦闘に巻き込まれたのだ。
具体的には、ネイドリック率いる精鋭を相手どることになったのである。


(異界の塔への突入前の状況下で、『距離的に』今ここにいる可能性のある部隊は、一つしかなかったはずだ・・・!)

つまり、敵は、デネブのいなくなった街道を制圧してきた。
『あれ』がやられるはずもない。
ほっぽり出して逃げやがったのである。

「デネブーーーーっ!!」

叫んでみたところで、聞こえやしないだろうし反省もしないだろう。
僅かにだけ気を晴らし、頭を切り替える。
状況を立て直さなければ。

「ノルン、石壁の防備にあたっている兵のフォローにまわれ!! 細かい部分は任せる!!
姉上、神殿の敷地外で展開している部隊があったら、救援が来た事と神殿内に戻ることをふれて回ってくれ! ・・・救援は実際にはいない? 戻ってくる他の部隊を勝手にそう認識する!!
マリア、敵部隊のど真ん中にエルファイアーをありったけ打ち下ろせ!! とにかく、『戦況に変化が起きた』事を実感させねば、流れが変わらん!!!」

『勝っているから士気が上がる』、のは当然である。
だが実際は、『士気が高い方が勝つ』という事は往々にしてある。
『背水の陣』の例に習うように、死力をつくす兵が、大部隊を相手に大立ち回りを見せることもあるのだ。

戦場を劇的な演出で、味方に都合よく混乱させる・・・
アイルはその知恵を持ち、それを可能にする、一芸に秀でる手駒というのを揃えていた。

ダメ押しと行こう。
隣のヘビ女を見やる。

「・・・ここで神竜が出てきて、霧のブレスでも噴いてくれれば、これ以上この美しい神殿が崩れることもないんだがな」
「ふむ、主も上手いな」

クオオオオオオオオオオー・・・ン

乗せられてみせた神竜王が姿を見せた時点で、精鋭であったはずの部隊は、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

その矮小な心根と裏腹に、肥大した自尊と体格を持つ髭面の壮年は、それを呆然と見た。

「ば、馬鹿な・・・ め、メディウス様ぁぁあああああっ!!!!
・・・うがあああああっ!?」

流れ弾のマリアのエルファイアーで腕を焦がし、うずくまった所に、絶対零度の霧が吹き付けられる。
地竜神殿を取り返し、メディウスの右腕となる未来を数分前まで見ていたネイドリック将軍は、神竜の吐息を受けて、原子レベルで粉になった。



 ・



そして。

その瞬間だった。


神竜王の髪が、逆立たんばかりに揺らめく。

「・・・あやつめ・・・」

彼女が振り向いた先のドルーア城を、皆揃って見やった。

「どうした!?」
「あ、あれはっ・・・!?」

大地が、揺れる。
魔竜の呻きであると言われれば信じたろう。
そもメディウスは地竜族である。

地響きと共に、ドルーア城が。
渦巻く闇に、覆い尽くされた。

「!?」

城規模での大きさを、闇の霧が覆うというのは、非現実感がすごかった。
まるで山がいきなりその場に現れたようだ。
そのあたりの丘のような山ではない。霊峰クラスの大山だ。まさに『魔法』である。

「メディウスじゃろう。
おそらく、最後の手段であろうさ。流石と言うてやらねばいかんかな。
・・・さての。これで大分悪うなったぞ。『マルス』。どうする?」

そう言われても、あの闇の球体が、どれだけ急を要するかもわからない。とてつもない魔法だと分かるだけで、こちらにどれだけ脅威なのかつかめない。

「・・・まず状況を分かる限りで説明してもらえないか。自分でやれというなら是非もないが」
「ふむ、まあええじゃろ。
城を包んだ闇の霧・・・ 名付けるなら『竜脈結界』といったところか。しかも術式は闇黒。あれは瘴気の塊じゃ。お主らにわかりやすく言うてやると、あの中では『マフー』が無限に渦巻いとる」
「はあ!?」

とてもわかりやすく、そして最悪過ぎた。

「『竜脈』というのは、『世界の力の通り道』だと思っておけ。
実は『魔力』と同義語じゃがな。
元々魔法というのは、『竜』が自分を『世界』と繋がることで扱う『ブレス』を、変換したものじゃ。
それをいろいろ応用を利かせて人間も扱えるようにした、ガトーの・・・ まあ、趣味みたいなものよ」
「能のある魔道士の中には、『魔力は、自分が世界と一つになったような万能感をもたらす』という者がいるが・・・
待て。
つまりあれは、『世界そのものの力を汲み上げて』いる・・・ ならば持続時間は、無限に近いのでは!?」

さらに最悪があった。

「いや、さすがに、水が消え木々が枯れ大気が失われ、太陽より降り注ぐ死の光が和らぐことなく降り注ぎ、命という命が死に絶える頃には弱まるじゃろ。
なにせ世界の力が枯れれば、魔力源がなくなるからな」
「・・・・・・」

もう開いた口が塞がらない。

「まあ流石にそんな状態になるまで放っておきはせんじゃろうが・・・ 多分その前に暗黒竜として復活するつもりじゃろう。
既に伝説となっておる、わっちと真に対なる存在・・・
『ロプトウス』となって、な」
「ロプトウス・・・」

暗黒竜の名なのだろう。

「確認するとしよう。
ドルーア城をおおった闇の霧は、放っておけば世界を枯らす最悪の結界で、中は無限に吹き荒れるマフーに等しい。
その被害もさることながら、メディウスはこちらが手を出せないでいるうちに、あの中で貴方と同等の存在として復活しようとしている、と」

まとめてみると本当にどうしようもない。
結局マフーを打ち破ったことのないアイルにしてみれば、無力感だけでもひどい。

「うむ。しかも惰眠を貪っとったわっちと違い、じっくり貯めこんだ闇の力で膨れ上がってな。
完全に復活すれば、間違いなくこの神竜王をくびり殺せる『邪竜神』となろう。
わっちら神竜は世界最強で間違いないが、それも条件が同じなら、じゃ。結局、それ以上の力を何とかして溜め込めば、わっちらに勝つのは簡単じゃ。
しかも一手の攻撃力だけはわっちらが譲らんかったのに、『魔法』なる技術をうまく取り込んで、ひけの取らん攻撃をしてくるじゃろうの」

ガーネフにしろメディウス本人にしろ、魔導師でもある。寝過ごして来たのはここにいる巫女神だけだ。
この数百年『研鑽』をしたかどうかは重くのしかかる。

(・・・神の王が絶対でない、ときたか)

世も末である。

つまるところ。

(手が出せない状況なのにもかかわらず、手をこまねいている暇はないというわけか!!)

アイルの知らない話だが、実はこの結界は発動条件があった。
ドルーアの将達が持つ紋章があり、これはメディウスが持たせたものであった。これらは竜脈を通してつながっており、持ち主が死ぬと壊れるようになっていた。
全員が死ぬとそれを合図として、竜脈結界を発動するようにしてあったのである。

つまり、ネイドリックの死が起動の最後の鍵だったのだ。

必要以上の死を大陸にもたらすのは、実はメディウスの本意ではなかった。
この結界が発動したということは、メディウスはある意味追い詰められているのだ。


その事実とは逆しまに、アイルの胸中にじわりと焦燥感が広がり続ける。

(ここに来てこれはどうすればいいのか・・・)

そうでなくても、ベガの方は捨て置くわけにいかない。
あいつは今でも繰り返し訪れる死と戦っている。
アテナを支えに。

「まあ慌てるでない。
つまりこれはあやつも相当に追い詰められとるということじゃ。
奴はあれで、世界を滅ぼす気はないはずじゃからの」
「しかし、期待に添えず悪いが、あの闇の霧がマフーと同等のものなら、即打てるという手はない」

そこは認めるしかなかった。
マフーに対する方策は、対ガーネフの場合は供給源を絶つ形だった。
それを突き詰めた結果、それ以外の方法を模索する余裕はなかったのだ。
つまり今回の、結果的に『手遅れになるまでは無限供給』状態のマフーをどうにか出来る具体案はない。

「お主らは、な。
しかし、わっちの『気まぐれ』の範疇で助けることは出来ん事もないのでな」

そう言うと、神竜王は、尻尾を掴んで手元に持ってきた。
その先から鱗を一枚ピッとはがす。

「わっちは奴と同等以上の存在じゃからな。当然竜脈の支配も出来る。
つまり同じ供給源を使って、結界破りができるのじゃ。
そしてその中和結界、同等のものを、この鱗を中心として張ることが出来る」
「その鱗を持っている者に限り、貴方と一緒にあの結界内に入れるということか!!」

中に入れるとなれば、やりようはあるかもしれない。

「ただし、大勢に渡せばその分範囲が小さく弱くなる。
鱗はいくらかやっても良いが、はいれて20人にならんじゃろうな」
「20人以下!?」
「はいれて、じゃぞ」

となると連れて行くのは、マリアやカペラ、フレイのような、まさに一騎当千の者達ということになる。

「・・・もう一つ聞きたい」
「言うてみい」
「あなたがいなければ、この時点で詰んでいた。
異空間で俺がしたことといえば、結局貴方を挑発しただけだ。
・・・ここまでしてくれるのは、なぜだ?」

神竜王は、少し顎を引いて、切なげな微笑みを見せた。
上目使いの瞳の先には、アイルがうつっている。

「メディウスのことはよく知っておるよ。わしらの世話をいろいろ焼いとったからの。
面倒見のいいやつじゃった。
わっちがこの大陸、この世界に興味をなくし、中つ国・・・異次元に身を隠すことにしてからも、『もう少し人間を導きたい』と、マムクートとなった同族と、人間との橋渡しをしておったはずじゃ。

・・・ま、その結果がこれじゃがな」

先祖の蒔いた種である。
人によるマムクートの迫害がメディウスを暗黒竜にした。
言葉がない。

「しかし、わっちはそもそも興味をなくしておった。
同族が迫害されとるといっても、非が全く竜族になかったわけでもない。実質弱くなっとるのに神様気分の奴や、ただの危険な獣になっとった老害も少なくなかった。
正直、人間が力をつけて竜族を滅ぼすのも、何か方策を見つけて竜族が再び支配するも、わっちの中では等価値じゃったよ。

・・・その考えとは違う所でわっちを動かしたのは、あの阿呆じゃ」

アイルはピンときた。

「アンリ王か」
「その通り。
奇しくもお主の言ったとおり、久々に『興味』を持たせてくれたのはあの男よ。

そしてわっちの気まぐれが、結果的にメディウスを100年閉じ込めた一要素になったわけじゃが・・・

わっちはただ滅びゆくしかないモノになど興味はない。
わっち自身も含めて、じゃ。

だがな。

幼いチキの問いに、アンリは答えた」


『おにいたんは、なにがしたくてここにきたお?』

『僕には、好きな女の人がいるんだ。王女様なんだ。
でも、その人の国は滅びかけているんだ。悪い竜に襲われてね。
ここには竜の神様がいるって聞いた。その人に私はどうすればいいか相談に来たんだ』


神竜王の心を動かしたのは、アンリと。
それに心を動かされた、『チキ』。

子の望みが、子の糧になるように。
それは世に膿んだ女がそれでも無くしていなかった、母としての・・・


「チキはキラキラとした目で見ておった。

当然かもしれんな。アンリは『本物』を運んできた。

わっちやガトー、チェイニーが戯れに聴かせる寝物語。
英雄譚、浪漫譚、喜劇に悲劇。
氷漬けの石壁の中、食って寝るだけの日々からすれば、なんの現実感もない物語。

それが、アンリが来た事で『現実』味を帯びた。


のう、アイル。

チキは、お前との事をいろんな思いで捉えておったよ。

騙された部分があったことに気がついて怒りもすれば、自分の愚かさに恥じ入った部分もあった。
アンリと似た、いや殊更に非なる点も、あふれる思いのままに話しておったよ。
死ぬ目にまであって、『嫌い』になったか? もう奴のそばは嫌か? そう聞いたらな。

不思議そうに、首を振ったよ。『そんなわけないじゃない、なんでそれがわからないのママ?』と、顔にでかでかと書いてな。

チキが面白がっている。
それは、わっちに出来んかった事じゃ。
してやれんかった事じゃ。

そしてな。


わっちもアンリと関わって以来、いや、あの時よりずっと。


心が疼いておるのよ。


もう終盤というのがいささか残念ではあるが、せいぜい・・・


わっちを失望させんようにな」


(・・・成る程)

ようは、『面白そうだから』か。
となれば、応えねばならない。

エチュード(即興劇)に成らざるを得ないが、それはそれで面白い。
ケレン味たっぷりに、仰々しく、いかにも芝居がかった終幕を。


「・・・万全を期すなら、候補のものが全員揃ったところで・・・ それまでに偵察をある程度行い、作戦を立ててから、といきたいが」
「内部構造は私がある程度わかります。5分で書き写すので、複製を作ってくださいな」
「言うとくがの、時間があるとは言えんぞ?
数年かけて準備してきたあやつが、『勝てると踏んだ状態で復活』した時点で終わるんじゃからな?」

カペラと神竜王が、それぞれ急かす。

「やりましょう、『マルス』様。不本意なのはわかりますが、賭けに出なければならない状況です」
「私が鱗を何枚か預かって、後から来た候補の人に渡しておくわ。誰を入れるか教えておいて」

ノルンが発破をかけ、エリスが後詰めを申し出る。

(作戦を立てている最中に復活されては笑い話にもならんか)

元々、出たとこ勝負は不得意というわけでもない。
それに。

(カペラの持ち込んだ手鏡は、4枚・・・
状況が変わっても、連絡を取り合うことは出来る)

四小隊は作れる。遊撃でいいならもう少し。

どうせ戦場は生き物だ。
変わってしまった状況に合わせる手段があるのなら、思考の瞬発力の方が大事だ。

この場にいる主だったものだけで、目的の確認をする。
同時に見取り図の複製をそれぞれ手にし・・・

そして。

(・・・やっておくか)


アイルは、『マルス』として、岩の上に乗って、『アカネイア同盟軍』を見下ろした。

王が皆の前に姿を見せる。
それは、運命の変わる瞬間である。
いつだってその後、世界が変わった。
それは勝とうが負けようが、である。

「・・・最後の最後まで、俺の軍団は慌ただしいな・・・」

最後、という言葉に、皆不安気な顔を見せる。
アイルは、それを見透かしたようにニヤリと笑う。

今度は皆の目が、期待に輝く。

そう、見透かしたようにニヤリと笑う時には、『マルス』はいつもその不安を吹き飛ばすような言葉を聞かせてくれた。
騎士団には小奇麗な、傭兵には野性味たっぷりの、傲慢とも言えるほどの言葉。
恨みつらみがありながらも、勝てるのか不安になるようなやつらに、『奴らの横っ面を殴りつけておかねば、この先眠れなくなるぞ』と。
『あそこにいるのは、俺達が助けたくても助けられなかった、姫や妻や恋人や娘や母や親友と同じ、誰かを待ち続けている守るべきものと同じ幼子だ』と、マリアを助けに行ったこともあった。敵国の姫を救いに行くのに、あれほど心が震えるとは思わなかった。


これ以上ない不敵な笑いで、『マルス』は叫ぶ。


「残念だったなお前ら!!
もうここまで暴れる機会は未来永劫こんぞ!!
俺の帝国が出来てしまうと、騎士の仕事は野盗退治くらいしかない!!
後詰の傭兵共、儲け仕事がなくなっても、野盗にはなるなよ。死ぬだけ損だからな!!!
せいぜい真面目に生きるか、酒場で潰れてそのままくたばれ。英雄の片割れの気分で、夢見心地のまま、翌朝ドルーアの敗残兵と一緒に焼かれて灰になれ!!!」


一瞬時間が止まったように静まり。


ー大爆笑が起きた。


そうだ。戦に出る以上、いや、生きている以上、死はすぐそばにある。
それまでにやれることをやりきってしまいたい。手に入れられるだけのものを手にして、楽しみつくすのだ。
消えてしまう前に何かを残し、そうでなくても燃え尽きて、最悪でも足を踏み出したまま。

「俺と将のいくらか、その他勇者達は、神竜王の令をうけ、ドルーア城に魔竜退治にゆく!
貴様らは凱旋と祝勝会の準備でもしておけ!!」

そして最後の戦いに行く者達は。
紛れもなく英雄だ。
アカネイア同盟軍は、城に潜む魔王を倒しに行く勇者一行を見送る。


最後の決戦が、始まる。



 ・



闇の中。
深淵という言葉さえも表しきれぬ程の闇の中。

遠見の水晶を通して、アカネイア同盟軍の様子が見える。

「く・・・くくくっ。
ふははははははははははっ・・・

『紛いもの』どもが。

いや・・・
それは儂もか。

暗黒竜とは、そもそも『闇』と『魔』を司る竜。
いくら近しくとも、地竜である儂は『ロプトウス』足り得まい。

だが。
『アイル』とやらよ。
『マルス』の紛いものよ。
・・・貴様は、マルスさえも出来なかったろう事をやっている。
気付いてなどおらぬだろうが、の」

赤黒い眼光、爬虫類特有の瞳孔。
禿頭と重厚な声、何より・・・

その存在感。

「貴様は数多の優秀な従騎士、統率力高き王族、才ある魔道士などでなく・・・ 埋没しそうな素材、クセのある無頼者、運命が指し示さぬものをかき集めて、この戦を戦ってきた。
そしてそれは、本来のさだめなら命を落としていたはずの者達を救い、巻き込まれるはずもなかったものが代わりに死んだりもした。

運命は、世界は。
容易くは変わらぬ。
だが。
因果の糸が束ねられている所では。
あまりに大きく変わってしまうこともある。

『アイル』よ。
『マルス』の紛いものよ。

『運命の紡ぎ車』に、わずかながらに触れられる儂や神竜王しか気づかぬことがある。

もう既に『糸』は絡まり、引きちぎれかけている。

本来であれば、儂はこの後、『マルス』に封印されるはずだった。
そして2年の後、復活するはずなのだ。

儂はそれこそが『正念場』であると考えていた。
なぜなら、数年前の星見では、そこから先の結果が出なかったからだ。
『見えぬ未来』は、確定のしようがない分岐の証。
その瞬間までに、因果の糸を手繰り寄せた者達が何を成してきたかで、大きく結果が変わるのだ。

しかし、今。
ほんの、一年前から。

『数分先から後の未来が見えぬ』。


・・・竜の星見は、世界への接続。世界そのものに自我を持っていかれぬために、頻繁に行うことなどできぬもの。

それが『数分先がわからぬ』では、役に立たぬ。

狂った運命の中心にいたのは、貴様じゃ。


くく、くくくくく」


長い独白。
それは、確認だ。

ー己への。

今なら、変わると。


「『今』だ。 『今』なのだ!!
運命が変わりえる瞬間は!!!!

お前が因果を狂わせに狂わせたおかげで、ガーネフは逸り、カミュは惑い、ミシェイルは墜ちた!!!
本来よりも多くの犠牲を出させて!!
世界は必要以上の、そう、本来起こるべき戦より遥かに規模の大きな戦争によって『変化』した!!
順に落ち、取り返されてゆくだけだった領土に、蛮勇共が向かったせいで、内乱、蜂起、混乱が後を絶たなかった!!
しまいには、獣に成り下がった火竜を放つぐらいしかなかったはずの、このドルーア領決戦で、あろうことかアカネイア大陸全土で屍竜の復活騒ぎ!!!
ここまでの『運命崩壊』は、ありえぬ程の確率の先のものだ!!!

感謝するぞ、『アイル』よ。
おかげで、『魂の通り道』たる、竜脈の活性と乱れは近年稀に見るものとなり、わしの復活にかかる時間は大幅に短縮された!!
本物の『マルス』が来る場合ならば、儂の復活は到底間に合わなかった。ファルシオンやチキがあらずとも、打倒される可能性すらあった因果だった。
貴様が運命を引っ掻き回したおかげで!!
今、五分にまでになっておる!!」


そう。

神竜王の懸念は的を得すぎていたのだ。


本来の運命なら、二年先延ばしになるはずの、災厄の訪れが。
他ならぬアイルの関わりによって、この瞬間になっていたのだ。
アイルがしてきた『戦火の拡大』は、デネブの目的であった以上に・・・

メディウスに、力を与える結果となっていたのだ。

「『紛いもの』は『本物』になることはなかろう。
だが、『偽物が本物を超える』ことなど、珍しくもない。
『英雄』の紛いものにして、『真の奸雄』よ。
恐怖せよ。

『闇竜ロプトウス』の紛いもの、『暗黒竜メディウス』が。
まもなく。

神をも!!! 『世界』をも超える力を手にするぞ!!」



その刹那が。

迫る。


続く

by おかのん (2015-03-04 16:16) 

ぽ村

>>おかのん
投下乙

まずギョッとしたのが「終章」の文字だな
幾多の試練(意味深)を乗り越えてココまで来たか


>4つ
思い出したぜアレには苦労した
せめて数字でもマップに振っててくれよと

>二年後に復活
・・・ということはこの終盤は紋章の謎編と合作な感じになるわけか
まさしく「異聞」ですな


>なんでそれがわからないのママ?
チキって考えてみたら母親と随分口調が違うなぁ
養育係の爺さんが教え込んだんだろうか

>俺の帝国
なんだろう・・・すっごい地雷を撒いてしまった気がするんだが・・・
考えすぎ?
by ぽ村 (2015-03-04 18:52) 

おかのん

>終章
ついにですな・・・
物語的にはクライマックスなんですが、ゲーム的にはこの時点で強くなりすぎてて消化試合なんですよね・・・
メディウスをいかにラスボスとして盛り立てるかが課題。

>4つ
・・・この『両方が愚策』をおかしている流れをどうするかを本当に苦労した・・・
うまく処理できてるといいんですが。

>2年後の復活先取り、合作
>俺の帝国
(ΦωΦ)フフフ…
章題にある『欺かれし者たち』がいったい誰を指しているのか。
二転三転させるつもりですので楽しみに。
(自分でハードルを上げる馬鹿(⁰︻⁰) ☝)

>チキの口調
母親はほぼ冬眠状態の『たまにいるお姉ちゃん状態』が長かったので、この子供らしい口調は『絵本にいる《友達(同い年くらいの女の子主人公)》』あたりを真似たものかと思われ。
by おかのん (2015-03-05 20:25) 

ぽ村

>>おかのん
>欺かれし
キーマンはきっとで・・・・何でもないんだからね!

>口調
物語以前、話には出てこない人間の女の子と旅の途中で仲良くなり・・・というパターンを妄想した
by ぽ村 (2015-03-06 11:34) 

おかのん

~偽りのアルタイル~

終章 欺かれし者たち

その2 ドルーア城潜入



ドルーア領内各地で戦っていた同盟軍の諸将達は、ドルーア城付近に召集され、パーティーを組み次第突入する形をとった。

非効率ではあったが、中の様子を探りつつ戦い、後方に情報を伝えていく。

「・・・最初にアイルが入る事はなかったんじゃないの?
罠とかあった時のことを考えたら、一番最後か・・・
ファルシオンの事があるから、最終的にはいないといけないけど、それならチキちゃんをメンバーに入れないのは変だと思うな」

ノルンの疑問は最もである。
アイルも、考えなかったわけではない。

「だが、最前線にいないと見えない状況というものもある。
今回は野戦や城攻めとは違う。むしろダンジョン探索に近い。後ろで全体を見るより、後方部隊を効率よく動かすために、この場の空気のようなものを感じつつ考えたい。
それに・・・ ノルンの狩人兵(レンジャー)的能力があれば、そうそう罠には引っかからないだろう。マリア姫の魔力探知、分析、解除能力と回復杖術があれば、その他の部分もフォローできる」
「・・・まあ、確かにね」

ノルンは、嬉しさを隠せないような、しかし隠そうとしてぎこちない・・・ そんな顔になってしまう。
ノルンとしては、てっきりアイルの補佐をするものだと思っていた。後方で小隊を指揮する彼のサポート・・・それが理想でもあった。
しかし、4小隊の中で一番に潜入する役になった。
しかも、アイルと一緒に。

「・・・・・・」

ノルンは正直、能力を頼りにされているという意味でも、アイルの同行メンバーに選ばれたことについても、かなり舞い上がっていた。
確かにダンジョン探索となれば、ノルンの能力の重要性は高い。敵はそれ以上の力を持ってあたればいいが、罠は気がついた時には手遅れなことが多い。元々その目的で仕掛けるのだから、自然、それを回避する察知力の高さは、必要不可欠だった。

それだけにマリアの存在が内心疎ましいが、彼女もノルンにない能力・・・ 魔法関係や回復を補う意味で必要なのも理解していた。

そんな考えを読んではいるのだろう。

「頼りにしてるよ。ノルン姉ちゃん」
「え、ええ。任しておいて」

子供の頃のままの笑顔でそう言われると、どうしても姉役の保護欲が疼く。
肌を重ねたこともあれば、今の笑顔を計算づくでやっている事も判っているのに、それでも・・・
思い出してしまうのだ。フルーツパウンドの端っこを。

「チキを城に入れないのは、神竜王への遠慮みたいなものだ。本人が協力してくれる上で、娘を危険にはさらせない。一度チキを殺してしまっているという後ろめたさも含めてな」

ちなみに神竜王は、ほぼ同時に城に入ったが、別行動である。
協力者ではあるが、部下ではない。

(さて、吉と出るかしら凶と出るかしら・・・)

遊軍を含める戦いは、計画性に欠ける。
それでも、圧倒的な味方が存在するかどうかは大きい。


 ・


その頃。
世界中の屍竜の数は、五十体を切っていた。
それは、ベガの耐えねばならぬ死の絶望が、後五十を切ったということだ。
世界中に散らばる勇者や賢者、兵達。そしてそれらを支える人々の力によって、大陸は『未曾有の危機』を脱しかけていた。

しかし。

{アテ・・・ナ}
「アルド、そこにもいる!?
今から、竜殺す。耐えれるか!?」
{ああ・・・ そいつを倒せば、ドルーア領内の屍竜はほぼいなくなる。後は大陸の方だ、そっちは今はどうしようもない}

アルド。ついさっきアテナがベガに送った名だ。
二人しか知らない、本当の名前。

エリスがつなげた『回線』は、エリスがここを離れたあとも『ベガと繋がった屍竜』とアテナをつなげられるようにしてあった。
この砦より出てきた屍竜は、今目の前にいるので最後のようだった。

ベガは『死の絶望』の中でも、アテナとまともな会話を出来るようになっていた。
同時に、屍竜を僅かに支配できるようだった。
もともとそう敏捷でもないが、屍竜の動きがさらに鈍ったのである。

{・・・数が減れば、こっちからも集中しやすい・・・ こいつはここで・・・留めておけるだろう。
それよりアテナ、お前もドルーア城に向かえや。
ドルーア領内で屍竜がまだ残ってるのは・・・ もう城の中だけだ}

ベガを救うには、竜とベガの魂の接続を切らねばならない。
アテナはとにかく屍竜を倒し続けることで、断線させるしかなかったのだが・・・

{繋がってる竜の数が減ってきて、俺の意識にも・・・ 余裕が、出てきた。
それで分かったんだが・・・ どうやら、俺は『竜の中』にいる}
「竜の・・・中。 アルド、竜の中!?」
{ああ・・・ ドルーア城にいる火竜の一体。その雌竜の腹の中みてえだ。
今まで気がつかなかったが、感じたこともねえ程の闇の気配が、すぐそばにあるんだ。つまりこりゃあ・・・ メディウスだろ?}
「! 納得! きっとそう! メディウスの側にいる火竜、アルド腹の中に入れた雌竜!!
すぐ向かう!! アルド、救出!!」
{・・・頼むぜ。・・・ああそれと、アルドってのは、二人だけの時にしようぜ}
「わかった。二人の、秘密の名」

沈み込む屍竜をその場に残し、アテナは駆ける。
その途中、別の隊の騎馬を譲り受けて、ドルーア城に最速で向かった。


 ・



ギリギリギ・・・

カシュっ!!!!

シューターが転移弾を放つ。
幾度も苦しめられた、黒い魔法陣に弾が吸い込まれ、そして消える。

手鏡の向こうから、レンガの崩れる音と、アイルの褒め言葉が聞こえ、フレイの顔がほころぶ。声色には出さず、次の指示を求め、最後に御意、と結ぶ。

「ジェイク殿、空間転移弾(スターゲイザー)、西棟の三階部分に。そこにウォームを操る司祭がいるそうです」
「あいよ」

アンナから貰った空間転移弾、スターゲイザーは、ことごとく奇襲の役に立った。
なにせ空間を超えての遠距離攻撃が出来るのだ。
城内ということと、命中精度のことから、野戦時より最大飛距離が落ちるが、遮蔽物を一切無視しての長距離射撃。カペラに渡された地図とアイルの指示があれば、まさに八面六臂の活躍となった。

今は連絡役だが、フレイも竜騎士としてこの小隊の隊長的役割だ。
一癖も二癖もあるこのメンツをまとめるのは大変であるが。

「特に指示がないんなら先に進まない?
城中の安全地帯を先んじて確保しておくのも、『マルス様』様の助けになるでしょうよ」
「うむ、常道である。進言感謝する、ウルスタ殿」
「・・・ふん」
「すまねえ、ウルスタもおいらも田舎者なんで、『れいせつ』ちゅうもんがもう一つ苦手だ。気を悪くしねえでくんろ」
「いや、一隊を率いる将同士、一応のまとめ役として私が先導しているが、格は変わらぬ。
忌憚ない意見はありがたく思う」

そう言った後、きちんとウルスタに視線を送るあたり、フレイもそつがない。アイルのする事をきちんと見て、自分のものにしているのだ。
ユミルも見た目はただの蛮族だが、むしろその見た目故に、彼なりの礼節を持っていた。
礼さえ尽くせば外見を問題にしない人物はいる。そのような人物は大抵人格者だ。彼らに良い印象を持ってもらうことのメリットは、普通の人間より深く感じるだろう。結果的にそれは、礼を尽くし怠らないことに自然となり、ユミルやウルスタの立場を確かなものにしていた。

「ところで私、なんでアーチャーの格好なの?
そりゃあマケドニアの時みたいに、いつまでも籠で担がれてるのもどうかと思ったから軍服をくれとは言ったけど・・・」
「ほっほっほ。嫌がることもないでしょう。よく似合っておられる」
「生臭坊主の視線が我慢ならないから言ってるのよ」

フレイ、ジェイクときてユミルとウルスタ、最後のメンバーはリフだった。
アーチャー用のミニスカートからのぞく生足にチラチラと視線をやっている。
これで司祭の仕事はきちんとやっているのだから、ウルスタにとっては余計ウザったい。
ちなみに服の提供はノルンだ。
村娘の格好のままでは嫌だと、服について相談した。
ノルンに言えば、一番調達しやすいのは弓兵装備なのだから、この格好は流れとして当然なのだが。

「ウルスタ、綺麗だから見たいと思うだ。減るもんでもねえじゃねえべか?」
「あんたもか・・・ ユミル、減るのよ色々と。精神的なものがガリガリ削れていくのよ」
「予備のマントです、レディ。腰に巻いてお使いください」

フレイが布切れを渡す。

「ありがとう。・・・ユミル、これが嗜みというものよ」
「・・・以後、気をつけるべさ」

閉鎖された田舎暮らしの中、特有の嫌な目にあってきたウルスタには、貴族的なものへの憧れがある。

フレイに言わせれば、宮廷に渦巻く権謀術数の方が嫌悪感があるが、年頃の娘がどんな部分に夢を見ているかくらいは感じてとっていた。

(それでも)

希望を持って戦いに臨む、間接的にとはいえその力がある。
そんな少女に、フレイは損得抜きの好感を持っているのも確かだった。

ウルスタの相棒であるユミルはこの後、サンダーソードを持つ達人を力でねじ伏せた。
しかし、その間合いをキッチリ測って指示を出したのは、ウルスタだった。

北西からの侵入経路は、危なげもなく確保されていった。



 ・



「残る招待状は3枚、か」

エリス姫が独りごちる。
招待状とは言わずもがな、神竜王の鱗のことだ。
一小隊を3~5人として、アイルは5枚を要求した。
何枚でもいいと言われたが、十枚もいらないだろう。あまり多く言って余らせでもすれば、失礼な上に無能を晒すようなものだ。
どのみち、アイル率いる同盟軍には、冒険者として一流の人材は少ない。ダンジョン化したドルーア城への潜入メンバーとしては、4組で十分。
万一遅れてくるジョーカーでもいたなら、そいつ用に予備として一枚というところだ。

「エリス様、ニーナ様をお連れしている本隊が到着しました」
「ありがと。
・・・『マルス』。ということよ」

手鏡の向こうのアイルは、周りを少し警戒しつつ頷いた。

「ならば、こちらの手駒はほぼ揃った筈ですね、姉上?」
「そうね、リフのお爺ちゃんみたいに、部隊を分けざるを得なかった人とかが先に着いてたりとか、ユミルとウルスタみたいに囮になったままこっちに逃げてきたりとかで、編成が思ってたものと違ってるけど・・・
それでもそこそこ均整の取れた隊が組めると思う。
とりあえず、貴方が『ここに来れる』と踏んだメンバーは揃ったわ」

ホルス将軍。黒魔術師エッツェルと、勇者ダロス。
馬弓騎士ロジャー、シューターベック。
そして、エリス姫。

(・・・あの二人は、無理か・・・)

アイルは、異界の塔にデネブが来ていたことを知らない。
知っていたところで、今は連絡が取れなかった。
アテナも、ベガの正気を保たせるために呼びかける役目がある。いくら命じたところで、こちらに合流するはずもないと踏んでいた。

「姉上とエッツェル殿は回復役として別の隊に。後は姉上の感覚に任せます」
「ホルス将軍とエッツェルは譲れないわ」
「・・・なんでまた」
「イケメン貴族じゃないと嫌」
「・・・・・・まあいいでしょう。回復は薬でも持たせればいい。どうせ残りはタフな奴らだ」

ロジャーとダロス、ベック。
いずれも生き残ることにかけては気にする必要がない。勝手に生き残るタイプばかりだ。

「じゃ、行きましょっか」

そう言って残りの二隊が潜入しようとした時。

「エリス、待つ。
私も、ドルーア城、用ある!!」

そこには。

竜殺しの英雄として、この暗黒戦争で名を馳せた異国の剣士、アテナがいた。


続く

by おかのん (2015-03-20 12:32) 

ぽ村

>>おかのん
投下乙

むしろ最終決戦より戦後処理の方が本番と思える本作だけどw
決着の時はだんだん近づいてきてるね

>一番最後
ほんとうだよもう!
大将ってのは一番後ろででーんと構えてて・・・って、コレもアイルの戦後を睨んだ賭けというか、行動なのかね
ニーナあたりに「もしもの時は後を頼みます」とか言っていたら敵は居なくなるでしょw


>リフ
前半に比べると随分明るいエロ爺になりまいたこと・・・
by ぽ村 (2015-03-21 14:39) 

おかのん

>戦後処理が本番
まあ、それに関しても、ねえ。もごもご。

>リフ
見直してみたら登場シーンすらいい加減だった。
某所に投稿するなら書き直すべきか・・・
覗きをネタに脅される哀れな爺さんだったもんなあ・・・
でもデネブがあんま怒んなかったから調子に乗ったのかも。



さて続き~


~偽りのアルタイル~

終章 欺かれし者たち


その3 最後の火竜



闇の中。

とてもとても深い闇の中。

空気が淀み、湿気がこもり。

全てが死に絶える、深く深く深い場所。


ー深淵。 そして混沌。

そこからこそ命が生まれ、育まれる、大地そのもの。
死と、再生の香。

「ふ・・・ふははははははははは」

まだだ。まだ満ちてはいない。
しかし、それは器に満ちていないだけの話。
溜池に水が満ちずとも、盃一杯の水が自由になるのなら、虫けらの巣に流し込んで殺すのは容易い。

この世界を闇で満たし、魔力と瘴気渦巻く死の世界に変えることは出来なくても。
今ある力で、人間の軍隊に負けるなどということは間違ってもない。


たとえ、神竜の牙から削り出した剣を持つ勇者がいたとしても。
かつての主である、神であり王である姫巫女が己を抹殺せんと乗り込んで来ていても。


メディウスはここまでを自ら望んだわけではない。
とある魔導士の欲望の切り札として利用されていただけだ。
だが最終的にその魔導士は消えた。
力を膨れ上がらせた己だけが残った。


そう。
これは人が招いたこと。


その魔導士が分不相応な野望なぞ持たなければ・・・と思うかもしれない。
しかし、その魔導士が満たされていたのならばそんな望みも生まれなかった。


運命であったとは言わない。
それでもこれは。

人が招いたこと。


「わしの眠りをさまたげたおろかな人間どもよ。

地獄の炎に焼かれて苦しみながら死ぬがよい!」


そう言うと、メディウスは地竜へと姿を変えた。
地下の祭場の玉座は形ばかりそこにある。
儀式の間をその身だけで満たすような竜は。
いくつもの因縁がここに集まるその時を待っていた。


 ・


北東と西からはほぼ同時に二隊が潜入した。

まずはある意味本隊ともいえる、北東よりの部隊である。

「エリス殿、こちらですか?」
「ええ、距離だけで行けば、私たちが一番早いかもね。この図だと」
「その分、敵多い。ホルス、警戒」
「御意」

リーダー的役割のエリスがマルスの姉という立場から、どちらかというと護衛的なメンバーが揃う。
そもそも選んだのはエリスではあるが。
最適であったのはフレイだが、前述のとおりアイルはまとめ役と特攻能力の方を取った。リーダーとして選ばれたのでは、フレイも同行のしようがない。
礼節では申し分のないホルス、裏表もなく単体の攻撃力では最大級のアテナ。アテナは到着が遅れたのもこちらに回った理由の一つだが、バランスとしてはよかったかもしれない。

見取り図は正確だった。
罠も多かったが、そこは心配なかった。

「外法だが、ウォームを使ってみた。これで調べる限り、罠はもうないな」

戻ってきたエッツェルが告げる。
流れ者としての魔術も練ってあるエッツェルは、狩猟兵(レンジャー)としても能力を持っていた。
ちなみにウォームは、大量の虫を操る魔法である。
汚らわしい魔法とされ、扱いも難しいが、虫同士の命令順守手順の構築さえうまく出来れば、偵察用の応用も出来る。

「そう。なら進みましょう。
こちらのお姫様も、出来れば一番乗りと行きたいでしょうしね。
いえ、今回は囚われの姫はベガ君の方だったっけ?」
「ベガ、雌竜の腹の中。
助け出す。
各地の屍竜も、それで多分消える」

中枢であるベガが機構から外れれば、魔力供給と支配が解けるだろう。
それでとりあえず大陸滅亡の危機は遠ざかるはずだった。

「同時に突入した傭兵達はどうしていますかね」
「ああ、あの不細工連合ね」
「エリス、真実は時に残酷。告げるべきでないこと、ある。
優しい嘘、時に必要。
逃げる事、生き物として当然。恥違う。
心を壊す、人、生きられない」
「・・・あのねアテナちゃん。過剰な哀れみというのも、時として侮辱より辛辣よ。
なにせ笑い飛ばす余地がないから」
「・・・貴殿らは鬼女だ」
「言い得て妙だね。人としては美しすぎる」

彼女らの会話は収集がつかなくなっていた。
勿論、着実に先に進みながら、だが。


 ・


「・・・ふぇっくし!!
ふむ、未だ出会えぬ運命の人が、それでも俺の何かを手繰り寄せた兆しかな?」
「下らない事言ってないで引っ張ってくださいよロジャーさん。土埃が入っただけですよどうせ」
「・・・ベックの旦那よう。急ぐんならあんたも自分で押しなよ。自分のシューターじゃねえか」
「嫌ですよ。僕自身じゃあんたら二人の1/30にもならない腕力なのに、ここで疲れきったら肝心のシューターの命中精度が落ちるでしょう」
「俺たちの体力がここで削られるのもあまり良い方策とは言えないと思うんだが」

馬弓騎士のロジャーは、ある意味ブレない男だった。
満たされることのない性欲が答えを導くわけもないと誰もに思われながら、何一つ変わる気配がない。
そんなロジャーと組まされたベックは、時折依頼される位置への『転移弾』の発射をこなしながら、悪態を返しつつ移動していた。
ただしベックもベックで、ダロスにシューターを任せて自分で引こうとしないという暴君ぶりである。
根がお人好しなダロスは口だけで文句を言うが、それでも言われた事はこなしてしまっていた。


と。


ズッ……ゥゥウウウン。

「な」

んだ? と続けるまもなく。


ルギャァァアアアアアアアアッ!!!


