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FE二次小説 偽りのアルタイル ~アステリズム編その2~ [リプレイ系記事]

アステリズム編その2・・・というか、幕間二本






住人の おかのん に執筆・投下していただいた「ファイヤーエムブレム~新・暗黒竜と光の剣~」の二次創作小説の続きです。

小説の元となったリプレイは既に完結。
その話を追って、コチラではリプレイの第9章終了後(幕間~)部分を掲載させてもらってます。

(アイル編)
・序章~第6章外伝まではコチラ。
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2011-10-19

・第7章~第9章まではコチラ。
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2011-10-20

(ベガ編)
幕間~第12章外伝まではコチラ
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2011-10-23

幕間その3~第14章その5まではコチラ
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2012-03-25

第14章その6~幕間その8まではコチラ
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2012-09-18-1


(カペラ編)
幕間その9~幕間その13
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2012-09-18


(デネブ編その1)
第18章その1~幕間その19
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2013-07-14


(デネブ編その2)
幕間その20~幕間その23
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2014-01-09

(アステリズム編その1)
第21章その1~幕間その25
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2014-01-09-1

話の元になったリプレイはコチラ
・「不遇の新キャラに愛を! 役立たずだらけの40人ぶっ殺しサーガ ポロリは多分無い(大嘘!!ww)」(「ファイヤーエムブレム~新・暗黒竜と光の剣~」縛りプレイ)
http://pomura-zatudan.blog.so-net.ne.jp/2011-10-17

ファイヤーエムブレムを知ってる人も、知らない人もどうぞお楽しみください。

幕間 その26 アルテミスの運命(さだめ)


これからガトーの語る話は、エゴに満ちている。
悲恋でさえも、いや、だからこそ、か。現実の前に歪められたものが、さらに現実の前に歪められたというただの事実。
なぜそんなことができるのかと思わせる傍ら、そうせねばならなかった理由も語られた。
それは歴史とは勝者がつづった物語でしかないと思わせるに足る・・・
いや、勝者さえもそれからを見極めて動かねば、喰われて終わることを指し示すかのような話だった。


英雄王アンリ。アリティア王国の祖にして、100年前暗黒竜メディウスを倒した英雄。
彼は大陸の片田舎である、開拓島の青年であった。

100年前のドルーア戦争時、ドルーアの竜達に攻め立てられ、落ち延びてきたアカネイアの姫がいた。
彼女は既にアカネイア王家最後の一人となっていた、アルテミス姫であった。
アリティアは、この戦乱の後アンリが建国している。つまりこの時は国ではなかった。ここはただ開拓村があるだけであった。アンリはそこの指導者の息子の一人だった。

「・・・まあ、そう聞くとさだめも何も、大陸の頂点にいる姫と、開拓民の小倅がどうにかなるわけもありませんわよね」
「『アルテミスのさだめ』が、同情的、好意的に語られるのは、あくまで『プラトニック』だからだもんね」
「しかしの、アンリが氷竜神殿まで来たというのは、本当に賞賛に値することだったのじゃよ。
むしろ『メディウスを倒した』事よりも、そのこと自体が世界の運命を変えたと言ってもよいくらいにの・・・」

そして、ガトーはさらに深く話し始めた・・・


 ・


当のアイルやお主らはもうある程度気がついておるじゃろうが・・・ 神話にあるナーガ神というのは、『神竜ナーガ』様のことじゃ。
ナーガ様は別にこの大陸を含めた世界をお作りになったとか、光よあれと言われただけでこの世に概念を生んだとかそういう方ではない。
単に竜族の中で飛び抜けた力を持っていた一族が己らを『神竜族』と呼び始めただけじゃ。その中でも一番に優れた王の中の王である姫だったというだけなのじゃ。

「当時の人々にとっては、意のままにならぬ強大な『何か』であれば一緒ですわよ」

・・・まあそうじゃな。600年のさらに前辺りでは、人は猿と大差ない。落雷を三つの頭を持つ地獄の番犬に例えるなど、自然現象さえ崇めるものとしてしまうようなおおらかな知能・・・ いや、馬鹿にしとるわけではない。しかしそれならば、言葉を交わす己以上の大きさと強さを持つ生き物が神とされるのは当然だったわけじゃよ。