「りゅ、竜だっ!!!!」

長い回廊のすぐ隣の壁が崩壊し、部屋の中が露わになる。
そこは、闘技場かと見まごう、とてつもなく広い空間だった。
城の中にこんな空間を作る意味がわからない。
兵を城中に入れることは勿論あるが、班、小隊、中隊、大隊、連隊、旅団、師団、軍団と編成される時、ここには師団クラスが悠々整列できる。

そこに、竜がいた。

驚くことはない。
竜の国の親玉の根城の最深部。
むしろここに竜がいないわけがない。
が。

「な・・・ なんだ、あれ・・・」

その竜は。

巨大、だった。

「おいおいおいおいおいおいおいおいおい!!」
「ば、ばばば、ばばばばばばばば」

化け物だ。
いや、怪物か。
怪獣か。
どれも、表しきれていない。

似たような感覚をダロスは知っている。
パレスはアカネイアの権威を象徴する、巨大に過ぎる建造物だ。それがかき割りのように感じさせた竜が、かつて居た。
そのパレス奪還の時に、姿を顕した地竜である。
パレスが納屋に見えそうなほどに巨大な竜。

目の前のそれも、そうだった。
いや、輪をかけて巨大だった。

街一つ丸々入ってしまいそうな空間で、いかにも狭そうに尻尾を壁にべちべちと打ち付け、崩れさせている。三人がここを見つけた時の壁の崩壊もこれだろう。


「ひ、ひひい、あがががががががががが・・・」

勝つとか負けるとかの次元ではない。
まるで理不尽の具現化だ。

『・・・ガァァァアアアアアアアアアアッ!!!』


炎のブレスが、壁を吹き飛ばす。
ダロスがついさっきまで居た所が、抉られるように消える。
石壁が炭化し、赤く焼け爛れたままになる。

「あひ」

ロジャーは腰を抜かし、失禁した。
ベックを見ると、いつからか知らないが既に気絶していた。

「・・・マ、マルス様、大変っす!
城の真ん中の方だと思うんですが、パレスの時の地竜の倍はありそうな火竜がっ・・・!!」


ダロスは二人を抱え、シューターを置き去りにして、一目散に逃げ出した。
手鏡を使い、見たものを伝えるのがやっとであった。



 ・


「・・・ああ、わかっている。実はこちらでも確認したところだ・・・!
体勢を立て直す!!! とりあえず死ぬな!!!
何の準備もなく白兵戦をやってどうにかなる相手じゃない!!
そうだな・・・ 戦略級の大魔法か、城そのものを崩壊させて天井落として押しつぶすクラスの計略が必要だ!!」
「つまりそれまで各自安全確保に務めるってことで。いいわね?」

割り込んできたのは、別の隊のエリス嬢だ。多分フレイ達も聞いていることだろう。
手鏡は機能を切り替え、送受信を同時進行、全機展開させてある。
要するに、その場に集まって話し合っているのと同じ状況を、離れながらにして作っているのだ。

(本当に便利だな・・・ これが一定数用意できれば、これまでの戦略なんぞ紙クズだ。将に求める臨機応変さや、カリスマもほぼいらなくなる。なにせ、軍師の思い通りの用兵が実現出来る)

しかし今は、化け物相手だ。
強大過ぎる相手には、むしろこちらも単純な火力が必要になってくる。

「ともかく、倒しきるだけの威力が欲しい。
ダロス、お前はとにかく、シューターの奪還と、ベックの回復、何より安全確保だ。ロジャーはその辺に置いておけ。
魔道士は各自魔法を試してみてくれ。どちらにしろ火竜だというのなら、魔法に対する抵抗力は実は低いやもしれん。鱗が盾の役割をしているからため、物理的手段が通じにくいが、魔法が使えるなら戦い用はあるはずだ」
「マルス様、『ヘルフレア』を試してみます!!」
「私も、マリア様をサポートしつつ、パルティアを重ねてみます!!!」

マリアの詠唱になぞらえて、巨大火竜のいる平地に、魔法陣が描かれ始める。
マケドニアの大地を焦土と化した大魔法、『ヘルフレア』だ。
いくら巨大でも、踏みしめる地面が溶岩の渦へと変わればタダでは済むまい。いや、巨大だからこそ這い上がるのには苦労するはずだ。なにせ掴もうとする大地が、自重を支えきれず崩れるのだ。蟻地獄のごとく、である。

「はあああああああっ!!」

空間を切り裂きながら猛る炎が矢となって、火竜に向かう。
その殆どは鱗に弾かれ、威力を散らす。
巨大すぎる。

「・・・くっ。パルティアは期待薄かしら・・・」

だが気を逸らすことは出来た。
マリアの『ヘルフレア』が完成すれば、形勢は変わるだろう。

その時、手鏡から叫び声が聞こえた。

{マリア、だめーーーーーっ!!}

その声は。

「ア、アテナさん!?」

闇の巫女にして、竜殺しの剣士、アテナだった。

{マリア、待つ!!
多分 あれ、『レギオン・ドラゴン』の母体!!
あの腹の中・・・ ベガ、居るっ!!!}

「「「なっ・・・!?」」」

全力で全員でかかって倒せるかどうか怪しい戦略兵器級の敵には。
『腹の中の人質を助け出す』という、無茶な条件まで付いてきたのである。

続く

by おかのん (2015-03-30 21:52) 

ぽ村

>>おかのん

投下乙ん♪

>不細工連合
ひでぇ・・・
そして城の中でシューター・・・
いや、きっと投石器ではなく、バリスタみたいなのに改造してるさ!

ラスボスのメディウスより、こっちの救出劇のほうがもって行っちゃう展開じゃないかコレ・・・
by ぽ村 (2015-04-01 01:58) 

おかのん

>城の中でシューター
軽自動車くらいの大きさの、ほぼバリスタなつもりで書いてます。

>持って行っちゃう
そうならないようにしたいです。
しかしこのゲーム、増援の波状攻撃が一番怖く、それにも対応できるようになってるこの時点で、見掛け倒しなんですよね・・・
ファミコンやSFCはそうでもなかったでしょうが。

ハードモード? なにそれおいし(ry
by おかのん (2015-04-01 10:05) 

ぽ村

>>おかのん
ゲームだとまんま投石器なので城で打てるかよりも城に入れるかが問題という・・・


>波状攻撃
こっちはSFCだったからかな
結構苦しかった記憶

ファミコン版はホレ、バランスもそうだけどデータ消えというイベントがあるから・・・((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
by ぽ村 (2015-04-01 11:06) 

おかのん

~偽りのアルタイル~

終章 欺かれし者たち


その4 その先へ


手鏡から聞こえた叫び声。
声の主は、闇の巫女にして竜殺しの剣士、アテナだった。

「多分 あれ、『レギオン・ドラゴン』の母体!!
あの腹の中・・・ ベガ、居るっ!!!」

「「「なっ・・・!?」」」

アテナがドルーア城に姿を現した時、一応話は出ていた。
しかし、その時は『雌竜の中に入れられている』と理解した。
だから想像できていなかった。

その腹が『城と見まごうばかりの巨大な竜』のものだという事も有り得るなど。

(いくら、山そのものと見まごうような城とはいえ、城の中で城塞級の怪物との遭遇とはな)

「・・・間違いないのか、マリア姫」
「・・・間違いないです。ベガさんの『闇波動』・・・それもあの人特有のものを、わずかにですが感じます」


『グルゥゥォォォォオオオオオオオーー・・・』


皆、青ざめる。
勿論、ベガは救わねばならない。だが条件は厳しすぎた。
『人質の救出』は、こちらが圧倒的に優位に立てるときに成功を論議できる。
確実に当てられる射手が、向こうから気づかれない位置を確保できたり、降伏を迫るだけの戦力差があったり、敵が単体ないし一瞬で制圧でき、かつ人質の無事を確保出来る・・・など。

こちらの全員全力でかかって、地の利や戦略級魔法も駆使して必要殺傷力超過・・・オーバーキル気味の攻撃で問答無用で滅する方向で、どうにか倒せそうな相手に対して論じるものではない。

『・・・楽観材料は、敵が単数であることと、自分が持っている人質の価値に気付ける相手でないということくらいかしら、ね』

火竜本体は、ともすればその人質の存在を知っているかどうかさえ怪しい。

「でもマルス王子、『レギオン・ドラゴン』の中枢としてベガ様が添えられているのなら、あの火竜もある程度はベガさんが操れるのでは? 彼が屍竜の行動の制限をかけられるとこからすれば、可能性は・・・」

マリアがもう一つ楽観材料を示す。
確かにそれはあり得ることだ。
だが。

「・・・どうかな。この計画を引き継いで完成させたのは他でもないガーネフだ。
仮に奴が俺なら・・・
『生きてさえいれば中枢として機能する』本体の操作を、繋げておくことはないだろう。腹の中で母体としながらも、そもそも脳を繋がずに置けば出来る事だ」


 ・


はたしてそうであった。

「じゃあ、ベガ・・・ 竜の腹、間借りしてるだけ?
火竜の意識、ベガとつながり、ない?」
{ああ、全くねえみてえだ・・・}

アイルが判断に時間を取られているほんの数秒のあいだに、アテナはこの広場にたどり着いていた。

一も二もなく飛び出し、火竜に近づく。
エリスの魔術がまだ有効だったため、近づくだけで『接続』には成功し、ベガと会話は出来たものの・・・
返ってきた答えは、アイルの危惧した通りのものだった。

どうにもならなかった。
火竜は脅威として見た時に、本当にただの『超巨大火竜』なだけだ。

『グルゥゥォォォォオオオオオオオーー・・・』

「という事、エリス」
「だそうよ、マルス」
{やはりな}

追いついてきたエリスに、アテナは手鏡での連絡を任せる。
それを受けたアイルは、思考を巡らせる。

(さてどうするか)

そもそもここで手をこまねいている暇はない。
メディウスが『完全復活』してしまえば、ファルシオンや神竜王でさえ勝てなくなるかもしれないというのに。

「どう思われます?
ベガ様を救出するなら、事は慎重に運ばざるを得なくなります。でもそもそも時間はかけていられません」
「わかってる」

ならば。

「マリア姫、アテナの戻っていった位置まで行ってくれ。姉上と合流して欲しい」
「マルス様は・・・ どうされるんです?」
「それだが・・・ 僕達は先に行く。
姉上、よろしいですね?」

手鏡の向こうのエリスが答える。

{メディウスを倒せる可能性のあるメンバーに絞る・・・ ってことね?}
「さすが話が早い。その通りです」

暗黒竜メディウスは神竜と同等以上の竜。
つまりこの大陸の伝説になぞらえればほぼ神だ。
それを倒しうるのは、ナーガより授けられしファルシオンと、それに続く、三種の神器のみ。
そして、ナーガ自身。
ファルシオンはアイルの手にあるとして・・・

ナーガは遊軍だ。好きにやると神が言うのだから意見は出来ない。
メリクルはアテナが使っている。ベガを助け出さない限り、先に進もうとはしないだろう。
デネブに至っては連絡も取れない。

(畜生。ここに来てここまでグダグダの行軍とはな)

しかしやるしかない。
限られた時間の中で、力を尽くした結果だ。
そして、それが正しかったかどうかは、終わってみなければわからないのだ。
だからこそ、何かを成そうとする者は、才気と、修練と、希望・・・
そして、運を持たねばならない。

「アテナ、見取り図によると、その竜の真後ろがメディウスの居るだろう地下祭場への入口だ」
{判った。ひきつけて、火竜どかす!!
その隙に、マルス、ノルン、行く!!}

ちょうど広間の反対側で手鏡にそう言うと、アテナは駆け、ドラゴンキラーを火竜の爪に突き立てる!

『グルゥゥォォォォオオオオオオオーーッ!!!!!!!』
「この火竜と、ベガ、繋がりない。
遠慮なく、痛めつける!」

そう。
これまでの屍竜は、全てベガの精神で統合させていた。統合しているだけで、命令が出来ない。しかも、なまじ繋がっているだけに、苦痛なども共有した。
しかし、この火竜はあくまでただの『器』だ。
ベガがいては『諸共に消し去る』ことは出来ない。
そのかわり、戦うのに躊躇いはいらなかった。腹以外は如何様にも攻撃出来る。

「もう一撃!!」

武器を持ち替え、割れた爪にメリクルを差し込む!

『グルガァアアアアアアァァーーッ!!!!!!!』

爪は完全に割れ、鱗にも何にも覆われない、火竜の肉が曝される。

「皆!! アテナ、鱗や爪、どんどん剥がす!!
そこに魔法、投擲武器、頼む!!!」
「あ」
「は、はいっ!!」

そこへ。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

投擲されるトマホーク。
そして、超巨大戦斧、オートクレール。
その一撃は、人では到底届かない、首を持ち上げた竜の瞳を割っていた。

『グルゥゥォォォォオオオオオオオーーッ!!!!!!!』

暴れまわる火竜。
しかし、飛び込んできた影も、竜殺しの巫女も、それに巻き込まれることなく飛び回る。

「フレイ!!」
「罷り越しました!! 手鏡のおかげで状況は掴んでおります。マルス様、先に行かれませい!!」
「ああ、後を任せる。頼むぞ!!」
「御意っ!!!!!!」

戦場においての状況判断、マルス(アイル)の意図を慮る点において、フレイ以上の部下はいない。
進まねばならないこの時において、彼が間に合ったのは僥倖であった。

火竜への一撃にしてもそうだ。
フレイは、目を狙うことで、自分の姿を火竜に『認識させた』。自分の目を潰し、遠ざかる羽虫が、自分の大事な感覚器を奪った事を印象付けた。
本能が混ざった怒り。血が上る頭での憤り。
これ以上のない、囮。

『グルガァアアアアアアァァーーッ!!!!!!!』

指を針で刺されるような痛みを鬱陶しがっていたのと違い、超巨大火竜は、全力でフレイの飛竜を追う。
それは、塞いでいた暗黒竜の待つ祭場への扉をあっさりと開けることになった。
もうすでに反対側まで駆け、フレイしか見えていない超巨大火竜は、アイルやノルンの姿は目に入っていない。

「くく。流石だフレイ。
さあノルン、行くぞっ!!」
「はっ!!」

その手放しの賞賛。
兵(つわもの)としての評。
それは、三種の神器を賜った者達に劣らないだろうことがうかがい知れた。
もし、デネブが持っていかなければ、グラディウスは彼のものだったろう。
その言葉を、ノルンは内心羨んだ。

(・・・・・・私は、特別かもしれない。
でも、一番じゃない)

それでいいと思っていた。
間違いなく、『特別』なのならそれでも。
今後、聖なる弓パルティアを賜った自分は、新たなる皇帝アイルの下、一介の村娘には過ぎる程の重役が与えられるだろう。
今は戦や、その中で出会った貴い血脈、刺激的で絶大な力を持つ魔女に心奪われているアイルだが、力を持たなかった頃の、子供だった頃の優しげな思い出の中にいる自分は、誰より彼を癒すはずだ。


(・・・皇帝)


そうだ。
彼はなるだろう。
この戦いが終われば、アカネイアは復興に向けて動き出す。
その時、旗頭であり、アカネイア王家最後の人間であるニーナの夫、それは誰であるべきか。
決まっている。

この、大陸全土の勢力図を塗り替えた大戦。
その中で、アカネイア聖王国を取り戻した大将軍にして、暗黒竜を光の剣で倒した、伝説再来の勇者。

アイルは、アカネイア王家に婿入りしてこそ皇帝になるのであり、皇帝になることとニーナが正妻であることは切り離せない。継承権がニーナを介してしか生まれない以上、これは絶対だ。


(・・・ううん、それでいい)


そうなるしかないのだ。
他にどうする?
大陸中を巡る戦いで疲弊したアカネイアを引っ張っていく力と資格があるのは、彼だけだ。他の者では無理だろう。

権利はあの女が握り。
資格と能力は彼が持っている。


だから自分は、守ると決めたのだ。
どんな者からも。どんな事からも。


その為に・・・


(アルテミス様)


亡霊の提案にまで乗って、その時に備えたのだから。
それを、反芻する。


続く

by おかのん (2015-04-10 14:26) 

ぽ村

>>おかのん

投下乙んw

ヲレがアイルなら「緊急時だからやむなし。ベガ、アデューwww」とそのままオーバーキルしてしまうところだ・・・

そういやベガの件に色々割いてるけど、これは戦g(もががががががが)

次回はついにメディウスとご対面っぽいな。
勝敗は見えてるので、爺さん描写やら
ゲーム的には(SFC版だけど)可愛かったあのドラゴンがどう表現されるかが楽しみだ

by ぽ村 (2015-04-12 12:29) 

おかのん

>ベガに色々割いて
実は話の都合上、『関係者とそれ以外』に分けてしまいたかったので、足止め役が欲しかったのです。
でまあ、『やむを得ずアイルとノルンだけ先行』するシチュを作るのに四苦八苦した結果、というのが大きく・・・

>緊急時なので見捨てるw
それをやるとアテナがおかんむりですw

>メディウスとご対面
まあ、するにはしますが。相手はd(ry
by おかのん (2015-04-12 15:59) 

ぽ村

>>おかのん
夢と妄想を壊すなwww

しかし理由はどうあれ、割いた分は意味のあるポジションを占める・・・よなベガ?


by ぽ村 (2015-04-13 01:33) 

おかのん

~偽りのアルタイル~

終章 欺かれし者たち


その5 村娘と王女、邪神と魔女


時は遡る。
『竜脈結界』の発動。その後精鋭をより抜き、突入する直前。

ノルンは、いくらかの調整を部下に任せ、物陰で一人になった。

手にある紫色の宝石。
それは、とある者との『接触』に使うものだった。
握り締め、思いを受け取ると、反応がある。
何もないはずの宝石の中心から、闇と光が混ざったような光を放つ。
そこから、赤黒い影とともに、女の上半身が現れる。
影がまさに輪郭を形作り、光がその姿をとどめ置くように。

{アア、ヨンデクレタノネ。のるん}

音が二重になって響くような声。あまり慣れない。

{トイウコトハ、カンガエテクレタノカシラ}
「ええ」

この女性は、今は幽霊のようなものだ。
いや、彼女こそ本当に『亡霊』なのだろう。
しかしノルンにとって、どうでもいいことだった。
彼女の提案に乗る。その決心がついたのだ。

「『契約』を交わします。
あなたの言うとおりのもので」

ノルンは、既に以前にも彼女に会っていた。
いや、そもそも彼女の方から接触してきたのだ。
彼女はあることを教え、忠告し、そして助けになってくれるという。
彼女の立場を考えれば、納得のいくようで、しかしどこか胸がざわめいた。
だがノルンはこの時、受け入れると決めたのだ。

アイルの、もしもの時のために。

(彼女の・・・アルテミス姫の話が本当なら)

その時、何も出来ないなどということがないように。


 ・



さらに遡る事、この戦いの始まる前。
アカネイア同盟軍がテーベから戻る直前の夜の話。
ノルンは、幕の中で仮眠をとっていた。

世界中に溢れるだろう、これまで死んだ竜の復活。
勝てるにしろ、世界が混乱に巻き込まれることは間違いないだろう。
そして、その戦いの中、誰が命を落としてもおかしくない。

(アイル・・・)

アイルの事は、弟として整理するつもりだった。
彼の立場は今は大きすぎる。
今は、戻ってくる保証のない、本物のマルスの代わりに・・・ もし戻ってこなかったら、本当にマルスとして。
この大陸を、背負わねばならないかもしれないのだ。

そんな人とは、自分はつり合わない。
・・・そして。
そんな人間は、失われてはならない。

正統後継者がいない。それが理由で内乱を起こし、滅んだ国などいくらでもある。
その時も、人は荒れた街、不毛な大地、治安などない国、それを何とかして立て直してきた。
そういう、どうとでもなる事というのは、ある。
しかし、もし、皆が認める王がいたら。
導いてくれる、優れた者がいたら。
なかった戦争は、あるのだ。
起きなくてもよかった、悲しいことというのはあるのだ。

そんなことを微睡みながら考えている最中に。
彼女は、来た。

{アナタガ、のるんネ}
「!? 誰・・・」

跳ね起きるように身構えると、そこには炎のようなゆらめきの中に、女性がいた。黒く硬質の影と、淡い光が、混ざり合うようにして幻影を映すように。

{ワタシハ、あるてみす・・・
でねぶノクチカラ、デタコトハナイカシラ。
『まるすオウジ』ヲサラッタコトニナッテイル、でねぶノアルジヨ}
「!!」

アルテミス。
約100年前。ドルーアが国を興し、かつてのアカネイアを滅ぼした時。
今のニーナと同じように、旗頭となって、アカネイア再興を成した姫。
衝撃の事実であった。

(彼女が、マルス王子をさらった? デネブの主、黒幕『アルティ』が、アルテミス姫!?)

いや、それよりも。ということは、だ。
彼女はともすれば、この大陸を揺るがした大戦の、もうひとつの暗部そのもの・・・ いや、マルスを何のためにさらったのかが解っていない以上、この大戦を『利用した』かもしれないという意味で、メディウスより得体の知れない存在だ。
アイルがここまでやってきて、もう一息でドルーアが倒せるかもというところに来て、今更マルス本人にどれだけの意味があるのか、何に使えるのかは知らない。
しかし、まだ分かっていない『意味』があるのかもしれない。
何より。

「・・・タノミガアルノ」
「たの、み?」

(なんで、この時節に、私に会いに来るの?)

ニーナを惑わす、ミネルバを操る、アテナを裏切らせる・・・というならわかる。いや、ノルンも自分が全く重要な位置にいないとは思わないが・・・ 自分でなければならない理由も見当たらなかったのだ。

だから、黙した。
相手の術中に嵌るかもと警戒しつつも・・・
聞いておかねば、と、消極的な合意をした。

{ワタシハでねぶノ『アルジ』ダケド、ジッサイ・・・デキルコトハ、カギラレテイルノ。
ナニセ、カラダガナイノデスモノ。ダカラ、でねぶハワタシニタイスル『オイメ』ノヨウナモノカラ、タノミヲ・・・キイテクレテイル、ダケダッタノヨ}
「・・・!?」

(負い目?)

デネブが何らかの理由で、『動いてやっていた』だけだというなら・・・
黒幕であるはずの彼『アルテミス姫』の印象は変わってくる。
あの『デネブ』が、唯々諾々と従うとは、確かに思えないのだ。
多くの部分で、デネブの享楽的で勝手な振る舞いの中、姫の意に沿わないことが起きていた・・・ そういう可能性が浮かび上がってしまうからだ。

そう思わせることで、ノルンを利用する・・・ そういう罠かもしれない。そう思わないでもなかった。
しかし、デネブもそれ以上に信用ならないのは間違いない。むしろ、今の話で納得がいってしまう部分さえある。

(もしも、そうなら・・・)


・・・ノルンは、部下としては優秀だった。
しかし、あれだけ戦場の闇の深さに触れながら、騙し合いとなると、アイルの望む力量を求めるのは無理があった。

「頼みというのは、何でしょうか・・・?
とりあえず、その・・・聞かせてもらえませんか」
{ソウ、ソノでねぶノコトデ、ナノ}

信じたいような嘘。
あり得ると思ってしまう偽り。
幾重にも重ねられた真実に沿う、その意味を変えてしまう推測。
縋り付きたくなるような、希望。
触れれば壊れそうな、儚さの装い。

アイルも散々使ってきた、守りたいと願わせるような悪辣さを。
自分がもう抜け出せなくなっている、直視したくない偽証を。

ノルンは、気づかないままだった。


 ・



アルテミス姫は語る。
自分の望みはアカネイアの再興と、大陸の平和のみだと。
その為には、ファルシオンを扱える『アンリの血脈』は、なんとしてでも守らなければいけなかった。

「ガーネフが、マルス王子を密かに亡き者にしようとしていた・・・?」
{エエ。ダカラワタシハ、でねぶニ『まるすオウジヲマモッテ』トタノンダノ。ナノニ・・・}

攫って来てしまったらしい。
確かにその方が安全ではあった。辺境に隠れていても、見つかるときは見つかるだろう。ならば一つの手だ。

{デモ、まるすオウジニハ、めでぃうすヲタオスヤクワリダッテアルノ。ソノアタリヲドウスルカ、モメテイルウチニ・・・}
「・・・アイルが代わりをやり始めてしまった、と?」

王族にありがちな大雑把な命令。上なのは形だけの主の意図など、汲みもしない兵。予想もつかない形で始まってしまう戦争。

有り得ると、思えてしまう。

{モウ・・・ソノジテンデ、でねぶハ、ワタシノタノミナンカ・・・ホボムシシテイタワ}

アルテミス姫自身、ながらく意識を閉ざしていたことがあったという。その間のことは分からないし、その頃は体を共有していながら、互いに秘密を持っていたのだとか。

(記憶は共有しないってことなのね)

そこまで初期の段階で、デネブが制御出来ていないのなら、この姫は黒幕でもなんでもない。縋る事しか出来ず、そして何も変えられなかっただけの存在だ。自分が何かできると思っていた分、余計な罪悪感を抱える羽目になった不幸まで受けて。

{でねぶニハ、ヒミツガアルミタイ。
ワタシニモオシエヨウトシナイ、ヒミツガ・・・}
「秘密?」
{ソレガナンナノカハ、ワカラナイ。
デモソレガ、『シノおーぶ』ト『タマシイノおーぶ』ヲ、ツカウモノナノダトシタラ・・・
ダレカガ・・・ シヌ カノウセイガアルノ。
イノチヲスベル、アノフタツノ『おーぶ』ヲツカウイジョウ、カノウセイハカナリタカイノ}
「死、ぬ?」

デネブ自身に何らかの目的があって。
その為にアイルを巻き込んだ・・・ というのなら。

(アイル・・・)

思わず口に手をやる。
アイルは、良くも悪くもデネブがいた事で変わった。
デネブを好いているのは、ノルンも気づいている。
・・・となると、この事を話しても、聞く耳は持たないだろう。進言とは取られない。何よりそれでデネブを遠ざけた場合、得をするのが『ノルン自身』なのだ。

ノルンだけが、彼の危機を今知ることが出来たのに。
ノルンだけが、この言葉を真実と認めてもらえないのがわかる。

「・・・・・・・・・っ!!」

どうすればいい。
彼が殺されるかもしれないのに。
いいように騙されて、終わってしまうかもしれないのに。
今自分は、それに気づくことが出来たというのに!!!

{ダカラ、ワタシタチノモメゴトデ、あいるクンガマキコマレテ、コロサレテシマッタリシタトキノタメニ・・・
アル『ケイヤク』ヲ、シテホシイノ}
「・・・けいや、く?」
{ワタシハカラダガナイカラ、セカイトノ『ケイヤク』・・・ ツマリ、イキテイル『ナニカ』ト、『ツナガリ』、『ヤクソク』ヲシナイト、チカラガツカエナイノ・・・
ボウレイガデキルコトナンテ、ホントウニカギラレテイルノヨ。
デモ、ワタシハ、カラダサエアレバ、カツテノ『リュウノチシキ』ヲツカッテ、シンダニンゲンヲイキカエラセルコトモデキル}
(死んだ人間を、生き返らせる!?)

それは、いつ死ぬか分からず、取り返しもつかない戦場において、何としても手にしておきたい力だ。

「本当なの? それは・・・」
{『ケイヤク』ノモンゴンニ、イツワリヲマゼレバ、『ケイヤク』ハ、キノウシナイノ。
ソレガ、ワタシタチガ、チカラヲツカウタメノ『ジョウケン』ナノ}

話の筋におかしい所はとりあえずない。
デネブがおとなしく頼みを聞くはずもないし、その結果に心を痛めた主人が、いざという時の力になりたいというのは、ありえなくはない。

心は揺れた。
アイルの命の保証。それはノルンにとって、自らの命のよりも意味が大きかった。

問題があるとするなら。
『アルテミス姫』に対する情報の少なさだった。
疑ってかかる確証は確かに無いが。
心から信じる要素も実はない。

{ケツロンハイソガナクテイイノ。
ウウン、ワタシノチカラガ、ヒツヨウニナッタジテンデ、ヨンデクレテモイイワ}

アルテミス姫の亡霊がそう言うと、虚空から宝石のようなものがまろび出る。
闇と光が混ざったような光を放つ、紫色の宝石。

{ソレヲテニ、ネンジテクレレバ、ワタシハアナタノモトニイクワ}
(私を何がしかの罠にはめるつもりなら、決定権や再度の接触を、私に委ねることはしないはず・・・)

・・・勿論、それは逆だった。
取り逃がすわけにいかない獲物にこそ、自分が味方だと印象付けるために、最後の行動を委ねる。
自分の決断が間違っていたなどと、誰も思いたくはない。だからこそ、決断したが最後、多少のおかしなことを見ないふりをしてしまうようになる。
いわば、アルテミス姫が連絡用端末である宝石を渡したのは・・・

駄目押しだった。


{ソノトキニツカウダロウ、モンゴンヲイッテオクワ}


その文言とは・・・


 ・



『魔女の裏切りによって、英雄が落命した時。
英霊アルテミスは、弓騎士ノルンの身体を借り受け、出来うる限りの勇者の蘇生を行う』

{マチガイナイカシラ?}
「・・・ええ」

契約の文言は、絶対である。
だから、応用が利くように、必要な部分を曖昧にしたほうがいいとアルテミスから提案があった。
この文なら、デネブだけでなく、カペラの裏切りの時にも『魔女の裏切り』として助力が得られる。そして、『出来うる限り』とした事で、数人助けられる可能性が出てくる、との事だった。
問題点は、『ノルンの身体を借り受け』としているために、ノルンが死ねば契約が拘束力を持たない事、『英雄が落命した時』とある為、一旦死んでいないと力を貸せない・・・ということらしい。

(私が死ななければいい事だし、この事自体広める訳にいかないなら、この形しかない。
デネブを制御できないのは最初から解っているし、『英雄の落命』でもない限り、こんな反則めいた事を頼めない)

そもそも・・・
デネブが裏切ろうと、ノルンがしっかりしていれば済むことの筈だ。
その機会を、アイルは与えてくれている。
ならば、応えるまでだった。


勿論、ノルンは気づいていない。
文言の、本当の問題点に。


 ・


闇の中。

とてもとても深い闇の中。

空気が淀み、湿気がこもり。

全てが死に絶える、深く深く深い場所。


ー深淵。 そして混沌。

そこからこそ命が生まれ、育まれる、大地そのもの。
死と、再生の香。

地下の祭場の玉座は、瘴気が渦巻く中、立ち昇る雷鳴と共に歪む。
世界の理がひずんでいる。音の波が捩れて広がる。


(始まる。満ち始めている。
ここまでの力があれば、『竜脈』の流れを導くことも出来る。
そうすれば、名実共に)

神。
それが、『すべての存在を統べる者』だとすれば。
有るべくしてある、『魂の輪環』を・・・ 操れる者。
命の力を。
自分の為に使う方法を持っている者を指すのなら。

(今から儂は、『それ』になる)

生き物が死に、腐り、それが大地の力となり。
それを生命に変える存在が、実となり、種となり、他の命の活力となるように。
魂も、どこかで純粋な『力』となり、巡るものなら。
それを手繰り寄せる存在は、神と呼んでも差し支えがない。

世に言う『魔導の究極』が、『世界との接続』であるというのは故無き事ではない。
そもそも魔導が、『賢者ガトー』が齎したものである事に端を発する。
竜の力の究極が『世界に巡る魂の力を操る』事なら、その竜が人の姿をなして導いた『竜の化身』の術の究極は、やはり『世界との接続』なのだ。


ど く ん


(・・・始まった!!!!)

混沌ながらも、いや、混沌だからこそ、光とも闇ともつかぬ、新しい『理』。

(か、は は は は は は)

メディウスは、『生まれ直して』いた。
余地を残した、そして世界の代替としての端末。
世界の顕現。
可能性そのもの。

そう。

世界と部分的に繋がるために、消滅を知らず、『自然そのものとして個体が復活する』という、ある意味究極の命のはずの『竜』の、さらに上を行く『次世代の竜』。
<アルティメット・ドラゴン>とも呼べる、『世界の力を召喚する竜』。

今までのどの竜よりも。
神竜をも凌ぐ深さで世界と繋がる竜。

まさに。

(我は、神となる!!!!!!!)

黄金に沈む、闇のように輝く、瞳と翼。


『ルギャアアアアアアアッ!!!!!!!』


咆哮。
それは産声だった。

「ーーそれが、『神』とやらか」
{っ!?}

混沌と瘴気の渦からまろびでた、生まれたての闇に輝く地竜。
それを、見下ろすもの。

「くふふふふっ。愉快だ、愉快だぞ!!
『ここにアルテミスがいない』というのが特にな!!」
{貴様は・・・!!}

名だけはメディウスの耳にも届いていた。
奇しくも『混沌』の名にふさわしい存在、『魔女』、デネブ。
本当の目的がまるで掴めない、しかし戦局を左右しかねない力を持つ女。

このタイミングは、メディウスにとって最悪だった。
後数分あれば、この『神の器』である体は、世界と繋がった力を思う存分使えたろう。
もう数分前なら、この体を生み出すのに使ってしまう前の力で、この魔女をひとひねりに出来たろうに。

いや。

この時を、待っていたのだ。
この魔女は!!


「さあ、竜の魔神にして瘴気の王よ。
神の器をあけわたせ!!!!」
{!!!!!!!!!!!!!!!!}

メディウスは、得心した。
いや、言われてやっと気がついた、と言うべきか。

魔女の目的は。

{神と、なる気か}

竜神の体を乗っ取る。
生まれたばかりの暗黒竜の自我を、消し飛ばすことで。


続く

by おかのん (2015-05-05 13:01) 

ぽ村

>>おかのん
投下乙

ようやく出でたゲーム的なラスボス(意味深)

そしてアルテミス姫・・・


んー・・・

別のところで投下する場合の話なんじゃが、

アルテミス姫はちょいとぽっと出感があるので、時間軸的にノルンが出会った頃に作品に出して、話の内容(の回想)は今回のタイミング、というのはどーかの?

ノルンも疑ってはいるけど、ちょっと信じすぎだし、出会ったときから繰り返しコンタクトを取るうち、少しづつ信じていけた感がでるかなとも思うんじゃ・・・

しかし黒幕が大先祖様とわの。。。。



あとデネさんの「守るものは面倒なので遠くへ避難させる」という思考、嫌いじゃないというか、ヲレでもやると思うww
by ぽ村 (2015-05-05 16:31) 

おかのん

>別のところで投下する場合
確かに。
そもそも今回の出し方が「あ、この話いい加減出しとかないとギリギリじゃん」という感じだったのもあるw

でも、そもそも初出がついこないだの『アイルと神竜王とのキスを見たデネブのモノローグ』で、正体がわかるのはあのタイミングのほうがいいと思ってるから、調整が難しいなあ・・・
出来たらってことで。

>守るのなら陰ながらじゃなく攫う
本人の意図が無視できるのならアリですね。効率的に。
by おかのん (2015-05-06 19:34) 

ぽ村

>>おかのん

素人判断かもしれないが

以下上の文抜粋
{アナタガ、のるんネ}
「!? 誰・・・」

跳ね起きるように身構えると、そこには炎のようなゆらめきの中に、女性がいた。黒く硬質の影と、淡い光が、混ざり合うようにして幻影を映すように。

{ワタシハ、あるてみす・・・
でねぶノクチカラ、デタコトハナイカシラ。
『まるすオウジ』ヲサラッタコトニナッテイル、でねぶノアルジヨ}
「!!」
以上
の部分をどっかに挿入して、あとはノルンが虚ろな目でボーっとして一人悩んでいたり、最終決戦前にソレらしい決意表明アイルの前でしておけば簡単とか思うのは認識が甘いんだろうか・・・・
by ぽ村 (2015-05-07 12:04) 

おかのん

だいたいそんな感じで修正してみました。
しかしかなり前まで遡ることになるので、ここでの公開はタイミング悪いかなあ。
by おかのん (2015-05-10 22:28) 

ぽ村

>>おかのん
随分前だけど、なんか良い方法あるかのう・・・
以前投下した記事の部分だったら、「ココの記事のOOOの箇所の修正」的な?



まぁここでの投下はあくまで先行販売というか、β版みたいな感じで
他所の投下前にこういう話が出来るのはええやね
by ぽ村 (2015-05-11 00:26) 

おかのん

~偽りのアルタイル~

終章 欺かれし者たち


その6 魔女と神竜王の共闘



狙うのなら、今だろう。力を扱えるようになった、顕現後。
再充填してしまった、数分後では駄目だ。
顕現前の、まだ力をその身に宿していた時では駄目だ。
神の器となる為、貯めていた力を顕現に使い切った・・・
生まれた直後こそが好機。
デネブのその考えは間違っていない。むしろそこしかないだろう。
問題は。

メディウスも、そんな事は委細承知だということだ。

「ぐう、く く く く く・・・・・・」


生まれたばかりの『混沌の竜』、『邪竜神』とも言えるロプトウス。その器となったメディウスを、デネブの魔槍ネメシスが襲った。
いくつもに分身し、その一つ一つがデネブの思い通りに動くという、およそ反則的な魔武具。それがメディウスを取り囲むように展開し、一斉に収束する。
逃げ場はなかった。
どれもが必殺の槍。

ーしかし。
その全てが、メディウスのはるか手前で止まっていた。

『結界』だ。

メディウスは、幼生体である自らを守るために。
全ての力を使って生まれた自分の器が、龍脈の力を引き出せるようになるまでの数分、危害を加えられることのないように。
防護壁を作っておいていたのだ。

「・・・まあ、当然かっ・・・」

先程から邪槍ヘルファント、神器グラディウスを突き立てているが、全く綻びも見えない。

(だが、今しかない)

再度、振りかぶる。

魔法は、龍脈からにじみ出た雫を受け止めて利用する『人の技』、『竜の吐息』や存在は龍脈から汲み上げる井戸水なのだとすれば、『メディウス』は河川の流れを引き込んで貯水湖を作ろうとしているようなものだ。
こうなる直前の『メディウス』も、その大工事のために、恐ろしい程の力を溜め込んでいる状態だった。
力を使い切り、更なる力を使えるようになるまでのほんの僅かな間。
そこにしか、勝つ好機はない。

だというのに。
壁を破れない。
今しか、ないのに。

アイルもその仲間も、全く間に合っていない。
デネブは瘴気にある程度の対抗策があり、アイル達とは別ルートを通ってきた。
ネメシスやヘルファントで壁を掘削するのも含めての反則ルートである。
そうしてまで、間に合いはしたのに。

(今しか、ないというのにっ・・・!!!!)

届かない。

正直、デネブは見知らぬ人間がどうなろうと気にもしない。
しかし、『人間社会』や『人間』そのものは、少なくともマムクートよりも好ましいと思っている。

例えば、人間の作り出す食べ物は美味い。
竜は味など頓着しないし、マムクートでさえ自分で工夫はしない。
音楽も、物語も、祭りも、酒も、甘味も、風呂も。
麻薬も、煙草も、猟奇も、性も、嫉妬も、支配も。
世界と繋がりすぎるが故に、理(ことわり)そのものに溶けかけている竜は、餓えが少なく、死が遠く、欲が薄い。
もし竜が世を統べたら。
つまらぬ世になるだろう。

それは、デネブには耐え難いことだった。


だから。

「メディウス、貴様は殺すっ!!
貴様は何ももたらさん!! 停滞した平和、研鑽無き国、受け入れられた死と輪廻・・・

それは、何もかも奪われるのと同じなのだっ!!!!」
{・・・・・・}

メディウスは応えない。答えない。
デネブの全力によって、ネメシスを操る雷鞭が浮き出る。その余波で空間が歪む。
それでも、結界はゆらぎもしていない。

「ぐ、く く くぅっ・・・・・・」

魔力の歪む、樹脂の焼けるような匂いが、瘴気と相まって吐き気を催す。
対策があるとは言え、力のいくらかを瘴気への防護に使っているのだ。つまりそれは、全力が出せていないということだ。

焦りが、生まれる。
このままでは、間に合わない。

『龍脈』の力をメディウスが操れるようになってしまったら、そこで負けなのだ。
そうなるわけにはいかないのに。
貴重な時間が、ただ過ぎていく。

(畜生めっ・・・!!)

その時。
結界にわずかに綻びが出来た。

(!?)

やっと破れるのか。
そう、デネブは思った。


間違いだった。


ガシャリ、ガシャリ・・・
鎧ずれの音。

「しまっ・・・!!!」

妨害をかけておくべきだった。
さっきの綻びは、メディウスがデネブの隙をついて開けたもの。
衛兵を部屋に呼ぶためのものだったのだ。

(まずいっ・・・!!!!)

瘴気から身を守りながら、衛兵を捌きながら、結界を攻撃できるわけもない。
しかし、そんなことをしている間にも、時間は過ぎてしまう。
もう、後数分どころか、秒単位かもしれないというのに!!

衛兵が姿を現す。
屍兵なのか、デネブに反応をすることもなく、ガシャガシャと音を立てて近づいてくる。
薄暗い神殿の明かりが、廊下から出てくる屍兵をかろうじて照らしたその時。

パキッ・・・ と、鎧の留め具が飛ぶ音がした。
屍兵の胸当てが外れたのだ。
そこからは、女の手が生えていた。
爪が指を覆う小剣のようになった、まさに手刀。

「くふ。『抜き手』というのも久しい。
いや、起きてから数時間・・・ ようやっと調子が戻ってきたかもの」
「お前・・・は」

デネブは、見ただけだ。
彼女とアイルの、接吻を。

「わっちは、神竜王よ。
くく、お前・・・ 今はデネブと名を得たそうじゃの。
まさかこんなところで、遭遇とは・・・
偶然とはいえ、面白い。
戯れが、世を救うかもしれんとは」
「・・・?」

神竜王。
チキの母であり、この大陸の神と呼ばれた存在。

「褒めてつかわそう。
その小競り合いがなければ、メディウスは復活を果たしていたやもしれぬ。
わっちがここに来る前に、な」

そう言うと。
神竜王は、跳躍し。
屍兵を振りかぶる。

「クラプス、クルム、ヴラスヴィ、ライル!!」

屍兵をメディウスに投げつけ、結界と接触した直後、引き裂く。
残った血と肉片が、まるで生きているように蠢いて、陣を描く。

「ほれ、持っとると良いぞ」

神竜王がデネブに渡したのは、鱗だった。
デネブの周りにある瘴気が、嘘のように祓われる。

(ほう)

味方と見ていいのはようく分かった。


ビヅッ・・・!!

結界に描かれた魔法陣が、雷糸を撒き散らす。
と。

{貴様ァァアアアアッ!!!!}

結界が、いとも簡単に消えた。

ゴッ!!

メディウスの憤りには全く応えず、神竜王は、馬車程度の大きさの『混沌竜』の幼生体の横面を蹴り飛ばす。

{がぁっ!?}

神竜王は、デネブと同じく、事態を正確に把握していた。
今しかない、と。

『ルギャァァァアアアアッ!!!!!!』

成人が数人かかればなんとかなりそうな、幼生体に対して。
本性を表して神竜王は相対する。
それを、デネブは呆然と・・・

見送るわけもなかった。

ネメシスを再度展開。黒く輝く毒の雷を纏った槍が、メディウスを取り囲んだ直後に収束する。

「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
『グギャアアアアアアアアアッ!!!!!!!』

滅多刺しになったメディウス。
その瞬間に第二波。遅れて到達するグラディウスとは別方向からの邪槍ヘルファント。メディウスは咄嗟に残っていた指を持ち上げて、辛うじて防いでみせた。が、

ヴヴヴヴンッ!!!

当たった瞬間に『別の軌跡』からの攻撃を顕現させるヘルファントは、『防がれなかった一撃』を魔力で複数作り出し、盾となった指をすり抜け、串刺しにする。

『グギャアアアアアアアッ!! ガァッ、ギャァァアアアアアアッ!!!!』

メディウスは、息も絶え絶えであった。
必死なのは、メディウスも一緒なのだ。

({もう少し、だというのに・・・!)}

もう少しが、遠ざかる。
この状態では、龍脈を読むことに力を向けられない。
死んで、しまう。

ここまで、来たというのに。


そんな思考も許されない。
ある意味人間最強の魔女と。
竜族の王が焦るようにして自分を殺しにかかっているのだ。

あと何秒あればいい。
竜脈さえ自在に操れれば、その時点でひっくり返せるというのに。

{ぐああああああああああっ!!!!!!}

対するデネブや神竜王も、ずっと必死だった。
この僅かな時間に殺しきらなければならないのだ。
特にデネブは・・・

『お前・・・ 今はデネブと名を得たそうじゃの。
まさかこんなところで、遭遇とは・・・
偶然とはいえ、面白い』

神竜王の、この言葉。
それは、彼女を大きく揺らす。

デネブは、アルテミス姫の中に『いた』。
それが、最初だ。
一個の人格でありながら、己の体を持たず、主を惑わした存在。
最も近しい隣人から、最初は受け入れられながら、それが『普通』でないと分かり、主人が『物狂い』扱いされかけた時に、

<アナタサエイナケレバ>

彼女の、心からの言葉。
今でも小さく、しかし深く刺さる棘。

ずっと知りたかった。
受け入れられることのなかった『自分』が、本当は何のために生まれたのか。

『私は、何者なのか』

それを。
この女は、知っているかもしれないのだ。

けれど、今は。


「うあああああああああああああああっ!!!!」

暗黒竜メディウスを。
闇竜ロプトウスの器を。
混沌の竜の、幼生体を殺す。

ネメシスは刺したそばから抜く。
抜けばそこから流れ出た血が力を奪う。
抜いた槍はまた刺せる。
刺しては抜く。刺しては抜く。
壊れたパイプオルガンの伴奏のように、とめどなく上下する槍。その度に上がる悲鳴。
血が止まらない。

{ぐああああああああああっ!!!!!!
うぎゃあああああああああああっ!!!}

神竜は前足を押さえつけて、真正面から霧の吐息を吐く。
絶対零度のそれは、空気に混じる元素や水分を凍らせ、霧を見せる。そんなものを吹きつけられれば、その場所は瞬間で風化したように、僅かな刺激で粉になるような状態になる。
痛みも感じられずに、後ろ足や尻尾が粉々になる。

{う、が あ あ あ あ あ}

死ぬ。
この瞬間の発狂が先か、血が脳に行かなくなるそのときが先か。

馬鹿な。
こんなところで。

何もかもが・・・

そう思ったのと同時だった。

{!?}

来 た

龍脈の力が。


ど く ん

跳ね上がるような心音と共に、体に力が戻る。


だが、このタイミングは最悪だった。
メディウスにとって。
せっかく龍脈の力が使えるのに、顎やら指やら眼球やら、『力を操る器官』が壊されている。
今度は、元々持っている『自己回復』の力が、体に回り切るまで待つしかない。
しかも。

{間に合わなんだか。デネブ、速度を上げろ!!
潰しきらんと、加速度的に回復してしまうぞ!!}
「わかっている!!!」

見逃してくれるような女共ではない。

しかし、勝算はあった。
こちらには、世界そのものがついているのだ。

メディウスは、耐えるだけでよかった。



 ・



そして、同時刻。

ズ ン

「「!!?」」


ノルンが先行し、先を急いでいたアイル達。
曲がり角で、どちらに行こうか判断している時。

突如、ノルンが入っていった通路を、壁のようなものが突き抜けた。

幸い、二人共負傷はしなかったが・・・

「これは・・・ 火竜の足!?」

多分、真上が先程の広場なのだ。
そもそもあんな巨大な火竜を使うことを想定しているわけもないとすれば、床の踏み抜きもおかしくはない。
問題は、多分抜くことなど出来ないという事と、であるなら、分断されてしまったということだ。

「アイル、無事!?」
「ああ、なんともない。しかし・・・
仕方ない、別々の道を行こう」

ほかに方法などなかった。


ここも、分岐点であった。
もし、二人一緒にメディウスの・・・ 神竜王とデネブの戦っている祭場についていたら。

勿論、現実に『if』はない。

だが。
ここは間違いなく、分岐点だったのだ。


続く

by おかのん (2015-05-19 11:23) 

ぽ村

>>おかのん

投下おつん♪

煩悩の為に死力を尽くして戦うデネさんいいね

・・・・アイルのたmっとっとっと・・・・
ふう


微妙な関係のっつか、ヤバい関係の2人がラスボス前に邂逅とは・・・アイル来て・・・なんかメディウス死んだら殺し合いが始まってもおかしくないのう;
by ぽ村 (2015-05-20 10:19) 

おかのん

>微妙な関係のっつか、ヤバい関係の2人
ここに(;´Д`)状態のノルンと、テンパったアイルと・・・
さーどーなるでしょー



~偽りのアルタイル~

終章 欺かれし者たち

その7 暗黒竜、そして神の死


『ルギャアアアアアアアッ!!!』

前足を二つとも床にめり込ませた超巨大火竜。
尾と首を振り回して応戦はしているものの、アテナに攻撃範囲を完全に見切られており、嬲られるのみである。
更に、そもそも射程範囲外からの攻撃を可能としている、マリア、エリス、エッツェル、そしてフレイ。

「紅蓮の炎よ! エルっ、ファイアー!!」
「風の暗剣、エクスカリバー!!」

マリアとエッツェルの魔術が、次々剥がされていく鱗の隙間に突き刺さる。

もうすでに余裕を持って相対している火竜を二の次に、フレイはエリスを他の隊と合流させる。
あまりに広い地下闘技場だが、それだけに、飛竜が飛ぶのに苦がない。

「足元に気をつけなされませ」
「ありがと、フレイ」

姫君らしく、騎士に促されてふわりと降り立つエリスとは対照的に、ロジャーとベックの二人を抱えて逃げていたダロスは、精も根も尽き果てた様子だった。

「うう・・・」
「はいはーい。オトコノコなんだからしっかりなさいな。はいそこのお触りじいちゃん。どうよ」
「は、疲労だけですな。治療の必要もないかと」
「おお、受け入れたよ。というかスルー?」

事実は事実かもしれないが、仮にも同盟軍内でそこそこ司祭として後軍を支えているリフにむかって、お触りじいちゃんというのも酷いものである。
しかし、最近はアイルの手配で、会員制秘密厳守の娼館に通っている。満たされているのか知らないが、かつてベガやデネブに利用されていた時のような悲壮感は微塵もない。

フレイはそんなどうでもいいやりとりより、マルスを気にしていた。

「エリス様、マルス王子からは指示はありませんか?」
「ないわね。こちらから連絡とってみる?」
「いえ、それには及びません」

どちらにしろ、火竜を倒しきってしまわねば、退路も確保できない。
そして、主君の退路の確保というのは、戦場の騎士としては第一にやっておくべきことである。それも済まないうちから、主君に判断を仰ぐというのもどうかと思わなくもない。
いや、『アイル』の欲しい部下というのは、段階がある。勿論『勝手な判断をする』手足などいらないが、『最良の先読みをして』アイルの考える手間を省く、いや、『第二のアイル』として動けるほどなら、そのほうがいい。そういう部下が欲しいのだ。
フレイも其の辺を自覚せず感じているのだろう。騎士としての矜持のようなものもある。

ともあれ、ここでフレイは連絡を取らなかったのだ。

この僅かな時間に。
世界の流転は何度も起こっていた。


 ・


アイルは道なりに進んでいった。
火竜の足によってノルンと分断された後、分岐点はなかったのだ。
罠を警戒しつつではあったが、自然早足になる。

(・・・俺でも感じられるほどの力の気配がする)

瘴気の結界と、それを打ち消す神竜の力経てなお感じる、純粋な『理力』。それは『竜脈』の力と考えて間違いなかろう。
かなり大きく波打っていて、膨れ上がったと思えば一瞬で霧散したりもしている。

僅かな空気の流れの方に気がついて、さらに足を速める。
出口を抜けてみると、そこは中二階のような場所だった。
儀式の準備などの時に使う足場なのだろう。祭場が一望できる場所でもあった。

「なっ・・・!」

まず目に飛び込んできたのは、馬車程度の大きさの、モグラとトカゲの間の子のような竜。そしてそれをくわえ込んだまま殴り続けている、白銀の巨大な竜だった。

(あれは、神竜王! ならば、押さえ込まれているのはメディウスか!?)

その傍らには、鎧もマントもズタボロになった、シーダ姫の姿があった。

「デネブっ!!!」

行方不明となっていた二人は、先に来た上に共闘していたということだろうか。ならばあのまさに『土竜』と読んで字のごとく、モグラのような竜は、やはりメディウスなのだろう。幼生体なのではないかと推測できる。

それよりもデネブだった。
ここからではわからない。生きているのだろうか。

{心配はいらぬ。直ぐには死なんし、見た目ほど重傷ではない}
{・・・っ!}

脳に直接響くような声。神竜王の念話のようだ。
そう言われても心配ではあったが、状況はまだつかみきれていない。

{・・・俺は、どうすればいい}
{もうメディウスは復活しておる。完全でないというだけじゃ。
そして、竜脈とも繋がったこやつは、何かしら魔法機関・・・ 魔力を込められる視線、印、言語、とにかく『何か魔法が使える』状態になったらそこで無限と同等の魔力を手に入れる!}
{その前に倒さにゃならんのに、あんたとデネブ二人がかりで出来なかったという事か}
{呪詛返しや回生系は予め仕掛けておくものじゃ。それらは『既に使っている』ものじゃから防げん。
デネブはその内の一つに引っかかったのよ。
もう掴めたか? なら早うせい! 貴様に授けたその『ファルシオン』ならば、わっちの牙や爪と同じく、『竜脈結界』を素通りする。わっちがこやつを押さえ込んどる間に、貴様はこいつの眉間にそれを突き立てろっ!!!}
{・・・解った!!}

つまり、お膳立ては整っていたというわけだ。


・・・思えば、数奇なものだ。

片田舎の寂れた教会兼孤児院から家出した少年が、どういうことか勇者の血を引く王子に似ていて、友人となり、彼に救われ、そして彼がさらわれて・・・
身代わりをしつつ、彼の役目まで果たしていく中、王侯貴族や悪魔に魔女、神やら魔王やら巨竜やらと相対し・・・

いや、いい。
今は思いに耽る時ではない。
そうアイルは思い直し、中二階から祭壇へと飛び降りる。
それくらいの身体能力は身に付けている。少なくとも、マルス本人に劣るような鍛え方はしていない。
剣を持ち替え、幼生竜の眉間めがけて降下した。

予めメディウスが張っておいた結界と回生系魔術では防げない、乾坤の一擲。

「はああああああっ!!」

ほんの少しの腕の痺れはあるものの、ほとんどズレもなく、頭蓋を割った。

魔力を司るのは、生き物の意志。
脳を掻き回されれば、命令は瞬く間に断線し、意味を失う。

『グル、ガァッ・・・』

{・・・間に、おうた、か・・・}

メディウスが小さく呻くのと同時に、神竜も牙と爪を離し、倒れこむ。
竜の姿が萎んで、人の形をとってゆく。
どうやら、神竜王をしてさえも限界だったらしい。
考えてみれば、彼女はある意味『世界そのもの』を抑えていたのだ。
駆け寄ろうとすると、ひらひらと手を振ってみせた。無事ではあるらしい。


神竜王が体を張っての抑えを解いたのなら、大丈夫とは思う。
思うが・・・
アイルとしては、あっけなさ過ぎた感もあった。
自分がしたのは実質、トドメだけだ。
中二階のへりから飛んで、貰った神剣を敵に突き立てただけ。

(いや・・・)

そこまでしてくれた、のだ。
それは、世界や、自分達に繋がる者や、己の享楽の為だけではなく・・・
アイルの側で戦う事を、彼女たちが選んでくれた結果だ。

受け止めた上で、進まねばならない。

『グ、クハッ・・・』
「!?」

メディウスが、まだ動く。

{安心せい。奴はもう魔法が紡げぬ。竜脈とも断線した。
・・・瘴気の結界もそろそろ消えゆくわ。
あの呻きも、断末魔の予兆くらいのものじゃろう}

はたして、そうであった。

『くぉぉぉぉぉぉ・・・・・ん』

それは。
邪竜神ロプトウスなどと聞かされた、邪悪の権化か荒ぶる神かと囁かれた存在とは思えないほど弱々しい叫びだった。

念話が、届く。
メディウスのものだ。
もう、機関が脳の片隅しかないのかもしれない。

{人間め・・・ よくも・・・!}

「闇へと還るがいい・・・ メディウス!!」

{ぐっ…このわしが人間ごときに破れるとは…
だが、心せよ・・・光に護られしアリティアの王子よ…
人の心に悪の心がある限り、我が分身が姿を現すであろう… 人に向かう怨嗟の声は必ず何者かが受け継ぎ、貴様らに仇を為す・・・!
・・・竜とは限らぬ。
あの魔王が作り出した、人の欲の歪みのような生き人形。
蹴落としあいの中で、人に絶望した愚かな賢者。
いや、人の為にだけの都合で生かされ殺される家畜でさえ、集まることで病魔を引き寄せる。人は結局、自分達で己を滅亡に向かわせている・・・!

それが、人の闇なら。
光となんら変わらず、貴様らと共にある!!

心せよ…闇は、光あるかぎり永遠に消えはしないのだと…!!!}

それが。
神に等しい場所に立って、竜の賢者が悟った真理だと言うのか。

(は)

バカバカしい。

「わかっているさ」
{!?}

それが。
何世紀も生きた竜が、神が、悪し様に、得意げに、最後に語ることか。

(俺でさえ、とうに気づいていることを)

ああ。違う。
多分この竜は。
俺よりずっと、人を『善きもの』であると信じたかったのだ。
だから、答えを見失い続けた。
そのままを見てしまえば。
それを含めての、救いも見つけただろうに。

今の、俺のように。

「わかっているさ・・・ だがな、人を愛したはずの竜の賢者が、暗黒をまとう竜と成り果てたように。
世を捨て、人に絶望しかけた人間さえ、誰かのために戦えるようになることだってあるんだ」

真実だ。
誰より俺が知っている。

「変わらないものなどない。

取り戻せないなら、かわりに希望を繋ぐ為に
叫ぶことは出来る」

間違いを繰り返さないために。
自分がそう出来なかったなら、次の誰かのために。
人は、残せる。
きっと、他の『愚かでない』生き物達よりも、多くのものを。

「メディウスッ!!!!!!!!
俺は叫び続けたぞ!!!!!!
貴様を倒したぞ!!!!!!

それでも今の言葉を繰り返すのか!?」

数世紀を生きた、神の一族の賢者に吐く台詞とも思えないが。
それでも、いや、だからこそ。
当の賢者には、思うところがあったのかもしれない。

人を善と思い続け。
それを裏切られた時に、すべてを逆しまとした。
けれど。

『人を愛したはずの竜の賢者が、暗黒をまとう竜と成り果てたように』

そうだ。
そう出来なくしたのが、人であっても。

竜の賢者は、『そうしたかった』わけではない。
『変わらないものなどない』というなら。

自分が怒りに任せて、世界を滅ぼす・・・ などというのは留めて。
最後の瞬間まで、見届けても良かったのではないか。

その上で、人が全てを巻き込んで滅びようとするなら、その時こそ『それ見たことか』と滅ぼすのも一興。

『世を捨て、人に絶望しかけた人間さえ、誰かのために戦えるようになることだってある』と、自分を倒したこの男が言うのなら。

人とは・・・



そこで、竜の賢者の意識は途切れた。


彼の戦いは、そこまでだった。

その後、どんな争いがあるとしても。
彼の戦いは、そこまでだったのだ。


 ・


その亡骸は、竜脈の力に溶けて消えた。

突如輝き、生命の本流に巻き込まれるように、地の底へ消えていった。


血の一滴も、残らなかった。

「終わった・・・のか」

もう、張り詰める必要はない。
即座に、デネブに駆け寄る。

やはりまだ意識はない。安らかとはいかないが、呼吸がおかしいということはなさそうだ。とりあえずの心配はないだろう。
アイルも少し安心し、ふう、と、ため息をつく。

それを、神竜王が笑った。
くすりと、愛しみを込めて。

「好いて、おるのじゃな」
「・・・」

認めるのはやぶさかでないが、そんな甘酸っぱい関係でもない。
童貞を捨てるついでに、知らぬとはいえ親友の許嫁を犯したのが最初で、騙し騙されの時もあった。

互いに嘘ばかりついてきたので、何も伝わらないし、何も信じられていない。

それでも、愛しさだけは募って。


ああ、そんな風に思うと。

『好いておるのじゃな』

結局、それで片付く気もする。


「此奴はな・・・ わっちの分身、なの、じゃよ」
「は?」

唐突に、聞き流せない言葉が出てきた。

「分身? デネブが・・・貴方の、か?」
「く、く・・・悪いが、もう、足らぬ・・・」
「・・・!?」

見ると。
神竜王の体が、透け始めていた。
それはついさっき見ていた現象と似ていた。
メディウスが、光の粒になって、地の底に・・・ 竜脈に消える時とかわらない輝き。

「おい!!」
「・・・案ずる、な。チキの時、と・・・ 同じじゃ。
この世界、そのものの、一部であるわっちは、死には、せん・・・
だが、眠りにつかねば、ならぬ」
「待ってくれ!!
もっと、詳しく・・・ デネブの事を、教えてくれ!!
きっと、大切な事なんだ・・・ あいつにとっても!!

頼むっ!!!」

デネブが神竜王の分身だというのが本当なら。
デネブの真実を知るのは、多分神竜王だけだ。
他につながるものがいない。
そして、デネブの行動は、『神竜王の為の何か』どころか、『神竜王の分身』たる自覚のような物を全く感じさせなかった。

(デネブに、自分が『神竜王の分身』であるという記憶は、多分ない)

ならば。
もしかすると、デネブの目的の一部に。
『自分が何者なのか』を知ることというのがあるのではないか。
そして、それは。
今ここで彼女に聞いておかねば、ほぼ永遠に失ってしまう、『答え』かもしれないのだ。

「ふ」

土下座もしかねないアイルの勢いを見て、神竜王はさも嬉しそうに笑む。

「レコリズライア、ヴァリメイト・・・
スペイタ、リープラウ・・・ エントルスト」
「・・・?」

気を失っているデネブの体が、わずかに光をおびた。
その刹那。

「!?」

あわかった光が、突如線となって結集した。
その線は、呪いの文様のようでありながら、あまりにも規則正しい間隔で引かれた線だった。
爪の先どころか、塵の一つ分さえも違えぬ程の。均等の間隔の線が所々で繋がりまた分岐し、それが全てデネブの脳に向かっている。
そして、もう一つの端につながっているのが、神竜王の指先から繋がる、彼女の脳髄だ。

「これは・・・」
「まあ、見ておれ・・・」

それは。
一瞬だった。

(う、ぐっ!!!!)

二人を繋ぐ光の筋は、アイルにも繋がった。
そして、『思い出すように理解』した。

ミモザであり、フィアであり、デネブと名乗った、魔女。

名もなく、親もなく、使命さえも忘れ。
人を塵芥だとしなければ、塵芥でしかない自分に耐えることなど出来なかった。
失望と快楽と、惰性と欲望と。

悲しみの記憶。


続く



by おかのん (2015-06-08 15:06) 

ぽ村

>>おかのん
投下乙ぅ


>娼館
その娼館は馬車で付いて来てる移動式なんだろうか
それとも行きたい時にテレポートで飛んで行ってるんだろうか・・・

とか妙なことを考えてしまった


そしてメディウス。
割と小さいのね・・・っつかSFC版の見た目っぽいがw
見た目はショボイが、画面に入りきらないほどの巨大な竜で想像してたのでちょっと意外
そしてあっけねぇw

まぁ本番はこれからか・・・
by ぽ村 (2015-06-08 23:29) 

おかのん

>娼館
大きな街なら支店のある、サービスの統一された、勿論『シュテルン商会』の息のかかったお店です。

>ショボい
「復活しきる前に倒すのに成功」するのは実は決めてた事なんですよね。
ちなみに完全復活すると、画面に頭部と片手くらいしか入んない大きさです。
by おかのん (2015-06-09 22:40) 

ぽ村

>>おかのん
>娼館
系列・・・
つまりはフランチャイズ!!?
(違うような・・・)

>復活
リプレイ通りにしなくてはならんとはいえ、嘘でも完全復活したヤツをぶっ殺して欲しかったな(完全復活すると勝利不可なのかしら?いやまぁソコは嘘でもw)
それだと「マジでヤヴァイ英雄誕生」で、その後にも影響する・・・かも
by ぽ村 (2015-06-09 23:20) 

おかのん

職場とイベント事と 久遠 の旅行でバタバタした上に佳境なもんで二ヶ月近く空いてしまった・・・

と、とにかく投下。

~偽りのアルタイル~

終章 欺かれし者たち


その8 ミモザ


『思い出すように理解』した。

それは、デネブに関する神竜王の記憶と。
デネブがアルテミス姫に、『ミモザ』と呼ばれていた頃から、今までの記憶。

たった数分でめぐった・・・
愛した女の、『これまで』。

それは。
死すら生ぬるい、最悪の幸運。


 ・



かつて。

そう。1100年ほども昔である。

神竜王ナーガが妻ナギと共に、チキをさずかったのはこの頃のことだった。

同時に、妻であるナギが『神竜王』となったのもこの頃のことであった。

「・・・『竜脈』に、なる?」
「うむ。儂は既にそうなりつつある。元々竜とはそういう生き物なのだ。
いわば、魂の溜池よ。
その最も優れたものが、流れそのものとなるのは必定」

彼の言っている事は、ナギにはよくわかった。
というか、完成体となった竜には『実感として』解る『感覚』なのだ。
自分が、『溜池』であるということは。

人と似た営みをおくる事は、ナギにはそれなりに魅力だった。しかし、そうでなければならない理由も、それほどの悲しみもなかった。
『そういうもの』だからだ。

常に生きている実感を必要とする、『生命のあり方に精神が引きずられる』もしくは『精神の状態で身体の可能性が変化する』人間とは、良くも悪くも違うのだ。
世界とともにあり、ともに心動かす事も、己を世界に委ねることも、なんら苦痛を伴わない。
人がモノを食い、寝るのと同じような事だからだ。

ただ、そうなれば。
チキの事は、別に考えねばならなかった。

「まま」
「おう、よしよし」

腕の中で自分を呼ぶ、愛する夫との間の娘。

先にあるように、完成体となった竜は、自分達が『魂の溜池』であるという事を知っている。
この世界の中で、己には役割があり、己は個であると同時に世界の一部でもあると。

・・・だが、竜といえど、子供にはそれがない。

世界が自分のものであるような全能感。
母と物理的に分断された事での孤独感。
全てにおいて能力の足りない未熟。

それらを『人』として克服しなければならない。
種族としての黎明を迎える竜は、完成体になるまえに狂うようになってしまった。それを回避する道は、人として成人することで、完成体化するしかない。

人の子としてのチキを、見守らなければならない。

(それが、出来ぬのなら・・・)

共に、眠らねばならない。
永い、時を。



・・・ならば。
備えねばならなかった。

チキが目覚め、人として生きることになった時、支えになるために。
その為には、人の世界のことを、知る必要がある。

(・・・・・・いつになるか、判らぬことだな)

この数百年、いや、数十年の間だけでも、人の世は目まぐるしく変わった。
ならば、常にその時代を知れるような準備をしておくべきだった。

(・・・よし)


術式『レクトメト・コルフォイス』

『それ』は。
大陸中に散布された。

人間の一定数に定着した、条件発動式長期探索術式。
寄生型の菌魔法だ。

宿主が『脳死』と呼ばれる仮死状態となった時のみ休眠寄生状態から開放。それまでに宿主が構築したシナプスをある程度なぞりながら入れ替わる。
大陸中の人間を保菌者にするため、確率的にはほぼいつの時代も一定数が活動。基本的に宿主を踏襲しながらも、『自分が神竜王の分身である』自覚を持ち、『それを他人に漏らさない』事を自らに課す。
神竜王の復活を条件に接続を開始、神竜王にその時代の情報を送信する。

事故で意識を失い、奇跡的に生還したもののいくらかは、この術式で復活している。それまでどおりの本人として振る舞いながらも、その時代を観察し、神竜王が目覚めた時に情報を送る、そのためだけの魔法。

自分が『分身』である自覚はある。それまでの本人の記憶もある。だから不自然さは出にくい。
体を乗っ取るのとは違う。むしろ、そこで死んでいたはずの者に、少々の働きで再びの生を与える、まさに神の奇跡、祝福に近いものだ。

だが。


何事にも例外はあるものだ。



その事例は、稀なものだった。
術式が発動したとほぼ同時に、本人が本当に奇跡的に回復した。
いや、その術式が何らかの影響を与えたかもしれないが。

そして、それは出産直後の事だった。乳幼児の分娩時のトラブルによる死というのも、この文化レベルではけして少なくない。そこで術式が発動してしまったのである。
乳児の時に発現したため、『術式』で発現したもう一つの人格は、『入れ替わる』のではなく『同時に存在』してしまった。本人にとっては、物心ついた時には存在した『心の中の他人』となる。

完全な意味での『二重人格』と言えよう。

そして、この不具合の為に、『術式』そのものにも不具合が起きた。『神竜の分身』としての意識が起動しなかったのだ。故に、『それ』のレゾンデートル(存在理由)はその時点で消失している。

『神竜の分身』というアイデンティティを失った『それ』は、ただの『人格』として存在することになる。

加えて、『神竜の魂』であることによる、潜在能力。
これは、通常の発現時は、顕現しない設定となっていたのだが・・・
術式の不具合によって、一部が解放されてしまっていた。

これの影響を受けて。
この乳児、いわゆる『アルテミス姫』は。
世界を統べるアカネイア王家にふさわしい能力を持つことになる。


 ・


(ミモザ、きょうはなにしてあそぶ?)
{庭の隅に野いちごがなっているの。摂りに行こうよ}
(ええ? それ、わたししらないよ)
{アルティがお昼寝してる時に、散歩してて見つけたの}
(そっか、じゃあいこう!!!)