竜は人にとって神じゃった。
神以外の何者でもなかった。

その頃既に歴史の表舞台からは姿を消していた竜族じゃが・・・
これは長命過ぎたために、種族としての限界が来ていた竜族の、生き延びるための妥協の結果であった。

まず子供が生まれなくなった。これは皆年老いすぎた上に、長命すぎて『子孫を残そう』という危機感が薄すぎたことが関係した。
次に、その巨体ゆえに、生き続ければ大陸の命という命を食い尽くしかねなかった。そうなれば、後は自分たちを共食いして、残るのは不毛の大地のみということになりかねんかった。
さらに、いきなり狂うものが出てきた。これは脳の退化によるもので、老化と密接に関係があった。
・・・いわゆる『認知症』でな。どのみちその時点では解決策はなかった。

苦肉の策として出てきたのは、『人』となることであった。己の力を石に封印して、か弱き人の姿になることで、老化の加速を抑え、その燃費の悪い巨体をも封じたのじゃ。

ここで理解しておいて欲しいのは、要するにナーガ様もわしもチキも、メディウスや彼に従うマムクート達も・・・
かつて神と恐れられ、しかし今はこの大陸で生きようとするただの命でもあるということよ。


・・・話を元に戻そう。

ドルーア地方の片隅を選んで住みだした仲間のうちの一派・・・メディウスの奴が人を襲い始めたとき、わしら神竜族は関心を示さなんだ。
わしらは思索にふけり、氷室の中でウトウトしながら命を終えることに何の不満も持っておらんかったからの。
それにこの氷竜神殿を訪れるものなどおらんことも分かりきっておったのじゃ。

だが、その男は来た。

当時から数えて約500年前、竜人族・・・マムクート達は本当にバラバラに生きだした。
大地の加護を受けるが故にか、命そのものを愛し、人も愛した地竜族達。
暖かい地方に住みたがったが故に、人の生きる所に共生せねばならなかった火竜族達。
逆に氷竜族とその亜種である神竜族は、人から離れて生きようとした。わしらは『ここなら人間は来ぬだろう』と確信して住み始めた。にもかかわらず・・・

その男、アンリは氷竜神殿にやってきたのだ。


『ここに、龍神さまがおられると聞いてやってきました』

わしはその頃、人にあまり良い印象を持っていなかった。アカネイア建国の経緯が経緯じゃったので、若干嫌っていたと言ってよかろう。しかし、アンリのその姿・・・ それを見てとにかく助けようと思った。

満身創痍もいいところじゃったよ。それはそうじゃろう。飛竜の襲ってくる砂漠、火竜のひしめく活火山、延々と続く吹雪の森を闊歩する氷竜、それらを使役する蛮族の群れ。
しかも驚いたことに、一人でやってきたというではないか!!!

『おにいたんは、なにがしたくてここにきたお?』

幼いチキの問いに、アンリは答えた。

『僕には、好きな女の人がいるんだ。王女様なんだ。
でも、その人の国は滅びかけているんだ。悪い竜に襲われてね。
ここには竜の神様がいるって聞いた。その人に私はどうすればいいか相談に来たんだ』

わしは耳を疑ったよ。
あまりにも純粋だ。
しかも聞けば聞くほど本気なのがわかった。
ただ惚れた娘が人の世を取り戻すと思っているからと、飛竜の襲ってくる砂漠、火竜のひしめく活火山を超え、延々と続く吹雪の森を闊歩する氷竜、要所ごとに蔓延る蛮族の群れを一人で叩き伏せてここまで来たのだ。

そうじゃ、阿呆じゃ。
だが、気持ちのいいくらいの阿呆じゃった。
王女といえどただの女に違いない。にもかかわらずなぜそこまで出来る? 
アンリに言わせれば、惚れた女の願いを叶えるのは男として当然らしい。たまたま世界でこれ以上ない難題をふっかける女に惚れただけだとからから笑いおった。

そんなアンリをチキはキラキラとした目で見ておった。

それを見てわしは思った。
ここで緩やかに死を迎えようとするナーガ様やわし・・・ わしらは十分生きて、その上で世に見切りをつけてこうしていた。しかしチキは? 
チキはわしらとこの神殿より他に世界を知らぬ。それはチキのためにはならないのではないか?・・・と。

チキが世界をみてまわって、その上で人に見切りをつけ、やはりワシらの元に舞い戻ってくるというならそれでも良い。しかし、何も知らぬままここで朽ちていって良いのか?
神竜族最後の子が、すべての可能性を伏せたままここで他の命に何一つ触れ合わぬまま死ぬというのか!? 

わしは迷った。
その挙句にナーガ様にお伺いを立てた。

ナーガ様は、アンリと会うと言われた。

アンリといくらか話されたあと、・・・どうやらかなりアンリを気に入ったらしい。ナーガ様は己の牙を折って、それを剣に変えられた。

それが神剣ファルシオンじゃ。

「待ってください。つまり、『神剣ファルシオン』とは、神竜の牙そのもの?」

そのとおり。どんな剣も簡単には通らぬ竜の鱗じゃが、同じ竜の牙が通らぬ道理はない。神竜ともなればなにをかいわんやじゃ。

そしてナーガ様は、その竜の牙の剣に注ぐ理力を扱えるように、己の血を分け与えた。
血は単純に飲めば良い。
そして、その資格は第一子に受け継がれる。もし第一子の命が尽きた場合、二子に眠っていた資格が発現する。この辺は魔法が少し関係しとる。

「・・・要するに、滅びかけた人類を気にもかけていなかった神に、チャンスを与えてやろうという気まぐれを起こさせたのは、アンリの阿呆さ加減のおかげということですわね」

そのとおりじゃ。
アンリがおらねば本当に終わっておった。

「で、そうなるとアンリが『子孫を残さなかった』にもかかわらず、ファルシオンが受け継がれているという謎はさらに深まってくるわけだが・・・」

今からその話をする。

史実のとおりあの阿呆は、授けられた神剣でメディウスを本当に倒してしまいよった。
実際あいつは世界を掛け値なく救っておる。
しかし・・・

知っての通り、アンリとアルテミスは結ばれずに終わった。

「・・・・・・」

アンリが世界を救って、その褒美に望んだのはアルテミス王女だけだった。本当にそれだけであった。
しかしそれは皇帝誕生と同じ意味合いであった。
仮にアルテミスが女帝として即位し、種馬としてだけの存在に徹するとしても、アカネイアの家系図が『アンリの系譜』になっていくのは明白じゃ。

・・・それを阻んだのは、先に言うたように、『紋章の誓い』・・・ 『ファイアーエムブレムを掲げる者は、全てをアカネイア王家に捧げる』というもの。そしてカルタス伯爵を中心とする、アカネイア貴族どもじゃ。

貴族達もこの戦いで多くの犠牲を強いられ、失った財産も少なくない。しかしアンリがアルテミスと結ばれてしまえば、その殆どをアンリに掠め取られ、取り返せなくなるかもしれんと思ったのじゃな。
アルテミス王女は当時最後のアカネイア王族。彼女とその伴侶以外に王座に関われるものはおらぬ。
彼女を排してしまえば、そもそも『アカネイア王家の復興』という今回の戦の大義名分が失われる。


アンリの、世界を救った働きに応える褒美。
それは、世界を救うのと同じくらい無理難題だったわけじゃな。

・・・ここで正史では、『アルテミスはアンリの望みに応えることはしなかった。
アンリはアリティアを国として認めることを代わりに望み、アルテミスはカルタス伯と結ばれた。
アルテミスは子を一人産んですぐに亡くなられ、アンリは生涯妻を娶ることはなかった』とある。