アルテミスと『ミモザ』は、幼少時は仲が良かった。
アルテミス姫が『誰もが二つの意識を持っている』と思っていたからだ。
他の者は誰もそんなことを想像できない。かの姫の魂には二人分の部屋があるなどと。だから気がつけなかった。故に『それは異常なのだ』と、教える者はいなかった。

しかし。

年月がすぎれば、当然のように違和感が出てくる。
『ミモザ』の時にあったこと、伝えられたことを、ミモザがアルテミス姫に伝え損ねると、ごく短期の記憶でもまるでないような振る舞いになる。

逆に、片方が体を動かしている時、もう一方は意識を切って休むことも出来る。これにより、二人分の活動も可能なので、かなり優秀と取れる面も見せる。疲れを知らないようにしか見えないし、寝る必要がほぼない。

何より、どちらも負けん気があったため、相手を見下すことはないとしても、自分が下だと感じることは許せなかった。ありとあらゆることを競争の対象として、めきめきと知識や技術をつけた。
チェスなど教えようものなら、一週間もしないうちに、大人顔負けの腕前になった。何しろ同等の能力を持つ、負けたくない相手が常に共にいるのである。口頭指しを覚えてからは、空き時間はずっと差し合う。経験の積み重ねが物を言うこの遊戯で、これ以上の条件はない。
両方に備わった『神竜王の魂』の混ざった影響。
それも加われば、その能力の高さは推して知るべし、である。



 ・


転機は、偶然聞いてしまった、宮廷魔道士と父王との会話。
アルテミスについての・・・自分の話。

「『悪魔憑き』の可能性があるのでは・・・」
「ふう・・・む」

大好きな父が、笑い飛ばさなかった。
『ミモザ』は、誰にでもいるものではない、むしろ、いるのはおかしいものだと初めて知ったこの時、アルテミスは6才。

アルテミスとミモザの関係は激変した。

『そこで荒れれば、それこそ<悪魔憑き>としか見られなくなる』

そんな知恵はとっくにあった為、それは静かに終わった。
周りには一切出なかった。その日は食事を取らなかったことくらいだ。

彼女達だけの部屋、心の中だけでの、しかし大喧嘩だった。お互いにまだ幼いこと、売り言葉に買い言葉、驚き、悲しみ、怒り、憎しみ・・・
さながら魔女の大鍋のように、その時結局何が混ざってしまったのかももうわからないような混沌が煮えたぎり、そして。

(もうあんたとは喋んない)

アルテミスの出した答えがこれだった。

そうとだけ一方的に言われて、ミモザは無視されるようになった。
『姫』という立場がどれだけ重いものかを、アルテミスはこの年にして知っていた。父王を敬愛するが故か。
アルテミスはそれでいい。とにもかくにも結論は付いたし、彼女が『主人格』である以上、それを強制するだけの『優先順位』のようなものがあり、アルテミスはミモザを好きなように出来た。

狂いそうになったのはミモザの方だ。

今まで愛されていたからこそ、常に他人と共にいるその事に苦痛を感じなかった。
主に嫌悪されれば、何一つ自由にならぬ、手足さえ持たない魂だけの己。
地獄そのものだ。

何度でも謝った。自分が悪いとは思えなくても、それこそ媚びるように、おもねりをつくして、全て従うからと。

そんな切なる言葉も。
『届かない』ように『してしまった』アルテミスは聞き取れない。
ミモザの言葉の中には、実際に聞きさえすれば、アルテミスの心を動かすものはあったはずだ。
生まれた時からずっと一緒にいた、文字通り魂を分けている相手の懇願だ。
・・・でも。
『届かない』ように『してしまった』。

ミモザのいない生活に慣れるために忙しくしているうちに、またそれによって『悪魔憑き』でないかと疑われた行動が全て消え、安心した様子の父を見て。

アルテミスは完全にミモザを『切り捨てて』しまった。


さて。

そんなこととは関係なく。
十数年も経てば、世界は動き出した。


 ・


アルテミスの青年期。
それは、アカネイア崩壊と逆襲の道程。
英雄アンリとの邂逅、叙情。
暗黒竜の封印。
望まぬ婚姻、絶望。

ただ・・・

最後の一節に、もう一つの魂が存在することで、歪みが生まれる。


 ・


死を、迎えた。
アルテミスは、文武両道に秀でていた。その卓越した能力にもかかわらず、それを発揮する機会はほぼなかった。
むしろ、その能力のおかげで、カルタス伯・・・ 夫の不興をかっていた。
自分の性の下僕、子を宿す器でしかないはずの女が、自分より優れているなどというのは、カルタス伯にとって許されることではなかった。

強姦そのもののセックスと、徹底された監禁、悪魔憑きではなかったかという昔の噂をほじくり返し、物狂いとなったという噂をそれとなく流し、それを隠すように、しかしつくすように庇うことで己の株を上げる『夫』。

最悪である。

しかもその歪んだ夫の怒りは、行為に及ぶ時の猛りを激しくし、あまりにも有利な立場からの監禁は、彼の劣等感を慰め、さらに偏執させた。
チェスに勝てないから、殴り合いをして勝ったと喜ぶ巨漢と変わらない。全てがアルテミスの口より語られればカルタス伯は破滅することもあり、故に彼の監禁は徹底していた。
挙げ句の果てに、『アルテミスの宿命』などという悲劇の叙情詩まで語られることになる。これは、戦後アンリと引き裂かれたことによって『アルテミスが臥せってしまった』理由付けとなってしまい、カルタスが監禁しているという事実を覆い隠してしまった。

そんな絶望の中。
ついにアルテミスは『死んだ』。
死ぬべくして、当然のように。
そこで、終わってしまうはずだった。

しかし。


 ・


発動の不具合があったせいだろうか。
『術式』は、今回も起動した。
『神竜王の魂』をも顕現させていることも重なったのか、『脳死』の原因になった、ショック症状によるダメージからも回復した上で。

久しぶりの音。光。

(なんだ? どうしたんだ・・・)


かつてアイルが数日もしないうちに、溶けそうになった『闇』。
それと同じようなものを、ミモザはアルテミスの『存在否定』の仕打ちによって体験させられていた。
それも、十数年。

しかしここでも、『神竜王の魂』の力を持つが故の耐性が、ミモザの精神を崩壊よりとどめた。
十数年を経たというのに、その間ずっと、光も音も気配すらもない魂の牢獄にいたというのに。

かといって、解放された先が、その苦難に報いるものであったわけでもない。
むしろ最低であった。

体中に立ち込める生臭さ。
股座の違和感と痛み。酩酊感。
隣で聞くに堪えない音を鳴らしているのは、耐え難い獣のような口臭の髭豚。

「・・・ぐえ」

6才までとはいえ、あらゆる本を読んでいたミモザは、判断できないでもなかった。それは幸運なことではなかったが。
この男はアルテミスを『手に入れた』者なのだろう。そしてアルテミスはいいようにされていたのだ。
体を気遣われることもなく、麻薬漬けにされて。

不思議と、怒りは湧かなかった。
この男にも、アルテミスにも。
怒りを覚えるほどの価値を、どちらにも見いだせない。
大きな意味での『人』・・・ 他人という存在がどうでも良くなっていた。

(・・・動く。な)

体は問題ない。
一応このまま、『死んだ』ことになった方がいい気がした。

ミモザは、それまでの少女ではなくなっていた。
多くの書物を記憶していた彼女は、それを反芻することで無聊を慰めていた時期があった。
今現在、この二人に怒りは沸かなかったのは本当だが、それまで、あの無限の暗闇の中で、アルテミスを引き裂いたことも、一度や二度ではない。
多くの書物の中での、拷問などの残虐行為や、それを快楽のように扱うそれも知っているし、逆しまに、人を傷つけることをなんとも思わないそれも反芻した。
利用出来る物は全て利用する、その事に躊躇も感じない。


 ・


次の日の朝。
カルタスは唖然とした。
ベッドが血だらけなのだ。
持ってきた麻薬と酒が空になっていて、その臭いでも部屋は滅茶苦茶だ。
くしゃくしゃのシーツに横たわるのは、顔がズタズタになっている女の死体。
胸も尻も膣も、『あった』のが判るだけで、見る影もなくなっている。
最低なことに。
これを見て、カルタス伯の思ったことは。

「あー・・・ちっ」

ついにやっちまったか。まあしゃーねえか。

・・・というくらいのものだった。
アルテミスのあの身体に猛り狂いながらも、あの高慢な女を切り刻んだらどんなに楽しいかとは常々思っていた。
惜しむらくは酒と麻薬のせいで、その時のことを覚えていないということ。

「まあいい、駒は出来た後だからな」

アルテミスの腹で作ったガキはいる。つまりそいつがいる以上、俺のこの地位は揺るがん・・・

彼に興味があるのは、今はそれくらいのことだった。

だから、ミモザの思い通り、これでアルテミスが死んだと思い込んだカルタスは、そのままその死体をアルテミスとして葬儀に出した。
その日メイドの一人が行方不明になったことなど、報告されても耳に入ってはいない。



続く



by おかのん (2015-07-31 08:00) 

ぽ村

>>おかのん

いやぁ・・・こっちも体調不良に来客にドラゴンズクラウンにガンプラと色々あって記事更新がなかなか出来ないので
ドン( ゚д゚)マイ
キューブ「ほうほう?」



話も終わりとなるとねー
プラモで言うと「使うはずなのに余ったパーツ(しかも重要箇所)」が出てきたりして、回収や再構成したりで大変なんだよねぇ・・;

チキ・・・そんなに寝ていたのか・・・
管理していた人も大変だったろうな
バヌトゥさんだっけ?
ひょっとしたら、管理を始めた時はチキと同じくらいの男児で
いつか目覚める眠れる姫を歳取りながら見守っていた…

と思うとなんかやるせないな。
ヲレのプレイでは冷遇してすまん。
しかし後悔はしていないww

>メイド
をい
をい
をい
カスやんけ・・・

by ぽ村 (2015-07-31 12:45) 

おかのん

バヌトゥの冷遇は成長値的に仕方ないかと。
お役目はご苦労様ですが・・・

間をあけましてすみませぬ。

そしてメイドの件は・・・
ううむカルタスもミモザ(デネブ)もナチュラルにカスだあ・・・
今に始まったことじゃないけど、ヒロインとしてどうよ。

by おかのん (2015-08-03 09:50) 

ぽ村

>>おかのん
あの見た目もプラスすると、ロリコン爺やにしか見えないのもなぁ;

まぁ使わないんだけど(爆)

>間
コチラも負担増な提案してるので、じっくりまったりなペースでドゾー♪
by ぽ村 (2015-08-03 14:24) 

おかのん

・・・随分空けた後に再開しようと思ったタイミングでパソコンぶっこわれて半年ちかくあいてしまいました・・・

まったりとかいうレベルではないw


とにかく続きですあう。


~偽りのアルタイル~

終章 欺かれし者たち


その9 互いにとっての天使で悪魔


その後。
もう何十年と経った後の事である。

ノルダの街。初めて入る酒場。
期間中良い酒が安めに飲めると客引きに会い、カパカパとジョッキを空けつつ、鶏を丸々かじっていた時。

{・・・}

アルテミスがようやく気がついた。

「なんだ。お目覚めか」

ミモザはアルテミスの体を使って、好きに生きていた。
もとより自分の体が欲しくてたまらなかった上、十年以上も感覚さえ無くなる闇の中にいたのだ。感覚があるというだけでハイになり、溜まりに溜まった欲望をぶちまけた。
煙草はあまり合わなかったが、酒に麻薬に美食にセックス、旅に暴力、演劇に踊り・・・
この世にある、人の感覚で綴る、ありとあらゆる快楽を試し、楽しんでいた。
まだまだこの先もそのつもりでいた。

反して・・・

{・・・}

アルテミスはまだ心が壊れたままだった。
意識だけがあるが、思考がない。
ミモザを知っているのに、それに対して何も感じない。
自分の体を好きに使われていても、それで何を喰おうと飲もうと、何を聞いても見ても。
感じない。

どうでもいいことになってしまった。

突如現れた、ドルーアを名乗る国に瞬く間に蹂躙され、住んでいた城も、愛した家族も全て失った。
その全てを取り戻すためと祭り上げられ、耐え難きを耐え忍び難きを忍んで来た。
そして、愛した男とようやく取り戻したはずの、少年期を過ごした城、お前のものだと言われた景色、それまでの自分の全てを包んでいたはずの場所は、戦の中で一番血を浴びて笑っていた髭豚に犯される為の檻に変わった。
閉じ込められた挙句に子を産まされ、廃人にされた。
愛した男とは引き裂かれ、会う事も叶わないままだった。

苦難の末に。
何一つ手に出来ず、それどころか踏みにじられ、二度三度と奪い尽くされた。

奪われるように出来ているとしか思えなかった。

ならばもう。

そんなものは、いらない。
というか、どうでもいい。


・・・そんな思いを、ミモザは、共感出来たが同情は出来なかった。
ミモザに全てを与え、そして全てを奪って、その後忘れ去ったのは他でもないアルテミスだ。
まさに因果応報である。


「何か、言いたい事はあるか?」
{・・・}

応えは無かった。
ミモザも、無いならないでよかった。
何も感じていない『アルテミス』は、ミモザにとって『どうでもいい』モノに成り果てていた。

だから。

この後、アルテミスがミモザと同じものを『見続けた』事を、ミモザは特に意識していなかった。
そして、あくまで彼女が『主人格』だということも、実感として忘れてしまっていた。


 ・


次の日。
ミモザは目を覚ますと、磔にされていた。

「っ!?」

裸にされて、魔術的なものを兼ねた拘束具でがんじがらめにされていた。
昨日の記憶は、やはり丸鳥の蜂蜜焼きを噛じりつつ、ジョッキをカパカパと開けていたところまでしかない。

ミモザは後で知ったことだが、あの店はガーネフの人体実験用検体の狩場だったのである。
ノルダ近くに3つ、周辺の村に一つずつ、旅人の後をつけて行く要員と、仲間がいるかいないか、合流の予定があるかないかをいくらかのパターンで探り、いなくなっても組織や資金力のある個人が探し出す確率が低そうだと思われる者を誘い込むという、面倒ではあるが足の付きにくいやり方で、である。

ノルダの店で直接行うことは少ないが、ミモザは既に1回、周辺の村で一服盛られていたのである。
その時は、薬が効ききらず、大暴れの末に酒場・・・つまりガーネフの人さらい組織の拠点を一つ崩壊させた。

そしてその時、ノルダ周辺に網を持つ組織だというところまでは調べられなかったのである。

むしろ酒場をひとつ潰したことで、また同じような目に直後にあうなどとは思わず・・・ 要するに、油断していた。
無味無臭のかなり強力な薬でおとされ、なすすべはなかったのである。

磔のしかたも徹底していた。
猿轡で、呪文や、歯の中にある起動呪なども封じれるようにしてある。磔も趣味でというより実用だろう。手で印が結べないようにしてある。魔術的な封印も完備というところだ。

(ちっ・・・)

打てる手が何もない。
完全にミモザのミスだった。

それでも何か方法がないか模索しているところに、階段を下りてくるものと思しき、靴音がした。

カツー・・・ン カツー・・・ン

地下牢であろう薄闇の中で、こもった場所によく響く音。この音のあとにもたらされるものは、無駄に過ぎていく命の時間を永らえさせる施しか、もしくは苦痛、被虐を至高とする腐れ果てた欲望を満たしに来る悪魔というのが通例だろう。

要は、主か客だ。

キイ・・・と、鉄の擦れる音がする。

「うほおう。聞いていた通り・・・ いや、それ以上。

これほどの極上品は、見たことがない。これ以降出会えるとも思えませんよ」
「・・・・・・」

神経質そうな、カマキリとイタチの中間のような頭部と体躯。濁りきった目。全く似合わない気取った所作。規則に則っていながら、そこに品格というものを見い出せない、負の後光を纏ったような男。

この男が来ただけで、大体分かってしまった。
いかにも人には言えない趣味を持っていそうな、前述の後者側の嗜好の住人。それを叶えるのに十分な財力を持っている事を見透かさせる衣服の調度。

・・・何ほどのこともない。

穢されるまでもなく、アルテミスの肉体は汚れている。
ミモザの放蕩ぶりのおかげで、行きずりで咥えたモノは数百を超える。
中にはその手の趣味を持つ者も少なからずいた。
あまり趣味に合わないので、最近は拒んでいる。そのおかげで傷跡も消えてきたが、その白い肌の魔力にやられて、痛めつけたいと猛るものはまだ減らない。

膣内射精を拒むこともなかったので、ミモザの膣が透明になった粘液を垂らさない日はなかった。もっとも、魔法で受精卵を簡単につぶせるので、妊娠自体をリスクと捉えないだけだ。それは子殺しそのものなのだが、自分自身を大切なものと感じられないミモザが、そこに頓着するはずもなかった。

命は、支配出来るものが支配している。
そこに尊厳はない。
それは、その命そのものが勝ち取るものだ。
『それを勝ち取る前に消えてしまう命を憂うもの』が力を得る事で、守られるようになるまでは。

・・・男の品定めはねっとりと続いていた。
美しいということは、良くも悪くも人の心を動かす。
結界が新たに張られ、その中で、封印を兼ねた猿轡が外される。
ミモザは開口一番、からかいに出た。

「坊やは泣き叫ぶ方がお好みかい。それとも人形が欲しいだけかな?」

意識してするまでも無く、妖艶だ。

お貴族の馬鹿息子らしきその男は、動揺は見せないまま、しかし絶句した。
今まで、じっとしていろ、おとなしくしろというのに、慈悲を懇願するもの、泣き叫ぶもの、色々いた。しかし・・・

挑発してくるものは、珍しかった。

「・・・人形ですね。貴方はこれから、僕の吐き出すいろいろなものを受け止めていくだけの人生が始まるのですよ」
「ふふ。それはそれは」

悪趣味貴族のエーリヒは、期待を膨らませる。
そうだ。本能を刺激する美しさと、心地よい人肌の暖かささえあればいい。
中で擦ればぬちゃぬちゃと濡れる肉の穴を保ち、水鞠を掴んだ時に喘ぐ程度で、生きるのに不自由ない場所を与えてやるというのに、それを嫌がるのが多すぎるのだ。
かと言って、殺してしまうとその直後しか楽しめない。
だんだん固くなっていくというのも気持ちが悪かった。

精神が死んだまま生きているくらいがちょうどいいというのに、そのままで保てた女はまだいない。
この女は見てくれは間違いなく極上品だ。しかも趣味に一番合う形のといっていい。
陶磁器のような肌、ほっそりとした肢体、そして少なくとも、泣き叫ぶようなわからず屋でも、懇願でしらけさせるような真似もしなさそうだ。

だが。

この男・・・
エーリヒの希望は奇妙な偶然から、もしくは数奇な運命から、別の形で、もっとも沿う形で叶うこととなる。

「・・・っ!?」

ミモザの視界が、歪む。
いくつもの色調を交互に、いや、遠近を、焦点をずらして同時に展開する。色が反転しながら歪んだようなそれは、意識が体からぶちぶちと音を立てて引き剥がされるような感覚だった。

「あっ・・・がー・・・」
「? どうしたのです?」

それは、あまりにもあっけない『変化』だった。
ミモザは文字通り、『魂が抜けた』感じだった。
最初から磔にされているだけに、力を抜いた以上には見えない。しかし、その目は、淀みながらも渦を巻いて輝いていた、欲と自儘の権化のような光がごっそりと消え・・・

「・・・」

生きているだけの、骸となっていた。





 ・

(・・・・・・?)


真空の中央に固定され、ムール貝に割れない泡のついたような物の中で浮いている水晶体。
ミモザが次に気がついたのはその中だった。
手足などなく、意識だけとなったことでの混乱も落ち着かないままに、見せつけられたのは老人の破顔。
およそこれ以上醜いものもないだろうと思える、死に爛れた欲望の歪み。

「おお・・・おお!
成功したか!! 『霊魂』の生成に!!」

それは(後に知ることになるが)、ガーネフだった。
彼は、『霊魂』の生成を成す事で、とある目的に一歩近づいたとこの時は歓喜していた。
だが、彼のした事は、擬似的なシナプスの交流を、魔力結晶の中で行おうと『器を作った』事と、マナの流れをこの結晶体に引き寄せ、その対流の中で生まれるものの定着を促す実験の第一段階を整えたことだけだ。

つまり、脳の代わりを魔法の石でやろうとしたのだ。その際必要になるのが起動因子、魂のようなもの、だ。

そして、魂と竜脈の巡りは川の流れのようなものだから、せき止めてみたらそれっぽいものが出来たりしないだろうかと思ってやってみた、というだけなのだ。
そこに、たまたまそばに(直下の地下牢に)居たミモザの魂が若干弱っていたため、その石に引き寄せられてしまったのである。
この事実は不幸な事に、二匹目の泥鰌を狙って、同じ実験を繰り返す愚行を彼にさせた。
結果、何の成果も得られなかった上に、上手くいった原因を見つけられなかったガーネフは、この研究を凍結させてしまった。


そして・・・


並行して行っていた、『ツァーレン計画』、中でも『ドゥツェント』と呼ばれるチームへの実験が苛烈を極める要因になる。

{これ・・・は・・・}

アイルは、デネブの記憶の中で、懐かしい顔に出会う。

そこには。

フィアツェンがいた。
フュンフツェンがいた。
ゼクツェンがいた。
ジブツェンがいた。
アハツェンがいた。
ノインツェンがいた。

いや、まだそこに番号としてのそれがふってあるだけで、はっきりとはわからない。
だが培養槽には、アイルの・・・
ドライツェンの知る家族の名が刻まれていた。

それの前段階の実験体であろう、何人もの男女もいた。
彼らの顔立ちは、アイルの家族達の・・・孤児院の皆の面影をどことなく感じさせた。
同時に、今思えば、それは各地の英雄達の面影さえもあった。

{そういう、事か・・・}

並行して行っていた実験を区別していなかったガーネフは、ミモザを検体ナンバー4、すなわち『フィア』とし、興味を失った後は、ドゥツェント達の実験室の隣の部屋にほっぽった。
それを偶然見つけたドゥツェント達との関わり。
脱出計画、そして・・・

{・・・俺は、デネブの気まぐれで『こう』生まれたのか}

出生の秘密。

デネブのお遊びで生まれた『自分』。

・・・わかっている。どう生まれたかは、影響があるかもしれないが、その人間の本質はその者自身が決めることが出来る。
王は優れた海賊がなるように。
愚鈍な血が革命で粛清されるように。
何を為すかこそが人の本質だ。

だから、むしろその運命を嬉しくさえ思った。
俺は、骨の髄までこの女と縛られている・・・そう思える事が快感だった。


その後も、ミモザの・・・この時の名はティアの、それを見せつけられ続けるアルテミスの記憶は続く。


・・・そして。


ガーネフの研究施設を脱走後、共に逃げたエルフとツヴェルフ。
ティアと名を変えたミモザは、エルフの体を奪った。元々この二人は自我が薄い。ティアの後続実験の失敗作だ。
アルティは魔力結晶体のままでツヴェルフに所持される形で、その実ツヴェルフを『操って』いる。

そのアルティが、ある日唐突に意識を飛ばしてきた。

{アンリを復活させルわ}
「は?」

それは、とっくに忘れきっていた、しかしいまだに魂の主・・・主人格であるアルテミス・・・アルティからの命令だった。
元の体にいた時は、ミモザを内包するという不具合をそのままにし、その副人格を拘束する、程なく主人格が閉塞する、副人格が体を乗っ取る、挙句の果てに魔力結晶体への移植・・・
その無茶のせいで綻びが感じられるような歪みのきいた声。
で、復活の第一声がそれだった。

「何を言っているんだお前は」
{貴方こそクちの口の利キ方に気をつけナさい}
「何をえらそ・・・うぐっ!?」

喀血した。空気が流れるはずの場所から出てくる、黒味を帯びた血。

{肺胞をひトつ潰しタわ}
「かほっ・・・な、な・・・」
{貴方ヲエるフの体に移すまエに、エルふの体の『全て』を、あたしがあヤつれルようにしておイたのよ}

それは。
彼女の意思で、血管を絶つことも、三半規管を攪拌する事も、網膜を焼け爛れさせることも可能だということか。

言うことを聞くしかなかった。
より強い憎しみを覚えたが、それだけだった。
どうしようもなかった。

「・・・具体的には、どうするんだ」
{魂ト死のオーブを作リなさい}
「なんだそれは」
{イま頭にブちこンであげるワよ}

その声と同時に。
ティアの意識内に、『死のオーブ』と『魂のオーブ』の概要が『思い出され』た。
勿論、今『知った』ばかりの情報だ。しかし、耳から聞くでもなく、書物を読み込んで知るでもなく、まるで元々知っていたように、脳裏に克明に浮かび上がるそれ。
天才魔導士が、もしくは大賢者が、探求と研鑽の彼方でたどり着くであろう、生命と魂の有り様を弄ぶ神の魔具、邪の神器。
そんなものの『作り方』が、一瞬にして理解出来てしまうそのそれ。

似た物でさえ違和であると知りつつ形容するなら、『思い出す』としか言いようが無いのだ。

「ぐっ・・・は」

気持ち悪い。
段階を踏まない『知』というのは、まるでたちの悪い粗悪な酒を浴びた後に、薬物で脱力させられたような不快感がある。

{私ハ、あノ人を取り戻ス。他のナにを犠牲にしテも}

理解はしたが、ティアの方はそれどころではなかった。

嘔吐感と酩酊で、精神まで壊れそうだ。体と心は別のようで繋がりは感じるより深いものだ。

王族としてのアルテミスが、禁制の書庫で知った『オーブ』の概要。
悪徳魔導士の探求資料から組み立てた魔道の闇の闇。
そこから見出した、

『失われるからこそ尊い』ものの、冒涜。


そこから、あの日までの。
短い物語が綴られた。


アンリが、他の女に産ませた、
けれど、愛しいアンリを継いだその血。
マルス王子。
アンリのような逞しさは無くても、その瞳の中に静かに燃える光は確かにかの人のそれ。

アルティは、当然のように、

{マルスを『アンリの入れ物』として、目をつけたのか}

まず確保することしか考えてはいなかった。
だが、攫う時に遭遇した、見た目そっくりのアイル。

{俺が、ティア・・・デネブの気まぐれで作られた生き物とも知らず}

さらに遡れば、作られたとき、コーネリアスの因子のせいで、マルスそっくりになることさえ知りもせず。

{俺が自発的に、マルスと成り代わったことも好都合で}

戦場に出ざるを得ない立場なのも、答えられないほどの都合のよさで。

{死のオーブの欠点は、使えば使うほど、使用者の生命力も削られていくこと}

魂のオーブで復活の儀式を行うとき、使用者は『魂の鋳型』の役割を果たすために、消費されることも、間違いなく欠点だ。
それはアルティにとってはどうでもいいことなのだろうが。

{デネブにとっても、俺は玩具で、飽きれば捨ててもいいものだった}

けれど、なぜだろう。
一度通じれば、思いのほか気に入った。
何者かを知り『自分がいなければ存在しなかった者』として、デネブの思いが入ってしまっていた『アイル』は、そうと知れば更に惜しいものになった。

{あいつと時に対等に、時に弄ばれ、時に譲らず不機嫌の種になり、時に甘え、時に容認し、時に頼り、時に唾棄し・・・
俺が、俺であるほどに}

だから、デネブは。

{『共犯者、のようなものか』}

これが、ショックだった。

{生まれながらにアルティの『共犯者』だったデネブは、その意味の取り方が俺とずれている。
俺が『秘密を共有する、離れることが互いの破滅を意味する存在』という感じの意味ととっていたのに対し・・・}

デネブの中では、『いずれ消し去らねば、己を破滅させる存在』という意味だった。

無論、アルティのように、だ。

今は無理でも。
いずれ、必ず。

そして、確かに当時のデネブの存在は。
アイルにとって間違いなく。

{『いずれ消し去らねば、己を破滅させる存在』でもあった}

デネブにとって、簡単には捨てられないモノでも。
アイルにとって、既に愛した女であっても。
『アイルにとってのデネブ』を、デネブは理解していた。

{だから}

決意した。

{俺を、捨てると}

消し去られる前に、消さねばならないと。そして。

{せっかくだから、ただ捨てるなんてことはすまいと}

デネブを利用しておきながら、いずれ捨てるつもりのアルティ共々、纏めて意趣返しをしてやろうと。

{自分が死ぬとも知らず、マルスを人質に、俺にアンリを復活させ・・・}

マルスを器に、復活したアンリを。

{アルティの目の前で}

殺す。









それは、同情出来ないながらも、あまりにも悲しい彼女の。
彼女なりの、愛憎表現。


続く。

by おかのん (2016-01-28 23:05) 

ぽ村

>>おかのん
久々の投下乙

そっちのブログでの追いつき状態とか
畳み方を模索して遅れているのかなとか思ってた

そして掴みから何十年後ときたもんだから、面倒なことを吹っ飛ばして結果報告なのかと思ってしまったスマン;


>10年以上
現代だとただれた生活で体中ピアス&タトゥーだらけになってそうだ…
そして魔法で避妊なんてまぁ便利なことw


オリジナルの連中がかなり幅を利かせてるが、ココで本編の連中が一矢報いることがあるんだろうか…
そういえば(ry


拾うべき複線というか素材はまだあるみたいね・・・
by ぽ村 (2016-01-30 07:31) 

おかのん

>畳み方を模索
それは勿論ありますが。
この話でハッピーエンドだとどっちらけだろうか・・・
いやしかしこんな話だからこそある程度希望がないといくらなんでも・・・

てなとこでさえまだ決心がいきませんw

>すっとばして結果報告
さらさらないんですが、大人の事情でそうなった作品もありますよなー・・・
最大公約数しか見ない、現利益至上の弊害;

>本編連中
『彼女』はまだ出てくるし、『あの人』も『あいつ』もキーマンだけど、クライマックスだけにどうしてもオリジナルよりに・・・

>拾うべき複線
うん、全部は無理w 今更感全開ネタも多いですしw
by おかのん (2016-01-31 09:19) 

ぽ村

>>おかのん
やはり終わらせ方って一番難しいよな…

バッドエンドにしてもハッピーエンドにしてももう一方のエンドの可能性と言うか、
ハッピーなら暗い未来の可能性
バッドなら明るい未来の可能性を匂わせれば余韻が残るんじゃないかなと思う(また勝手なコトをwww)

>複線
全部拾ってgdgdにするよりはスパッと終わらせるのがいいとおもいますーわ☆
by ぽ村 (2016-01-31 12:24) 

おかのん

~偽りのアルタイル~

終章 欺かれし者達


その10 復讐と、別れと、巣立ちと、希望と


『思い出すように理解』した。

神竜王ナギが、娘チキのために、人の世を理解するために放った魔術。

術式『レクトメト・コルフォイス』

事故などで脳死を起こしたものを魔術で復活させる代わりに、その者の記憶を捧げさせる『祝福のような呪い』。

その不具合で生まれた、アカネイア王族直系の姫、アルテミスのもうひとつの人格、『ミモザ』。

『フィア』であり、『デネブ』である、女。

(神竜王の分身・・・というのは、そういうことか・・・!)

そして。

旗頭として利用され、愛する者と引き裂かれ、狂っていくアルテミスと、そんな彼女に突如疎ましがられ、拒絶され、忘れ去られていたデネブ。

(何かを信じるとか以前の問題だ)

人としてのぬくもりも情もあったものではない。
およそ人間として生きているとは言えない。色々な意味で。

見ているこっちがつら過ぎる。


ミモザであり、フィアであり、デネブと名乗った、魔女。

名もなく、親もなく、使命さえも忘れ。
人を塵芥だとしなければ、塵芥でしかない自分に耐えることなど出来なかった。
失望と快楽と、惰性と欲望と。

悲しみの記憶。


(まずい。これは・・・)

解ってしまった。
この女が、自分をどうするつもりか。
この後、自分がどうなるか。

「う、うう・・・」

(デネブ)

とっさに声をかけそうになって、躊躇する。
だが無駄だろう。
気がつきかけているこの現状で、アイルが駆け寄ろうと逃げようと、一瞬で奴は判断する。

自分が、如何するべきかを。


ならば。

「デネブ!!」


駆け寄った。

・・・演技はいらない。ここでは、まだ。
ただ愛しさのまま手をとればいい。

どうなるか判っていても。
判っているのなら、その間に考える。
どうすれば、いい。
俺は・・・

(俺は、どうしたい)

デネブの、幸せを。
彼女が、望むことさえ出来ないような、思いつきもしないような、安らぎを。
マルスが、アルタイルというこの名を与えてくれたような、絶対の肯定を。

生きていく、意味を。

どうしてやればいい。

考えろ。あと2秒と誤差分。
きっとこのクソ女は躊躇わない。
勘違いと知りもしないで、やらかす。
なら。

『変えては駄目』だ。

伝える?

この女は、俺に時間を与えないだろう。
ナギもきっといずれ伝えるつもりだった、こいつの『真実』・・・あの長ったらしい物語を語る時間を残すまい。
なら。

別のことを。

信じるに足る証と共に。


価値観ごとごっそり塗り替えてやらないといけない。

クソ。


ようやく纏まってきたというのに時間がない。
考えながらしゃべれるか?
多少たどたどしいほうが真実味が出るか?
ああくそこんなことなら、マルスの許婚の身体だとか餓鬼みてえな意地とか考えずに突っ込んで堪能しておけばよかっ・・・


ずぶり。
ざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅっ・・・

ずどどどどどどどどどどどどどどどっ!!!!

邪槍ヘルファントが、アイルの背中から生えるように突き出る。
この槍の特性である、『この数秒の有り得た未来』を再現する呪いが、実体を伴う追加攻撃となって、アイルの四肢を、臓器を、神経を筋肉を骨をズタズタに絶つ。
その間隙を縫って召喚された魔槍ネメシスが、輪を描くような浮遊のあと、一斉にアイルに突き刺さる。

「が!! ふっ・・・」
(予想通りとはいえここまで手加減無しかクソ女っ!?)

「あはははははははははははっ!!!」

頭の痛くなるようなキンキンとした笑い声が響き渡る。

この女とは思えないほどに、爽快に、心から笑っている。
それが判る。

「アイル、わけが解らないだろう? そうだよなあ。

私達は『共犯者』だ。それは、互いに油断ならない存在でありつつ、共にあらねばならない筈だ。
だがな。

『共にあり続ける』事の不可能なお互いでもある。

・・・そうだろう?
自分の運命を握っている他人がいるなどという事が、許容できるはずもない。
保身のすべを見つけてしまえば、そいつを売ることが切り札になるお互い。長続きするはずもない。
私はな。それを『生まれたときから知っている』」
「・・・・・・」

『ふはは、意味が解らないだろう』と言わんばかりのドヤ顔が最高にむかつく。
実はとてもとても解ってやれているだけに、こちらの気持ちをサッパリ解っていない阿呆さ加減に、怒りを通り越して愛おしさを覚えた。

こんなことになる前に。
全部伝えていればよかったのか。
いや。

隠していたつもりなんていない。骨の髄まで愛していたつもりだった。惜しむらくは、この女には骨の髄どころか神経も通っていない。二重の意味で。

「・・・お前は最初から私の掌の上で踊っていただけだったのさ。
死のオーブには、使用者をも蝕む作用がある。そして魂のオーブは、『復活の儀式起動時にも魂を一つ必要』とする。
魂の流れと竜脈の胎動を結びつける『まだ人の身体の中にある魂』をな。

今更だが、私達の目的を教えてやろう。
かの英雄、『アンリ』の・・・マルスの先祖の復活だ。
なぜそんなことをするのかって?
私の主・・・『アルティ』は、かつてアンリと恋仲だった、このアカネイア大陸の最大国家、聖アカネイア王国の直系、アルテミス姫だからだ。

そしてお前はそのための、使い捨ての道具に過ぎなかった」

それも知っている。
こいつの事はついさっき、『思い出すように理解した』ばかりだ。

「だが!
お前はそれさえも果たさずに終わる。
何の役にも立たずに、惨めに消え去る!!

何故なら!! 私はアルティに反逆する気だからだ!!
お前は、私の意趣返しと皮肉を含んだ、くだらない復讐の犠牲になる!!

今お前はここで死ぬ。
アルテミスの目の前で、死と魂のオーブも割ってやる!!

マルスの身体を入れ物にして、英雄アンリをかつての恋人を復活させるアルテミスの望みは、ここで私のうさばらしのネタになって砕け散るのだよ!!

さあ顔を見せろアルテミス。お前のことだ、どうせ見てはいるのだろう!?
私の企みもうすうすは気がついていただろうし、なにより、竜脈を使っていた暗黒竜メディウスを倒すことで、十分な量の魂を確実に確保するつもりだった貴様が、この場面でここにいないわけはないんだ!!

どこからでもくるがいい。ここは遮蔽物のない空間だ。死と魂のオーブがここにある以上、出てこざるを得まい!!」

デネブはもう、アイルに注目していない。
いつからこの女は、アイルを『諦めて』いたのだろう。
それでも、心を通わそうとする、ふざけたような態度の中で、本音を紛れ込ませてきたのだろうか。

いずれ失うものだと理解しながら。
それでも触れれば心地よいから。
どのみち殺してしまうけれど。
覚えておける温もりを求め。









ならば。







「・・・デネブ」
「ん? なんだ、まだ死んでいないのかお前。
まあ、遺言でもあれば聞いてやろう。そうだな、マルスのやつは、アルテミスにしてみれば大事なアンリの器だが、私にとっては興味のないガキだ。生かしてやる予定なんで、伝えることがあったら聞いておくぞ?」
「・・・いや、いい。それより・・・」

マルスに伝えたい事。なくはないが、身体の限界は近い。
ならば、こいつにこそ、言うことがある。

「ありがとう。今まで」

最後だろうからこそ。
『俺らしくなく』いこうか。

「『お前のモノ』として、使い捨てられる、というのも、わるく、ない」

恨み言の一つも言わず。
弱々しくも、微笑んで。

「きっと、幾度、繰り返しても、足らない、けど。

あいして、いる。

お前が、心から、幸せを感じる時が、来る事を・・・
祈って、いる。
デネブ・・・ いや、ミモザか。
それとも・・・ フィアのほうが、好きか?

デネブ・・・ 愛して・・・」

すこし、くすぐったくなってきた。

「え・・・」

デネブは、呆然と見ていた。はじめて見る表情に、アイルは少し嬉しくなった。

だが、もう、脳に血がまわっていかない。考えることが出来ない。『愛している』と伝えることだけを覚えておいて、繰り返すことがせいぜいだろうか。

覚悟はしていたから、痛みは何とかなっている。
いや、常日頃飲んでいる鎮痛剤や麻痺薬のおかげもあるか。
実はアイルの身体はもうボロボロなのだ。死のオーブの副作用なのは言うまでもない。

利用されていただけだなどということは随分前から知っている。
それでもマルスを救う為に、立ち止まるわけには行かなかった。

けれど。


生きる意味を与えてくれた友の為に始めた、偽りと義憤に彩られたこの青年の戦いは。

ここで、   歩みを、止める。







  ・



「まて・・・

ちょっと、まて!!
・・・なんだそれは!?

どうして、ミモザの名を・・・いや、そんな事はどうでもいい!!」

どうでも良くはない。
ミモザは、アルテミスの中にいたときにだけ使っていた名。
それを知っているということは、アイルはデネブの本質にたどり着いた可能性があることを意味する。

そして、アイルは今死の淵にいる。
他ならぬデネブの手によってという部分はともかく。
・・・死の間際の人間の言葉は、真実だろう。最後に伝えたい言葉を嘘にする必要はない。その先に自分が存在しない言葉には、責任の持ちようがない。基本的に懺悔や隠した本音が多い。

魂の尽きる最後に。
残してゆく、遺してゆく言葉は。
殺した相手への、愛のささやき。
自分への、求愛。
裏切っていたと、利用しただけだと、そう吐き捨てた後になお。
『君に、幸せを』と祈った、ひと。

わたしが、ころしたひと。









すきだったけど。


なにもつたえずに、あきらめたひと。





「まってぇぇぇえええええっ!!!!!!!!!」

叫びに意味はない。
時は不可逆。
ただ進んでいく。
流れ出る血が戻らぬのと同じ意味で尽き続けている彼の命。

愛してくれているのを知らないまま、殺してしまった彼が、本当にただの肉と骨に成り果てるまで後数秒。

「ちがうっ、そんな、なんで!!? それなら、私はもう、何もいらなかったのに、だって、どうして言ってくれずに、・・・じゃなくて!!
こんな、こんなの、わたしは、したのは私だけど、知ってれば、嫌、嫌だ。どうしてぇっ!!?」

アイルは、互いに嘘をつき過ぎた自分達が分かり合うにはどうしたらいいか迷っていた。そもそも利用されているのに気づいていた為、余計にデネブの真意も図りかねていた。事実、アイルの想像の斜め上であった。

すべてを知って、死に際の今だからこそ、伝わると確信して伝えられた。
伝えるとしたら、今しかなかった。
すべてが手遅れの、今しか。

アイルを殺すのなら、アルティへのあてつけにするなら、今しかないとデネブが考えた、今しか。


間違いなく伝わった。

真実であると確信するほどに、自分の愚かしさにデネブが絶望するこの時に。

「まだ、『マルス』の身体に魂を移せば・・・ いや、アルティがまだ来ていない・・・ 私の中に・・・ 3つの魂は入らない・・・っ」

泣き叫びながら。
混乱した頭で、それでも探る。が。

打開策は全て、思いつく限りに封じてあった。
瀬戸際でアルティに利用されないために。
つまり、自分が断った。

「そうだ!アンリを復活させる為の魂のオーブを、アイルに・・・!!」

その時。
デネブの背のほうに、炎がともる。

炎の矢が、柱の間から閃いて、デネブの肩に突き刺さった。

「があっ!?」

パルティアの矢だった。
炎をまとい、その軌跡に地を這う炎を召喚する、戦略兵器としても使える伝説の弓矢。

「あはははははははははっ!!!!!!!」
「!?」

振り返った先で、なおも響き渡る嘲笑。
とても。
とても聞き覚えのある声だった。

アイルのそばにいつもいた、見守っている姉のような女。
遠い昔、常に自分と共にいた、同じからだの中にいた、他人。

パルティアの使い手、ノルンが響かせる。
アルテミス姫のような、嘲りの笑い声。

「そうねえ・・・魂のオーブを使えば、カレ、生き返るわねえぇ!?
つまり、貴方は・・・ 魂のオーブを『壊すことが出来ない』!!

この私がノコノコと出てきた今!!、魂のオーブを目の前で砕く事が、何よりの嫌がらせだって判ってても!!
私の唯一の望み、アンリの復活を阻止する最良の方法だって判ってても!!

『貴方自身が縋りたい希望』の為に、絶対にそうすることが出来ないっ!!!!!」
「貴様・・・っ」

アルティだと、すぐにわかった。
デネブがそもそも、シーダの身体を間借りしてここにいるのだ。
何らかの形で、ノルンの身体をアルティが拝借したとしても、デネブは不思議には思わなかった。

ただ、この状況は、最悪だ。

デネブの切り札であったはずの『アイルの死』と『魂のオーブの破壊』が、デネブ自身のアキレス腱になってしまった。
しかも。

(よりにもよって、ノルンの身体を手にいれて・・・)

今まで、アルティは霊体、魂のみの存在だった。
ガーネフの実験体である、魔力結晶『フィア』と名づけられた宝石内にいて、人に入り込むことはしようとしなかった。

そもそも、デネブが、エルフ・・・『アルティの操り人形』である身体から、シーダの身体に移った時、そのまま逃げてしまわなかったのは、この復讐のためだというのに。

今度は、デネブが、逃げられない。
『アイル』の思いを、受け入れてしまったから。
信じて、しまったから。

でも。
だから。

ああ そうか。


「・・・私は」


初めて、デネブは。

苛立ちでもなく。
被虐でもなく。
快楽でもなく。
生きるためでさえなく。
誰かの。自分を含めた、誰かとの。

希望のために。


「・・・アルティ。私は・・・
貴様を、殺すっ!!!」
「やってみなさいよクソ悪魔っ!!!!!!」

質の違う激昂が、重なる。

アルティに身体を明け渡したノルンの顔が、憤怒にゆがむ。
デネブの操るシーダの瞳が、輝くように燃えた。

闇の霧が炎のように揺らめき、邪槍ヘルファントとなって、デネブの手に収まる。漆黒の稲妻が荒れ狂い、よどみの一つ一つが、魔槍ネメシスとなって顕現する。

炎を纏う聖なる光が、パルティアを浮遊させ、ノルンの背を守る。
人ならぬものが番える弓には、幾十もの炎の矢が現れ、大地を裂く火柱が猛る。

涙の痕を残し、茨の道を行かんとする聖女のような天馬騎士は、闇の雷と暗黒の槍を構えて疾駆し。

愉悦に歪んだ笑みを隠さぬ、聖母のような弓騎士は、奇跡のように神々しい炎を纏って、双剣を顕現させた。


続く

by おかのん (2016-04-15 15:12) 

ぽ村

>>おかのん



反逆実行きたあああああああ
いやまぁずっと来るんだろうなぁこの瞬間とか思ってましたともさ

しかしまぁ
実行に移すときは隙も声もださずに、本物のマルスの前で実行するんかなぁとか思ってたんだけどな!

ああしかしコレって最後は生きも絶え絶えの男に(まだ先読みっぽくなるので略)
・・・・
なんかこのやりとりも久々ねぃw
by ぽ村 (2016-04-16 02:26) 

おかのん

>実行に移すときは隙も声もださずに、本物のマルスの前で実行するんかなぁとか思ってた

はい、やったとたんに破綻した上にほぼバレバレで、逆に引導を渡されかねない状況になってしまいましたw
さあて・・・
方向性だけはまあ決めましたが、細かい部分はライブな感じで書いてます。どうなることやら・・・
by おかのん (2016-04-17 03:40) 

ぽ村

>>おかのん
そうそう。
余計なことダベってると心にもタイミング的にも隙を出してしまうんだよー
アイルが一番隙出すのはマルスの前に間違いないので
ソコに全精力を込めて・・・という感じかなと思ってた



・・・なのに
いわんこっちゃないw
by ぽ村 (2016-04-17 14:33) 

おかのん

やっと・・・

やっと、続きが!!


ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。半年以上ぶり(泣)


~偽りのアルタイル~


終章 欺かれし者達



その11 ゆうしゃさま


その時。だった。
まさにその時、顕現した。

だが、それは、『そうなったからこそ』顕現してしまったのだ。
竜族の女王より受けた、『メディエ・ギフト』。

そもそも、アイルが。
『こいつこそが最強だ』と、思っていたのは誰だったか。
誰と『同等の存在でありたい』と思っていたか。
この先、『どうしたかった』か。

目覚めたばかりの力を、自在に使えるわけもない。
前提が満たされねば、発動するわけはない。
だから、このとき初めて効果が現れた。
例えばそれは。

混ざらないインク。
溶けない塩。
精神階層での融和を回避出来る、超魔法。
精神の力を精神のままに行使出来る超存在。

『肉体なしに存在する魂』。
いや、もっと簡潔に表すなら。
『乗り移れる幽霊』。

それは。


アルテミス姫と。
『デネブ』と。

同じ存在といえた。

だが、悲しいかな。
自分を『死んだ』と認識したそれは、意識を手放していた。
目でもなく耳でもなく鼻でもなく、『感じる』事で認識する世界を、まどろみの中での夢のように理解していた。




 ・



『ァアルテミスゥウウウッ!!!』

怨嗟に満ちた『ノルン』の声が、『アルテミス』の脳内に響く。
それさえもアルテミスには愉悦だ。

自分から全てを奪い。
祭り上げてさらに奪い。
希望も愛も尊厳も果ては人格も良心の欠片さえも踏み砕き。
そしてそのままなんの痛痒も感じずに100年続いてなお続こうとする人の世とその子孫達。

その存在の醜悪さに憤る彼女にとって。
自分もまたその人間である事にまで嫌悪する彼女にとって。
『人間の憤怒と怨嗟の呻き』は、心を沸き立たせる。

助けを求めた声も、懇願も、怒りさえも、無視された。
今度は、自分が『そう』している。
それが醜い事を理解していても、止められない。


 ・


ノルンは怒っていた。


ノルンはアルテミスとの取引によって、アルテミスに体を奪われていた。


『魔女の裏切りによって、英雄が落命した時。
英霊アルテミスは、弓騎士ノルンの身体を借り受け、出来うる限りの事を行って、勇者の蘇生を行う』


これは、契約だ。

暗黒竜を倒しに行く決戦の前に、この文章なら、ノルンは疑いを持ちようがなかった。

『デネブが裏切って、アイルが死んだら。
アルテミスはノルンの体を借りて、アイルを生き返らせる』

と取るだろう。
しかし、この『勇者』というのは。
ともすればコーネリアスでもアストリアでもいい。
『勇者』なのだから。
そして、アルテミスが求める『勇者』など、一人しかいない。
英雄王アンリである。

つまりノルンは、

『デネブの馬鹿が勘違いで暴走して、アイルを殺したら、ノルンの体を頂いて、邪魔なデネブをぶっ殺した上で、アンリを復活させる』

という、ノルンになんのメリットもない契約を結ばされていたのである。


『ァアルテミスゥウウウッ!!!』

 デネブの怨嗟の声。『アルテミス』に操られた自分の脳内に響き渡るそれが、そのまま自分の声と重なる。
恋敵であったり、単に敵であったり、同じ軍に籍を置く客将であったりした互いであるが、ここまで思いが重なったこともなかったであろう。

『殺してやるっ・・・』

一度叫んでからは、静かに、暗く、谷底のように深くそう思えた。
それでも。
いくらお互いの心が重なろうとも。
今この場では何の役にも立たない。

『どうしてっ・・・』

自分は、あんな馬鹿な契約を。

だが、事ここに至って、ノルンに出来ることはなかった。


 ・


さながらそこは地獄の釜の中だった。

パルティアは炎の弓だ。しかも飛ばされる矢だけでなく、その風圧が引き裂いた地面からも火炎が吹き出し、突き立った場所は爆砕して燃え上がる。
そんな矢を番えて打つのでなく、意志の力で操っている。射線上が爆裂する矢を思った通りに連続で放つなどというのは、中距離戦の1対1では反則に近い。

かと言って、相手の方…デネブも反則加減では引けを取らない。

いくらでも生み出すことの出来る、これまた意志の力で乱舞する雷撃付きの剣。『数秒前に遡って別の可能性を他次元から複数引き出す』…つまり受け止められた瞬間分身して突き刺さってくる槍。
そして魔法で底上げされた反応速度や膂力。これも中距離~接近戦で考えて無敵もいいところだろう。

が。

「そらそらどうしたのよ!? 一発でも当たれば借り物のお姫様の体が吹き飛ぶわよ!」

アルテミスは嫐るように逃げ場を絞っている…ように見えるが、実は焦りがある。掠らせて、動揺を引き出すための一発を綺麗に躱されたり、逃げ場を奪えるあと2手くらいでするりと逃げられているからだ。ここまでされれば気が付く。実はアルテミスの方が、デネブの思うところに撃たされたり、意図を読まれたりしているのだ。

無理からぬことではあった。

アルテミスは生前は戦場どころか政においても蚊帳の外だった。ただただ旗印として利用され、捨てられた人生だったのだ。魂のみの存在となって、乗り移った先の体を操るのもデネブに任せっきりだったひきこもりである。勿論子供時代に学んだことや、デネブが離れてからの試行錯誤もあるが、とにかく経験が足らないのである。

かと言ってデネブも、赤子の手をひねるように、とはいかない。

そこまでアルテミスを翻弄しながらも、結局『倒せていない事実』そのものが雄弁に語っている。思ったままに射線が爆裂し地面が燃え盛り着弾点の爆裂する超魔法が乱れ飛ぶ空間で、自身の無事の確保はなんとか出来ても、攻め込むまでの隙をどうしても見出せないのだ。
近づけば近づくほどアルテミスは『デネブをぶち抜く』事に集中出来る。矢を番えて放たなければ攻撃できない…のならばやりようもあるが、思考だけで撃てるとなるとリスクが高すぎる。例えば、なんとか背後をとったとして、『背後に発射』と『思考』が走った瞬間、シーダの体に風穴が開くだろう。

どちらも、決め手に欠ける状況となってしまった。
だが、縦横無尽に舞いながら、雷撃を放ち続ける闇の剣と、放たれたそばからの射線の爆裂と、引き裂かれた場所から燃え上がる火炎の波、一拍遅れて響く爆裂と爆風。
互いにぐるぐると位置を変え、祭壇を瓦礫に変え続けるこの場は、本物の地獄でもここより穏やかでないかと思える程の暴虐吹き荒れる戦場だった。

止まらない、留まらない、停まらない。

狂々、凶々、くるくると。


苛ちの中引き絞られる思考が、螺旋を描くように爆裂する。
掻い潜っては放たれる電撃が、炎の壁に遮られる。



数秒前までアイルだった肉と骨は、とっくに焼け焦げたり部分的に灰になったり爆散したりしていた。
どうせ蘇らせるのならば、今はどうなろうと構わないものではあった。
吹き飛んだ腕を雷撃が消し炭にし、炎の壁が髪を焼いて匂いが広がる。

そもそも衛兵がわりの屍兵もここにはいくらか入り込んで倒されていたのだ。腐れた血肉や砕けた骨の粉など、気分の悪くなる何かには事欠かない。

訂正がある。さながらにどころではない。
こここそが地獄だ。


 ・


倒れこむ。
村人だろうが勇者だろうが騎士だろうが王妃だろうが、人ならばそれは、たとえ社会を揺るがしても大地は揺るがすまい。だが竜となるとその限りではない。なにせ単純に質量の桁が違う。
この城… ドルーア城が、山を削って作ったのではないかと思われるような立地にある以上、闘技場を埋め尽くす超巨大火竜が倒れたとなれば、その衝撃は生半可なものではない。
事実、その場で倒れずに済んだのは、飛竜に乗っていたフレイと、火竜を蹴り飛ばして空中にいたアテナくらいだった。

客席部分に体を預けるようにして倒れた火竜。未だに踏み抜いてしまった床部分から前足が抜けていない。そこを軸にして引っ繰り返されたわけだが、そんなことをされている時点で、この火竜は限界が来ているようだった。

「はあ。はあ… まだ、ブレス噴ける。油断、だめ」

肩で息をするアテナも珍しい。それだけ厄介な敵であったのだ。というか、アテナも一人では無理だったろう。誰も死んでいないのは奇跡に等しい。
例えれば、人や獣と蜂の群れのようなものだろうか。蜂一匹でも痛みは与えられる。大群でかかれば蜂の方が勝つのは珍しくもないかもしれない。しかし蜂に犠牲は出るだろう。それを考えれば、フレイの飛竜での挑発や、斬りつけては離脱するアテナの戦法、魔法での援護を差し引いても、勝利できたのは僥倖だ。

「うむ、見事ですアテナ殿。後は魔導士の魔法で… ブレスを防ぎつつ、四肢や首を焼いてゆけばこと切れるでしょう」

埋まってしまった前足以外は、アテナのドラゴンキラーで傷だらけだ。吹き出しているわけではないが、血は流れ続け、火竜の体力は無くなり続けている。

「これで、中のベガ、助かる。我が神、戻る」

この場面では、めでたし、といったところだったろう。
事実、この後滞りなく火竜は死に、腹をかっ捌いて出てきたベガは救出される。
その時出てきたのは勿論、ベガであり、その姿はレナの赤ん坊である。成長促進されていたのか、もう赤ん坊というより3歳児くらいだったが、女性陣がその愛らしさに黄色い声をあげたのは述する必要もない。

しかし。


この『山一つ揺るがした衝撃』は、別の意味を持ってしまっていた。



 ・



予測は出来なかった。
だからこそ、荒れ狂いながらも膠着状態だったその戦場に、劇的な影響を与えた。

激震。

「「なっ…!?」」

この祭壇が地下施設なのは言うまでもなく互いに知っている。それだけに揺れというのは恐ろしい。
常人なら立っていられるような揺れではないだけに、驚かずにはいられない。

デネブとアルテミス、二人の驚愕が重なる。
パルティアの放つ炎の矢の軌道がずれ、一拍分の余裕が生まれる。

デネブの唇の端が歪む。意識がそれに向いてようやく、アルテミスは焦りを覚えた。
まずい。
いや、それでもこちらは念じるだけで炎の矢を放てる。地を裂き炎壁を生み、爆裂しつつ進み、着弾すれば破砕して衝撃と飛礫を撒き散らす超攻撃型兵器だ。まだ間に合う。
その冷静さを取り戻して、一瞬で距離を詰めてくるデネブに交差法で一撃を… と思った瞬間。

デネブが、転倒した。

その有様はあまりに滑稽だった。物悲しく、それだけに笑いを誘った。
お互いが予期しなかった、原因不明の揺れによる一瞬の間隙。どちらにも与えられた絶好の好機。
そこで…

すっ転ぶなどと。

「ぶふっ…」

思わずふきだす。こらえることなど出来なかった。デネブ自身幸福であるとは全く言えないが、アルテミスの不幸の原因の何割かは確実にデネブにあると彼女は感じている。その相手の無様な様子は、楽しくて仕方がない。

いや。
こんな戦場の只中で、笑い転げて余計な隙を見せるわけにはいかない。それでも顔がニヤつくのは止められない。見ればデネブは直ぐに立ち上がることも出来ない。こちらを見返して肝を冷やした顔をしている。
それはそうだろう。
これではいい的だ。駆け出すことは出来ないでもないだろうが、この姿勢からでは千変万化とはいかない。前に駆け出すのが一番早いが、その分危険度は増す。後は上下左右後退、いずれにしても一拍遅れ、これも打ち抜くは容易い。加えて一度間を詰めてしまった為、更に離脱の難易度は高くなっている。
アルテミスが出来たこの判断が、デネブに出来ない理由もない。見上げてくる彼女の顔は、先程の青ざめ方に輪をかけた上に、憤怒に歪んでいる。もうどうにもならない諦念と共に湧き上がる、言い知れぬ悔しさと、押し寄せる死の絶望。
恨み、嫌い抜いた相手の、最後の表情がこうである事。何という愉悦だろうか。原因も自分。幕引きも自分。届かぬ想いも後悔も、この瞬間デネブでなく『アルテミスのもの』だ。

ああ、ああ。

好きの反対は嫌いではなく、無関心だ… というのは聞かなくもない話だ。嫌いであるというのは、心のいくらかをその人が占めているという意味で、愛しているのと意味合いが変わらないという乱暴な理屈。
しかしその理屈が通るのなら、その絶望も憤怒も後悔も遺恨も断罪もアルテミスにとってこそ意味を持つのならば。

まるでそれは肯定されたれんじょ
ぐしゃ。




…アルテミスが左下を向くと、揺れで倒れぬようにと大きく開いていた足が、横に直角に曲がっていた。
さながら壊れた人形のごとく、人体としてありえない向きに折れていた。

「え、げ」

そのまま仰向けに倒れこむと、天井が切り刻まれるのが見えた。
雷撃と闇の剣を駆使し、石が切り出され、細工の施されたアーチから、石の擦れる耳障りな音ともに落ちてくる。

「か」

これか。

すっ転んだのは、意識を下に向けさせたままにするため。
揺れがあったのなら、落ちてくる物に気をつけるのは当然だ。勿論殺し合いの最中に相手から目を離すのは愚の骨頂だが、それでも当然のように気になることだ。
そうさせないために、自分を囮に使い、道化を演じて、こちらの愉悦さえ引き出し、目を離さずにいられないような表情さえ作ってみせたのか。その数秒後、落ちてきた石版で足を潰され、入れ替わった役柄に絶望も憤怒も後悔も遺恨も断罪も混ぜたそのさまを見るために。

「は」

倒れてしまったために、視界が限定されてしまう。念じるのが発動条件という反則技も、見えない相手は攻撃出来ない。
立たねば。
だが、こちらから見えなくてもデネブからは丸見えだ。次々と落ちてくる天井は、今度は腕と頭を狙う位置から落ちてくる。まとめて落とせばいいのに何故?と思いながら、迎撃のため念じる。
炎の矢が走り、当然のように爆砕する。欠片はパラパラと落ちてくるが、構ってはいられない。

相手は起き上がろうとするのを見越して、腕まで潰してこようとしているのだ。ならば早く、せめて体を起こさなけれ
ぞん。

「が」

視界の端で、両腕が切り飛ばされたのが見える。
ああそうか。雷撃で飛び回る闇の剣。それが視界に入らないように、天井から石版を落とす手間を続けたのか。

パルティアは篭手が組になっていて、炎の矢を生み出すのは、篭手から供給される龍脈からの魔力である。腕を切り飛ばされては、念じるだけで視線の先を爆砕するなどという術は使えなくなってしまう。

詰んだ。


完全に形成は逆転… いや、『揺れた瞬間から一部の隙なく詰められ』た。


見事と言うしかないだろう。流石にあの揺れが予測出来たわけではないだろうから、ならばこの瞬間的な判断力と構成力は常態なものではない。経験に裏打ちされた刹那的思考を可能としなければ出来まい。
それにしても正に、息をするように人を欺く。

「く、あ」

死。
何度も何度も恐怖し、何度も何度も望んだ。
意味など、感じるものにしかないと知ってはいるから。
この女にとって、私は邪魔なのだから、容赦はないだろう。
私にとって、この女が邪魔で、容赦などするつもりがないからよくわかる。


ああ。




わたしは。






あなたにもう一度会いたいだけだったのに。












力の無いものの願いというのがどれほどぞんざいに扱われるのかよく知っているだけに、今の自分が惨めに過ぎる。
そんな時に縋るのは、人はいつだって神なのだろうが、その正体を知り尽くしているアルテミスは、願おうとさえしない。馬鹿馬鹿しすぎる。


それでも。

竜ではなく、人でも勿論なく、むしろそれらさえ包み込んで、見守る何かがいるのなら。
今この瞬間消えるだろう命、力を無くしたこの女の思いに耳を傾ける何かがもしいたら。



アンリ。










ゆうしゃ、さま。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一陣の風。




「ーーーーーな」

デネブの驚愕の声。

振り下ろされようとしていたヘルファントが、半分ほどの振り抜きで止められる。
寝転んだままのアルテミスの視線の上に、若者がいる。

「な」

そのつぶやきに答える前に、ヘルファントが分身し、その若者を切りつける。
肩口と鎖骨、耳も削ぎ落ち、本体を掴んだ手も指が2本ほど飛ぶ。
痛みに歪んだ口元は、それでも呻くこともなく、

ご…ごっ

「痛ってぇぇええええええっ!!うっわめっちゃ痛え(泣)」

それどころではないだろう。よく死ななかったものだ。
天井の石版の一部が遅れて落ちてきたのである。高さも相まってそうとうの衝撃だ。
実際、肩が完全に外れている…というか骨から砕けてしまっている。頭に落ちなかっただけで、既に死に体にかわりあるまい。いや、頭にも別の欠片が落ちて血が噴き出しているのだが、一番大きいものが肩に当たったのだ。正確には槍も同時に来ていたので片手で防ごうとして勢いを殺しきれず、持って行かれたという体である。


出てきた瞬間に満身創痍のその男は、デネブの見覚えある顔をしていた。
瞳の色は髪と同じ蒼玉石。今は血塗れだが、透明感さえある肌。掘り出した石像のような造形。
その心は推し量れなくとも、そこに情愛を期待させる憂いある目元。

「…アイ  」

…違う。

見覚えは感じた。けれど違う。髪も瞳も色は同じでも、その奥の輝きは似ていても、髪は背まで伸びていて、瞳に映る感情の発露は何とも直情的に感じる。
その体は、一回り大きく、覚えのある彼よりさらに鍛え上げられているようだった。まあ、ヘルファントの分身斬撃を為すすべもなく喰らい、石版を受け止めきれず肩をぶっ壊した時点で達人であっても人間の範疇だろうが。
着ている物は、少し古いデザインに見えるが、上流のものなのは間違いない。凝った意匠の装具や、丈夫さとは関係ない部分に入っている金糸、王族で違いあるまい。

いや。

長々と頭の中で問うてもあまり意味はない。
問題は、予想の通りなら、何故今ここにこいつがいるかだ。

こいつか、アイルか。
再び顕れるべきはどちらか。
その答えを引き寄せるための殺し合いの最中に、景品が出てきてどうする。


忌々しいことに…


そんな理屈をすっ飛ばして、感極まった足元の女が泣き出しそうだ。
目に涙を溜めて、ボロボロの体中で喜んでいる。
この男からだらだらと流れ出ている血を浴びて、蕩けてしまいそうな程に甘い波動を放っている。

貴様は白馬の王子様に出会った乙女か。
まあ実際こいつはオウジサマだが。

困惑しているデネブに、その男は微笑みかける。
敵意がないと示しているのか、あるいは天然か。

それでこちらは敵ではないと納得したと思ったのか、視線を首ごと下に移す。
首筋が丸見えのその格好は、殺そうと思えば一撃でいけた。
そんなデネブの思考をまるっきり無視し、二言目の台詞をはく。

「よ。えーと、お前のほうがアルテミスなんだよな?」

…まあ、この男は多分ほぼ生前の一時期の姿なのだろうが、実際のアルテミスと今のノルンの体では違いがありすぎるだろう。
確認は当然なのかもしれない。

アルテミスは、もう耐えられないとばかりに、溜めた涙を溢れさせた。


呼ぶ。





「…アンリ」
「おう」




続く

by おかのん (2016-11-22 21:20) 

ぽ村

>>おかのん

えーっと、7ヶ月くらい?
ともあれ久々の投下乙。

称号でも職業でもない、成し遂げたことや魂としての勇者、って感じすか

シーダって、元はペガサスナイト。
元のペガサス乗っていたなら爆風でひとたまりもなさそうだな
しかし乗り物ばかりで足腰鍛えてないからそうかなる


>痛ってぇぇええええええっ!!
そう言ってもだえる姿・・・久々のベガさんに見えるんだが・・・
by ぽ村 (2016-11-23 08:59) 

おかのん

>魂としての勇者
んーまあ世の中的にはそんな感じでしょうか。ここではそもそもこの話の元凶(アルテミス)の『動機』(ある意味最大の戦犯)としての皮肉もこもってますw

>久々のベガさんに見える
ほんとだw
まあこの話はいつも誰かが痛い思いをしてるけどw(最低だ)

>ペガサス
旧作⇒屋内では降りて、必殺率その他の低い傭兵程度の戦力『ナイト』に。最終決戦も屋内なので使いづらすぎると非難殺到。
今作⇒屋内でも平気で乗って登場。ユニットとしては問題が解消されたが、昔からのファンの一部はリアル感薄れたと非難。

むずかしいなあ・・・

by おかのん (2016-11-28 08:46) 

ぽ村

>>おかのん
>ペガサス
しかし弓兵に弱いと言う弱点を解消できるメリットは大きいのではなかろーか
建物の中なら騎兵どころかバリスタ兵だって無いだろうケド
by ぽ村 (2016-11-30 02:36) 

おかのん

一年半振りか・・・

もうブロ主も呆れて忘れてるんじゃと思いつつ、恥を忍んで続きを。



~偽りのアルタイル~


終章 欺かれし者達



その12 その全てを捧げても



 全てを許せた。
 それがアルテミスの今の心境だった。

 彼が。
 あの時のままの笑顔で、私を見ている。
 その瞬間に、アルテミスという女は満たされていた。

「…アンリ」
「おう」

 他に何を求めるのか。
 王女でなく、旗頭でなく、ただアルテミスという女を求めた男が。
 生きて、応えたのだ。
 彼女に。

「…ふぇええええええええええええええん…」

 幼子のような鳴き声。
 初代英雄王の胸で、弱々しく泣くその女は、もう思考さえ放棄しているように思えた。
 つい数秒前まで、自分の分身とも言える魔女と、地獄のような戦いを繰り広げていた羅刹のごとき女の面影はどこにもない。
 デネブは正直、毒気を抜かれた。
 体を乗っとられて、さっきはデネブと同調するほどに怒っていたノルンも同様だった。

 ただの、少女だ。

「ありがとうな」

 アンリのその言葉は、理不尽に過ぎた。
 その一言で、もう本当に、アルテミスが『浄化』してしまったからである。
 消えもしないはずの、恐ろしいまでの罪の数々も、アルテミスの中から忘れ去られて。
 狂わされた歴史ごと、たまったものではない。

 そのまま、アルテミスは寝入った。
 ずっと忘れていたように、深く、深く。
 焦がれ続けた、愛しき男の腕で。

((…なんだったんだろう))
  
 としか思えない。

「デネブとやらよ。言いたいことはあるだろうが、お互い様だ。一歩間違えりゃ、お前の下らない復讐で、全部おじゃんになってたわけだし、俺らは、世の中に振り回されすぎた。もう、何も期待しちゃいない。勿論、人にもな」

 二の句が次げない。
 全く同じでないにしても、デネブにも通じる思いはある。

 ふと、疑問が浮かんだ。

「ひとつだけ聞かせろ」
「ん?」
「貴様、どうやって復活した」
「神竜王のおばちゃん」

 げ。

(龍脈に消えたのではなかったのか!?)

 その瞬間を見たわけではないが、そうなったものと思っていた。
 ふと周りに目をやると、再び消えかけの神竜王が転がっていた。
 ひらりと一度だけ手を振って消えた。

(クソがぁぁあああああ!!!!)