だが・・・


障害が大きければ大きいほど、燃え上がるのが恋というもの。

実はアンリはアルテミスに会いに行っておる。

・・・ああいや、行こうとしただけじゃ。
弟マルセレスは、アンリの性格をよく知っておった。途中で引っ捕まえて連れ戻しとる。
王国建国を承認してもらっておいて王女と不義など交わせば、全て終わりじゃ。しかしアンリはもう止まらなかった。アンリは塞ぎ込んでいたなどと伝わっているが、牢に監禁されておっただけじゃ。そうするしかなかった。
・・・実はアルテミス側もそう変わらぬ。アンリは確かに田舎者の小倅じゃが、アルテミスをあれだけ純粋に愛した者はおらんかった。本当にアンリはアルテミス以外見ていなかった。それは常に彼女を神輿や傀儡としてしか見ていない、いや、愛そうともそこから切り離すことのない貴族共とはどうしても違っていた。

ただ愛に生きる。
そもそも王女の身では望むことも許されなかった。
しかしそれに触れてしまったアルテミスは、もう戻れはしなかった。

彼女は、城外に出ようと、アンリに会いに行こうとして、ラング伯爵の手の者に捕まった。
カルタス伯は彼女を軟禁し、彼女を半ば犯すようにして自分は王となった。

「・・・二人は浅はかで、周りはクズばかり・・・ということですかしら」

・・・いや、マルセレスは少し違う。
アンリを行かせてはすべてが破滅してしまうのじゃから、止めたのは常識的な行動じゃ。マルセレスはアンリをかけがえなく思ってはいたのじゃよ。

アンリを牢に入れたが、不自由をさせることはなかった。アンリも、そんなマルセレスを無視は出来なかった。
もちろん諦めはしなかったが・・・


で、その頃、アンリの下にカリピュラという娘が通い始める。

「カリピュラ? ・・・聞いたことのない名ですわね」

うむ、そうじゃろうな。
彼女はアンリのいとこの娘ということになっている。

「・・・なっている?」

そこは後ほど話そう。マルセレスは、アリティアが国となった時に、いとこの養子となった彼女をとても可愛がっておった。
そしてマルセレスはカリピュラに、兄アンリを助けたいが、アルテミスのことを諦めさせる手段は思いつかない、しかし不憫でならない・・・と、よく漏らしていた。

また、アンリがいかに素晴らしいことを成し遂げたかをよく語った。ほんの数年前、滅びかけた世界を救ったのはアンリなのだと。結ばれそうにもない、結ばれるわけには行かなくとも、しかし愛し続ける二人を情感たっぷりに語った。

・・・その結果、カリピュラはアンリに会いたがり、ダメだと言われればこっそり会いにいくようになった。
最初はカリピュラを案じて追い返したアンリも、少しずつ話し込むようになり、二人は距離を縮めていった。


・・・そして。
アルテミスが亡くなった。

アンリは半狂乱となった。愛する者が永遠に失われたのだ。それは仕方なかろう。
そばでそれを見ねばならなかったカリピュラは、一所懸命に慰めた。そばにいて、支えた。押しつぶされそうな彼を繋ぎ留める為になんでもした。
ただひとりの女の為に世界を救うことまでやってのけた男が、どうしてこんな目に遭わねばならないのか。確かにその望みは世界を変えてしまうだろう。それを成そうとするのは周りの者の都合を無視するものだろう。だからといって彼の幸せを無視するのは構わないというのは違う。絶対に違う。
カリピュラはそう思った。そう思った挙句・・・

アンリと結ばれた。

「「「「「は!?」」」」」

アンリの心の穴を埋めるために、その身を差し出したのよ。何の解決にもならぬだろうが、埋まりきる穴でもなかろうが、それでもなるべくしてそうなった。
カリピュラは合意であったし、問題はなかった。