 デネブから見れば、何がなんだかわからない。
 起死回生の一手で、大逆転のとどめという時に、景品の方が鳴り物入りで邪魔をして、相手は大満足ときた。
 ある意味別の形で『娘』でもあるデネブを助けたのではある。彼女にしてみれば、自分の秘術のせいで、人生を狂わせたアルテミスもあのまま死なせたくはなかったのだろう。しかし、それを伝える時間はなかった。

「じゃあな。俺も逝くわ」
「は?」
「俺は生き返ったわけじゃねえよ。アルテミスの魂を救うために出てきただけだ。ボロボロになっちまってるアイルの体に、幻術と魂を重ね合わせて、アルテミスを満足させた。
 このまま俺も、龍脈に消える。で、アルテミスも連れて行く」

 デネブはアルテミスに、アルテミスはデネブに人生を狂わされたといっていい。
 その上で、アルテミスが思い事浄化されて逝くのは正直業腹だった。 
 しかし、だからといって、デネブが出来ることはない。

 これが。
 こんなものが。
 この戦いの幕切れか。
 再び思う。 
 一体何だったのか、と。

 全てに狂わされた女が、全てを狂わせて、最後は思い人の胸の中で満足して逝く。
 こんな、因果応報を鼻で笑うような英雄譚があってたまるか。

「じゃあな」

 ひゅん。


 …あまりにもあっさりと、英雄王は逝った。
 さっきの神竜王ほどにも余韻がない。
 当然かも知れない。魂の含有量は比べ物にならないだろうから。 

 にしても。



 …目の前に、荒れ果てた祭壇と、アルテミスから解き放たれたであろうノルンの体が横たわる。
 血だらけではあるが、デネブが切り落とした腕その他、一生モノだったはずの外傷は綺麗に無くなって、五体満足の状態だ。
 神竜王のサービスだろうか。他に考えられないので多分そうだろう。


(私は…)


 最後に、アイルを自分で殺した。
 ノルンを乗っ取ったアルテミスと戦って、そして…  



 そして。

(!!!!!!!!!!!!!!!)



 そうだ。
 まだ、希望は絶たれてはいなかったではないか。
『魂のオーブ』に入っている魂は、使われていない。
 つまり、オーブの『使用者』の命を起動に使えれば、人一人生き返る量の魂はまだ存在する。

 誰かと引換えに、アイルは蘇ることが出来るのだ!!!


(誰かと)


 誰と?

 誰でもいいが、『アイルを蘇らせる』という願いを、『使用者』…使って死ぬ者が願わないといけない。
 起動すれば死ぬ、という事を知らなくてもいいが、最低でも『アイル』個人を知っているものでないといけない。
 
 そう。
 おあつらえ向きが目の前にいた。
 この世の殆どの人間に、『マルス』として“しか”認識されていないアイルを、『アイル』として知る女。

 ノルン。

「おい、起きろノルン! 起きてくれ!」
「う・・・ううん・・・」

 乱暴に揺すられて、ノルンが覚醒する。
 体力まで回復しているわけではないのだろう。やっとという感じで体を起こす。

「・・・」

 恐ろしく機嫌の悪い・・・というか、害虫を踏み潰したいが靴が汚れるのが嫌、というような顔でデネブを睨むノルン。
 当然だが、意にも介さずデネブは続ける。

「ノルン、よく聞け。アイルが死んだ。だが、このオーブを使って・・・」
「五月蝿い。わかってるわよ。アルテミス姫に乗っ取られてても、あたしの体だもの。一部始終見てたのよ」

 ならば話は早いとばかりに、オーブを差し出そうとするデネブ。

「イ・ヤ・よ」

 デネブは固まる。
 喜んでやると思っていたのだろう。

「そのオーブがどんなものかも知ってるわよ。今まで『死のオーブ』を使って戦場で集めた、“死にかけの命”の山。その器。最後に、『使用者』の命を使って、誰かを生き返らせるってことも」

 ぱくぱくと口を開閉するデネブ。間が抜けすぎている。

「馬鹿馬鹿しくてやってられないわ。あたしも少なくないものを捧げた男よ、アイルは。なのに、彼は最後に、あなたに“愛していた”と伝えるために、文字通り命を懸けたのよ。なんであなたの物の為に、私が死んであげなきゃならないのよ」

 当然である。ノルンに利はない。むしろ損だけをする。
 アイルが生き返る、という点だけはプラスかもしれないが、デネブが存在する以上、ノルンは記憶に残るだけの女に成り下がってしまう。
 反則技そのものだった神竜王の存在さえ龍脈に溶けた今、もうほかの手段はないだろう。
 そして、ノルン以外に適任はいない。少なくともデネブには思いつかない。

 アイルを『マルス』でなく、『アイル』として認識し。
 アイルの為に命を捧げられるような存在は。

「いるでしょ」
「・・・は?」
「だからさ、いるでしょ? あたし以外に、死ねるやつ」

 ニタリ、と意地悪く。ノルンが顔を歪ませる。わからないの?と。そして、理解した時の気持ちを探って。

「あなたよ」

 ノルンの期待した通りに、シャンパンと間違えて馬の小便でも飲んでしまったような顔になる。
 後悔したところで、飲む前には戻らない。

「ねえ、死になよ。愛する人さえ生きているならもうこの世に望むものなどないってお綺麗な納得して魂の欠片までドブに流して擦り切れきってさ。今まで殺してきたゴミクズどもと同じ物になって全部忘れてまたカメムシにでもなってこの世に戻ってこればいいじゃん。あなたがアイルのために死んだってちゃあんと伝えてあげるわよそしてそれを全部包み込んであたしたちひとつになっちゃうくらいまで心も体も溶け合って幸せになってみせるから。あんたが居ない世界でならあんな甘ったれたらし込むのなんて簡単だからさ。ねえ、死んでよ。アイルのために死んでみせなよ。あんたの愛が証明できるよ。ついでにゴミが一つ燃えるしさ。あんたがあたしにしようとしたことでしょ。ねえ! あたしの男のためにあんたが死ねよ!はいはいはいはい!デネブちゃんのー ちょっといいとこ見てみたいー! 死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!死ーね!」

 舌を出して白目を剥きながら拍手しつつ、呪いのように死ねと繰り返す彼女は、どう見ても人として色々終わっていた。

 それはそのまま先程までの自分で、そうありたくなければ、することは決まっていた。

 それこそが一番愚かに映る。しかし。

“そうだ”

 アルティと一緒にいる時、クソみたいな悲劇を見たことがある。


 仲の悪い貴族の跡取り同士が恋に落ちて、死んだふりをしてしがらみから逃げようとして、手違いで二人共死ぬ間抜けな話。
 救いようも救う意味もないようなくだらないくだらないお話。

 酔ってる当人同士しか理解できない、結婚式に自分達の似顔絵を描いた皿を引き出物にするような自己満足。
 



 今ならわかる。


 その瞬間の二人だけは、幸せなんだと。
 何も得られない死さえ、永遠となった証だと。


 これで、同じものになれると



 わたしが



 かんじたから








『やめろ。俺が何のために・・・』








 聞こえた。

 彼の声が。







 “本当に同じになれた”と、思った。思ってしまった。
 迷いが、悔しさごと消えた。

 ノルンに奪われても。
 後を追われても。

 この瞬間が、きっと永遠になる。










 ・










「死ー・・・」


 ノルンが気がついたとき。
 もう終わっていた。





「ノルン・・・」

 二週間前の牛乳を拭いた後の雑巾を絞らなければいけないハメになったような顔を向けられたノルンは、そこにいるのがシーダ姫だとなんとなくわかった。


「・・・行きましょう。馬鹿馬鹿しいけど、これ以上ない大団円だわ。今時どんな場末の劇団でも演じないくらい、全部めでたしのどっちらけ。私の処女と同情を返せってくらいの」
「姫様、なんか色々混ざってますよ」
「知ったこっちゃないわ。マルス様の前で取り繕えれば十分よ。だいたいなんなのあなたのさっきの醜態。流石にフォロー出来ない。武士の情けで誰にも言わないけど」
「私はクソでございます。なんなりと」


 魂のオーブは、“未だ輝きを繋ぎ”

 英雄は、“生き返ることはなかった”



 誰にも姿を知られることのなかった魔女が、その全てを捧げても。




 続く

by おかのん (2018-03-24 23:40) 

ぽ村

>>おかのん

そちらも忙しいなかお疲れ様

んむ!
もうぼんやりとしか覚えてねぇ!
時間あるときに過去のを読み返すしかないが、こう畳みに来ているのはようわかるw

生霊(?)でアイルがこの場を見ていたら、三人ともに幻滅でしょー
特にノルン
一年半の眠りから覚めたら性格が(ry


>仲の悪い貴族
ロミオとジュリエットの悪口はやめるんだ。
みんなクソって知ってるから(爆)
by ぽ村 (2018-03-27 00:11) 

おかのん

さー。たたまねば。
お気に召すかはさて置いてw


 ~偽りのアルタイル~


 跋章 偽りの鷲(わし)



 その1 マケドニア帝国


「ドライツェン」という数字で生まれ、「アルタイル」という名を友より貰い、その親友の名である「マルス」として役割を終えて死んだ青年と。
「ミモザ」という名で、長く暗闇で過ごし、「フィア」として虜囚され、「デネブ」を名乗りながら、「シーダ」の中から消えた魔女。

 ふたりは。
 魔王城と呼んで差し支えないその城の最奥で。

 お互いの物語に幕を引いた。


 だが。
 ふたりがいなくても。
 

 
 世界は続いていく。




 ・




 本物のマルス王子は。
 祭壇の右奥にある小部屋で、例のムール貝にガラス瓶を切ってくっつけたような入れ物の中から見つかった。
 意識はすぐに戻り、シーダとノルンはこれまでのことをマルスに話した。

 ・・・アイルやデネブのことは勿論話しつつも、都合の悪い部分はできる限り隠して。
 隠しきれない部分は、ほぼベガやデネブのせいにして。

「・・・私はデネブ殿に体を奪われ、その間のことは記憶にないので、後付けの話も少なくはないのですが・・・」
「私は私で、子供の頃のアイルと顔見知りだったので、正体に気がついてからは、彼のやろうとしていることにより深く関わりました」
「・・・うん」

 ガルダやサムスーフとの一幕。オレルアンでの出会い。マケドニアとの因縁。ワーレンでの事件に次ぐ事件。アカネイア城の崩壊騒ぎ。砂漠でのガーネフとの遭遇。アリティアの奪還とグルニアとの対戦。第3勢力と第4勢力の代理戦争と、マケドニアの慘戦。ガーネフ消滅後の屍竜の大量復活と、神竜王の参戦。そして・・・

 アンリとアルテミスの大団円と、アイルとデネブの非業の死。

「・・・うん」

 マルスが負うべき定めを。
 代わったというべきか。
 奪ったというべきか。 

 マルスには、代わってもらったとしか思えなかった。
 そして。
 アイルは何も得ることもなく、消えたとしか。

「・・・彼は望みを叶えて、消えたのです。マルス様をお救いし、暗黒竜の消えた世界を託された」

 実際はシーダの処女その他や、ノルン、マケドニアの面々を始め色々な女に突っ込んでいるが、そこは全て割愛している。

「アイルこそ、理想の王だ。彼のような男こそ、王たるべきだ。結果を残し、確固たる力を持ち、多くの者に愛された。
 何もなしていない、何の力も持たない、哀れまれているだけの僕に代わりが務まるとは思えない」

 本音であり。
 二人も、別の意味で『代わりは務まらない』とは思った。

 それでも。


「それでも、マルス様にこそ、託されたのです」


 まだ泪を落とす瞳を持ち上げ、マルスはシーダに目を向ける。
 シーダも、泪を瞳に溜めたまま、繰り返す。


「託されたのです」


 貴方に、その価値を見ていたのだと。
 貴方が、それに足る者であると。


 ・・・もし、そうでないとしても・・・


 それこそ、浮かばれない。全てを救い、何も得ずに消えた彼が。
 だから。


 シーダは。瞳に涙を湛えきれなくなりながらも、眼差しを引き締める。


「私達は、託されたのです」


 違うだろうけど。
 そう思うべきだ。

 だって。


 あんなに頑張ったあの人は。
 もう、いなくなってしまったのだから。




ーーーーーこの日。


 暗黒戦争と呼ばれた、アカネイア史上最大の戦が終わりを告げた。

 マルスは『暗黒竜メディウスを倒して無事凱旋』し、英雄となった。



 そして・・・





 ・



 ーーー二年後。

 オレルアン領内の平野。


 アカネイア大陸の喉元とも言える大平原ながら、海路の発達と土地の痩せかたのせいで、人のあまり根付かないその場所で。


「「撃(てっ)!!!!!!」」


どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどっ!!!!
ごがあごがあごごがあどがあごがあっ!!!ごがあごがあごごがあどがごがあごがあごごがあどがあごあごがぁっ!!!!

『投石器』ではなく、既に『大砲』と化したシューター数千台が火を噴き。
『重複起動』した魔術で、防御しつつ魔法攻撃をする『竜石術士の群れ』。

 空には、天馬と飛竜が舞い、地上には、戦車と巨人が跋扈する。



『英雄戦争』と後の世に語られる・・・




 人間同士の、史上最低の戦争の始まりである。



  ・



 ドルーア滅亡後。
 ほぼ同時にアカネイアが再興される。

 そしてニーナは、マルスとシーダを引き裂くことを厭い、ハーディンを選ぶ。
 亡命を受け入れ、塗炭の苦しみをともに味わい、雌伏の時を過ごした戦友といえば聞こえはいいが・・・

 それはそれとして。
 ちょうど一年後、世継ぎが生まれた。

 それに重なるように、マリクとエリスがデキ婚をやらかし、数ヵ月後には、アリティア王となっていたマルスが、シーダを娶る。


 幸せの便りがそれぞれに届く、平穏な日々が続き。
 それはいつまでも続くのだと、多くの者が思っていた。


 が。




「・・・ハーディン様」
「む、どうかしたか?」

 アカネイア城離宮。
 入婿であるハーディンは、国政で大きな影響を持つものの、玉座にあるべきはニーナであり、またニーナはお飾りといえどその役を勤め上げていた。
 はずだった。しかし。

「ニーナ様が・・・」
「なっ・・・んだと!?」


 ニーナが、行方不明となったのである。
 世継ぎである、セイリオスを残したまま。

 これが元と・・・いや。
 機となった。


 ・


 マケドニアは、他の国に比べて、被害は軽かったといっていい。
 ドルーアは完全に滅亡、グルニアは大陸最大の師団が崩壊。
 グラはアリティアに統合され、オレルアンやアカネイアは復興中。

 それが。
 悪いほうに向かった。

 ドルーア滅亡の折、マムクートも一部を除いて全滅した。
 その際に持ち主をなくした大量の竜石が見つかった。このほぼ全てを、マケドニアが徴収したのである。
 ある程度散らばっていたとはいえ、やはり殆どがドルーア、そしてマケドニアとグルニア近辺に居を構えていただけに、これは難しいことではなかった。

 時を同じくして。
 アカネイアではニーナの体調が崩れ、場所を秘匿し長期の療養という話が出た。
 実際は行方不明なのだが、表沙汰にできる話でもない。
 それ自体は、疑うものも少なく、怪しんだものもいたが詳細はつかめずじまいだったのだが・・・

 ここで。
 ハーディンが大ポカをやらかした。
 このままニーナが見つからなかった場合に備え、世継ぎであるセイリオスの修る世が平和であるようにと・・・

 
 アカネイアによる帝政・・・大陸統一を宣言してしまったのである。


 これに一番アレルギーを示したのは、勿論マケドニアだった。
 そして一番力を蓄えつつあったのも、俄然マケドニアだったのだ。


 アカネイア王国の腐敗政治の割を食って、長年の不満を溜めていた歴史背景に加え。
 今回の敗北で、恐ろしい額の賠償金を請求されている。
 勿論信賞必罰。一度はアカネイアを脅かした国を存続させるのだから、ペナルティをなくしては対外的に格好がつかない。
 それでもやはり借金はきつい。国単位ではなおさらだ。温情として利子も期限もないにしても。
 そこへこの統一宣言だ。やはり思い出すのは、腐敗政治に飲み込まれての、生かさず殺さずで扱われる日々。

 勿論ハーディンもただ馬鹿ではない。
『統一がなされれば、他国、即ち敵国の生まれる余地がない。それぞれの王がアカネイアという円卓で等しき立場で意見を交わし、あるべき姿で共に民を治めてゆこう』
 と宣言し、しかしてこれはハーディンの本音だった。
 形だけはアカネイア帝国で統一し、それぞれの王に独立を認めつつ、より良い政治のために集まる機会を作ろう、位の意味だった。
 だが、アレルギーのあるマケドニアの歴々の見方は穿っていた。 
『お前達が大人しく従えば問題は起こらないんだよ。皇帝様以外は卓上で囀って、最後に這いつくばって言う事聞くっていう、当たり前のこれまでに戻ってりゃいいんだわかったか』
 と理解した。

 皇帝はどうにも配慮が足りず、理想ばかりが先行し。
 なまじくすぶった敗北者は、勘違いで自らを追い詰める。



「ーーここに、マケドニア帝国を宣言します」



 初代マケドニア帝国女皇帝、マリアの誕生であった。



 続く

by おかのん (2018-07-11 22:27) 

ぽ村

>>おかのん

んーむ
書いてる人にケチばかり付けてすまんこ

アイルは結局死んだままだったか
デネさんだけ消滅かと踏んでいたんだが

>生理雄
その名前は公式にあるんか?



>続く
すー・・・
おっさん続てますよー!!?

しかもおっさんの愛的に
某仙人「もうちょっとだけ続くんじゃよ」
って感じで続けれるタイプですよー!!
by ぽ村 (2018-07-11 23:56) 

おかのん

>セイリオス
ないっすw
紋章の謎の時の仮面付きカミュの偽名「シリウス」のもじりなのがミソw

>続てますよー!?
だって章がついた上「その1」言うてるしw
安心してください。十数巻の後二十数巻とかじゃないんでw
後2.3くらいなんでw
跋章(エピローグ)っていれてるしねw
by おかのん (2018-07-14 07:02) 

ぽ村

>>おかのん
DAYONE?
ヲレの知らんところでそういう話があるのかと身構えてしまったw

>安心
最終回「次号(?)から新連載!」というパターンもあってだな・・・
by ぽ村 (2018-07-16 23:00) 

おかのん

当初はその予定もあったんですけど、それをギュッとまとめてエピローグにした感じ♪

次で終わるか、もう一回あるかないかかな。


では続きをば(^▽^)




~偽りのアルタイル~


 跋章 偽りの鷲(わし)



 その2 英雄跋扈


 竜石術士。
 レナやマリアを例とする、『竜石を体に埋め込んだ魔道士』のことである。
 超自然との融合を生態として行う竜。その力を凝縮した物体『竜石』。それを欠片でも体に埋め込むことで、竜の力を幾ばくかでも使えるようになった魔道士は、軍用にも耐え、攻城兵器や殲滅部隊並みの破壊力を得る。
 兵士として運用するには、単体の超威力よりは群体としての特殊性や底上げの形の方が容易でリスクも低い。マケドニアは竜石の大量確保がかなったせいで、そちらの方向へ傾倒した。
 対するアカネイア側は、竜石の絶対数が限られた。その為、実験体(兵士)より、竜石の方が重きを置かれた。
 欠片にするのがためらわれたのである。
 怪我の功名というか、そのやり方のおかげで、『優れた検体ほど順応性も能力向上値も高い』ことが分かり、限られた英雄が更に強力な力を得ることになった。
 
 わかりやすく言えば。
 劣化レナやマリアだけでなく、劣化デネブらがウロウロする戦場に成り果てたのだ。
 しかも、当然のように『メディエ・ギフト』のことが知れ渡る。
 『能力の向上の方向性は、施術を受けた者の思考に引きずられる』
 竜石を埋められた本人が思い描く『強さ』が、形になる特性だ。
 これ以後マケドニアでも、竜石を『優れた英雄になるべく大きく』使う事が流行る。


 文字通りの『英雄戦争』となっていくのである。


  ・



「次弾装填っ!! 竜騎士隊並べっ!! 天馬騎士どもを一掃するっ!!」
 フレイの指令が平野に響く。
 竜石術士の詠唱が途切れるわずかの間を狙う、電撃特攻。航空勢力の本領発揮。
 だが、航空戦力の充実はマケドニア側の方が上手である。竜石術をペガサスや飛竜にも応用し、瞬く間に頭数を増やした白竜、紅竜騎士団は、にわか竜騎士隊が及ぶものではない。
 だが。

 「撃(てっ)!!!」

 その声は。
 アカネイア戦車隊の両脇から聞こえた。

 どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどっ!!

 連弩(バリスタ)に、魔力壁中和の術をかけた兵器『ベレロフォン』。
 パルティアの霊力を大軍の戦意高揚、兵器の補助魔術付与に応用することが出来るようになったノルン。
『メディエ・ギフト』の後期には、単体の奇抜な隠し玉よりも、軍隊運用に応用できる能力が望まれた。
 魔法に耐性を持つはずの天馬の羽も、重複起動されている魔術障壁も破り、マケドニア軍に動揺が走る。

 アリティアの英雄達は殆どがアカネイア軍の重職を兼任し、それぞれが一軍を任される将軍、部隊長になっていた。
 例えば。

 アカネイア竜騎士団団長フレイ。
 アカネイア弓機甲兵団団長ノルン。

 二人は、主力部隊の長を任されていた。


 ・


「は!盾を作れて豆鉄砲みたいな火の玉が打てるって程度のもやしどもがなんだって言うのよ。さあさあ巨神兵団っ!!晴れの舞台よ!!」
「「「「「「うんがあああああああああああああっ!!!!!!」」」」」」

 巨神兵団。
 ウルスタを団長として、ユミル、ダロスを中心に編成された、屈強なる戦士団。
 大弓、斧を取り回すウォーリア達と、精神支配された蛮族を狂戦士化し編成された巨人の軍隊だ。
 矢の十数本なら刺さったままでも平気で突進してくる、3メートル程の蛮族が、ずらりと並んでいるのだ。
 右目を含む顔半分が結晶化したウルスタは、氷竜系の竜石術士の亜流である。

 竜に限らず、動物と交信出来る力を持ったフレイ。
 魔力付与・・・エンチャント能力を大軍に使える能力を得たノルンに次ぐ、

『亜人の精神を崩壊させ意のままに操る能力』を持つウルスタ。

 ユミルを追い出した蛮族への復讐と。
 何者にも屈しない力を手にしたかったウルスタは、この場所で煌めいていた。
 ダロスもついでにこの軍で活躍中である。
 マケドニアの虎の子、竜石術士団をも押し返し始めている。
 戦況はまだまだ読めない。


 ・


「竜石術士団、押され始めています!!!」
「・・・成る程。死も恐れぬ巨人を使ってきたか。竜石術士はやはりその貴重さがアダになりがちだな」

 報告を受け取るミネルバ王女の声色は、しかして動揺はない。

「とはいえ、本格的な運用は次の機会で構わん。何しろ・・・」
「エルレーン殿との交渉は、まとまったばかりですものね」

 そうつづけたのはカペラである。全て滅んでしまえばいいと、幾多の謀略で無辜の民含めて人々を死に至らしめたことを後悔する時期もあったが・・・
 結局、『そう思っても仕方ないだけの扱いを受けたは受けた』のと、『周辺の行状がどのみち外道』で、更に『戦争なのよね』ということで、意外とあっさり吹っ切り、今は竜石関係のアドバイザーを兼任して、竜石術士団の編成と運用に関わっている。ちなみに作戦参謀もだ。

 竜石術士団の団長は現在エッツェルである。コネだが適材でもあった。
 竜石の大量保有という強みがある以上、『メディエ・ギフト』を前提とした戦略は当然としても。
『超人部隊』が運用出来るのなら、それはそれで幅が広がる。
『魔術の重複起動(ダブルタスク)』の可能性は奥深い。魔力の『運動能力転用』なら、魔道士の兵士としての質の低さを補ってあまりある。
 魔法都市カダインで若い魔道士のカリスマとして信を得ていたエルレーンという男と通じ、マケドニアは人材の確保も成功した。魔道士は教育が必須なため、その絶対数が少なく、兵士への転用は更に難しい。それが容易になったのは大きかった。

 今戦場に出ているのは、実験部隊のようなものだ。次の、次の次の術士団でやりたいことはまだまだある。
 だが、今ある部隊も貴重は貴重だ。

「誰かあるっ!!!」
「兄様、ゆきましょう。
 私も久しぶりに、全力を出しますわ」

 天涯のミシェイルからの返事はない。
 代わりに。


 ーーーーーーールギャァァアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!



 陣の隣の山が震えながら叫んで起き上がる。
 それは。
『飛竜のような火竜』ーいや、『飛翔する火竜』と呼べるほどのもの。

「ーあん。ミシェイル。素敵よ・・・」

 天涯では、ミシェイルの顔をした半人半竜の男が、レナの秘部に股間を打ち付け続けている。


 ・



 半年ほど前。
 つまり『暗黒戦争』から一年半後。

 レナとジュリアンはそこそこ仲睦まじく暮らしていた。

 しかし、ジュリアンはその出自の賎しさのためか、どうしてもレナに求愛できずにいた。
 スラムでいらない命として生まれ、人の物を奪って生きてきた。望まれて生まれ、それでも人に与えて生きていこうと自ら決めた己とは正反対である。共にいればいるほど、その違いが浮き彫りになる。
 と、勝手に感じていた。
 レナはレナで、今回の戦の中で、全てを奪われ、また全てから逃れた気持ちでいた。己に課した、人に神の慈悲を伝えるという思いが、傲慢でさえあったと思えた。業も知らぬ小娘が、神の言葉を人々に? 身を焦がされるような怒りも、底さえ見えぬような絶望も、嫌悪と羞恥の混ざり合ったような快楽が腹の奥に響く様も、子を産む意味さえ文葉でしか知らなかった餓鬼が。

 男は女を敬いすぎ。
 女は業に塗れ過ぎた。

 そして・・・
 レナは口にしてはならない名を、言ってはいけない場面で言ってしまう。
 二つをくっつけているのに、背中を向け合って寝ているいつもの夜に。

「ミシェイル・・・」

 は、と気がついたときには遅かった。
 ジュリアンが体を起こすのがわかる。

「ち、違うの」

 本当に違った。ただ、あの後どうなったのだろうと。生きていて欲しいな、と。そう思っただけで、恋しさは欠片もなかった。
 だが、ジュリアンは、『やはり』としか思わなかった。思えなかった。
 自分の中で、自分の評価が低すぎるこの男にしてみれば、得心のいく答えで。
 そのことに、悔しささえにじまなかった。
 普通なら『あの男と俺と、どれだけ違うというのだ』と激昂してもいい場面で。『ならばその思いごと塗りつぶしてやる』といきり立つものもいるだろうその時に。
『やはり』と思って諦念を滲ませる、自己愛のなさ。

「いいんだ、レナ。わかってたことだから」

 この一言が、ジュリアンの『無理解』を如実に表していた。

(・・・馬鹿)

 むしろ、それこそがレナのここ一年の不満だった。
 お情けでそばにいるのではない。妥協の結果手を取ったのではない。好きになったのだ。
 なのに。自分が愛したのに、何一つ未来を夢見ず、貪ろうとさえせず、終わる日を待つように淡々と生きる。その時まで、憧れた聖母を汚してしまわないように?

(なら、何のために、一緒にいるのよ!?)

 ジュリアンはむしろ、奮起するべきだった。一緒になった初日に、レナを如何に愛しているか、どんなに美しいものとして捉えているかを伝えるべきだった。そして、その伴侶たろうとするなら、その愛が、ただの盗賊崩れだった愚かな男をどれだけ救い、そして変えたかをその身でもって示すべきだったのだ。
 
 盗賊では、なくなったのかもしれないけど。
 ただ生きるだけになった、屍のような男。
 何をなそうとも、育てようともしない。
 ・・・汚れずに生きることなどできないというのなら。
 汚さぬようにただ共にいるというのは、生きているとは言わないのかもしれない。

「・・・ごめんね」

 限界だった。
 本当に、愛してはいたのだけれど。
 自分を愛してくれているのに、自分への愛を信じられない男。

 この人といても、幸せになれない。そう、悟ってしまった。

 そして。


 幾多の不幸を生み出し。

 自分の家族をズタズタにし。

 己を殺しかけた、けれど・・・


 狂おしいほどに自分を愛してくれた男を、思い出してしまう。



 ・



 そこからのレナの行動は、致し方ないとも言えたが、下衆の極みとも言えた。
 
「ジュリアン。私、ミシェイルがどうなったか知りたい」

 未練で終わらすはずだったミシェイル王子に執着し始めたのである。
『レナのためなら』という言い訳で、全てレナに選ばせたツケとも言えた。未来を選ぶこと。それはその先の結果に責任を持つこと。それを放棄したジュリアンは、結局、レナを手に入れられなかった。
 対して、一度すべてを失ったことがあるばかりか、償うために命さえ投げ出そうとしたことのあるレナは、怖いものなどなかった。手に入らねばそれまで。そこから何を望むかはその時の自分次第でいい。その覚悟のある女は強かった。
 支えてくれていたと思っていた男が、結局寄りかかっていただけと知った時にさえ、ならば使いつぶすまでと切り替えた。

 マケドニア城を尋ねると、レナ達は歓迎された。
 まあそうだろう。シスターと元盗賊という取り合わせだが、どちらも先の戦争での重要人物にかわりない。加えてレナはミシェイルの元婚約者で貴族の出、ジュリアンはマリアの命の恩人、ミシェイルの命を救うのにもそれぞれ一役買っている。
 そんなこともあって、ミシェイルとの再会はあっさりとかなったが、彼の状態はひどいものと言えた。
 意識はあるが、全身が動かない。マリアの時よりマシという話だったのだが、誤算があったらしい。脇腹と一緒に神経中枢を吹き飛ばされていたのと、神竜の霧のブレスによる外傷だったため、竜石の力が及ばぬ部分があったのである。
 結果、全身不随になってしまった。
 それを見たレナは、自分を再び竜石術士にするようカペラに詰め寄る。
 
「・・・あなたには、既に竜石をはめ込んだ跡があるんですのよ? その上で更に、ですの・・・?」
「石との結合面が既にあるんだから、後は加工してはめ込むだけじゃない」
「積み木作ってるんじゃありませんわよ・・・」

 しかし、これが成功し、レナは再び『メディエ・ギフト』の機会を得る。
 望んだのは、『無機物含む〈融合〉を司る能力』。
 そして・・・
 レナは、ミシェイルの精神の大部分を、飛竜数匹と火竜を融合させた巨大竜に移し。
 一部を、竜とミシェイルを融合させた、『竜人』とも呼べる体に宿らせた。
 
 そして、今に至る。

「ああ、ミシェイル。私、ずっとこうしたかったの。こうしていたいのぉ。くうぅん・・・」

 天涯の下。ミシェイルと一部繋がっているレナの精神が、『竜人』にそれを伝える。
 レナのしてほしいことがダイレクトにミシェイルに伝わり、そのままのことをミシェイルが意識の片隅で行う。
 会話しながら食べるように。
 試合をしながら歌うように。
 戦場で娘を背に乗せて戦いながら、妻の陰部に子種を解き放つ。

「ああ~・・・」

 生暖かいゲル状のものが、子宮を満たしてゆくのを感じる。
 とっくに妊娠はしている。
 この後どうするか。レナは考えていない。


 ・



「まさか・・・まさか!! 再びまみえるとは!!」
「縁(えにし)とは異なものよ! そして粋なことだ!!」

 フレイとアランが戦場のど真ん中で、互いに高笑いを上げる。
 ふたりの間に、それ以上の言葉はいらなかった。
 続く言葉は、ただの合図。

「いざ」
「尋常に」
「「勝負!!」」

 響く剣戟が、戦場を飾る。
 ー歌うように。

 その様子を遠巻きに見ている騎士がいた。かつて『黒豹』と呼ばれた、アリティアのアベルであった。
 かつてパオラと組み、別れた後、ひょんなことからエストと連れ立っていたが・・・

「成る程。因縁の相手か・・・
 ならば暫くは膠着するかね。となればこちらの工作が、いいタイミングで出来るかもな」
「もう終わったわ」
「早いな!?」

 マケドニア城で、あっさりパオラと再会したのである。
 顔を合わせたその時、お互い嬉しいようなげんなりしたような、微妙な表情であった。
 
「・・・ま、そうなるわな」
「なんで妹の連れとして再会すんのよ・・・」
「えー、なんだねーちゃんの『コレ』かー」
「嫁入り前の娘が下品な手つきすんじゃないわよ」
  
 などという会話の後、前回前々回の大敗があったにも関わらず、重役に抜擢。本番の運の悪さに目をつぶってでも、手腕が欲しかったようである。

「とは言え流石に三度目の正直、ここで勝てなきゃ次はないだろうよ」
「だからこそ、過剰なまでの予防策を張ってるでしょ。さあ・・・」
「第一弾、行くか」
「リーヴル!!」
「は!直ちに!!」

 呼ばれて出てきたのは。
 かつてグルニアの王城近くの村で、盗賊団に犯される寸前でその男の首からの血のシャワーを浴び。
 領主に人質にされそうになって洞窟に閉じ込められたウルスタの救出劇で一役買い。
 その後アンナの気まぐれの犠牲になって、竜石術士になったリーヴルだった。

 
 ・


 陣に戻り、待機させていた部隊の前で向き直る。
 融点の高い合金でしつらえた、動きやすい鎧を素肌に纏うリーヴルは、将校や兵の偶像的存在になっていた。
 当然士気は恐ろしく高い。
 ・・・本人は胸を張りながらも若干くじけかけていたが。

「・・・どうしてもこれでなきゃダメなのかしら」
(何が不満なのだ。お前の特性にも沿った最高の装備ではないか)
「そーかもしれないけど!!」

 歯噛みしつつも、やはり胸を張る。
 屍竜が跋扈していたあの日、結局終わるまでもがいていたアレは、なんとか無駄にはならなかった。
 グルニアは、カミュが表舞台から姿を消してしまった事で、崩壊への道を歩んでいた。人望と功績のあるロレンス将軍が、王の忘れ形見ユベロとユミナの後見となる事で体裁を保っていたが、貴族達はバラバラだった。元々それぞれが同等以上だと自負し合っている者たちが、強さのみで帳尻を合わせていた。絶対的なカリスマがいなければまとまらない。

 その時出てきたのがリーヴルだった。
 
 近隣の村の治安をほぼ一人で見て回り、自警団の士気も恐ろしく高い。目をつけたロレンスの部下が進言、瞬く間にグルニアの准将となり、一旅団を率いるまでになった。
 勿論、ただの村娘だったリーヴルが、いくら竜石の力を手に入れたところで、武術や戦術、戦略をはじめとする軍のいろはを一年弱で手に入れられるわけもない。

(グルニアを救うのだろう? ユベロが即位するまで、ロレンスとともに粉骨砕身の覚悟で臨むといったではないか。鎧の隙間からちちやしりやふとももがちらちらするぐらいいいではないか。減るもんでもなし。ほれほれもっと腰をひねって歩け。皆喜々として股間にテントを張っておるぞ。軍隊だけにw 今日も今日とて生き残りどもはお前の尻で切ない溜息をつくのだろうよ。女冥利につきるではないか)
「うううううううう(つд⊂)」 

 あの日。
 アイルを『復活』させようとした術式は失敗した。
 デネブの魂は、輝きを失わなかった魂のオーブに吸収されてしまった。
 火事場泥棒の盗賊に奪われて、偶然リーヴルの手に渡る。

「何にも知らなかった私が、軍隊でやってけるのは、確かにあなたのおかげだけど・・・」
(ならば言う事を聞け)
「これは絶対必須条件じゃないと思う!!」

 的確な助言を与えつつも、デネブはリーヴルを弄んで楽しんでいた。
 だが、この・・・ ビキニアーマーとしか言いようのない鎧も、一応理にかなった部分もあるものであった。

(押し問答も飽きた。出陣してこい)
「覚えてなさいよ・・・」

 涙目を兵に見せないようにして、号令をかける。

「我らはこれより、アカネイア帝国軍の横腹に特攻をかけるっ!!
 臆するな。熾天使の加護を持つ我と、率いる第3連隊は!!」
「「絶対無敵!!!!!!」」
「「常勝無敗!!!!!!」」

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!