(リンダ)「問題はありますよっ!! その・・・孕んだりせずに済んだの!?」

玉のような男児が生まれた。

(ジュリアン)「ダメじゃんかよ!!」

その子をマルセレスが自分の子として育てた。
それがマルスの祖父に当たるマリウスじゃ。

(カペラ)「あー・・・ つまり」

そう。マルスは間違いなくアンリの直系なのじゃよ。

(アラン)「しかし・・・ マルセレス殿の奥方のこともあろう。よくもまあそんな無茶が通ったな」

うむ、実を言うと・・・ カリピュラはマルセレス王とその奥方の実の娘なのじゃ。
マルセレスは前妻がいるうちに浮気をしておっての。後に後妻として迎える娘を既に孕ませておった。始末に困っていとこに養子に出していた。
のちに前妻は何も知らずに病死してしまい、後妻として浮気相手を迎えたはいいが、体裁が悪いのでカリピュラのことを明かすわけにもいかぬ。勿論後妻の方もカリピュラを気にしておって・・・

「マルス王子のお祖父さまは、マルセレス王の娘と英雄アンリの子・・・ アンリは知らずに姪に手を出した近親相姦者ということですか・・・
というかマルセレス王のどこがまともなんですの。この話の中でカルタス伯に次ぐクズじゃありませんの」

そこは反論できぬが、カルタス伯と違って、周りの皆がそれなりに不幸にならずに済んでいるのじゃよ。なんだかんだで気は使う男なのじゃ。・・・ある程度はただの偶然じゃろうが。
幸い近親による遺伝病等も発現せずに済んだ。

カリピュラをあてがわれ、時が経ち、アルテミスの死に多少は落ち着いたアンリは、それでも妻を娶るということはせなんだが、若くして隠居した。カリピュラは引き続き、使用人としてそばにおった。
アンリはあっさりと乗り換えたように聞こえるかもしれんが、アルテミス王女の死を乗り越えるのには随分かかったのじゃ。わしは決して不実とは思わぬ。

「そう言われてもな・・・その後の爛れた生活が目に見える気がする・・・
アルテミス王女が浮かばれねえなあ。
英雄アンリが若くして死んだっていうのも、姪っ子の腹の上とかだったんじゃねえの・・・?」

いや、アンリはそれ以後カリピュラとは何もなかったじゃろう。隠居後は孤児院など開いておったしな。仲睦まじくはあったじゃろうが、アンリは薄々姪だということも気づいておったやもしれぬしな。

「しかし・・・ これではっきりした。
ファルシオンを扱う資格は『血』であると。
となるとファルシオンはガトー様に預かっていてもらうよりほかないということか」

・・・ま、そうなるのかのう。


 ・


この後カペラ達は、同盟軍をドルーアへ送るガトーとは別れ、ミネルバと合流後、別ルートでドルーアに向かう。

大賢者ガトーの語る、英雄アンリとアルテミス王女の歴史に埋れた真実。
それはこの歪んだ歴史の象徴とも言えた。

そしてこの話は、この場にいないアイルやデネブ、ベガなどにとっても無関係ではないのである。


そしてアイルは、エリスの待つ天幕に足を運ぼうとしていた・・・


幕間 その27 『彼女』の正体



アイルは、緊張を隠しきれないまま、エリスの待つ天幕に入った。

肘掛け椅子に腰を下ろし、足をぷらぷらとさせている。
皆の前ではそれなりに見せていたが、これが地なのだとすると、子供っぽい印象がある。

「・・・姉上」
「やっほー。久しぶり・・・ でもないか。ちょこちょこ話はしてたもんね」

(は?)

天幕に入るなり、エリス王女の態度はおかしかった。
いや、さっきの印象のとおり、これが地なのかもしれないし、マルスの前ではこういう人物なのかもしれない。

・・・となると、まずい。

『マルスが姉に対してとっていた態度』というのを、アイルは知らない。

(・・・いや、関係ないのか)

そもそも、『姉上』などと言って入ってゆく時点でアイルの狼狽ぶりがわかる。先の再会の折に、エリスは既に彼を『アイル』と呼んできた・・・ 正体のばれている相手に芝居を続ける意味はない。

なのでアイルも地に戻す。
戻すのはいいが・・・

主導権が向こうなのが気に食わなかった。
とはいえ下手は打てない。

・・・まずはさっきのセリフの意味がわからない。

(久しぶりでもないってなんだ。マルスだったら6年ぶりなんだろうが・・・)

「初対面ですけどね」
「? ああ、顔を突き合わせるのはそうかな。
どう? なかなかの美少女でしょ?」

顔を突き合わせるのは、だと?

「良い意味で『少女』と呼ぶのはためらわれますが」

本音である。
年上好きのアイルからすれば、むしゃぶりつきたくなるような女だ。
確かマルスの3つ上だから、22のはずである。
アリティアが落とされ、エリスがガーネフにさらわれて既に6年が経つ。マルスが別口でさらわれて、代わりにアイルが決起するまでに2年、それからドルーアをここまで攻めるのにはや4年。

(・・・女として一番いい時期を、ガーネフの人質で終えてしまった王女、か)

ゆったりとしたドレスをまとうエリスだが、体の線はある程度出ている。マルスを女にしたような美女だ。
軟禁生活であったはずだが、大事にはされていたのか、やつれた様子はまるでない。多少運動不足なのだろうが、むしろ肉感的でそそられる。
最低限は引き締めようとしていたのだろうそのバランスは、女性の考えるほっそりとしたものまでは届いていないのだろう。しかし実は男の求める女性像としては完璧以上だった。

思わず喉を鳴らしそうになる。

「んーん。まだある意味少女よ。『乙女』の方が座りがいいかな。
ガーネフは、私に魔術的な儀式をさせたかったらしくて、手は出してこなかったしね」

魔術の中には、純潔の乙女であることが発動条件となる
ものが存在する。これは『母』となると魔力の性質の一部が変わることに関係すると言われている。妊娠中とかそうでないとかではなく、『純潔』が条件になる理由は解明されていないらしいが、ともかくそれらの術を使用したいのなら、その条件は押さえる必要がある。

(ということは本気で処女か! この美貌とこの身体で!!)

青臭さの拭えない未熟な果実でも、いくらか虫の食った熟れ過ぎでもない。
温室の中ながらも、旨みも甘みも詰め込むだけ詰め込んで満ち満ちた、形の良い瑞々しい奇跡の一品と言っていいだろう。
腕を押しのけるようにたわわにはみ出す丸み。
自重に潰れて餅のように広がる足の付け根。
にもかかわらずそれは醜くつきすぎた駄肉でなく、筋肉がなさすぎる代わりにそこにある柔肌だ。
見た目は完璧に近い上に、抱き心地は間違いなくそれを超える。

(くそ・・・ これをお預けだというのは拷問だな)

おあずけも何も親友の姉に手をつけるわけにもいかないのだが。
なんとか平静を保ちつつ、探るように会話を続ける。

「ガーネフは貴方に何をさせようとしていたのです?」
「『オーム』の秘法・・・ 人を一人生き返らせる術ね」
「っ!!!」

そういえば。
魂のオーブを使わせられ始めたのは、デネブが『生き返らせたい人物がいる』からだった。
その際にオームの杖のことは話題に出たが・・・
ガーネフが所持していたとは。

「チキちゃんは残念だったわね。でも、オームの杖があれば彼女を蘇らせることはできる。
問題は、オームの杖があるのがドルーアの『地竜神殿』の祭壇だってこと。ドルーアの竜軍団を蹴散らして欲しくてチキちゃんをアテにしてたのに、その竜軍団をかき分けてオームの杖を手に入れるって本末転倒よね・・・
まあ、ガトー様に対する義理立てにはなるでしょうけど」
「・・・チ、チキのことまでっ・・・!?」

どうして昨日まで軟禁されていた王女が、ここまで状況を看破している!?