 デネブは、希望を取り戻していた。
 術が、失敗したからである。
 あの術は、完璧だった。
 そして、龍脈からの『世界の記憶』を基になされるそれは、どんな死者さえ復活させる。
 死体がとっくになくとも。
 魂が大いなる神とともにあろうとも。
 必ず、復活する。
 その術が失敗したということは。
 唯一失敗する条件とは。

『死んでいない』場合。

 どんな死者も生き返らせる秘術も。
 生きているものは生き返らせられない。

(ふふ)

 間の抜けた話だ。
 本当に。
 けれど。

(くふふふっ。ふふふふふふふふははははははははははははははははは)

 ああ、楽しい。
 本当に楽しい。
 さあ、どんな再会をしようか。
 それまで、どう過ごそうか。

 ーーーとりあえず。


「デネブぅぅぅ!! いつか割ってやるから!!」
(出来るものならな。くふははは♪)


 リーヴルの能力は、『炎の羽』。
 ぱっくりと空いた背と、二の腕と太もも、関節各種から計12枚の炎の羽を出す。
 攻撃にも防御にも使える上に、プラズマでもある炎の操作で、空中浮遊と高速移動も可能だ。
 単体での攻撃力は、世界で指折りと言える。
 そして。


 炎を体に纏う以上、鎧は熱を通さず、融点の高いものを最低限となる。
 また、布の類はつけられないため、覆うものがない。関節の邪魔をするものになってはいけないので、露出は多くなる。
 食い込むような股あてのみで飛翔する、美少女の後ろ姿。
 それは、下から覗き込むような絶景である。
 それに遅れじとついてくる行軍の速さは異常と言えた。
 ・・・うら若き娘には酷な試練である。

(くふふふふ)

 ーデネブは、グルニアの危うさとリーヴルの初心さを肴に、しばしこの戦乱を嗜もうと決めていた。



続く



by おかのん (2018-07-27 11:59) 

ぽ村

>>おかのん
投下d(゚Д゚ )☆スペシャルサンクス☆( ゚Д゚)b
たしかに随分駆け足な感じだけど…
いやこれ次回で終わらんでしょw

>ジュリアン
ああ、甲斐性無しってこういうやつのこと言うんだな…と、久々に感じた。
そのまま思い出で自慰して、体よく美人げtしたリカードあたりにタメ口きかれて欲しい。

それにしても色々懐かしい名前が出てきたもんじゃ…
by ぽ村 (2018-07-30 00:05) 

おかのん

うん、終わんなかったw
でも多分次で終わるw



~偽りのアルタイル~


 跋章 偽りの鷲(わし)


 その3 乱戦渦中


 マケドニア帝国の『過剰な予防策』第一弾。要はアベルとパオラコンビの今回こそは負けられませんので奥の手たくさんありますとりあえず一つ目。だが。

 ガッチリと止められていた。

「・・・何!? どういうことなの!?」

 炎の羽を纏って、熾天使の如く戦場を駆けるリーヴル。
 だが、アカネイア聖王国軍の横腹は。
 オーロラのような結界が、覆い尽くしていたのだった。

(結界だな)
「見ればわかるわよ!」
(尋常な規模ではないな)
「見ればわかるわよ!!!」

 オーロラのような、と形容した時点でわかるかもしれないが。
 それは完全に『壁』だった。
 鉄板を兵士達に持たせているとか、超魔術で土を盛り上げたとかの規模ではない。
 はるか天空まで貫く、問答無用の壁であった。

「我ら、グラ国の誇る鉄壁重機甲兵団!!」

 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!


 そこには。
 バロンクラスとも呼ばれる超重装歩兵の軍隊が並んでいた。
 よく見ると、持っている槍はなんだか儀式めいていて、錫杖のようにも見える。

 いや、実際錫杖なのだろう。
 すべての杖は干渉しあい、光の束がオーロラと化しているのだ。
 
 その中心に、一歩まろび出て胸を張っているのは。
 グラの王女、シーマだった。

「亡き父の汚名、かぶった上で、グラの名の下に返上する! ついては、戦場を荒らすカトンボを叩き落としてくれる!!
 貴殿にも故はあろうが、我らも引く是はないっ!!!!! さあ、臆さぬならばかかってこいっ!!!!!!!」

 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!


 グラ。
 前王ジオルがアリティア前王コーネリアスを騙し討にしたとあって、しかもそのアリティアがアカネイア聖王国の再興の要となったこともあって、グラはここ数年、塗炭の苦しみを味わっていた。
 そのグラの『やり直しの機会』として、白羽の矢が立ったのは、妾腹のシーマであった。
 妾といっても、単に下働きの女の尻につい手を出したジオルが発覚を恐れて叩き出しただけである。
 しかし、この下働きの女性が、出来た女性であった。
 被害者であるにも関わらず、事実一切を喋らず、子供には『自分が頼み込んでさずけてもらったのだ』と伝えていたのである。
 そして、シーマが成人し、グラの後継として見立てられた時には、既にカリスマを備えていた。
 その嘘がどれだけ彼女のことを思ってつかれたものなのかを受け止めていたし、自分が王の娘であることの意味を知っていた。

 今、自らもジェネラルクラスの重装鎧を着込み、名乗りを上げる姿は、父より遥かに凜としていた。


   ・


「なんてこと・・・ アカネイア聖王国軍の横腹を第三連隊のリーヴルの特攻で風穴開けるというのは、今回の作戦の踏み台だったのに!!」
「オイまて、そこが失敗したら全部ダメになるとかじゃないよな?」
「そんなわけ無いでしょ」
「よかった、そうだよな。大一番で失敗しないために今回こそ幾重にも作戦を・・・」
「2179の奥の手のうちの2168がほぼ機能しなくなっただけよ」
「後11か。何が残ってるんだ」
「『このあたしパオラが捨て身の特攻』『愛するアベルのやぶれかぶれの特攻』『主であり王女ミネルバ様のもうダメじゃね的特攻』『ええとあたしもうほぼただの毒婦なだけなんですけどレナ様特攻』『俺既にレナの足を舐めるだけの豚なんですけどジュリアン特攻』『忘れ去られてただろうけどマケドニア帝国で倉庫番とかやってますマチス氏特攻』『ちょっとまって私参謀だったよね!?カペ・・・』」
「全部聞いてみたい気もするが怖くてもう聞きたくねえ」

 酷すぎる会話がされていた。
 パオラは作戦を立てる才はあっても、采配の才がないのかもしれない。
 運がないのは既に証明されている。


 ・

「むむむ・・・どうしよう。空まで覆ってる壁じゃ、あたしの力が通用しないよ」
(完全にお前対策ではないか。竜石術まで日進月歩・・・というか後出しジャンケンじゃな)
「のんきなこと言ってる場合じゃないよ!!」
「独り言、怖い。けど同意。ここ戦場。呑気な事、言う場合、違う」
「!??」

 ガインッ!!!

 咄嗟に振るった槍が、なんとか剣戟を逸らす。

「空中に!?」

 褐色の肌と民族的な衣装、金の輪の装飾具と反り返った短剣の二刀流。

(お前は・・・)
「え、知り合い!?」
(いかん、距離を取れ!!!)
「そう来るだろうと思ったぜ」

 下からの声。

 鎖付きの鉄球が眼前に迫る。

「きょわああああああああああああああああああ!!?」

 ごギュん!!

 こちらも咄嗟に打ち返そうとするが、流石に殺しきれずに、槍が変な方向に曲がる。この場では使い物にならなくなってしまった。

(アテナ・・・)
「我が主、アルドと、シーマ姫。お前、邪魔。死ね」
「何この人怖っ!!」
「お前、独り言、より怖い」
「超失礼!!」
(で、ありゃなんじゃ)
「無視かよ!!」

 確かに怖い。
 ではなく。
 下にいたのはこれまたジェネラルクラスの鎧を着込んだ精悍な紳士だった。
 デネブは知る由もないが、見覚えだけはあった。あの顔に。
 コーネリアスに瓜二つなのだ。
 マルスが固太りし貫禄をつけて40に差し掛かればこんな感じか、という体である。
 ヒゲをたくわえ、かぶいた感じもあり、その意味では良くも悪くもジオルにも似ている。
 コーネリアスとジオルも親戚程度のつながりはあるので、面影くらいは出てくるのかもしれない。

(どっかで見たような)
「誰なのよそもそも」
「とおからんものはおとにもきけ。ちかくばよってめにもみよ。ぐらはしーまひめのやしなわれちちあるど、そのよめあてな。おおめしぐらいのやくたたず、いまこそなをあげんとすいさん」
「棒読みな上に恐ろしくカッコ悪い!?」
「それは二枚前の要修正版だアホ!!」
(なんじゃ養われ父って)
「あたしも是非聞きたい。何よ養われ父って」
「他人、けど、養ってくれる親、養父。他人、けど、養われてる親、養われ父」
「扶養家族(他人)・・・居候?」
「そうとも言う。けど、父のようにしたわれているので問題なし」
(しかも嫁付き)
「養われ母?」
(なんで食客じゃないんじゃ)
「あえて父母なのはなんでなの」
「話すと長い」
(今は無理か)

 暗黒戦争後。
 アテナは超巨大火竜の腹の中からベガを無事回収。
 そのまま二人きりになりたくて逃亡した。
 赤ん坊状態のベガをなんとか育てていたが、半年もするとベガは元の青年に戻った。これは、『レギオン計画』の折、手っ取り早く使えるように、カペラが成長促進薬とその手の魔法を重ねて使った副作用だった。
 しばらく二人で旅をしていたが、グラがアカネイアの許しの元再興したとの話を聞いた。
 一度はグラ王ジオルの体の中にいたベガは、そのシーマ姫とやらの琴線に触れる話ができるかもしれないと、訪ねていったのである。

 その頃には、ベガは固太りのおっさんになっていた。

 触れ込みは『自分はジオル王の影武者をやっていたもので、あなたのことも知っている。むしろジオル王の願いを受けて、わずかながら援助していた』との、嘘八百だ。
 しかし、これがはまった。
 生活が楽だった記憶は全くないが、ジオルが気にかけていたという話を誰かからでも聞きたいと思っていたシーマは、全面的に信じ込み、『父は直接そうできなくても、自分を愛していたのだ』というエピソードをせがんだ。
 その手の人情話は旅の中で結構な数仕入れていたベガは、少しずつアレンジして、ほぼ全部ジオルとシーマの話にしてしまった。
 年に数度もなかった逢瀬。
 理解ある部下の手引き。
 祭りの日の前日に届く、『瞳に映さじとも、この同じ空の元』との手紙、最後の花火に込められた思い。
 国主導の工事、誇りなき裏切り、命懸けの復讐者との対峙さえも、全ては愛する人と、その娘のために。
 勿論、シーマは滂沱と涙を流して感動した。
 シーマが『本当はこうだったらいいのに』と思っていたこと全部だった。
 疑うのが気分悪いことなのに疑う訳もなく、しかもそれがどことなく肖像画の父に似ている・・・(若干かっこいいと取れなくもない、つまりいい方向に似てない)そんな男から語られるのだ。すっかり酔いしれた。
 ほどなく義理の父となってくれと言われ、アテナも含めて了承する。
 シーマは自分の人生そのものに充足し、アテナとベガは養ってくれる人間を見つけた。
 一年も遊びほうけたところで、英雄戦争が始まり、昔取った杵柄とばかりに、参加したのであった。

 さて。

 横腹から総崩れになるはずが、壁のおかげで十分時間を取って隊列を組み直せた。
 まわれ、右というやつだ。
 後続の部隊も続々到着し、アカネイア聖王国お得意の物量力押し。

「さあさあ反逆者ども」
「覚悟はいいか」
「これぞ王者の戦よ」
「「「「「「「「「「踏み潰してくれる」」」」」」」」」」

 新生アカネイアの要人として、オレルアンからハーディンを支えるために出向してきたロシェ、ウルフ、ザガロ、ビラク。
 旧アカネイア王国からの古参としてこれも要を任された、アストリア、ミディア、トーマス、ミシェラン、トムス。
綺羅星の英雄率いる、大軍団のそろい踏みである。
 ジョルジュやリンダはこの場にはいないが、本国の方で任についている。
 

「な・・・ なんて数・・・!!」

 この形勢逆転の図に、第三連隊の兵たちは慄いてしまった。

「も・・・もうだめだぁ!!」
「し、死にたくねえ!!」
「か、かあちゃーん!!」

 逃げ出すものまで現れる始末。
 リーヴルも、自分一人なら何とでもなろうが、この戦自体には希望を持てなくなりそうだった。
 ゆっくりと部隊の前に降りようとした時、背後に黒い影が忍び寄った。 

「!?」
「ぬおおおおおお!! どうせ死ぬなら、美少女の尻パフのなかでぇぇぇええええ!!!」

 ・・・ロジャーだった。
 リーヴルの尻に顔をうずめ、露出したイチモツをひっくり返した自分の愛馬に突っ込み、腰を動かし始める。

「うへへへへへへへへへリーヴル准将のビキニアーマー尻クンクンしながらどっぷりどぷどぷ~」

 短く体を震わせながら、射精したようだった。この間なんと0.6秒。
 恐ろしいまでの早漏である。
 
 ちなみに。
 リーヴルの特殊能力の詳細をリークしたのは誰隠そうロジャーだった。
 隙のないリーヴルの気が抜ける瞬間を作り出すためのことだったらしい。
 努力の方向性が明らかに間違っているが、本懐を遂げてみせたこの馬鹿はある意味勇者であった。

「死んでろ」
「ぎゃああ」

 アルド・・・ベガの鉄球(刺と鎖付き)に吹き飛ばされて、ロジャーは退場した。

「心から・・・お礼を言うわ」
「忘れろ。同情する」

 すう、と、ほほに伝う涙をベガは直視できず目をそらす。

「ロジャー・・・ 馬鹿でモテなかったけど、足も臭いし加齢臭もすごいし屁も臭かったけど、そんなに悪い奴じゃなかった気もする・・・多分。変態で気持ち悪かったけど」
「そうだな・・・ あそこまでは出来ないし、命を懸けることも出来そうにないし、あんな恥も晒せないけど、死ぬ前に一度でいいからリーヴル准将の尻の間に顔を突っ込んでヤギのメスのダッチワイフで中出ししてみたい・・・ そんな思いはここにいる全員が抱いていた魂からの思いだ」
「真似したくないけどやっては見たい事をやってのけた!! あいつこそ別の意味で勇者だ!!そこに痺れる!!憧れないけど!!」
「あの屁こきイモリでさえ命をかけたんだ! この戦いに!!」
「正確にはリーヴル准将の尻にな!!」
「やつに負けてなるかよ!! 人として! 男として!! いささかも劣った覚えないけど!! 別の生き物と認識してるけど!!」
「なんか理屈にもなってないよね!? 雰囲気に酔ってテキトーに盛り上がってるよね!?」

 第三連隊は士気を取り戻しつつあった。
 リーヴルはああなんかもういいやおまえらぜんいんしねな気分になりながら、再就職先をどこにしようか考えつつ、再度特攻をかける準備に入った。
 
(お? オーロラが・・・ 壁が消えるようだぞ)
「そりゃそうでしょ。あんな大掛かりな絶対障壁、時間は限られて当然よ」

 あえて囮になった本隊は、おされはしたが被害は軽微だ。
 横腹からの特攻は失敗したが、向こうの被害がないだけでこちらも無傷。
 後続部隊が到着するのを許してしまったが、こちらもまだマリア陛下の駆る巨大翼炎竜『ミシェイル』と、白竜、紅竜騎士団が到着する。

「まだまだ、これからよ」

 太陽は、真上にある。


 続く

by おかのん (2018-08-12 12:36) 

ぽ村

>>おかのん
友人との対戦格闘ゲーとか、つい手を伸ばしてしまった漫画とか「これで最後」からが長いもんさ…
TRPGでも「次回で最後」を2回言って終わらなかったことがあったような…

>残り11
とりあえずジュリアン・マチスGoしてそのあと考えるのはどうだろうか?


映画版総集編のようなスピード感で進行してますが、

>「まだまだ、これからよ」

次回最終回とは思えない締めっすなーw
by ぽ村 (2018-08-15 23:08) 

おかのん

~偽りのアルタイル~


 跋章 偽りの鷲(わし)


 その4 偽りのアルタイル


 真南にある太陽。
 その光を柔らかに遮る木陰。
 終わりかけの夏の風が吹き抜ける草原。
 一昨日の雨が豊かなせせらぎになっている、濁りもとうに取れた小川。

 持ち込んでおいて、布をかけておいたテーブルは、少し拭き取るだけで野ざらしの汚れは落ちる。
 お湯は魔法でその場で沸かす。瓶から取り出した紅茶は今年の初物だ。
 
「今日は上手に焼けたのよ」
「わぁー!」

 余計な油を吸う紙で包んだ焼き菓子からは、竈の匂いがほのかに感じられる。
 今日は、などといっているが、何も出来なかった一年前とは違う。失敗などまずしない。

「あの人、呼んできて。晩ご飯のお魚捕るのもいいけど、午後のお茶も大事なんだからって」
「はぁい!」

 緑色の髪がぴょこぴょこと跳ねて、彼のもとに駆けてゆく。
 踏みしめた草がさくさくと音を立てて、それが遠ざかる。
 二人共、紅茶のよさがわかるほど繊細な飲み手ではない。少し冷めたくらいの方が飲みやすいとまで言う頓着のなさだ。
 だから抽出時間が終わったところで呼びに行かせる。戻ってくる頃には存分に冷めている。
 釣りの仕掛けをはずして戻して片付けて、ゆるゆると帰ってくるのだから。

 二人が戻るまでの、何もすることのない時間。
 木漏れ日の煌き、気まぐれな風、流れ行く雲の形、山にかかる消えない雪の模様。


 夢のようで、そら恐ろしくもある、幸せの日々。


 ふと。






 きぃぃぃぃぃぃぃいいい・・・・・・んぅ


「あら」



 光の柱が、空を貫く。
 南の方角だ。大体ではあるが。

 ちょうど、二人が戻ってきた。

「カミュのおにぃちゃん、あれなあに?」
「ふむ、光の柱だね。魔法だろうか」

 だとしたらどういう大魔法だろう。
 ニーナがまだギリギリ少女の頃に目にした戦争とは、人と人が槍や盾を構えてぶつかり合い、血で大地を染める凄惨なものだった。
 数年前に、アカネイア王国を復興するのだと起こした戦争の間に、魔法も兵器も瞬く間に進化を遂げ、戦場ごと焼き払ったり、怪獣同士が城を壊しあったり、街一つを竈にしたような魔法がすべてを灰や砂にしたり、山脈が丸ごと瘴気に包まれた中で、魂の道筋の奪い合いをしたりした。

 この少女、チキも。
 グルニアの騎士、カミュも。
 そしてニーナも。

 この何もない、そして何もいらなくなるこの場所で、過ぎてゆく日々を満たしている。

 
 思い出す。
 悲しみも愛しさも黒い渦がうねるような心の中でくべて、吐き出し続けていたあの頃。
 擦り切れた心でふと月を見上げて、漏らした言葉。

『あなたが、グルニアの騎士でなどでなければよかったのに。戦争も、竜も、魔法も、何にも関係なくて・・・
 優しい風と、冷たい水の川のある草原に、小さな家を作って、そこで、ただ一緒にいられたらいいのに』
『それを、貴方が言うのか』

 あなたが、姫などでなければよかったのに。そう続いたのだろう。
 その時は、恥知らずと思われたと、後悔した。あるいは、幻滅されたのかと。

 『彼』が、バレンシアなる大陸でカミュを見つけ、失った記憶を取り戻させてくれた時、願った物。
 それを聞いた時に、あの時続いた言葉が、自分と同じだったと思えた。



 (優しい風と、冷たい水の川のある草原に、小さな家を)



 そこで、愛しい人を永遠に待って、惨めに野垂れ死にたいと言ったと聞いた。
 
 


 最近こり始めた友釣りとやらで取る魚は、身が柔らかく、生臭味が少なくて、ニーナも好物だ。
 優しい風と、冷たい水の川のある草原に建つ小さな家に帰り、暖炉で焼こう。
 チキが寝静まった頃に、二人は肌を重ねる。
 チキがこっそり頬を染めているのも、屋根裏に自分の部屋が欲しいと言い出そうかどうか迷っているのも二人は知らない。


 ちなみにレナはミシェイルの胤を受けてふた月目なのだが。
 一日違いで生まれてくる女の子がニーナの腹にもいる。



 
 バレンシアの海岸に流れ着いたカミュを介抱した娘ティータは、今は泣きはらして暮らしている。
 記憶をなくして生きていたカミュだったが、記憶を取り戻すと同時に、記憶をなくしていた間の記憶をなくしてしまったのだ。
 実は『彼』の術によるものなのだが、それを知る者は当の『彼』だけである。


(あなたには表舞台から降りていただきたい。代わりにあなたの願いを叶えてあげましょう。なあに、僕の思った通りのものであるなら、もう準備が出来ているのですぐにでも。
 さあ、言ってみて下さい。思った通りのものなら、かの者も報われるし、準備したかいもある。違うと言うなら、それはそれで面白い。
 表舞台から降りて裏から暗躍したいというならお手伝いしますよ? はたまた、紅顔の美少年・・・勿論この僕ですが、愛玩物として好きにしたいというならお安い御用。それともこのような世界は滅ぼしたいというならそれも一興、一番みじめな有様で死の大地にして差し上げますよ。くふ)


 心躍らずとも不快でもなくなってきたハーディンの逸物がようやく抜けて、気だるさを味わっていた時。
 城の八階の寝室の窓に突然現れた貴公子のような少年は、今晩は、突然ですがと前置きして前述のように続けた。
 望むものなどひとつしかなく、それを告げると、そうでしょうそうでしょう、ああつまらないと満面の笑みのまま吐き捨て、オルレアンの北の小さな山小屋に連れて行かれ、記憶のままの恋人がいた。

(それでは、なにか必要なものがあれば、シュテルンかモント商会の方に一報下さい。数日のうちに手配いたしますので)

 言い尽くせぬ恩義であったが、礼を尽くした後ふと問うた。
 名を。

(この姿では、クラウスと名乗っております)


 それが、『彼』について知る全て。



 ・


 
 
 光の柱が、空を貫く。
 その光は、戦場を覆い尽くさんばかりの超巨大飛竜の翼と。
 大地と空を両断する揺らめく虹色の壁をも。
 同時に貫いた。

「「「「「「なっ・・・!?」」」」」」

 戦場のほぼ全員が固まった。
 戦局を支配するはずの二大要素が、いとも簡単に意味を変質させてしまった。
 貫かれる壁など壁として機能しないし。
 撃ち落とされる竜などでくのぼうでしかないだろう。

 その光の放たれた場所。
 戦場を見渡せるだろう小高い丘の上。
 そこにいたのは。

「あ・・・アリティア軍だと!?」

 名も無い兵士の戦慄は、見事に代弁を果たしていた。

 先の戦争ではアカネイア同盟軍の主力の一翼として存在感を見せていたが、ハーディンが皇帝に収まってからは、聖アカネイア軍の中心となったのはオレルアン軍の面々だった。
 アリティア軍は殆どが自国とその周辺に目を向け、故あれば主国聖アカネイアの為に派兵することを約束していた。
 あくまで、聖アカネイアの添え物、何となれば捨石となることも辞さない一団・・・その程度のものだったはず。

 それが。

 戦況をまとめて変えてしまう超兵器を擁して、絶好の位置に居座っているというのか。


 両軍の動揺もここに来て極まっていたが、狼狽気味なのは実は当の君主だった。

「・・・目の前の光景が夢か何かとしか思えないよ。そうあって欲しいという意味も含めて」
「マルス王子、戦乱に生きる王が勝機を目の前にして、令に躊躇するのはいただけませんね」

 オグマの隣で、ひとりの青年がそう叱る。
 名を、ドライ。ドライ・アイルツェン。
 前半と後半の文化圏が明らかに違う名前で、恐ろしく偽名臭い名だが、今やオグマの片腕。最近は軍編成にも口を出す。
 的確なので採用せざるを得ないことが多い。
 そもそもは一人で旅を続けていたオグマが、とある村の荒くれ者をはずみで退治した時に、手を貸すと言ってきたのが縁。
 元は孤児で木こり暮らしだったと聞いて、サジマジバーツを部下としてきたオグマは好感を隠しきれず、ふた晩ほど語り明かすとすっかり意気投合してしまった。拾って育ててくれた老人が元軍属だったとかで、特にせわになったと言っていたアリティアで働きたいと思っているとドライは語った。
 その時には、己を探すように彷徨っていたオグマも、いい加減根無し草の生活も虚しくなっていたところだった。
 どう繕おうと、顔向け出来なかろうと・・・ あの日、十年以上も前になるあの日。仲間を逃がして代わりに鞭打たれている時、奴隷商人の前に、両手を広げて自分をかばった少女。かの少女の為に生きてゆきたい。シーダ姫の為に。それ以外の自分など、自分が認めていない。なのにどうして今、自分はあの姫の隣にいないのだ。
 オグマはドライと連れ立って、シーダに再び命を捧げると決めた。サジとマジはどこでどう間違えたのか、劇団の前座や路上で漫談をやり始めており、軌道に乗ったところだからとやんわりとしかしきっぱりと断られてしまったが、バーツは二つ返事で応じてくれ、ドライは二人分埋めて有り余るほど使える男なのがすぐにわかった。
 勿論、シーダはオグマの無事と、再び力を貸してくれる事に喜んだ。
 そして、マルスは。オグマと共にやってきたドライになにか底知れないものを感じた。

 予感は現実となる。

 カシムやルタルハはアリティアと交流があるのだから、交渉は容易な部分があったかもしれない、しかし、どう注文すれば、こんな兵器を取り寄せられるのか。

「『神竜砲』。かの神竜が吐くという霧のブレスを再現し、その先にあるものを文字通り『消し飛ばす』光の帯を打ち出す砲。
射程はこの大陸で使用する過程においてなら全域と言ってよく、城も竜も一個師団もなんら区別しない。龍脈からの距離で充填にかかる時間は変化しますが、大した問題ではない。なぜなら使いどころを見極めさえすれば、どんな戦況も戦局も一射でひっくり返せるだけの力なのは明白だから」

 実際に、マケドニアとアカネイア両帝国の決戦の場で、切り札たろう二つの戦略兵器を一撃のもとに叩き伏せてみせた。
 形としてはアカネイア側の支援として、超巨大翼竜を撃ち落としてみせたわけだが、絶対の壁をほこるシーマのオーロラを易易と貫いて見せて、アカネイア陣営のアリティアの見方は大きく変わるだろう。それこそ良くも悪くもだ。

「さて王子、この期を逃す手はありませんよ?」
「・・・君に、任せるよ」
「せめて方針を決めていただきませんと。アカネイア側の援護に徹しますか? それとも圧倒的な力を見せつけておく? ミシェイル王子の魂が入っていると言われる超巨大竜を撃ち落とした後でなんですが、羽を少し破いただけです。マケドニア側に売り込むのもナシではない。それこそこの力をもってしてなら、両軍を適当に焼き払って、なし崩しに大陸の覇権をこの腕にというのも勿論大いにアリですよ。何しろここにはこの大陸の軍という軍が勢ぞろいしている。この場でどれだけ消し飛ばすかで、いかようにも出来るでしょう」

 くふふ、と笑うさまは、かの魔女を思い起こさせる。
 この場でその笑いを直接知らないのはマルス王子くらいのものだった。そして知る者は皆背筋を凍らせる。
 カインやドーガ、ゴードンなど、前の戦で初期にしか携われなかった者達は、この戦でもついてきただけに終わる情けなさよりも、自分たちの運命にこそ困惑を深めていた。

「さあ、マルス王子。ここが分岐点です。平和や賢明さを装って傘下に甘んじるも、覇権を唱える王たろうとするも、ご自由に」 
「・・・・・・」

 マルス王子は、この期に及んで、それでも迷った。
 多分、彼の地で茶を飲んでいる三人の事を知れば、羨ましく思ったことだろう。
 マルスが願うのは、『何も奪われないこと』。
 シーダや、アリティア宮廷騎士団その他の面々だけではない。
 アカネイア王国を今支配しているオレルアンの者達、それらを受け流しつつ機会を狙う古参や新興勢力。
 マケドニアやグルニアなど、前の戦の敗者であり、今戦を仕掛けてきている連合の面々。
 皆、あの地獄のような戦いを生き残った『人々』なのだ。
 マルスだけが、違う。何もせずに、何も味あわずに、ただ生き残った。
 だからこそ、誰もを愛おしく思った。

 みんな、頑張って生き延びた人達なのに。
 あの戦争からもう帰ってこない人はいくらでもいるのに。
 どうして生き残ったみんなで、また殺し合いをしなければならないのだろう。

 そうだ。

「『方針』を決めろって事だったね」
「はい」

 恭しくも慇懃に見える微笑みで、ドライが応える。

「これ以上、誰も死なせたくない。出来れば、みんなに、そう思って欲しい。・・・無理かな」

 ・・・馬鹿な事を言っている、それはわかっていた。
 それでも、なんとかならないか、そう思ってしまうのだった。
 あの戦いを乗り越えてでさえ、二年後にこんな大戦をやらかす、その愚かさを見せつけられても。

 だって・・・


「本当はみんな、守りたいだけじゃないか」

 家族を。
 友を。
 愛した人を。
 知っているだけの誰かを。
 同じ国にいるだけの誰かと一緒に。

 守りたい。それだけ。

 みんながそう思えば。
 出来るはずなのに。
 いや。
 本当はみんな、そう思っているはずなのに。



「否」

 その言葉に、びくりとした。
 違う、と言われた。
 
「言いたい事はわかります。それが人の本質の『ある側面』であることもね。でもだからこそ、それらを脅かすだろう『敵』を許せない。許せば一瞬おいて、奪われるのが自分たちに切り替わるだけだ。守りたいなら強くあらねばならない。自分が正しいと思うのなら絶対に勝たねばならない。人は・・・」

 正面から見据えられて、マルスはたじろいだ。
 そして気がついた。

 魔女のものではない。
 この眼光は、彼だ。
 自分と同じ顔をした、生涯の友と思った、彼だ。

「守りたいからこそ、残酷に奪う」

 それは。
 それも真実の側面なのだと、理解するだけの知恵くらいはマルスも持ち合わせているつもりだった。
 だが。
 感情が理解を拒む。

 だって。
 だったら。
 
「じゃあどうやって、終わらせたらいいんだ」

 絶望的なことに思えた。
 『他人』が存在する以上。
 『奪う』行為は、止まないという事ではないのか。

「・・・まあ、そういう事を言い出されるのではないかと思って、準備はしてあるんですがね」
「なっ・・・!?」

 散々詰っておいて!? とも思ったが、拍子抜けした気分とともに、救われたような気がした。
 彼には、あるのだ。
 この、永遠に実現しそうにないと思われる命題の、解決策が。


「どうする、つもりなんだ?」
「神様に頼んでみます、というところですかね」


 ドライがおもむろに取り出した手鏡。虹色に輝き、鏡面から声がする。


<んう? これでいいの? あ、だあれ? くらうすのお兄ちゃん? それともどらいのほうのお兄ちゃん?>

 それは。
 マルスにしてみれば、小さな女の子の声でしかなかった。
 しかし、神の声であるといえばまごう事なき神の御声であるのだった。



 ・



「そっかあ。じゃあやっぱりいーあん?(E案)をやるんだね? そうだね。ほんものの?まるすのおにいちゃんはそういうひとだってくらうすのお兄ちゃんいってたもんね。うん。・・・うん。あ、じゃああのひかりのはしらは、しんりゅーほー(神竜砲)なんだ。えー、まりあのおねえちゃんやそのお兄ちゃんにむかってうったの?? もー、そういうことするの、めっ! なんだよ? まちがえてあたったらげんしれべるでけしとんじゃうんだからー」

 のんきな口調で恐ろしい話が語られているが、カミュもニーナもある程度察した。
 チキが龍脈の力を流用して自らを守るこの結界。提案したのはクラウスである。そのクラウスがチキと度々相談した上で、色々やっているらしいのは知っていた。

「うんわかったー。またつなげるー」

 手鏡の虹色が消え、普通の鏡のようになる。
 ニーナが水を向ける。

「クラウスと何かお話だったの?」
「うん。なんかねー、『まっちぽんぷ』さくせんっていうのをやるんだって」

 火を点けておいて水を持ってきてある状況のことだが、何が火なのか。

「りゅうせきっていうのはもともと『りゅうぞくのち』だから、いきものとしんわせい(親和性)があるんだって。で、りゅうはもともとちょうしぜんとちょうわしたせいたい(生態)だから、このほしそのものをひとつのいのちとしてとらえたばあいのどうちょうりつ(同調率)がたかいんだって」
「・・・わからないわ」
「竜石が人の体に埋め込まれても拒否反応が出ない理由として、元々が血液だというのが理由の一つなんだね? そして、竜は人よりも『自然の一部』である意味合いが強い生き物である、と」
「そー」

 カミュの補足でニーナもなんとか理解する。

「で? それがその『マッチポンプ』作戦とやらとどうつながるんだい?」
「いま、ほとんどのへいしさんがりゅうせきをつけてたたかってるでしょ。それから、くらうすのお兄ちゃんがあつかってるこむぎこって、りゅうせきをまぜてあるんだって」
「ほ、ほう?」
「しゅてるんでももんとでもあつかってるし、あるてぃねっとにもきょうりょくしてもらってるんだって。だからこのたいりくのほとんどのひとたちはおおかれすくなかれりゅうせきをからだにとりこんでるんだって」

 初耳だった。
 というかこの事実を知っているのは世界でも数人だろう。
 カミュとニーナでやっとふたケタ目に入ったところではないだろうか。
 超自然との同調率の高い生き物の血から出来た石が、ほぼ全ての人間の体内に溶け込んでいる・・・ということだ。

「で、クラウスはそれをどうしようって言うの?」
「りゅうみゃくにチキの・・・『しんりゅうおうのみことのり』をながすことで、たましいのみちびきのさきをせいぎょするっていってた。えーと・・・ ふつーのにんげんじゃだめだけど、チキがりゅうみゃくさんに『みんながみんなにやさしくなれますよーに』っておねがいすると、ほんとにそーなるんだって。すごいねえ!」

 カミュとニーナは目を丸くした。
 確かに、『皆が皆に優しく出来るように』などという願いは、子供が無邪気に神に祈る願いとして、珍しいほどのものではない。 
 しかし。
 紛う事なき『神の王』が。
 世界の意思として魂の輪廻に命じる『勅』ならどうか。


 ・


 『神竜砲』拡散モード。
 指定した領域に選択した効果をもたらす、散布モードである。
 冷気、熱気、酸、細菌、瘴気など、各竜石のモデルパターンから選択でき、竜脈そのものに干渉すれば、その他の応用も利く。
 
「アカネイア大陸全域を指定します。神竜王の勅を思考パターンの優先順位に設定する魔導式をかけます。それが、この大陸を平和へと導くでしょう」 
「・・・何を言ってるのかさっぱりわからないんだけど」

 シーダが苦り切った顔で問う。

「鳥頭でもわかるように言うと、何かしようとするたびに『他人に親切にする』ように考えが変わります。本人の気がつかないうちに」
「今度はわかり易すぎて空恐ろしく聞こえるんだけど」
「ならもう少しマイルドに話しましょうか。シーダ様、童話は知ってらっしゃいますか? いくつか挙げてもらえますかね」
「この話と同関係あるのよ」
「多少遠回りですがマイルドに伝わるかと」
「・・・シンデレラ、白雪姫、マッチ売りの少女、赤い靴のカーレン、不思議の国のアリス?」
「いかにも乙女チックなラインナップをどうも。さて、『お話』というものは、作者はたつきの道としてだけでなく、自己表現や、メッセージとして発表しています。例えで言うと先ほど出た中では『マッチ売りの少女』がよろしいかと。あらすじは覚えておいでです?」
「マッチを売ることで生計を立てていた孤児の少女が売れ残りのマッチに火を灯しながら幻覚を見て天国へ行くんでしょ」
「めでたしめでたし」
「どこもめでたくないわ。誰からも手を差し伸べられずに、小さな女の子が死んだ話よ。怒りさえ覚えたわ」
「その後、冬の街にくりだすと思い出されたりしますかね」
「・・・実を言えば、オグマがムチで打たれている時、重なったわ。大きな男の人だったけど、ひどい扱いを受けていると思ったら・・・ 従者には、姫様は見なくていい、いちいち関わっていてもキリがないと言われた。『マッチ売りの少女』を読む前だったら、そういうものかと思っただけだったかもしれない。でも、無関心が人を不幸に追いやるその話を読んで、締め付けられるような思いをした後では、助ける事しか頭に残ってなかった」
「そこです」
「どこよ?」
「シーダ様は既に『印象的な物語』を読むことで、他人が不幸に会っていたら、『助けなければ』と思ってしまう方になっていたわけです。人の思考は『経験の蓄積』です。こうしたらいいことが起きた、こうすると人に嫌われる、こうやってやればずるいことをしてもバレない、弱気なやつを脅せば泣き寝入りする、商売で成功するとはこうするのだ・・・ その、個々で形作ってきた『意思決定の材料』の中に、『神様のお願い』を介入させます。既に浸透している竜石・・・『超自然と親和性の高い生き物の血』から、魂の通り道である『竜脈』を介して行うのでほぼ一瞬です」

 マルスは、得心した。

「『頭の中の天使と悪魔』が、知らないうちにその・・・『神様』だけに、みたいなことになる?」
「ああ、わかりやすく例えてくださってどうも。そうです。自分の行動を選ぶ筈の段階で、知らぬ間に条件づけがなされている状態になる。
 チキの・・・神竜王の思考が、感覚が、基盤になってしまう。彼女の思考は神王の慈愛です。『人間はみんな家族』と思っているといっていい。見も知らぬ、縁もゆかりもない赤の他人でも、彼女にとっては人間であるだけで『家族』です。兄や父のように慕い、母や姉へするように甘え、下の子達にするように世話し守り、親族のように交わるべき愛すべき誰かです。それが基盤となるということは・・・ 以後、人という人誰に会おうと、親しみを先に感じるようになるでしょうね」
「それは・・・」

 素晴らしいことだ。
 聞く限り、本当に素晴らしいことだ。
 だが。
 だが、それは。

 『今までの人間』の、全否定ではないだろうか。

 それに気がついたことを、ドライに気づかれる。
 シーダも、遅れて気がついたのか、何とも言えない気持ち悪さを吐き出せない顔をする。

「そう。それは人の『質』を変えてしまうでしょう。今まで、それをなんとかしようと数多の英雄が志を持って、人のみで、人の身で変えようとしていたことを。全て無駄だったと断じて。神の力で。人を人でないものに変えてしまう。いいことか悪いことかは置いて、人が、変わってしまう。
 それを、是とするか。否とするか」

 人は愚かだ。
 戦いの歴史をただただ繰り返した。
 今の今まで進んだ文化は、文明は、一度に殺す数を増やしはしたが、人はいつまでたっても人のままに感じられる。
 後どれだけだ。
 後どれだけ無為な血が流れれば終わるのだ。
 後どれだけの悲しみを重ねれば、憎しみや欲望を乗り越えて、世界を愛で包める。
 だけど。


「それでも、すべての『今までの人々』を、ある意味『殺す』と捉える事も出来るこの行いを、是としていいのか・・・」
方法は示された。しかしそれがもたらすものの意味にまた迷う。問う者は、ただ問う。
「そうでもしなければ、今すぐ変えるなどということは出来ない。どちらが良いかということは誰にも言えない。ただし」
 問を遮り、
「わかってる」
 そう告げた。 

 やるなら、受け止める覚悟をしろ。
 止めるなら、この世界で生きていく覚悟を決めろ。

「どの道、僕に求められるのは、受け止める覚悟なんだね」
「自分だけが迫られていると思うなよ。人は誰だって、いつだって迫られる。選択と、覚悟をな」

 ああ。
 彼だ。
 この世でただ一人、僕の傲慢さを言い当てる、理解者。

「アルタイル」

 その呼びかけに、ドライは応えなかった。

「撃ってくれ」

 マルスは、決断をした。



 これで、世界は変わる。
 永久の平和がもたらされる。
 『人の質』が変質してしまうという暴挙の果てに。


 ニタリと、ドライが笑う。
 手が振り下ろされ、「撃(て)っ!!」との掛け声の元、既に充填されたエネルギーが輝きを増す。


 発射。



 ーーーーーーーーーーーー


 きぃぃぃぃぃぃぃいいい・・・・・・んぅ





 光の束が打ち出され。
 細氷のような現象が、アカネイア大陸全土に起きた。
 気温には変化はなかった。



 変わった事は、

















































 特に、起きなかった。





 続く



 ごめんなさい続く。

 次回最終回とは思えないとか言われてそんな来示でも終わらせたるとか思って頑張ったけどやっぱ終わんなかったw
 エピローグのエピローグという蛇足が入ります。
(つд⊂)
by おかのん (2018-10-04 21:22) 

ぽ村

>>おかのん

「「どーもマッサーッジジッでーす!」」

マジ「いや久々すぎて噛んでしまいましたわw」
サジ「売れてないて激白すんなやwwせめて『あうぇー』で緊張した言わんかいww」

マジ「なにその『あうぇー』って?ああ、おまはんの断末魔かww」
サジ「わいは死んだことないわ!っつか、死ぬほどマップに出させてもらってませんww」
マジ「なら、いっぺん殺してみよ」
サジ「ブフッ∵(´ε(○=(゚∀゚ )あうぇー?!」

マジ「やっぱり断末魔かーww」
サジ「殺すなww」
マジ「をを?!生き返った?!」
サジ「おう、エリス様にオームの杖使うてもろたw」
マジ「お前みたいな屑に使うオームの杖がこの世のどこにあるんや?」
サジ「もう無い。ワイに使ったから壊れてもた…」
マジ「あ、でもワイこないだそのオームの杖拾ったわwホレ(゚Д゚)ノ⌒[オームの杖]」
サジ「Σヽ( ゚д゚)ノ ワッ!!本物やーww何この新展開w」

マジ「もう戦争は『かくへーき』みたいなものがズンドコ飛び交うような時代になりました。古代のスゴイあれやアレがドンドココピーされてますww」
サジ「Σ(゚Д゚;エーッ!ズンドコドンドコ?!」

マジ「オームの杖ももう一本ホレ(゚Д゚)ノ⌒[オームの杖]」。足りないならダース単位でもう12本ホレ(゚Д゚)ノ⌒[オームの杖]お値段今なら3本で10G」
サジ「そそそんな、深夜通販もビックリな?!」
マジ「売れない芸人ですさかい、手広く商売考えてまwww」
サジ「いや聞いてないけど相方のわいも…」
マジ「さらに100G分お買い上げの方に、神槍グラディウスも1ケース20本。5ケースキリ良く100本お付けします」
サジ「あれえええええええカミュさんどこ行ったのおおおお?!」
マジ「いやだからコピー出来るんですよってからにw」
サジ「はあああああ?!奥さんこんなあったら100Gで戦争勝てますよ?!」
マジ「(・д・)ノシチッチッ今の戦争はズンドコ過ぎて、こんなもんじゃあ裁縫の針と大差ありません」
サジ「あああ、でも、これ・・・これ・・・」

マジ「でも!グラなんとかなんて、大きくて邪魔!なら小型化してご家庭に役立つ裁縫針の用途を残そうという当社の姿勢!」
サジ「ほうほう・・・ってこのグラなんとか、ただの裁縫針やん!当社の姿勢って詐欺やんか!?」
マジ「そうとも言う」
サジ「居直るなや!」
マジ「でもオームの杖は本物」
サジ「マジで?」
マジ「ハイ私マジです」
サジ「しつこいわそのネタw。でもエリス姫おらんとこれタダの棒やん?」
マジ「なので、お持ち運び可能な『ぷらいべーとエリス姫』を一体500Gでご提供。」
サジ「ダッチワイフじゃねえええええか!!」
マジ「おう、黙っとれ。そこで真面目に聞いてるバカが釣れそうなんじゃ」
サジ「い、いやでも、こんな出来の悪い邪神みたいなダッチワイフ、どう見てもエリス姫さんには…(;゚∀゚)=3ハァハァ(ムラムラ)」
マジ「おうどうした?サジなんとか」
サジ「うおおおおおエリスさっまああああ!このカインお慕いしておりました嗚呼!!!」
マジ「発情するな見苦しい」
サジ「ブフッ∵(´ε(○=(゚∀゚ )あうぇー?!」



バーツ「久々に顔見せようかと思ったが、知り合いと思われると迷惑だ。帰ろう((((((~ ´∀`)~コソコソ…」


・・・まさかの登場に、
しかもデビューに

つい。
by ぽ村 (2018-10-05 00:50) 

おかのん

あうぇー!?
いやー相変わらず世界観を上手く取り込んでいい感じにM-1ですw
存在のもの悲しさまでネタに染み込んでw
アイルの冒険は次回こそ一区切りですがマッサージのお二人には変わらず前座の道を極めて欲しい・・・
って前座極めてどないすんねーん!?ブフッ∵(´ε(○=(゚∀゚ )
by おかのん (2018-10-08 19:21) 

ぽ村

>>おかのん
本編で芸人になんて触れるから我慢ならなくなった…
というか思い出したw

次元が違うはずなのにエターナル前座

トーマスはエターナル死姦者
きっと。
by ぽ村 (2018-10-14 21:54) 

おかのん

~偽りのアルタイル~


 蛇足 君が君でいるこの場所で


「見つけたぞ。あのバカ」

 そう吐き捨てた瞬間、ドライはぶれた。
 まるでその存在が幻影となったかのように、存在感が一瞬消え、虹色に揺れるように、ぶれた。
 そして。

「・・・はいはい、ま、こんな面白いものをみせてもらってるんだ。多少の面倒事は引き受けますよ。・・・けどなあ。オグマ兄さんは気に入ってたんだけどな。こうなっちゃもう顔向けできないぜ。残念」

 別人になったような口調。
 いや、普段はドライはこんな感じである。
 作戦会議の提案時や、マルスといるときだけ、理屈っぽく、傲慢で、皮肉屋で、僭越だ。
 神竜砲が二発目・・・『拡散モード』発射が終わり、皆がその結果を見極めようと戦場に視線を注ぐ中。
 ドライは、蒸発した。
 マルスやオグマの前に姿を現すことは、二度となかった。


 ・



「ん?」
「どうした? アイシャ」 

 眼帯をつけた少女が振り返ったのを、赤い短髪の傭兵の少年が右に習う。
 
「・・・なんだか、かわった魂の色をした二人とすれ違ったから」
「へえ」

 ここはアリティアの新興都市の一つ、アルテイラ。
 アリティア東端の山脈にある、洞窟による国境線を監督する交易路にできた街。
 開墾話にのりにきた人々、交易に来た新人商人、名を挙げにやってきた気の逸った若者、その中でうまく立ち回るつもりの派手好きの娘・・・
 混沌としつつも、英気に満ちたこの街で、幾重の出会いがある。
 すれ違う変わり者など、珍しくもない。
 そんな中で、思わず振り返ってしまう程の・・・

「よっぽど?」
「恐ろしく」

 変わり者中の変わり者だったのだろう。
 もう人ごみに紛れて、追うこともかなわないだろうけれど、探そうとしてみれば、また会えるような気もした。

「どんな人たちだった?」
「んー・・・ あたしたちみたいな男女の二人組。男の方は、長身長髪で筋骨隆々、でも顔は優しそうな美男子。歩き方に品があったし、旅装で少し汚れてたようでも、質は良いものを使ってた」
「腕に覚えのある騎士と侍女?」
「どうかなあ。女性の方はお姫様じみた超美女だったし、外套の下の腰周りや装飾はガワも中身も一級品だったわ。むしろどこかの貴族のお嬢様と、ひねくれずにきちんと自分を鍛えた同じく貴族の三男四男坊が、幼馴染のワガママ諸国漫遊に付き合ってるみたいな雰囲気」
「よくそんな冒険小説みたいな設定当てはめれるね」
「だってほんとにそんな感じだったんだもの。会話を聞き取れたとまではいかないけど、声のトーンが敬いつつも気安いっていうか・・・」

 異世界から来た傭兵少年と、盗賊ギルドの愛娘ほど奇妙な二人かと言われると、どっちもどっちだろうか。
 どのみち、それ以上のことを感じたわけでもない。ごくたまになら、もっと奇妙な人間に会うことはある。
 というか。

「まあ、変わり者で言うなら、別の世界線のアカネイア大陸から来た僕らほど奇妙なコンビもいないだろうけど」
「それはそうなんだけどね」

 着いたのは一年と少しくらい前だろうか。
 とっくに暗黒戦争は終わって、一年も経った頃だった。
 マルスが立ち上がり、アカネイア同盟軍を率いて、ドルーア帝国と暗黒竜メディウスを倒した・・・。
 その流れは変わっていないはずなのに、細かな部分が結構違っていた。

 アリティア宮廷騎士団の面々が、次々と戦死したと思えば、後々生きていたことが分かるとか。
 ただの村娘のはずのノルンがパルティアを授かるほどの弓騎士として取り上げられたり、他にも普通に考えれば日陰者な筈の面々が、かなり英雄扱いされているとか。
 何より。

 ルオの経験した筋書きの、「英雄戦争」ではなかった。
 
 ハーディンの独裁どころか、ガーネフの暗躍もメディウスの復活もない。
 竜石術なるものが出てきた上に、マリアが皇帝になっての怪獣&オーロラ結界VSレーザー砲大戦だ。
 実はルオ達も遠巻きに参戦していたが、何も出来ないまま終わった。

「でもさ。悪くないと思わない? こっちのアカネイア大陸も」
「そうね」

 あの戦いの後。
 終わると同時にこちらに飛ばされることになって、見ることは出来なかった『あれ』が。
 こちらの二人ででも行われるという。

(僕らの知る、あの二人ではないけれど)

 きっと、あの二人もこんなふうに幸せになったのだと、想いを重ねることは出来る。


 さあ、見に行こう。


 アリティアの未来をそのまま映すような儀式を。皆が祝福し、笑い合って、豊かさを確かめ、愛を重ねて。

 城の周りから、花火が上がる。
 今日は、マルス王子とシーダ王女の結婚式なのだ。 

 

  ・



 アリティア王太子の礼服は、軍服に似ている。
 白薔薇を背負った花嫁衣裳と並べても見劣りなどしない佇まいだ。
 加えてマルスも美男子ときているから、正直シーダは、あろうことか『結婚式で花嫁が引き立て役』になってしまうのではと気が気でなかったが、そのあたりは周りから色々とフォローがあった。
 あえて飾りを抑えて、森の精霊のような衣装にしたのである。
 物語の一幕のような、まさに絵になる形にできた。
 お色直しではマルスの衣装を抑え目にしてみたり、バランスを取るために工夫がされた。

 水と緑の恵み豊かなアリティア。
 料理も新鮮な川魚や果実、木の実をふんだんに使った料理が出された。
 身質のふわりとした中型魚を塩気のあるヨーグルトクリームで包んだパイ。
 コケモモとラズベリーをあしらったソースでまとめた子羊のあばらの骨付き。
 今年の夏に大豊作だったトマトの熟成スープに、産みたて卵をとき落として。
 胡桃や椎の実がたっぷり詰まったパウンドには、これでもかとグレーズがかかっていた。


 礼服の首周りを少し緩める。

「お疲れ様。シーダ」
「いえ、マルス様こそ」

 城の一室。
 石づくりで豪奢とは言えない城だが、今日ばかりはささやかながらも飾りつけのなされた、華やかなそこは、花嫁の控え室として使われていた。今は花婿も一緒に休憩中である。
 二次会のような形で宴が始まるまでのひと時。
 公式行事が終わって、城下町の者達も一応は同じ続きの会場で料理が並ぶ。
 
「国の王ともなると、やはりこういう催しは派手になるね。挨拶だけでもものすごい数だった」
「クラウスのやり方を真似ることにしたのは正解でしたね」

 挨拶は一応受けるとしても、陳述に近いことは手紙にしてもらった。なるべく多くの者と顔を合わせることを理由に、面倒事を後回しに出来る。クラウスが、煩雑な業務を効率化するのに良い方法をいくらか喋っていったのだ。雑談のついでのようなものだったが、役立っている。

「挨拶といえば・・・」
「いろいろな方が来てくださいました」

 国内の貴族豪族、有力商人は言うに及ばない。
 アカネイア聖王国、マケドニア帝国をはじめとする各国の使者、ワーレン自治区の議員の者もいた。
 シーダのタリスに至っては、父王直々に娘の晴れ姿を見に来ている。

 ちなみに。

 この後の宴会で、シーダ姫に花束を送ってくれる女の子とその姉は、完全にお忍びで来たマリア皇帝陛下とミネルバ皇女である。
 マリアの目論見通り、二人は鳩が豆鉄砲を食らったような顔のまま固まるはめになる。

「・・・こんな節目の時には、ずっと思い出すことになるんだろうね」
「・・・そうですね」

 かの英雄を。
『暗黒戦争』を戦い抜いた、まさに乱世の奸雄を。
 マルスにとっては、親友で友人だが、同時にシーダの純潔を奪った相手でもある。シーダも、好意がなかったわけでもなく、複雑だ。

「・・・そういえば、クラウスという商人、不思議だったね」
「ええ、カシムとも親交があるような事を言っていましたし、国の立て直しに随分尽力してくれました」

 二人は、ニーナとカミュ、チキの事は人づてだ。
 二人をひきあわせたのがそもクラウスだと聞けば驚くだろう。


 ・


 ドライが蒸発した後、戦場は大混乱を引き起こした。
 オーロラのような結界と超巨大火竜の羽をぶち抜いた殲滅砲がどこに向くかわからない場所で、悠長に戦争などしていられない。
 しかし、戦場への第二射もなければ、『言うことを聞かなければ撃つ』的な脅しもない。
 故障したのではないか。二射目以降は充填が必要なのでは。アリティア軍内で揉め事が起こったのでは?
 数々の憶測が飛び交い、誰一人即座に動けなかった。
 飛べないだけでブレスは吹けるであろう戦略兵器と、すぐに修復された天までの障壁。そしていつ撃たれるかもわからない殲滅砲。
 動くに動けない。
 沈黙を破ったのはマルスだった。

(すべての『今までの人々』を、ある意味『殺す』と捉える事も出来るこの行いを、是としていいのか)
(そうでもしなければ、今すぐ変えるなどということは出来ない。どちらが良いかということは誰にも言えない)

 今、戦場は停滞している。
 世界が、一度死なないままに。

「マリア! ハーディン! 聞いてくれっ!!」

 まず、声をかけねば始まらないと思った。
 今なら、声で止まるのだ。

 皆が、丘の上に目をやる。


 ともすれば、巨大竜や結界ごと焼き払えるのではという超兵器を持ち出した英雄の、皇帝と聖王への呼びかけ。
 だが、マルスの頭は真っ白だった。
 願いとしては、両方に矛を収めて欲しいのだが、そういうわけにもいかないだろう。

(・・・さあ、どうする)

 ドライをちょっとだけ恨んで、しかし自重する。

(『自分だけが迫られていると思うなよ。人は誰だって、いつだって迫られる。選択と、覚悟をな』)

 即座に応えてみせる、というのも、王の資質なのかもしれない。
 その意味ではマルスは自分の頼りなさを痛感していた。
 こんな時、彼は。
 アルタイルならどうするだろう。

 いや。

(自分で、やれよ! マルス!!)

 自分を叱咤する。
 どれほど稚拙でもいい。失敗したら取り返せ。取り返せないようなものであるなら、未来に繋げろ。次は何一つ取りこぼすな!!
 
 この場を固まらせるほどの殲滅砲台。
 三射目は多分無理。少なくともこの場で即座は無理。
 戦争をやめてくれ、以外で。
 戦争を辞めざるを得ない状況を作り出す・・・





「・・・マルス様、この神竜砲、エネルギー充填機構が止まっているようなのですが・・・」

 それは下手をすると泣きっ面に蜂といったような報告だったのだが・・・
 思いついた。
 
「この『神竜砲』!! いくらで買う!?」



 ・



 後の世に語られる『三国会談』。
『神竜砲』をどちらが買い付けるか。それを売り手のマルス、買い手のハーディンとマリアだけで話し合う・・・
 という名目の、三者会議だ。
 元々ドルーア帝国を相手取っての、戦友同士である。それぞれだけのテーブルにつけば、国というしがらみを外して、すぐにその頃に戻れた。
 大陸の平和を望むあの頃のそれぞれに。

 各国の利益と建前、メンツをたてつつ、平和を語らねばならない。
 既に出た被害を上回る利益を持って、それぞれが報告できなければ・・・

「とにかく、経済を回さねば、人は豊かにはならない、発展しない。戦争以外の道を模索するには、まず教育が必要だ。しかし、教育には時間と金がかかる。膨大にだ」
 
 今回のハーディンの大ポカの言い訳がひと段落着いたところで始まったのがこの議論だ。
 そしてこの議題の解決策も、クラウスの雑談から閃いたものだった。
 
『借金』の効用である。

「資金は、金貨だ。金貨は、金を使う。総量が限られてしまう。しかし、『証文』があれば、運用資金は簡単に倍になる」
「意味がわからん」
「・・・商人に、金を借りるとき、『私はこの証明書を持つ者にいくらの金を払う義務がある』と書いた紙を渡すと、誰に渡ろうとその者に金を渡せばいいことになりますわ。金貨を増やさなくても、信用で運用できる金貨が『書いた数字分増える』のと同じでしょう?」

 ハーディンの無理解にマリアが口を挟む。

「大きな話ほど、紙切れで解決したほうが楽なんです。信じていられるもの同士ならね。元々金なんて物々交換の媒(なかだち)でしかないんです。それそのものに信用があるなら、なんだって構わない」
「・・・他のメリットもありますわ。例え盗まれても、第三者が金に変えにくい。取引内容に関わっていないものが所持していれば、悪事に加担したとバレバレです」

 後の話として、小麦の引換券の発行などの元となり、紙幣に変わっていく。
 印刷技術の高度化、本の安価、教育の拡大にもつながっていく。
 この取引がモデルケースになったのだ。

「もうひとつの議題を先に進めたいわ。それ次第で神竜砲の値段も変わってくる。この戦争の落としどころはどうするつもりなの? マルス様」
「それなんだけど、『天文学的な手付金』を払ってもらう、というのはどうかと思ってるんだ」

 元々、アカネイアが帝政を言いだしたのがきっかけだ。どの道大陸を二分している時点でどちらも帝国は名乗れない。というか名乗っている間恥さらしである。更には第三国が勝敗を分けるきっかけを握っているとなれば尚更だ。
 この状況を解消するには、どちらかが大陸統一をなすのが理想的だが、それはあくまで『一国の理想』だ。『三国の納得』を引き出すにはどうすればいいか。

「・・・つまり、どっちも滅ぼせる第三国が両方と取引している、という、緊張状態を作るわけか」

 取り引きが終わるまでは、『次の戦争までの準備期間』である。それを『平和』と呼ぶのだ。
 余剰の富を次の勝利の引換と出来るようになるまで、経済は延々回る。その余剰を更に効率の良い利潤を生むための投資として、目標までのスピードを早める。
 次の安寧のために。後後の戦争で負けないために。
 出来もしないほどの金が出来るようになるまでに、人が気づけるかも知れない。

(戦争やるより良くないか? これ)

 これで、もし。
 あの国の珍しい果物が取引できたら。
 かの国の丈夫な木材が使えたら。
 この国の宝石がさばけたら。
 ここに来ること自体が商売に出来たら。
 
 仲良く出来たほうが、得なんじゃないか?

 
「・・・そうね。うん、・・・そうね・・・」

 天文学的な手付と、更に膨大な買い付け金。まるで、大陸に人が満ちるまでは、人が人でいられると定めた約束事。
 それまでに社会的な保証の機構をつくろう。誰もが努力次第で社会の要に参加し、意見を言えるように。
 すべての者が希望を抱けるのなら、悪事に手を染めねばならないことも、人を傷つけねばならないことも減る。
 次の誰かの為に。次の次の誰かの為に。それを思える、余裕のある『社会』を作れる。ならば。

「この最低の戦争の責任を、分け合う気があります? ハーディン皇帝」
「その恥ずかしい称号は、今日限りのものとさせてもらおうか」
「まあ、それは私への皮肉も込めてます?」

 かくして。

『二度と打てない』最終兵器の取引で。
『最低の戦争』は終わりを告げたのである。



  ・



 勿論そこで終わりではない。
 神竜砲が撃てないかもしれない事をひた隠しにしつつ、正式に契約を交わし、かりそめの平和をいかに長く維持するかを模索し続けた。
 調べた結果、故障したのではないらしいことが判りつつ、どうすればいいのかがわからない、という結果だった。
 機能としては故障はしていない。しかし『再充填の方法』は、そもそもこの兵器がどういう仕組みなのかを解析しないと導き出せないようなのだった。
 貿易などで余裕をつくれて、研究などに大きく予算を割くように出来れば、遠い未来使えるようになるかもしれないが・・・

「それまでに、大陸ごと世界を滅ぼせるような兵器に、用のないような社会を作らないと」
「そうだね」

 アイル。
 かの友にも、恥じない国を作らなければ。
 
「クラウスの隣にいた女性は、何者だったんだろう?」
「さあ・・・」

 生返事になってしまったが、シーダも気になってはいた。
 とても、似ていたから。
 ・・・ニーナ姫に。

 本人ではない。若すぎたし、ニーナより派手だった。華美というか、恐れを知らなそうな態度が、あの姫と印象を重ならせない。しかし、顔の細部の一つ一つが、繋がりを思わせる。
 

「・・・マルス様、私が思ってること・・・言ってもいいですか?」
「多分、それで正解だと思うよ。故意だろうが偶然だろうが、あの二人らしいって思える気がする。僕は、僕の代わりをしてくれる前の彼しか知らないし、『あの人』については聞いた話でしかないけど・・・ シーダは、とても深く関わったんだろう?」
「はい。 ・・・そうですね。きっとそうなんだと思います。そして、あのタイミングでこんなふうに会いに来たということは・・・」
「うん」

 マルスは、彼らなりの、照れ隠しや皮肉も入った挨拶なのだろう、くらいに考えた。
 シーダもそう答えてくれるだろうと、思っていた。

「マルス様、黄金を・・・ 金を確保しにかかってください。間に合わないかもしれませんが」
「は?」

 シーダの真っ青な顔とは対照的に、マルスの返事は間が抜けていた。



 ー数日後。

 世界経済が崩壊した。



  ・


 アルティネットが経営する超高級宿。そのスイートルーム。
 真っ白な風呂桶は陶磁器で、金色の艷やかな髪がよく映える。

「くふはははははは。ああおかしい。まだまだ聴こえてくるぞ、首吊り祭りの様子が」

 パペットを掲げて街を練り歩く祭りとか、そういうほのぼのとした祭りの話ではない。文字通り未来に絶望した者が命を絶ったという報告が次々と舞い込んでくるのだ。
 
「本当に趣味が悪いなお前は」
「提案したクソが何か言ってるなあ。くふふふふふふ」

 信用貸しの返済当日になって、金の価値が大幅変動したのである。『黄金で返す』という約束で借りた金10Gを、返すはずのその日、同じ黄金の価値が100Gになっていたら、100Gで黄金を買って返さねばならない。
 その価値変動を『意図的に』起こせる人間。

 ・・・超巨大商家、シュテルン商会に在籍する、クラウス。
 と、情婦であるセレネは、ともすれば人一人の人生が変わるような酒を傾けていた。

「こうなれば、王侯貴族もこちらの言いなりだ。大きすぎる損失を防ぐには、小さな損失を受け入れねばならん。税の軽減、社会保障の充実、街道の整備や治安維持、教育の励行・・・ 税を残らず『民度を上げる』ことに使っていく。それぞれが国一つ失う程の借金を負っているのだ。やらざるを得ない」

『黄金では返せない? ならほかのものでもいいですよ。ちょっとした条件を飲んでいただければ』

 この大陸にある黄金は、9割以上がシュテルン商会が保有している。いくらで売り出すかはシュテルン次第だ。そして『黄金で返す』のが条件である以上、借金の額を操作できるということになる。残りの一割から買おうにも、あまりの希少価値に、シュテルンの提示額を上回る有様である。
 持たざる者に未来を与えるには、めぐみを与えるだけでは駄目だ。誰も教えてはくれない『生きていく力』を伝えねば。
 何より、理不尽に奪われるその場所を変えねば。

 後継に伝えるシステムを作る。『自分たちの国を持つ』とは、そういうことなのだ。

「・・・王政というのは、これはこれで間違った方法ではない。だが、王の力量に左右される部分が大きすぎ、さらに負担も重すぎる。正しく政治が行われる前提、補佐や部下が優秀である前提、王が有能であり、誇りを持ちながらも謙虚である前提・・・ 必要な前提が多すぎ、そしてそれはありえないといっていいほど難しい条件だ」
「だからといって、民による政治が上手くいくという保証はない。賭け事のお題なら私はやらんな」
「そう。だから、民が賢く王侯貴族を見張れて、正しく意見出来るだけの知性を持った上で、互いを尊重できる関係性を築かねばならない」

 そして。

「それまでの作業を楽しまないとなあ。俺も悪党には違いはないが、嫌いな奴は大抵外道だ。善良な人間は苦しめても面白くない。『私ほどの人間がどうしてこんな目に』という台詞ほど美味い肴はない」
「くふふふ。お前とは本当に趣味が合うな」
「クソみたいなところでな」

 言うまでもないが。
 アイルとデネブである。
 
 混ざらないインク。
 溶けない塩。
 精神階層での融和を回避出来る、超魔法。
 精神の力を精神のままに行使出来る超存在。

『肉体なしに存在する魂』。
 いや、もっと簡潔に表すなら。
『乗り移れる幽霊』。

 アイルは。
 アルテミス姫と。
 『デネブ』と。
 同じ存在になっていた。
 
 何人もの『適合者』・・・負担なく魂を複数宿せる体の持ち主を探し、契約をすることで、二人は何人もの人生を同時に送っていた。
 セレネとクラウスも、商人として生きる用に用意した体の一つに過ぎない。
 奴隷や孤児、何体かは『ドゥツェント』・・・アイル自身と同じガーネフのラボの英雄クローンだ。
 今際の際にアイルが開花させた『メディエ・ギフト』は、他人の肉体に宿っても精神の融和が起きない『完結した幽体』となる能力だった。
 幽体でありながらも世界に溶け込まない・・・龍脈に流れてしまわない精神は、『死』を迎えたとは世界に認識されない。
 故に、『魂のオーブ』は発動せず、『死のオーブ』によって魂に変換されたデネブは、『魂のオーブ』に取り込まれてしまったのだ。
 アイルは肉体を手に入れ、つまり他人に乗り移り、(ちなみにこの時の孤児の木こりがドライである)魂のオーブを探し出し手に入れ、デネブを復活させた。間抜けに死にぞこなった想い人と、以前とは全く違う体どうしで失笑するという、ロマンの欠片もない再会であった。
 アルテミスとアンリを模したような体と姿で世界中を巡ってみたのはささやかな皮肉。
 カシムを通じてシュテルンの売上の端数で毎日を享楽的に過ごすのは、ひと月もしないうちに飽きる。
 かくして、世界をおもちゃにして遊ぼうと、二人はここ二年、数々の仕掛けをし、そしてそれを作動させたのである。

 さて。

「聞いたか? シーダがこの仕掛けに気がついたらしい。アリティアからの黄金の返済はかなりの割合が現品で来ているそうだ」
「流石というべきかな。まあ、あの女なら、俺達の正体に感づいた時点で、思考のトレースは出来るだろうからな。顔を見せてやったことそのものがヒントみたいなものだ」
「マリアの方も市場の方に目を向けていたらしい。シーダほどではないが、しかし気づいて手を打とうとした痕跡が見えるな」
「くふふふ。ひどいのはハーディンだな。手形の便利さに気がついて乱発しまくったところにこの騒ぎで・・・国が吹っ飛ぶレベルだ」

 国が傾く。
 経済が揺れる。
 思惑と信用の渦の中で。
 人の世界の法則が乱れる。

「さあ」
「お楽しみは」
「「これからだ」」

 とはいえ、一区切りなのも事実。
 今日は、この都市の最高の場所で。
 永遠の契を交わそうか。

「アイル」
「デネブ」

 いくつもの名を持つ二人だが。
 どんな姿でも、こんな時は。
 その名を呼ぶ。


























「あ、そうだ」
「ん?」
「ほら、カミュとニーナのとこの見張り用に、フィアンとノーラって夫婦を置いたろ」
「ああ、いたな」
「妊娠したらしい。手紙が来てた」
「待て。奴らはゲイとレズだろう。だからこそ面倒がないからとそういう役をまわしたのに」
「だから、私らが入って直接様子を見に行った時に・・・」
「・・・あの時か。まあ、計算は合うが・・・」
「その意味では遺伝上無関係でも確かに私達の愛の結晶だな(笑)」
「奴ら自身複雑なものがあるだろうなあ・・・まあ、どうでもいいことでもあるが」
「どうでもよくはなかろう。無責任な」
「・・・もしかしてお前・・・」
「うむ、子育てというのもな、一度やってみてもいいかと思っていたのだ」
「悪いことは言わないからやめておけ少なくともその心構えだと地獄を見るぞ」

 教会の孤児院で育ったアイルにとっては身にしみたことである。が。

「その時はさっさとやめればいい」

 安定のひとでなしである。


 が。

 その後数十年、大きな経済変動は特に起きず、大陸には長い長い平和が訪れた。

 カミュとニーナの息子とともに、小さな怪獣が小さな村を荒らしまわったせいだとは、英雄達とて知る由もない。



 シリウスという名の少年とともに、生まれただけで世界を平和に導いた少女の名を、ソフィラといった。

 カスミソウからとった名に似合わない、元気いっぱいの女の子。



 FIN




by おかのん (2019-02-26 14:16) 

ぽ村

>>おかのん

「「マッサージでーす」」

今回は自重しろ


長い間お疲れでやんしたー;

蛇足とは言いますが、別の世界線(笑)からのサプライズw

もう牧歌的と思える元の世界の戦争から、大量破壊兵器で荒廃した戦場跡見てなお「悪くない」とは…

しかも直後に世界恐慌とは…

このどさくさで、大量破壊兵器云々は再びロストテクノロジー化し(ry


このブログ自体が時代や友人達と色々なものに置き去りにされとりまして;
目を通してくれる人もほとんどいないなかの投下。

しかも毎度遅レス;

その意味ではコチラに投下されることが正直申し訳なかったとです


印象的なところ以外がスコッと抜けておりますが、終盤のノルンのキャラ崩壊がショックだったかな…他所への投下時には(^p^)しーね!しーね!(^p^)しーね!しーね!
の箇所をもう少しなんとか…

とまぁ、先読みのネタ潰しにえらそーな指摘と、そちらの労力構わずやっちまったことはマジで申し訳ありませんでした


始まってからこの終わりまで何年かかったかのう…知ると申し訳なさ爆発しそうなんで詳しくは調べないけど…9年くらい?
いや、いい…

とにもかくにも、FEにわかのヲレ以外の反応も気になるところ。


ルオ「ああ、あそこにもいたよ。奇妙な二人組w」


「「マッサージでーすww」」


アイシャ「あの二人、こっちでも全然変わらないわね…」
ルオ「見てく?」
アイシャ「いい。世界が変わって関わらないで済んでホッとすることだって、あるんじゃない?」
ルオ「(ひでぇ・・・)」


サジでいや、マジでお疲れさまでした。

他所に投下の際は、ぜひお知らせください
m(__)m
   ↑この表現もなんだか使わなくなったな…
by ぽ村 (2019-03-05 23:47) 

おかのん

更にな遅れす申し訳ないw
約9年かあ…長いようで…いや長いわw
やりたい放題に書いてた時は自分にパートナーができるとは思ってなかったから、ほぼ全員外道?のトンデモ話でしたなあ。
話の方向性がどんどん丸くなっていった気がします。(そうか?)そして流行りのなろう系異世界モノの影響受けて建国暗躍っぽくもなって、大騒ぎしつつもハッピーエンド風に一応しちゃうというヌル対応に…
やはり小説は突き抜けたものを書こうとするなら私生活は守りに入っちゃイカンのかも。
ともあれお互い忙しい感じですし、こういうモノは今後書けるか難しいとこで。
とか言いながら、積みプラ積ん読はやまりませんねw

お付き合いどもでしたw
修正して自ブロに投下も随分止まってるなあ…
by おかのん (2019-03-13 11:26) 

ぽ村

>>おかのん
http://bungaku-22.blog.jp/archives/13113136.html

読んでるとマンガ以上に使い捨て世界なんねラノベ界…

こっちもリプレイ記事は続けたいんだけど、ガンプラの手も止まってるありさま;


別投下先での他の人の感想もきになるけど、お手軽に丸コピで投下…とはいかない(いけない?)んだろうなぁ

お互い、手は止まってますがモチベーションのキープだけはして来る日に(いつだよw)咲かせられればなと思います。



ああああ
酒の量が増える…
by ぽ村 (2019-03-16 21:33) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。