「え? だって・・・
あ。 ああー・・・」

しまった。
と思っても遅い。

「あたしが『誰』だか、わかってないのね?
そうでしょ」
「それはっ・・・」

睨めあげるように、しかしうすく微笑みつつのその瞳は、まるでデネブのようだった。ネズミを追い詰めた猫のような、妖艶で嗜虐心を映した笑み。

しかし、それはすぐに消え、寂しそうな照れに変わる。

「怯えなくてもいいわよ。
私はマルスのお姉ちゃんなんだから。
マルスの味方なら、それだけでお友達よ。

でも、案外鈍いのね。地を見せてあげてるのに。
少し考えればわかると思うけどなあ。あなたをこれだけ知っていて、なおかつこんなふうに接する人間は決して多くないと思うけど?」

そう言われればそのはずだ。
ならば、誰だ。

「というか、いろいろ悩み事とか聞いてあげたのになー。寂しいなー。
いっぱいチェスもしたしー。ベガ君のこともよしよししてあげたしー。マケドニア攻めの時は体調管理もしてあげたしー。チキちゃんのことだってー」

チェスの時点で得心したが、そこで一瞬放心して反応が遅れた。

そう。『彼女』は。

「シルエ嬢かっ!!?」
「あはは正解ー。シルエちゃんだよ?」

シルエ。
ペラティでデネブがカチュアに移り、シーダが元に戻った時に、マルスをさらったのがデネブの主と聞いてショックを受けて、アイルは気を失った。というより心を閉ざしかけた。
その時にたゆたう意識の中で声をかけてきた、夢の中だけで出会った女。

そうだ。

今言われた通り、ベガを失った件や、マケドニア攻めの時の衰弱状態を癒してくれた件、チキが襲われた時に、手遅れにならずに済んだのは、『シルエ』が知らせてくれたからだ。
チキの件は間に合ってはいないが、首を落とされでもしていたら、また厄介だった可能性はある。ガトーへの印象なども含めて。

なぜこれほどに手を貸してくれたか。
分かってしまえば説明不要なほどに自明の理だ。

「あの女の正体が貴方・・・ エリス王女とはな・・・!! 道理で、マルスの味方の俺に対して協力的なわけだ!!
いや、マルスが実質的にいない今、あんたの命運を握ってるのはむしろ俺だったというわけか!!」
「そっのっとっおっり~。いあいあ、期待以上の働きじゃアイルん。苦しゅうないぞよ」
「くっ・・・! きっ、恐悦至極です我が主よ!!」

ノリが良すぎると自分でも思う上に卑屈もすぎるが、他に返しようがない。
こっちにも貸しはあるが借りも恐ろしい程ある。そもそも最初に出会った時、あのショック症状は最悪だった。そのまま帰らぬ人となっていてもおかしくなかったのだ。
沈みゆく意識を掬い上げてくれたわけだが、あの時点でアレが出来たのは彼女しかいない。

(となると全く頭が上がらんぞ・・・!!)

そんな心境を知ってか知らずか、シルエは気にもしていなさそうだった。

「まあま、そこんとこは持ちつ持たれつってことで。
マルスがいない以上、あなたに代わりをやってもらうしかないわけだし、命の恩人はお互い様だしね」
「・・・まあ、そうですね」

正体云々は結果的には取り越し苦労だった。
エリスは最初からこっち側だったということなのだ。

「俺が知っておくことは他にありますか?」
「そうね・・・
シルエちゃんの真実~ どんぱふ~。

SILE(シルエ)。反対から読むとELIS(エリス)
おおなんとっ!! しんじつはすでにしめされていたっ!!!」
「・・・あんたの名の綴りはELICEでしょうが。
SILEをシルエと読むのも無理矢理だし・・・」

そしてかなりどうでもいい話だった。

「まあそれは戯れなお話としても。
ちょっと試したいことがあるのよね・・・

テーベの塔、少し掘り出してもらえるかしら?」
「・・・は?」

エリスのその思いつきは、同盟軍のただでさえ革新的な戦略を、そして・・・
『ドルーア帝国攻略戦線』を、根本から変えかねないものになる。



 ・



「『竜石術士』の事は、アイルはどれくらい理解しているの?」
「・・・カペラやかつてのレナ嬢、マリアがそうなのでしょう? 
竜石を体に埋め込むことにより、竜の膨大な力が『何らかの』形で出ていましたね」

正直、『何らかの』としか言いようがない。
カペラは額に欠片程度の大きさのものを埋め込んでいたらしいが、竜並みの膂力と魔法の重複起動を使いこなしていた。
レナの竜石は一つ丸ごとだった。しかし重複起動を見ていない。代わりに膂力・・・特に防御力は恐ろしいものがあった。一時的な硬化だろうとは思うが、腕を剣の盾にしていたのだ。そして魔法の威力も数倍になっていた。
レナのものを移植したというマリアは、膂力は全く変わっていなかった。しかし魔法の威力は数倍どころか桁が違った。そして魔法が変質していたように思う。

「まあそうね。でも、それは竜石と体が結びつき、変化するときに、本人の意識や考えの中に『どういう強さがイメージとしてあるか』が関係してるみたいなのよ。
レナちゃんはベガ君との喧嘩に勝つために、そして魔法よりも『竜の力を得る』ことを想像していたんでしょうね。そしてレナちゃんにとって竜の強さとはそのタフさにあったんだと思う。
マリアちゃんはそもそも竜石と結びつく時に気絶してたんだから、純粋に魔道士としての強さが意識にあったと思うわ。
そしてカペラちゃんは、魔法とは『技術』や『判断』だと思ってたんでしょうね。だから魔法の加工や重複起動によって戦略が広がる事が強さのイメージだったと思うの」
「・・・・・・成る程」

考えを補足する必要はない。今の話は辻褄が合う。多分それで間違いないだろう。

「・・・で、それが何か?」
「さてここに、魔竜石があります」

魔竜石。

それは、アリティアを占領していたモーゼスの持っていた竜石だった。
同じものというわけでは当然ない。別の魔竜の物だったのだろうが・・・

「・・・俺が崩壊させたテーベの塔から、掘り返してでも竜石を探せというから兵を総動員して探させましたが・・・

何に使うんです?」

それしか見つからなかった。
他に竜石はなかったのだ。いや、あったかもしれないが、崩壊の時に壊れたのだろう。

くるりとエリスは背を向け、顔を弄っていた。
そして。
左手に何かを乗せた。

「・・・っ!!!!」

目玉、だった。

「エリス王女っ!!?」
「あ、大丈夫。これ、義眼だから」

よく見れば血も付いていない。しかしよく出来ていて、本物と見分けはつかない。

(まて、ということは)

彼女の目は。

「私ね・・・ アリティア落城の時に、最初に見つけられた兵士に犯されそうになったの。その時抵抗したら、激昂されて目を潰された。

右目よ。

最初からオームの件で私を利用するつもりだったガーネフが、その場に駆けつけてその兵士を八つ裂きにしたわ。そして義眼を付けた。

・・・まあ、それだけの話」

女にはきつい話だとは思う。が、アイルが下手なことを言える話ではない。


「・・・私はね、昔ガトー様に師事していたことがあるの。だから魔導の腕はちょっとしたものよ。
そして、ガーネフにこの義眼をはめてもらった時に、私もカペラちゃんのように、魔導機器とパスを繋いだの。こっそりとね。
ガーネフはそのへんの管理は意外と杜撰だったから・・・

あなたと夢の中でシルエとして会えていたのは、ううん、私が夢を通じてたくさんの人と会えていたのは、もちろん私の『能力』なんだけど、その魔力消費の大きすぎる秘術を使えていた理由は、魔導機器の補助があったからなの。
同じくガーネフが念話で話しかけてきたりしたのも、魔導機器があったから。ガトー様はそもそも竜族だしね。

つまり、私はもう出来ない。

でも、それまでに私はいろんな人との夢での会話を通して、魔術技術の研鑽を机上だけとは言え積んだわ。
そして・・・

『私も出来るようになった』の」

何を、だろうか。


その答えは、エリス王女が振り向いた時に分かった。
彼女の目には、取り出した飾りとしてだけの義眼の代わりに。

「それは・・・っ!!」
「手駒としての『竜石術士』の数は、多いほうがいいわよね?」

魔竜石が、埋め込まれていた。



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